ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action23 −天星−







 改良されたユリ型が、吸引を始めた。メイア・ギズボーンの攻撃を受けて、プログラムが防衛行動を取らせたのである。

水の惑星アンパトスの海すら飲み込む吸引力に、メイアは歯を食いしばる。メイア機は加速に特化された機体、力そのものは弱い。

踏ん張っても飲み込まれるだけ、メイアの判断と操縦は素早かった。最大加速して、敵の吸引範囲から離脱する。

直接的に吸引されるのは免れたが、脅威の吸引力に戦場が掻き乱されていく。


「敵味方おかまいなしの食欲か、無人兵器ならではの馬鹿げた戦法だな」


 刈り取り兵器であるキューブに、パイロットはいない。強引に飲み込んでも、犠牲者が出る事はない。

無人兵器が人道面を考慮しているのかどうか怪しいものだが、いずれにせよ戦況が傾きつつあるのは事実だった。

有利だった状況が、徐々に不利になっていく。追い込みつつあったのに、追い込まれそうになっていた。


戦力や技術面ではドレッドチームが有利なのだが、敵と違ってメイア達は味方を守らなければならない。


「奴め、我々を遠ざけて惑星の人々を強引に回収していくつもりか。我々の妨害を受けて、回収対象を『生死を問わず』としたのか。
このままでは遺体のみならず、まだ生きている人達まで飲み込まれてしまう」


 敵はマグノ海賊団の殲滅ではなく、刈り取りを優先する。メイア達が下がれば、惑星への回収作業を始めてしまう。

退避していた機体を傾けて、メイアは攻撃を再開する。自分の持てる兵装をフル活用して、最大火力を口内に叩き込んだ。

弱点が判明している分、敵を効果的に弱らせられる。だが、ドレッド一機のみでは邪魔は出来ても妨害にまでは至らない。


(くっ、ディータを――駄目だ、キューブが攻撃目標を変える)


