VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action23 −補佐−






 地球母艦破壊作戦の第二段階。それは敵を倒すのではなく、味方を守る事に徹した策。

誰も奪わせたりはしないと誓ったカイと、大切な仲間を誰も死なせないと決意したマグノ海賊団。両者の想いが一つとなった、作戦。

この過程において、敵の事は何も考えない。守る事だけに、全てを費やす。

それが今何よりも困難だと分かっているからこそ、男と女は心の同盟を結んだ。


「お前と一緒に戦うのは久しぶりだな。いいタイミングだったぜ」

「はずせば、その減らず口が聞けなくなるからな」


 恒星化が始まった灼熱地獄の中で、不死鳥が産声を上げる。紅蓮の炎に包まれた、白亜の鳥――ヴァンドレッド・メイア。

中心核の破壞で大爆発を起こした惑星は炎の海となっているが、その羽ばたきは雄々しく揺ぎ無い。

惑星内の重力や電磁波は捻れ狂い、灼熱による誘爆の連鎖で破壞が渦巻いている状況。それでも、男と女は笑い合っている。

心も身体も傷付いて、自ら犯した過ちに苦しみながらも、生きると決めたのだから。


「へっ、お互い様だぜ……往くぞ!」

「うん」


 二人だけで顔を合わせるのも、随分久しぶりとなる。再会を喜び合う仲ではないが、毛嫌いするほど疎んでいない。

憔悴するメイアの顔を見ればどれほど辛い事が合ったのか、想像に難くない。

負傷するカイの顔を見ればどれほど厳しい戦いだったのか、想像するのも辛い。

けれど、二人は何も聞かなかった。誰が正しくて間違えているのか、その論議にはもう意味はない。

傷つき、苦しんだ後に、この戦場に舞い戻っている。それこそが答えだと、何より雄弁に物語っていた。


高密度の重力も、激しい電磁波も、星をも飲み込む炎も振り切って――男と女が生み出した両翼が、空へ羽ばたく。


宇宙へ向けて、一直線に。一分一秒でも遅れれば、あっという間に炭化してしまう。

惑星の大気圏内を音速を超える速度で急上昇、大気は急激な真上へのベクトルの流れを生み出す。

混沌としていたガス雲も一気に上へと押し上げられ、その流れに従って渦巻く炎がプロミネンスとなって猛追するのだ。

逃げる事に集中しなければ、追いつかれて炎に飲み込まれる。


けれど自分の命欲しさに、課された使命を忘れるような事はしない。


『宇宙人さん、捕まえて―!』


 危険と分かっていて、ジュラと分離してカイは無謀にも灼熱地獄に飛び込んだ。

一見すると、無意味な行動。そのまま大気圏の外にいれば安全なのに、無人兵器や母艦に見向きもせずに大気圏に突入した。

彼には恐れはない。かといって、考えなしでもない。


大した考えも無く仲間を守る為に命をかけた女の子を、助けに戻っただけ。


ディータ・リーベライ――彼女の無謀かつ勇気ある行動が、仲間達を動かした。

彼女の拙い言葉が、彼女達の心を変えた。理に疎く考える事が苦手な少女は、自分の命で仲間を救おうとした。

そんな少女を、少女の仲間を、絶対に死なせたりはしない。

この期に及んで助けが来る事を全く疑っていないその姿に、カイはもう負けを認めるしか無かった。


馬鹿とは本当に救い難いほど、尊い存在だと――少年は清々しく笑って、渦中の少女を救い上げた。


中心核に向けて三方同時射撃を行い、惑星を恒星に変化。その後では、ドレッドの速度でも逃げ切れない。

だからこその決死隊なのだが、副長のブザムが進言してくれた。役割の橋渡し、ヴァンドレッドの連続合体を。

ヴァンドレッド・ジュラで惑星を圧縮して恒星化、然る後に惑星内に飛び込んでメイアと合流。ヴァンドレッド・メイアの加速で全機脱出。

ディータ機を背負っても、機動に特化したヴァンドレッド・メイアの速度なら逃げ出せる。

――無人兵器の集中豪雨を浴びた後で炎の海に突入、加えて連続合体。カイの負担は急激に増すが、彼は意に介さない。


(俺達は、これで逃げ切れる。後は、ニル・ヴァーナ――男の見せどころだぜ。バート、ドゥエロ)


