VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






LastAction −空と夢−






 カイ・ピュアウインド、彼には夢がある。物心ついた時から思い描いていた、宇宙(ソラ)を超える英雄への夢を。

マグノ海賊団、彼女達には誇りがある。自分達が勝ち得た力と仲間で積み上げた、宇宙(げんじつ)にも負けない誇りを。

夢を持つ少年と、誇りを持つ少女達。自負心の強い彼らに共存の意思はない。

互いに譲れない思いがあり、負けられない気持ちがある。出逢いは偶然でも、ぶつかり合うのは必然であった。


そんな彼らが半年の年月を経て――男と女の垣根を越えて手を取り合う事が出来た。


同盟の証は友好の握手ではなく、己の拳を握って殴り合った傷跡。名誉の負傷を見せ合って、彼らは笑い合う。

相手を馬鹿にするのではなく、相手を認めたゆえの微笑み。喧嘩相手だからこそ、痛みを通じて相手を芯まで理解出来る。

壮絶な死闘の果てに甚大な被害を負いながらも、死傷者はない。相手が分かっているからこそ、生死に至るまで思うが侭だった。


戦闘の結果は、引き分け。ニル・ヴァーナの乗員の誰もが予想した結果であり、満足出来る結末だった。


海賊と英雄にしか理解出来ない友好を結んで、今彼らは一つのチームとなる。

タラークとメジェールの人間達で構成された異端の集団、男女連合チーム――地球打倒を掲げた、男と女の共同体。

他人に強制されず、自分達が進んで選んだ関係。夢と誇りを持つ彼らだからこそ成立する、同盟。


彼らの故郷タラーク・メジェールの両国家でも違える事の出来ない、ドリームチームが今此処に誕生した。















――その日の夜、パーティ会場。















「宴もたけなわとなりましたので、今日から私達の仲間となったニューフェイスを紹介しまーす!!」


 イベントクルーのチーフが企画・立案した、男女親睦会。お頭や副長を含め、クルー全員が参加する地球母艦戦勝を兼ねたパーティ。

女だらけのパーティ会場で男三名が招待され、食文化の進んだメジェールの美味しい料理を思う存分堪能していた。

カイやメイア、ジュラやディータを含んだドレッドチームも参加、先程まで戦い合っていた両者が乾杯して酒を飲んでいる。


一時は殺し合いにまで発展した関係であるにも関わらず、彼らは笑い合っていた。


「ニューフェイス? もしかして、僕の事かな!?」

「何で今更バートを壇上で紹介しないといけないのよ。その顔はもう見慣れたケロー」

「ひ、酷い……!? やっと僕達、友達になれたのにー!」

「と、友達だってまだ認めた訳じゃないもん!」


 涙を流して泣き喚くバートに、愛用のカエル人形を落として真っ赤な顔で叫ぶパイウェイ。

ケロケロワイワイと騒ぐ彼ら二人は、誰がどう見ても仲の良い友達だった。

彼らをよく知る面々はパーティ会場で騒ぐ二人を見て、くすくす笑っている。


「この場で紹介する者と言えば、カイがアンパトスから連れて来た密航者の事か」

「ソラちゃんと言うんだよ、ドクター。しばらくあたしの所で働いてもらう事になったの。
今日から正式に仲間になるんだから、密航者なんて言っちゃ駄目だよ」

「失礼した。君が認めた者ならば優秀なのだろう」


 酒を好まない男女パルフェとドクターが、新鮮な水の入ったグラスを手に語り合っている。

彼ら二人は結局最初から最後まで敵対する事もなく、珍しく関係は変化しないまま良好に維持出来ていた。

機関士に医者、元より男女の概念に拘りのない職業の二人。己が無力を噛み締める事は合っても、相手への偏見は無かった。


「女の子なんでしょう、最初からアタシらに言っていればよかったのに。もう隠し事はしないようにしなさいよ」

「そうよ、ジュラに最初から相談していれば穏便に済んだのよ。今度から正直に話してね」

「今だから言える台詞だろ、それ」


 絶縁状態から親友同士に戻ったバーネットとジュラに、カイが剣呑な眼差しを向ける。

マグノ海賊団ベストカップルとまで言われた二人の間柄が、カイの存在によってヒビ割れてしまった。

艱難辛苦を乗り越えて修復された仲は、二人の間に少年を入れた新しい関係へ生まれ変わっている。


「ディータの事故の件もあったからな……
本人はドクターの治療によって何とか回復したが、精神が戻らなければこうして落ち着く事も無かっただろうな」

「ごめんなさい、リーダー……迷惑をかけました。ディータ、明日からまた頑張ります!」

「……張り切りすぎて事故るなよ、頼むから」


 最敬礼するディータに、メイアもカイも揃ってため息。決死隊に志願する気概があっても、本人の性格までは変わらない。

新人が奮い立つ様を見て、ドレッドチームの先輩達は不安や心配はあれど頼もしさも感じていた。

操縦技術や戦闘への姿勢はまだまだ未熟だが、成長は十分見られる。そろそろ後輩を指導する立場になってもいいかもしれない。


