ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






LastAction −兄妹−







 長期滞在となってしまったが、役目は無事に果たせた。救命チームは撤収、乗員全てニル・ヴァーナに乗り込んで出発した。

ペークシス・プラグマによるテラフォーミングで病に冒された惑星も浄化され、宇宙から見る星は光り輝いていた。

鱗粉のように舞う結晶が、大気に散布されている。輝きを失ったその時、惑星に緑豊かな自然が蘇る。


汚染された人々も全員健康体となり、国の復興に皆勤しんでいる。再生への道を、歩き始めているのだ。


とはいえ、素直には喜べない。地球が健在である限り、刈り取りは続く。この星もまた、標的となるかもしれない。

この星を襲っていた刈取り部隊は壊滅したが、彼らは無人兵器。再生産は幾らでも可能であり、安心は出来ない。

悲劇なのは、惑星に住む人達がその事実を認識している事。ゆえに希望は持てず、絶望は続く。


テラフォーミングという奇跡さえ起こせても、救えない人達もいる――


「こんな所にいたのか。皆、新しい仲間を歓迎しているぞ。お前も来ないのか?」

「……青髪」


 融合戦艦ニル・ヴァーナ内にある、森林公園。人工的に植えられた木々を憩いとする、区画。

この場所が愛される理由の一つに、天窓から広く大きく宇宙が見える点がある。出立したニル・ヴァーナの天窓には、星が見えていた。


ベンチに座り込んで星を見つめるカイの隣に、メイアが腰掛ける。


「ソラやユメに続き、三人目だな。バートもよく引き取る決意したものだ、お頭や副長に頼み込んでいた。
人一人育てるのは並大抵の苦労ではないというのに――」

「妙に実感が篭っているな?」

「ディータをリーダー候補として、教育する事にした」


 少女の人となりを知る少年は、その一言にこめられた苦労を実感する。大変そうだと、他人事ながらに笑った。

彼らの仲間であるバート・ガルサスがこの船に、新しい仲間を迎え入れた。シャーリー、長きに渡って病に苦しんでいた少女。

バート達が起こした奇跡で汚染された身体が浄化され、病原菌も消滅。少女は嘘のように、元気になった。


ただ退院は出来ても、少女に身寄りはない。両親も兄弟も揃って、病気により死んでしまっている。


引き取り手が無い訳ではない。身寄りのない子供は、それこそ沢山居る。大人達が病気で死んでしまい、多くの子供が残されている。

星は改善されて、これから先急速に復興していく。シャーリーのような子供にも、優しい家族が出来るかもしれない。


けれど、少女にとって友達は自分達しかいない。取り残される孤独は、病に匹敵する苦しみだ。


バートは、悩んだ。引き取るのは簡単、難しいのは育てる事。優しさだけで人を背負えるのであれば、この世界はもっと住み良い筈だ。

士官学校時代であれば、安請け合いの一つもしただろう。彼はタラークでは大企業の御曹司、生活に困る事もない。

バート・ガルサスは、自分自身でシャーリーを育てる決意をしたのだ。彼女の家族となり、自分の力で育てていく。


彼は家族を持つことで――カイより一足先に、大人になった。


「歓迎パーティか……シャーリーは、皆に受け入れられそうかな」

「男ならともかく、女の子だ。それに、パイウェイの友達でもある。皆に熱烈に歓迎されて、むしろ戸惑っていたぞ。

――優しくされる事に、まだ慣れていないのだな」

「人と触れ合う事も、なかったんだろうよ。これから先はきっと、幸せになれる」


 自分一人で育てるとはいえ、女の子だ。タラークは男性社会、少女を家族に持つ者など一人もいなかった。

歓迎パーティの後は各部署に回って挨拶、一児の母であるエズラや子育てに詳しいマグノにも相談するらしい。

意外としっかりとした考え方に、カイもメイアも多くの驚きと多少の羨望を持っていた。


自分の事で精一杯な自分には出来ない決断、だから。


「奴にひきかえ、お前は一体いつまで悩んでいるつもりだ?」

「……何だよ、お節介か。らしくもねえ」

「今後の戦闘に支障をきたすようでは困るからな」


 真面目な言い方だが、口元は緩んでいる。彼女なりに明るく茶化しているつもりなのだと、カイはすぐに分かった。

らしくもないのは、自分だろう。答えなんて出しようがなく、結果だけが既に出てしまっている。

救えなかったのにどうすれば救えたのか、悩んだところでどうしようもない。


「どうせパーティに馴染めなくて、一人さっさと出てきたんだろう。そういうところは変わらないよな、お前」

「独りベンチに腰かけて悩んでいる男よりはマシだ」


 似たもの同士なのだと、自嘲気味に言い合う。普通よりも難しい生き方をしているので、普通以上に悩み苦しんでしまう。

そんな二人が並んで座り、空を見上げる。お互い、励まし合うために此処にいるのではない。彼らは自分で、解決出来る。


一人でいたくないから――共にいて苦にならない人と、寄り添う。


「これから先、あの星の人達はどうなるのかな……?」

「お前が、救えばいいだろう」


 束の間零れ出た少年の弱音を、少女は力強く掬い取る。驚いて隣を見ると、メイアは何の疑問もない顔をしていた。

彼女は当然のように、お前なら出来ると言い放った。


「どうせ諦めるつもりはないのだろう。何しろお前はしぶといからな、何が何でも助けようとするに決まっている。
地球の野望を阻止して、刈り取りの狂気に打ち勝って、この世界を丸ごと平和にしてしまうさ」

「……お前」

「我々は協力関係にある。それくらいしてもらわなければ、同盟を結んだ意味が無いだろう」


 笑いの衝動に襲われる。何て優しく、回りくどい言い方なのだろう。一言、手伝ってやるといえばいいものを。

ディータのように明るく、もしくはジュラのように照れた顔で言えば可愛げがあるのに、どこまでも真顔で言っている。

本気か冗談か、分からない。その明確な差がない分、彼女は意外と素直なのかもしれない。


「そうだな……何しろ、お強い海賊様が味方について下さっているんだ。負けていたら駄目だな」

「今度出撃に遅れたら、海賊の規則に則って罰を与えるからな」

「チームに所属していないのに!?」


 テラフォーミング成功と新しいクルーの歓迎で騒ぎ合う仲間達をよそに、カイとメイアは静かな場所で二人語り合う。

特別な時間では、決してない。何気ない一時、日常の延長。そんな生活に戻れた事に、少しホッとしているだけ。


これから先も、悩んでしまう事は多くあるだろう。反省も後悔も、きっと腐るほどしてしまう。


それでも必要とし、必要としてくれる人がいる。決して一人ではない、ただそれだけで救われる。

カイは、遠く離れつつある星を見つめる。ペークシスの輝きに満たされた惑星、宝石のように美しく綺麗であった。

ペークシス・プラグマの力ではない――今度は自分が、彼らの希望となろう。


何も救ってくれない神様ではなく、人々の希望となれるヒーローになって。



「よし、頑張るか」

「その意気だ」



 力強くも暖かく、肩を叩いてくれる人。いつのまにか、こんなにも近い存在となっている。

メイアとカイは見つめ合い、ささやかながらに笑う。どんな関係なのか、きっと本人達にも分からない。



病は、気から――負けない気持ちがある限り、人はしぶとく生きていける。





























<END>







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