 ブザムが予めどれほど危険であるか説明したのだが、彼は喜んで承諾した。仲間を救える事に、むしろ感謝までして。

その迷い無き返答が女性達の信頼を勝ち得た事にも気づかず、カイはこうして戦っている。

決死隊のメンバーであるメイアやディータとも合流、バーネットは先にニル・ヴァーナへ帰還。


「舞い上がれ、ヴァンドレッド・メイア!!」


 後は仲間を信じて、戦いに向かうだけ。最終段階へ向けて――

















「前方に、小惑星群!?
シールドが弱まっています、突入は危険です!!」

「!? アンタ、どこに突っ込む気だい!」


 最後の決死隊、バーネットが無事帰還した直後。融合戦艦ニル・ヴァーナは作戦の渦中、トラブルに襲われていた。

ペークシス・プラグマの回復による圧壊の阻止、決死隊の救出による仲間の保護。作戦の要が上手くいった直後の、手痛い事態。

けれど、今回ばかりは誰かの不始末によるものではなかった。少なくとも、


『だ、だって……アチャ、アチャチャチャチャチャー!!』


   この見苦しくも、必死な悲鳴を聞けば、誰もが文句を言い出せなくなってしまう。

融合戦艦ニル・ヴァーナは男達の帰還で、ようやく通常の運航が行えるようになっている。

つまりは艦の操舵を行うバート・ガルサスが、艦のダメージを引き受ける状態に戻っているのだ。

現在灼熱地獄と化した惑星内からの、逃走中。炎の中を突っ切る時は当然装甲が焼かれ――バートの全身が焦がされる。

大火傷を負っても不思議ではない、温度。歴戦の戦士でも悲鳴をあげるであろう、火傷の痛みに絶え間なく襲われているのだ。

彼はそんな苦痛の中操舵席から逃げ出さずに、仲間を逃がすために必死で舵を取っている。

想定していた逃走経路を誤っても、誰が責められるというのか。彼の苦痛は、ブリッジクルーの誰もが皆理解出来ていた。

バートに激を送ったマグノはブザムを一瞥――躊躇いなく頷いて、彼女は副長席へと座った。


「各スラスターをマニュアルに! バートの動きに合わせて噴射せよ!」

『ラジャー!』


 男の手助けを行う命令に、誰も逆らわない。問題なく受け入れて、激痛に喘ぐバートの補佐へと回った。

その中には医療室から一時的に戻った、ドゥエロも含まれている。

助手のパイウェイだけではなく当の患者に至るまで、仲間を助けに行けとドゥエロを行かせたのだ。

タラークでは無感動に生きていたドゥエロの心が、初めて震えた瞬間でもあった。


「バート、聞こえるか。任務中である君の治療は行えない。
けれど――私は、此処にいる。君を死なせない為に、私が此処で見ている。

バート、君は私の大切な友人だ。絶対に死なせたりはしない、安心してくれ」

『は、ははは、任せておい――ぐぅっ!?
……ハァ、ハァ……カイの奴だって、頑張ってるんだ……友達に、みっともない所を、見せたくないからね……!』


 男達の友情を、女達は笑ったりはしない。その言葉に耳を傾けて、ただ勇気づけられていた。

男にだって友情はある――その事実が、メジェールが唱える真実を否定している。


追い出されただけではなく、故郷には最初から裏切られていた。涙が出るほどの、屈辱だった。


このまま見捨てられたまま、死んだりはしない。何がなんでも生きて帰らなければならない。

生きる理由は、仲間の為だけではない。


(駄目なファーマでごめんね……わたしの、赤ちゃん。絶対に、貴女は守ってみせるから)


 大きくなりつつある自分のお腹をさすって、ブリッジクルーのオエペレーター役であるエズラが自省する。

度重なる苦境に精神を患って、医務室でずっと寝込んでいた彼女。職場復帰したのは、作戦開始前だった。

男達の帰還に安心したのではない。ディータの放送に勇気づけられたのではない。仲間の決起に、動かされたわけでもない。


エズラの中にいる赤ん坊が、お腹を叩いたのだ――


赤ん坊にとっての無意識の行動であり、母親への初めての呼び掛けでもあった。生きているのだと、訴えかけている。

小さな生の鼓動を実感した時、自分が母親である事を自覚した。


ベットの中で震えているだけ――そんな自分が果たして胸を張って、母と名乗れるのか?


自分以外の人間が努力しているというのに。エズラは、たまらない恥ずかしさを感じた。

身篭っていることを理由に、手厚く看護される価値はないと感じた。

パイウェイやドゥエロが止めても意志を曲げず、彼女は一人の母として戦う決意を固める。子供と一緒に、生きていくために。

彼女の的確なオペレートナビにより、小惑星がひしめく危険地帯の中を、ニル・ヴァーナは何とか突破していく。


「無人兵器が、小惑星に激突。破片が針路を塞いでしまいます!」

「――」


 未来予測に等しい精度の高いナビ、エズラの警告の矢先に燃え上がった小惑星の破片がニルヴァーナに降り注ぐ。

危険を察知していれば、未然に防げる。その危険を自分でも未然に察知出来ていれば、なおさら。

情報分析能力ではピカイチを誇るセルティックがスラスターを噴射、船の態勢が変わって難を逃れた。


カイがおらずクマの頭を脱いでいる少女――仲間の賞賛を浴びて、セルティックは恥ずかしげに笑う。


(――あなたの大事な男達は、わたしが守ってあげます。
その代わり、わたしの大切な友達を守って下さいね。でないと、許しませんから)


 言葉に出来ない想い。見栄や意地ではなく、それこそ言葉にし辛い気持ちから。

伝わりづらくとも、少女の心は行動で示されている。気の小さい恥ずかしがり屋だと、大人達は笑って見守っている。

それは絶望の中での、確かな希望。一人一人が精一杯努力しているからこそ、笑う権利がある。


皆が主人公である、この舞台――自分の成功ではなく、仲間の失敗を援護して、成立している。


それは舞台としては、二流。まだまだぎこち無く、練習不足な役者達。

いずれ確かなものとするべく、今は未熟な実力を精一杯費やすのみ。


血と汗と涙で演出された脚本は、観客の誰もが注目する山場へと移行する。






























<to be continued>







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