ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action10 −硬鞭−
ドゥエロ・マクファイルとアイ・ファイサリア・メジェール、二人の賢者が中継基地メジェールの分析を行っていた。
交渉班の動向やミッション内部で起きている出来事の一部始終は、メインブリッジより送られている音声データで把握済み。
決闘騒ぎについては心配の欠片もしておらず、二人は引き続き中継基地の観測を続けていた。喧嘩沙汰も、彼らには予測の範囲にある。
どれほど荒くれ者揃いであっても、歴戦の猛者である海賊相手には敵わない。二人の共通認識であった。
「外部から見ただけでも、防衛機能に欠落が目立つ」
二人にとって恐ろしいのは、人間以外の脅威。ミッションの防衛機構やセキュリティ面を警戒して、システム関連を探っていた。
システムの分析は通常時間を消費する作業なのだが、ドゥエロやアイはタラーク・メジェールを代表する天才達。
その二人が共同で分析作業を行えれば、ものの数分で最適の結果が出せる。既にミッション外部の分析は終えつつあった。
システム画面に表示される分析結果を前に、天才達は目に見えない脅威を分析していく。
「レーダーシステムにもブランクが多いようじゃな。となると――」
「――住民達は好んで此処に居るとは、考え難い」
中継基地に潜むシステム関連の罠を警戒していたのだが、むしろミッションのシステムは穴だらけであった。
人間が住めるスペースは確かに維持出来ているが、最低限に近い。セキュリティにも問題が多く、機能不全も目立つ。
彼らはマグノ海賊団も知らない情報を握っている。それゆえにブザムも彼らを警戒していたのだが、ミッションそのものに脅威はない。
もしも"海賊流"で交渉していれば、恐らく彼らは手も足も出なかっただろう。外部の脅威に、彼らはまるで対抗出来ない。
「外部を分析するよりも、内部に侵入していた方が早かったかもしれぬな」
「警戒するに値しない、と考えるのは早計だ。何故彼らがこのミッションに篭っているのか、気になる」
システムは破損、セキュリティは不全、丸裸に近い中継基地。穴だらけの家で生活を余儀なくされている、彼ら。
不遇な環境に陥った彼らに同情するほど、二人はお人好しではない。不遇に陥った原因を、冷静に探っていく。
観測を続けていた二人は、ほぼ同時に違和感に辿り着いた。
「おや、これは何じゃ……?」
「比較的、最近に出来た損傷のようだな」
凡人には同じ傷に見えても、天才達が観れば明らかな違いがあった。傷の度合いが、各所で異なっている。
欠落の一部を集中的に分析していくと、ごく最近基地に刻まれた傷である事が判明した。
中継基地ミッションの各部に刻まれた痕跡、荒廃ではなく人為的に付けられた痛手――
「どうやら――此処の者達も、何者かと戦っているようじゃな」
「外部からの襲撃――予想される脅威は、自然と限られる」
二人は、お互いに溜息を吐いた。結局突き詰めてみれば、自然に脅威は同じ対象へと結び付いてしまう。
地球人、刈り取り、無人兵器。連想されるキーワードが中継基地の破損と容易く一致し、彼らの脅威を思い知らされる。
無論、外部からの脅威を常に刈り取りと結び付けるのは早計だ。けれど、可能性が高いのであれば考慮しなければならない。
彼らの可能性に辿り着いた二人は、分析範囲を最大にまで拡大。ミッションのみに留めず、周辺にまで観測対象を広げる。
ゴキブリは一匹見つければ三十匹は居るというが、彼らの影響力はゴキブリを遥かに上回る。
観測範囲を広域にしたその瞬間、警戒シグナルが鳴り響く。過去の脅威ではなく、現実の恐怖を訴えていた。
「……何者かが、ミッションに急接近しておるな。カイの機体を整備しておいて正解じゃった」
「……我々の予想が正しかったようだ。すぐにお頭に報告しよう」
もはやミッション内の決闘騒ぎなど、眼中にはない。今接近している脅威は、双方にとっての敵。人間に害する存在である。
戦闘領域が地下闘技場だけではなく、ミッション全体――宇宙全域に、拡大しつつある。
カイが望むまいと、略奪の戦火が急激に燃え上がり始めていた。
地下闘技場に、二人の戦士が並ぶ。極上の女闘士、中継基地ミッション初の好カードに観客は熱狂する。
戦いの舞台に立つのはマグノ海賊団副長ブザム、中継基地ミッションのボスであるリズ。一対一の決闘が成立し、カイ達は観客席へ移動。
メイアと並んで見守るカイは不満気な顔だが、その目は真剣であった。見届けると決めた以上、ただ静かに戦いの行方を追う。
「アタシがこの世で一番嫌いなモノは何か、知っているかい?」
「伺おう」
リズの挑発的な物言いに、ブザムは余裕綽々で促す。生死に関わる戦いになったというのに、交渉時よりも余裕が伺えた。
海賊にとって決闘事は日常茶飯事、心の読み合いで無くなった分交渉としてはシンプルでやりやすい。
無人兵器ならばともかく、相手は同じ人間。どの星のどんな人種であろうと、人であれば戦える。
「お前さんのように、したり顔で薄ら笑いする奴さ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししよう」
「その減らず口から、切り刻んでやる!」
激高したリズが懐から円形の筒を取り出し、スイッチをオンに。光の刃が出力されて、ブザムに突き付けられる。
ビームサーベル、固形化されたエネルギーの刀。科学兵器だが、型は旧式。弾丸型の銃と同じく、旧式の武器であった。
不遜な態度のブザムに怒り心頭ではあるが、リズとて荒くれ者達を統率する器の持ち主。敵の無手を、良しとはしない。
「獲物は何がいい? 飛び道具以外なら、何でもかまわないよ」
敵の武器の使用を良しとするその姿勢に、ブザムは不敵な笑みで返す。相手にとって不足はなし、思う存分やれる相手であった。
ブザムもまた、武器を取り出す。指揮以外で直接ブザムが戦闘する場面をカイは見たことがない。ゆえに、驚かされた。
ブザムが手にしたのは銃でも――ましては、科学兵器でもない。
「お気遣いは無用だ」
「げっ――あいつ、あんな物を使えるのか!?」
「B.Cがあれを使うのは、久しぶりだからね」
初めて見る武器ではない。カイにとってはある種馴染みのなる武器、故郷タラークでよく見かけた人を傷つける道具。
鞭、拷問や調教などで使用される道具。労働階級である三等民を教育すべく、上官がよく使用している。
この道具の優れた点は致命傷を与えずに、最上級の苦痛を与えられる事にある。カイにとっては何より忌み嫌う道具でもあった。
だが同時に、ブザムの戦闘能力の高さが伺える。鞭はその特性上戦闘には不向きな武器、ブザムはそれを持ち出している。
よほどの自信がなければ、死闘に耐えうるものではない。鞭は素人でも使える道具ではあるが、命は奪えない。
鞭を脅威とするには、高度な技術が必要とされる。カイが息を呑んで見守る中、ブザムが鞭を一閃する。
音すら切り裂く一打、ビームサーベルを持ちだしたリズが目を見開いた。
「ゴングは、いつ鳴るのかな?」
戦いが、始まる。
<to be continued>
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