VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action17 −招待−






 副長より報告を受けた男女共同作戦は、マグノ・ビバンを通じて全部署へと伝えられた。

圧壊までのタイムリミットが近付いている。他に手段が無い以上、この作戦を実行するしかない。

理性で理解していても、感情では納得出来ない者達がいた。


「この作戦だと、ディータやバーネットが危ないじゃないですか!」

「男が考えた作戦で死ぬなんて、絶対に認められないわ!?」


 元メジェール母船側に位置する避難所、ニル・ヴァーナでは一番安全な場所・・・・・・・で言い争いが続いていた。

ニル・ヴァーナが敵の攻撃で真っ二つに引き裂かれた時は満員だったが、現在避難所に人は少ない。

重傷者や病人は監房横の第二医務室へ、軽傷や何とか立てるようになった者達は自分の戦場へ戻っている。

現在の苦境を省みた上で、カイの立てた作戦を吟味し、ディータの呼びかけに応じて奮起したのだ。

これまで事なかれ主義だった者や気の弱い者、流されるままだった者などの中立派が一気に男寄りに傾いたのである。

カイやバート、ドゥエロがメジェールが唱える男像と大きく異なっているのは、既に分かっていた。

ただ、彼らへの中傷が我が身に降りかかって来るのが怖かっただけ。ほんの少しの勇気があれば、簡単に歩み寄れたのだ。


この場に残っている少数の人間――反対派だけが半ば意地になって、徹底抗戦の構えを見せていた。


「……あんた達ね、お頭や副長が許可を出したのよ。ムキにならずに、素直に協力すればいいじゃない」

「嫌です、どうせヴィータ達を囮にして逃げるつもりですよ!
ラバットとかいう男だって逃げたんでしょう!? そういう連中なんですよ、男は!!」


 天職だと自認するイベントクルーのチーフになった事を、今日この時少しだけ後悔した。

避難所に集っていた他の幹部達は既に任務へ就いていて、大勢の部下達と共に仕事に勤しんでいる。

タイムリミットは残り僅か、作戦開始まであと少し。休んでいる時間は無い。


こういった緊急時にイベントクルーが行うべき仕事とは、不安に怯える観客と接する事である。


イベントを行う時は大いに盛り上げ、不幸な事故や悲しい事件に沈んでいる時は気持ちを共有して慰めあう。

楽しいだけが、イベントではない。御葬式など、好き好んで誰もやりたくない催しだって仕切らなければならない。

人間一人一人の心を理解出来ない者に、イベントの仕事は務まらない。


そして彼女ミカ・オーセンティックは、イベントクルーの上に立つチーフなのだ。


「逃げ場所なんて、何処にもないよ。誰もが皆危ういの。一人たりとも安全じゃない。
男とも女も皆、力を合わせて乗り越えなければならないの。

皆で一生懸命頑張って……それでも勝てる可能性は低い。あたし達はもう、そこまで追い詰められてるの」

「そ、そんな……そんな事って……!?」


 イベントクルー総員で行った男と女の芝居劇、幹部達の主張、ディータの呼びかけ、お頭と副長の号令。

メジェールではなく、マグノ海賊団そのものが男の価値を認め、共に戦おうとしている。

今や反対派が異端であり、この状況下では浮いた形となっていた。


「もう時間は無いよ。自分達だけでやれるなら、やれるなりに行動しないと。
男達はもうとっくに動いている。彼らに協力している仲間達も一緒になって汗を流している。

あなた達の言う――ディータやバーネットを助ける為に、ね」

「……は、い……」


 皆顔を見合わせて、気まずさに黙りこくってしまう。男は認められないが、自分達だけで状況を打開する策が無い。

周りの皆が忙しなく作戦準備を進めている分、余計に何も出来ない事に焦りと苛立ちを感じていた。

男を認める連中に言ってやりたい。いい気になっている男達を、見返してやりたい――その気持ちだけが、空回りしていた。


「それで、どうするの?」

「――」

「……ハァ、難儀な娘達だね……あたしだって暇じゃないんだけど」

「す、すいません……でも、でも……」


 惑星タラークの男達を否定する、メジェールの住民達。彼女達は、故郷では至極真っ当な部類に位置する。

メジェールでは彼女達の言い分こそが正しいのであり、男達と一緒に戦おうとする今のマグノ海賊団が異端なのだ。

彼女達反対派を見ていると、ミカは不思議な感覚にさせられた。自分達の原点が、目の前にいる。


「カイの立てた作戦は、このニル・ヴァーナが完全な状態に在る事が前提なの。
内部がガタガタの今の状態で出撃なんてしたら、下手するとこの惑星から脱出出来ずに壊れてしまう。

修繕には人手が足りない。あたし達も手伝わないと間に合わない――ここまでは分かるよね?」

「……はい」

「あたしはカイが好き。操舵の人やドクターだって、すごく気に入っている。そんな人達が、この船の中で増えている。
彼女達の事、嫌いになっちゃった? 男を認めるあたしも死んだ方がいい?」

