ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action1 −新人−







 タラーク・メジェール、故郷の惑星へ向かう旅。早いもので旅を始めて半年以上が経過、順調とは言い難いが故郷への指針は少しも振れずに一路船を駆り出して行く。

融合戦艦ニル・ヴァーナ、男性国家タラークと女人国家メジェールの船が合体して生まれた船はその象徴であるかのように、男と女達を乗せて広い宇宙を漕いで行った。

彼らの方針は変わらない。自分達の故郷を救い、地球の刈り取りを阻止する。乗員150名を超える数ではあるが、目標は一つ。共通の敵を倒すべく、彼らは一丸となっていた。


ただし船の進路だけは、ここへ来て少し変更があった。


「ガス星雲……?」

「ブザムには進言して、マグノばあさんに了解は貰ってある。この船は今進路を変えて、そっちへ向かっている」


 休憩時間。特に忙しくもなく、雑務もない、平凡な日。こういう日は、普段よりも休憩時間は長い。忙しい時は休憩する間もないので、割りと融通がきくのである。

特にこの職場、レジでは店長を務めるガスコーニュ・ラインガウが大らかなタイプの上司である為、五分や十分くらいでいちいち咎めたりはしない。部下も、のんびりとしていた。

ガスコーニュ本人に至っては休憩時間を過ぎているのに、堂々とカイ・ピュアウインドとトランプを楽しんでいた。


「急ぎの旅なんでしょう。何でわざわざ、寄り道なんてするのよ」

「作戦上、必要なんだよ」


 一応イベントクルー所属だが、フリーのジャーナリストであるミスティ・コーンウェルも暇を持て余して観戦。近頃よく話し相手になっているカイの隣に、ちゃっかり座っていた。

