ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action5 −投入−
「ドッキング・シークエンスに移行します」
「了解、やっとくれ」
ニル・ヴァーナより、貨物船とドレッドが射出される。交渉班を載せた船に、メイア機。ミッションに乗り込む面々だ。
万が一に備えてカイのSP蛮型も貨物船に積まれており、整備も万全な仕上がりとなっている。何時でも出撃可能な状態だ。
貨物船を操縦しているのはレジクルーとなったバーネット、共に乗船したガスコーニュの指示で船を運転している。
「指定ゲートK2にアプローチ、メイアはM5に!」
『ラジャー』
事前に交渉の申し立てをした甲斐もあり、中継基地ミッションへの上陸に妨害が入る事はなかった。今のところ順調である。
停泊しているニルヴァーナも油断せず周囲を警戒しているが、刈り取り兵器を率いる地球からの襲撃もない。
ガスコーニュの指示の下、貨物船は滞りなくミッション内部の停泊所に着陸した。
「此処が地球が建設した中継基地――やっぱ、年数経っているだけあって古いわね」
「お前がグースカ寝ていた分、老朽化しているみたいだな」
「……何かその言い方、悪意を感じるんだけど」
「気のせいだろう」
現地住民との交流や取材を目的とした二人、カイとミスティはいち早く船から降りて基地内を見渡している。
貨物船を操縦していたバーネットは頭痛を堪える仕草をして、ブザムを一瞥。彼女は、重々しく頷いた。
バーネットは手持ちの銃器を振り上げて、好奇心全開で見学するカイの後頭部を殴った。
「あいだっ!? 何しやがる、いきなり!」
「あんたね、アタシが何の為に銃持って来たと思ってるのよ。無警戒に歩き回らないの!」
「ミスティ、私が許可するまで撮影も取材も禁止だ」
「さ、撮影も禁止ですか!?」
しっかりした考えを持っていても、行動まで常に大人びているとは限らない。早速上司が、部下に注意する。
確かにミッション上陸の許可は得ているが、黙認に等しい。歓迎どころか、安全なんて何も保証されていない。
食うか、食われるか――弱肉強食が、このミッションのルール。脳天気な羊など、狼に齧りつかれるだけだ。
「まったく、蛮型操縦する以外脳のない男はこれだから困るピョロ」
『ますたぁー、大丈夫だよ。ますたぁーに傷つける奴は全員ユメが殺してやるから!』
「くそっ、ナビゲーターコンビにここまで言われるなんて……!」
「銃を持ったバーネットを先頭に、私が続こう。カイ達は交渉がメインだ、ひとまず後ろに下がれ」
貨物船から全員降りて、隊列を組んでいく。停泊所からミッション内部へと続く扉は、固く閉じられている。
扉はロックされているが、交渉の意思無しを示すものではないのだろう。この程度のロック、自分で破れと訴えかけているのだ。
挑発とエンジニアの腕前確認の意味をこめた、二重のサイン。侮れない相手である事を、如実に示している。
カイやミスティはマグノ海賊団ではないが、ブザムには絶対の信頼を持っている。指示には逆らわず、後ろへと下がった。
基本的にカイは血気盛んな性格だが、無鉄砲ではない。蛮勇など、身体に刻まれた傷を教訓に自ら諌めている。
ただ、彼なりに譲れないものはある。ブザムの指示に従いながらも、事前に尋ねておく。
「ブザム、相手が交渉するフリをして俺達を襲う可能性もあるんだよな?」
「自分達のテリトリーに招き入れて、我々を捕縛する事は充分ありえる。だからこそ、こうして警戒している」
「全面対決となった場合の、対応を聞いておきたい」
ブザムは振り返り、カイを一瞥する。強い意志を宿した目、憎しみも何もなく純粋に問いかけている。
ブザム・A・カレッサ個人ではなく、マグノ海賊団副長ブザムに、一介のパイロットがその意思を確認する。
海賊としてのやり方で行くのか、否か。場合によっては――
「……相手が仕掛けてくるのならば、こちらも白旗を振るわけにはいくまい」
「分かってる。俺だって無抵抗なまま殺されたくはない。反撃だってするさ、当然。
でも――相手を、殺すつもりはない。命は、奪うべきじゃない」
誰も、何も言わない。交渉班はカイとの繋がりが深い者ばかり、彼がどういう気持ちで言っているのかよく分かる。
彼は、略奪を徹底的に否定している。彼女達の仲間にもならず、あくまで同盟に近い形で今の関係を結んでいるのだ。
信念といえるほどの思いなのか、分からないが――彼女達にも、譲れないものはある。
「アタシは、撃つわよ。アンタが何を言おうと、アタシはいざとなれば躊躇わない」
「相手は無人兵器じゃない、人間なんだぞ」
「人間同士、争う事だってあるでしょう。アタシと、あんたみたいに」
バーネットは、カイに銃を向けない。今までの諍いのように、銃を突きつけて己の意思を押し通す真似はしない。
単なる気まぐれではない。心境の変化、命懸けで何度もぶつかり合ったからこそ、ここまで近くに来れた。隣人のように。
けれど彼と彼女の間には、それでも距離はあった。
「俺達は、交渉に来たんだ。戦うためじゃない」
「相手は交渉する気がないのなら、戦うしかないでしょう。じゃあ聞くけど、あんたはどうするつもりなの?