「カイー、アンタが来ないと始まらないでしょう。壇上へ来て!」

「主役の出番だよ、坊や。女の子に恥描かすんじゃないよ」

「密航者の嫌疑がかかって、肩身の狭い思いをしているだろう。お前が傍で支えてやれ」

「……あいつがそんなタマ事がすぐに分かるよ、お前らも」


 お頭や副長にまで笑って促されて、カイも渋々パーティ会場の壇上へと向かう。

壇上へ向かう少年を、少女達は笑って見送る。ガンバレーと、声援を送る女の子達まで。

カイやドゥエロ、バートが心身を賭して勝ち得た権利。壇上へと向かうカイの足取りも軽かった。

イベントクルーよりマイクを渡されて、カイはニル・ヴァーナ乗員全員のまで紹介をする。


「この子の事を隠し立てして、皆に余計な不安を与えた事をまず詫びておきたい。本当にすまなかった。
言い訳をするつもりはないが、弁明はさせて欲しい。

実は、今から皆に紹介する女の子は――アンパトスの生まれじゃない、身元不明者なんだ」


 会場が一気にざわめきだす。時期的に考えて、女の子を連れ込めるのはアンパトス滞在時以外ありえない。

認識が一致していたからこそ、黙認に近い形で受け入れられていたのだ。その事実を否定されれば、まだ疑念が出てしまう。


マグノ海賊団の仲間でもない、"女"の子――彼女は一体、何処から来たのか?


「入船したのはアンパトス滞在の頃だが、本人は生まれを否定している。俺もこの子については詳しく知らない。
素性の分からない、怪しい人間――そんな子が俺を頼って、この船に乗り込んだんだ。

俺は拒絶出来なかった。慕ってくれたというのもあるけど、記憶喪失の俺には他人事には思えなかったから」


 会場が、沈黙する。少女の置かれた境遇に同情よりも、強い共感を感じたのだ。

彼女達もまた故郷を追い出された、身元を証明出来ない者達。平和な世界から追い出されたはぐれ者――

そんな者達にとって、頼れる誰かが一人でもいるのは救いとなる。


「疑いをかけるのは当然だし、迷惑に思うのも無理は無い。今更に思うかもしれないが、この子については全て俺が責任を取る。
勿論、俺は甘やかせるつもりはない。俺やバート、ドゥエロと同じく、身元ではなく、確かな実績で己の存在を証明する。


俺達と同じく、この世界で自分を証明出来る人間。それがこの少女、ソラだ」


 主であるカイに促されて、綺麗な金の髪の少女が静かに舞台へと登場する。観客から羨望のこもった視線が向けられる。

精巧な人形のように美しく整った、顔立ち。可憐という言葉すら色褪せる、美少女。

この世の邪気とは無縁の表情で、この場に集う全員に頭を下げる。


「パルフェ機関長より御推薦頂きまして、この度機関室に着任する事になりましたソラと申します。
若輩者ではありますが精一杯務めさせて頂きますので、宜しくお願い申し上げます」


 少女とは思えぬ、礼儀正しい挨拶。飾らぬ挨拶ゆえに、少女なりの誠意を感じさせる。

本人は紹介してくれた主に恥をかかさないように努めた結果だが、周りはソラ自身に好感を持ったらしい。

イベントチーフが促さずとも拍手があふれ、歓声が飛び交った。


「……何か一瞬で受け入れられたな、お前……俺のこれまでの苦労は一体……」

「御謙遜なさらないで下さい。マスターが口ぞえして下さったおかげです」

「そうだといいんだがな……ま、これからもよろしくな」

「イエス、マスター。貴方の名を汚さぬ様に尽力致します」


 笑顔溢れる一同、温かい言葉。この空気に満たされているだけで、全てが上手くいく気がする。

妄想から生まれた万能感ではない。骨身を削って戦い抜いたからこそ持てる、確かな実感だった。


これから先の旅はきっと、素晴らしいものになるに違いない――


「以上、ソラちゃんの挨拶でしたー! もう隠し事は無いよね、カイ!」

「ああ! 改めてこれからもよろしくな、皆!」



「ユメでーす、これからもよろしくお願いしまーす! ますたぁーに手を出したら殺すからね、皆!」



 ――暖かい空気が、一気に冷え切った。歓待ムードが何処へやら、皆の表情が驚愕に染まっている。

女の子達全員の視線を釘付けにしているのは、手を取り合った戦友――ではなく、戦友に抱き付いている女の子。


愛らしくも残酷な微笑を浮かべて、カイに抱き付いている少女――ユメ。


この時ニル・ヴァーナ乗員の声は一つとなった。





『カイーーーーーーーーーー!!!!!!』





 男女の関係は終わらず、これからもずっと――続いていく。






























<END>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします





[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]

Powered by FormMailer.