 経験ゼロのリーダーでありながら、ディータは本当によく頑張っていた。派手に動き回って、キューブ型を引き付けている。

母艦破壊の為決死隊に志願した、ディータの覚悟は本物だった。リーダーとして一番危険な役目を担い、最前線で戦い続けている。

危険を一身に引き受けているからこそ、チームメンバーはディータを信頼する。見事なチームワークが、出来上がっていた。

ここでディータに援護を求めれば、ディータはこちらを優先するだろう。そうなれば、編成に乱れが生じる。


「こうなれば……いちか、ばちか」


 ユリ型は口内が弱点、自ら飛び込んで内部破壊を目論む。虎穴に入らずんば虎子を得ず、危険を恐れずに突破口を見出す。

リターンは大きいが、リスクも高い作戦。無茶を冷静に考えている己の矛盾に、メイアは苦笑いを浮かべる。

ディータの事は、言えない。自分も男達に影響されている。刮目して、メイアは操縦桿を握った。


吸引に自ら飛び込んだその瞬間――口内に、大量のミサイルが叩きこまれた。



「ガスコさん!?」

『どうだい、少しは黒子の気持ちが分かったかい?』



 出撃してきたデリ機が、猛烈な勢いでユリ型に攻撃を加える。安堵する暇もなく、メイアも攻撃に加わった。

裏方に徹して、仲間を支える。こうした支援もまた大事なのだと、手痛い実体験を通じてガスコーニュが伝える。

無論、彼女が言いたいのはそれだけではない。メイアは、くすりと笑う。

寡黙な彼女がここまで笑顔を見せられるのは、この世で一人しかいない。


「ヒーローは遅れてやってくるとは言うが、お前の場合はただの遅刻だ。カイ」


 バートが操舵する融合戦艦ニル・ヴァーナ、ジュラが操縦するドレッド、そして――カイ・ピュアウインドの、SP蛮型。

マグノ海賊団の主力が勢揃いし、傾きつつあった戦況が一変する。















 これは、実験じゃない――カイの告げた一言にバートとジュラは頷き、それぞれの機体へ乗り込んだ。

実際、実験はまだ続けられる。時間には、まだ猶予もある。敵さえ退けられれば、失敗だって何度も出来る。


その甘えを、三人全員が捨て去った。最初で、最後の成功で終わらせる。繰り返すつもりはない。


最初のステップは、カイ。操縦桿を握って、外部モニターを見つめる。驚くほどに、手に力は篭められていなかった。

代わりに乗せられているのは、温かさ。少女の柔らかい掌が、少年の無骨な手に重ねられている。


「あたしとあんたが手を組めば、新しい命だって生み出せる。そうでしょう!」


 英雄の使命とか、人を救う義務とか、仲間を助ける責任とか、何もかも全て考えるのを止めた。

難しいことをくよくよ悩んだりせず、目の前のことに集中して、力いっぱい取り組む。最初から、そうすればよかったのだ。


自分が他人を助けることに、理由なんて必要ない。



「そうだとも――"ヴァンドレッド"、起動!!」



 少年と少女の手が重なり、紅と蒼のペークシスが同時起動。二つの光が螺旋を描いて、宇宙に綺麗な奇跡を描き出す。

かつてない出力、漆黒の宇宙を眩く照らし出す光は柱となりて、惑星に一条の光をもたらした。

二つの光を纏った少年の人型機体が、少女の船と向かい合う。


「金髪、合体だ!!」


 言われるまでもない。ジュラ・ベーシル・エルデンは優雅に微笑んで、カイ機へと真っ直ぐに飛行する。

実験の最後は、合体も出来なかった。もしもまた失敗すれば激突し合い、両機共に著しい損傷を被ってしまう。

あらゆるリスクが計算され、少年と少女の頭から消し飛んだ。


"バーネット、安心して。ジュラが必ずバーネットを――ううん、皆を助けるわ!"


 親友についた嘘を、本当にする。ジュラが考えているのは、それだけだった。それ以外なんて、考えられなかった。

自分が助けるのだと、強く念じる。誰かに頼るのはもうやめて、頼られる自分になる。

太陽のように眩く輝ける、女となろう。月を、明るく照らし出すために。


「ジュラに、ついてきなさい!!」


 カイ機と、ジュラ機が合体――ヴァンドレッド・ジュラの、誕生。ピットが展開され、七色の光を放出する。

コックピットの真ん中にある立体型の操作ボールが、輝いている。まるで、ペークシス・プラグマのように。

エネルギー充電率は、過去最高。惑星どころか、宇宙全体を包み込めそうな力が宿っている。カイとジュラ、二人が見つめ合って頷いた。


八つのピットが、惑星全土をシールドで包み込む。第二段階は、成功――残るは、最終段階。


惑星の周辺を囲んでいたキューブ型は、バリアに触れただけで消し飛んだ。最初から、眼中にもない。

カイ達が敵と定めているのは、惑星を犯す病。病気になった星そのものが、彼らの敵となっていた。

奇跡は二度、起こせた。けれど足りない、まだ足りない。


「僕が、やる」


 星全体を照らし出す七色の光を前に、ニル・ヴァーナが浮上する。操舵席にいるバートは、瞑目するのみ。

最終段階、ペークシス・プラグマへのリンク。バートは一度も成功した事がない。失敗の連続が、気負いとなってしまっていた。


(シャーリー)


 情けない話だった。失敗が、何だというのか。生まれた時から病気がちで、毎日のように苦しんでいる娘がいるというのに。

あの子を、元気にしてやりたい。自由に、してやりたい――広い空を、見せてやりたい。


(お兄ちゃんも、頑張る。だからシャーリーも、頑張れ。頑張れ!)


 拳を、強く握り締める。必要なのは、力ではない。大切なのは、強さではない。救いなんて、望まない。

この星に、シャーリーに必要なのは、救済なのではない。


必要なのは――大空を飛ぶ、翼だ。



「舞い上がれ、ニル・ヴァーナッ!!」



 悲しみのない、自由な空へ――翼はためかせ、行きたい。





























<to be continued>







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