殺されるまで必死で声を張り上げるだけなら、今までと何も変わらない」
今は交渉前、仲間同士で無駄な争いは控えるべき。その程度の道理は分かっているが、ブザムもガスコーニュも止めなかった。
彼女達も心境としては、バーネット側に位置している。カイの言い分は正しいが、正しさだけが世の中にまかり通っているのではない。
力のない正義など、潰されるだけだ。これから先の地球との戦いでも、勝つどころか生き残るのも難しいだろう。
「お互いに、協力しよう。相手を無力化して、改めて交渉するんだ。説得役は俺が引き受ける」
「協力って……アタシと、あんたが?」
「銃は人を撃つ武器だけど、使い方次第で交渉の道具にもなるだろう。武力そのものまで、俺は否定しない。パイロットだからな。
奪う為に戦うのではなく、戦いを止める為に戦おう」
やや現実寄りに微修正されているが、略奪を否定する彼の主張は今も変わっていない。
あるいは過酷な現実を知ったからこそ、より強く戦いを否定する考え方が芽生えたのかもしれない。
戦いを止める為に戦う。矛盾あるやり方だが、例外的に彼らなら成立する。彼らなら、出来る。
海賊と、英雄――反する生き方をする彼らが手を組めば、その矛盾を覆せる。
「あんたが納得するために、アタシにそのやり方を押し付けるの?」
「そうだ、協力してくれ」
「この頑固者は……分かったわよ、まずは威嚇して停戦を訴えてみるわ。面倒くさい説得は全部、やってもらうからね」
「ありがとう、黒髪!」
銃を持たない手で、カイとバーネットは固く握手する。ブザムとガスコーニュは見つめ合い、苦笑した。
ブザムもガスコーニュも、最初からそのつもりだった。海賊として物資を奪うつもりなら、問答無用で攻撃する。
電光石火が海賊流――予告状を出す怪盗じゃあるまいし、相手に戦意や交渉の意思など問わない。
問答無用で奇襲を仕掛けて、相手から物資を攫って、立ち去る。こんな面倒な手段など、いちいち取っていては身を危険にするばかり。
地球との戦いの為に敵を増やさないという考えもあるのだが、敢えてブザムは危険を犯してでも交渉に臨んだ。
新しいやり方を、模索する。カイだけではなく、マグノ海賊団もまた微修正されているのだ。
「話が纏まったところで、上陸するぞ。相手を待たせてはいけない」
「悪いな、長々と遮ってしまって」
「土壇場で揉めるよりは、今の内に考えの違いを明白にしておいた方がいい。バーネットに、任せるのだな?」
「ああ、あいつなら頼れるよ」
もう何も言わず、カイは今度こそ引き下がった。懸念も晴れて、心の底からスッキリした顔をしている。
バーネットも肩の力が抜けてしまっているが、気持ちはむしろ引き締まっていた。
銃は撃つよりも、撃たない方がむしろ難しい。威嚇という手段は、精神力を必要とする。
引き金は素人が思うよりもずっと重く、それでいて軽い。一度引いてしまえば、もはや止められなくなってしまう。
エンジニアとして同行するパルフェが扉のロック設定を操作して、いとも簡単にオンオフ切り替えを可能とした。
切り替えるタイミングをバーネットに任せ、彼女は後ろに下がる。バーネットは銃を取り出し、ブザムに最後の確認。
副長が頷いた瞬間、スイッチを切り替えて――扉を、開いた。
「動かないで!」
扉の向こうには――武器を構えた、男女の一団。老若男女問わず、さまざまな武器を持って扉の前を陣取っている。
話しあう気配など、微塵もない。明らかな徹底抗戦の構え、彼らの瞳に浮かぶのは強い敵意と警戒のみ。
火花一つで、殺し合いに発展する。
(……どこまで、貫けるか)
カイは一つだけ、勘違いしていた。海賊が襲う相手は、一方的に被害者だと思い込んでいたのだ。
彼らは、襲われるだけの羊ではない――武器を持った、人間なのだ。
<to be continued>
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