ガスコーニュ本人と大した面識はないのだが、ジャーナリストを務めるだけあって会話に不慣れはない。喋り好きなガスコーニュとも馬が合い、楽しげに会話に加わっていた。


ガスコーニュが、カードを切っていく。


「例のミッションのボスからの、情報かい?」

「……聞き出すのに、どえらい苦労したよ……」


 経緯を知っているだけに、面白げに問いかけるガスコーニュ。がっくり肩を落とすカイを見て、同じく交渉に参加していたミスティはクスクスと笑っている。

先日立ち寄った、中継基地ミッション。故郷を追われた者達が集う施設を支配する女ボス、リズ。彼女と懇意にしている、謎の商人ラバット。

地球の刈り取りも絡んで大混戦となったが、どうにか事態は収拾がついて、物資及び情報の交換が行えた。お世辞にも仲良しとは言い難いが、一応の同盟も結べた。


あの基地は地球の刈り取りよりも、むしろ人間関係に苦労させられる羽目になったが。


「この先しばらくは、人が住んでいる惑星とかはないらしい。一応聞いてみたが、基地や施設類も一切ない。昔はあったのかもしれないが、地球に壊されているようだ」

「あの連中、ミッションにも生体兵器なんぞ送り込んできやがったからね。全く、念のいったことだよ」


 中継基地内で住民の逃走やら、生体兵器との抗戦やらで、ガスコーニュも右へ左へバタバタさせられたのだ。その苦労を思い出して、重い溜息が出ていた。

人が住む惑星や施設、もしくは人の痕跡がある可能性のある所まで、無人兵器が片っ端から襲撃をかけているようだ。リズやラバットも、うんざりしていた。

取材するのも億劫な内容だったが、気持ちだけで好奇心を萎えさせてはいけない。ミスティは、話を続けた。


「あるのは、そのガス星雲だけ……? 人も居ない所に、何でわざわざ行くのよ」

「地球が差し向けている、母艦を誘い込む」


 ガスコーニュが配った五枚のカードを手に、カイは静かに自分の決意を語る。作戦でも、戦略でもなく、自分自身の覚悟。戦うのだと決めた、その気持ちを言葉にする。

地球の最大戦力である、母艦。惑星規模の戦艦で本体には銀河すら破壊する火力、内蔵された無人兵器は無尽蔵。一機で、世界を粉々に出来る。

その母艦が五機、地球が保有する戦力の全てがタラーク・メジェールに向けられている。新参者のミスティも、カイ達から話は聞いていた。


「――本気で、やる気かい?」

「先延ばしには、出来ない。今持てる戦力を全て投入して、戦うしかない」


 手にしたカードを、広げる。ガスコーニュは、勝負事でイカサマはしない。切られたカードは偶然によるもの、手持ちのカードは己の運が引き寄せている。

母艦との戦いも同じ、今でも後でも結局は持ち得る戦力とその場の運で立ち向かうしかない。ない物ねだりしたくても、手に入れられないのだから。


ミスティはカイのカードを後ろから、覗きこむ。


「あんた達、あたしと会う前にその母艦と一戦して勝ってるんでしょう。だったら、今度だって――」

「あの時は同盟を組んだメラナスの軍隊と、恒星化しつつあった惑星があった。今度は、どちらもない」

「メラナスって星と協力関係を結んでいるなら、その人達も頼って本国で戦った方がいいんじゃない?」

「五機全部と戦えないだろう、流石に。俺はむしろ、地球の戦力を全て本国まで招き入れてしまえば勝ち目はないと思ってる」


 実を言うと、ミッションでカイが情報交換を求めたのはリズだけをターゲットとしていない。同盟を正式に組んだ、これを機にラバットとも情報の提供を求めたのだ。

ラバットは地球を相手に商売をして、貴重な情報を得ている。彼がこれまで地球が侵攻する宇宙で商売が出来たのも、この情報があっての事である。

リズからタラーク・メジェールまでの道のりの詳細を聞き出し、ラバットから地球本隊の侵攻についての情報を求めたのだ。地球母艦との、戦闘記録を見返りに。


二人から聞き出した情報を元に、カイは近隣を侵攻する母艦の一隻をガス星雲に誘い込む作戦を提唱した。


「リズの話だと、今この船が取っている針路にガス星雲が存在しているらしい。磁場が酷く乱れた空間で、多くの粒子が重力で引かれ合っている。
質量があって相互に重力を及ぼし合うので、無人兵器への干渉も極端に鈍る。母艦の機能まで停止させられないだろうけど、間違いなく無人兵器の戦力はガタ落ちする」

「でも磁場が乱れているんなら、お姉様達の船も危ないんじゃないの?」

「マニュアルに切り替える必要があるだろうが、連中の腕なら問題なく戦えるだろうよ。青髪に加えて、赤髪の指揮もあるからな。
俺の蛮型には二つのペークシス・プラグマの結晶が積み込まれているから、出力も上げられる」


 自分の手札を見ながら、カイは自信に満ちた笑みを見せる。作戦そのものよりも、作戦を支える仲間達に信頼を置いているのがよく分かる。

どうやら配られたカードを一枚も切らず、勝負に出るらしい。なかなかの勝負強さに、ガスコーニュもゲームを楽しんでいる。


ガスコーニュは咥えた長楊枝を揺らしながら、自分のカードを二枚切った。


「あの時はあんた達が大喧嘩してたけど、今はちゃんとまとまっているからね。ディータも、バートも、随分頼りになった」

「どっちも昔からイザとなれば、力を発揮してくれていたからな。緊急時には、頼れる奴らだよ。
それに精神面だけではなく、戦力として大いに取り入れられるのも大きいな」


 ディータ・リーベライはメイアより直々に教育を受けて、教養だけではなくパイロットの腕も上げている。操舵手を務めるバートもそうだ。

旅に出た頃は操舵の一つもしたことがなく、何もかも手探りで必死だった。だが今では数々の失敗を乗り越えて、一人前にニル・ヴァーナを操縦している。

彼の成長に合わせてニル・ヴァーナも進化して、今ではペークシスの力を利用したアームとレーザーを使用することが出来るのだ。


あの時とは、違う。力を合わせれば、自分達だけで勝てるかもしれない。


「近隣を運航する母艦も、間もなく俺達に気づくだろう。バートにも既に作戦は伝えているから、ちゃんとガス星雲まで誘き出せると思う。
敵もガス星雲には警戒するだろうが、何としても俺達を始末したいはずだ。痺れを切らして、放火を浴びせてくるだろうよ。


そこを――叩く」


 勝負に出たカイのカードは、ストレート。なかなか強い役、配られたカードがそのまま揃っていたのを考えると、かなりの強運だ。

彼には、勝てる自信があった。自分達は成長している。何より、一致団結している。もう仲違いはしない。男と女が、心を一つにして戦える。


自分達が協力すれば、勝てない相手は居ない。


「ふふふ」

「……? 何だよ、俺は勝負だぞ」

「甘いよ、カイ。相手がちゃんと、見えていない――フォーカード」

「げっ!?」


 フォーカード、ポーカーでは当然ストレートより役は上である。二枚切ったカードを交換した結果、彼女はカイを凌駕する手札を手に入れられたのである。

愕然とするカイを、ガスコーニュは不敵な笑みで見下ろした。


「カイ。あたしらはたしかに強くなった、あんたも含めて。それは認めるよ。ただ」

「ただ?」

「敵さんだって、強くなってる。アタシらに母艦を一機落とされたんだ、手持ちの戦力を交換しているかもしれないよ」


 落とされた戦力は放棄して、新しい戦力に乗り換えている。その戦力次第で、自分達の成長すら覆されるかもしれない。

意気揚々としていたところに水をさされた形となったが、カイはガスコーニュに不平不満の一つも言わなかった。


敗北は、失敗。認めなければ、成長はありえない。


「母艦に勝ったら、もう一勝負付き合ってくれ」

「はいよ」


 何とも小気味いい少年の挑戦に、ガスコーニュはカラカラと笑った。勝っても負けても面白い相手というのは、存外貴重である。

自信はつけているようだが、カイはまだまだ未熟だ。作戦は入念に立てているだろうが、多分多くの抜け落ちがあるだろう。ちゃんと、見てやらなければならない。


二人の仲睦まじい様子を見て、まだ乗船したばかりの新人であるミスティは何となくこそばゆい感覚を覚えていた。



この二人、まるで姉弟のようだと――




























<END>







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