「そ、そんな事はありません!? こうして真剣に向き合ってくれて、感謝しています。
……アタシ達が足を引っ張っている事だって、分かってるんです。

ただ……カイにこのまま許す気にはなれないんです。だってあいつ、アタシ達の敵で――海賊を、馬鹿にして……!」


 ミカは苦笑を禁じえなかった。男を極端に毛嫌いしているが、彼女達は人間として間違っている訳ではない。

カイだって聖人君主ではない。行動の全てが正しいはずは無く、何度も悩んだり間違えたりしている。

この船に迷惑をかけた事だって、一度や二度ではない。誰にも好かれるような、魅力的な人間ではないのだ。

嫌いに思う人達もいるだろう。それは決して、不健全ではない。

今の苦境を思うと、確かに彼女達の行動は無意味に等しい。自らの感情だけで仲間に迷惑をかけ、追い詰められていく一方だ。


それでも……ミカは彼女達を、嫌いにはなれなかった。


「カイもきっと、今もあなた達と同じだと思うよ」

「アタシ達と同じ……? どこがですか!?」

「絶対に許せない――海賊を、認められない。カイがずっと言っているじゃない」

「あっ!?」


 ミカの言葉にようやく気付いた様子で、反対派は驚きを露にしている。

そう、カイだって今でもマグノ海賊団全員を認めたのではない。今の危機を乗り越える為に、力を合わせているだけだ。

誰も死なせたくないと、真剣に思っている。その気持ちと、自らの心情はまるで別物だ。


海賊としての女達、仲間としての彼女達――相反する面に、自らが抱える矛盾にカイはいつも苦しめられていた。


素直に認めればいい。海賊を肯定して彼女達を受け入れた方が、この旅はよほど楽に進められる。

それが出来ないでいるからこそ、余計とも言える感情に振り回されて立ち止ってしまう。ぶつかり合って、傷付く。

人間なんて――人間関係なんて、何でもかんでも割り切れるものではない。

故郷を追い出された過去を持つ彼女達は、身をもって痛感している。


「自分の意地に心中する? カイと同じように」

「――いいえ」


 彼女達は揃って首を振った。気持ちの整理は就いたらしい。

性別こそ違えど、似たような気持ちを互いに抱えている。認められなくても、意識せずにはいられない。

嫌い合う関係というのも、意外と強く結び付いているものらしい――ミカは心から笑った。


仲良しになるイベントだけではなく、男女対抗戦なんてものも面白いかもしれない。


「よーし、そんじゃあ片っ端から手伝いに行くよ! あくまでも・・・・・、仲間の為に!」

『ラジャー!』


 微妙なニュアンスが伝わったのか、賛成派一同がこぞって笑い声を立てた。

――結局、男と女の関係はとうとう元に戻る事はなかった。今までどおりやる事はもう、不可能なのだろう。

もう二度と取り戻せない過ちを犯す事も、人間にはある。彼女達が、カイと手を結ぶ事は無い。


今後、どうして行くか――それこそ、当人達の問題である。















 ――出撃の時間と、なった。間もなく、戦場へ出向かなければならない。

この戦いにおける自分の役割は理解している。その危険度の高さも、生きて帰れる保証など何もない事も。

覚悟はしている。残しておきたい言葉は、全て言い切った。恐怖も悲しみも、何もかも涙に変えて流した。


照明を落とした自室の扉の前で、ディータ・リーベライは立ち尽くしていた。


何度も扉を開こうとするが、手が震えて開閉ボタンを押す事が出来ない。

真っ暗な世界の中で、彼女は死へ向かう足を止めてしまっていた――


「……っ……」


 名誉ある行動、と自分は思っていない。これは必要な仕事なのだ。

ガス惑星の中心核へ単独で向かい、ビームを発射し続けて点火する。

一億度のマッチに火がつけば恒星化が始まり、中心から膨れ上がった熱が一気に爆発して宇宙を赤く染め上げる。

この惑星を包囲する無人兵器の大群を、完全に消滅させる事が出来るのだ。

――惑星の中心に居る、自分も飲み込んで。


「……っ、っ……」


 未練はある。けれど、自分の選択に後悔はない。

怖くて怖くて仕方が無いが、自分の命でみんなが救われるのならば笑って死ねる。

ディータは、顔を上げた――悲しみに濡れた顔を、笑顔に染めて。


「――行こう」


 今日、自分は死ぬ。それでも、この死は決して無駄ではない。

頑張って頑張って頑張り抜いて、一生懸命にやって、仲間達を守れるのならば……それは誇らしい死だ。


たとえここで、自分の命が尽きたとしても――皆が生きていてくれる、かぎり。



みんなの心の中で、自分は生き続ける事が出来る!



「そうだよね、宇宙人さん!」


「何がだよ?」


「わっ!?」


 一生分の勇気を振り祖母って扉を開けた瞬間、部屋の前に立つ男の存在に仰け反る。

そのまま勢いに乗って後ろへ倒れ、閉まった扉に後頭部をぶつけて、ディータは悲鳴を上げて蹲ってしまった。

痛む後頭部に両手を回して俯く少女の上から、声が降り注ぐ。


「ほらな? こんな感じでホイホイ怪我するんだよ、こいつは」

「なるほど……今更だが、記憶退行の原因は事故なのだと納得出来た」

「冷静に考えてみればカイがわざわざ襲わなくても、勝手に死にそうよね? この娘」

「せめて任務を達成してから死になさいよ、アンタ……」


 酷い会話だが、緊急時でも頼もしい声にディータは慌てて顔を上げる。

――自分を温かい眼差しで見下ろす、人達。

いつも隣で、前で、時には背中を守ってくれたパイロット達。少年と少女の、戦友――


「あんまり遅いから迎えに来たのよ、もう……心配で仕方が無いから、アタシもついていってあげるわ」


 辞めた筈のパイロットスーツを身に纏った、バーネット・オランジェロ。


「まったくトロいんだから……さっきの威勢の良さは、どこへいったのよ。感動したジュラが馬鹿みたいじゃない」


 綺麗な長い金の髪を艶やかに切った、ジュラ・ベーシル・エルデン。


「お前も、守るべき命の勘定に入っている。命を無駄にするな」


 責任感の強さから最後までリーダーであろうとする、メイア・ギズボーン。



そして。



「手抜いたら承知しねぇぞ、赤髪!」

「っ……はいっ!」


   少年、カイ・ピュアウインド。彼だけに許された呼び名に、今度は少女が笑顔で応える。


かくして男と女、全ての役者達が舞台へ立ち――


最終決戦が、始まる。






























<to be continued>







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