VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action12 −決起−
男尊女卑のタラーク、女尊男卑のメジェール――両惑星で生まれた、子供達。
尊敬する大人達より教わった常識は深刻な対立を生み、憎しみは憎しみを生み出していく。
同じ悲劇を味わった同志達、同じ性別の人間達が睨み合いを続けていた。
「本気で言っているのですか、チーフ!? 男を支持するなんて!」
「本気よ。現場を預かるあたし達チーフ全員、カイ達と一緒に戦う事を宣言するわ」
イベントチーフのミカが幹部の代表として、避難区域に集まるクルー全員の前で唱えた。
黙認ではなく公認。マグノ海賊団全体を支える各部署の幹部達が、男の存在を今ここに肯定した。この意味は非常に大きい。
今までカイ達男三人に幹部達が協力する事はあったが、あくまで手助け程度でしかない。
ミカやクリーニングチーフのルカ、キッチンチーフのセレナは友人として付き合っていたのは事実だが、公言はしていない。
頭目のマグノが男女の同盟を宣言したからこそ成り立っている、不安定な関係だった。
曖昧だったからこそ、これまで表立った騒ぎにはならず――決定的な破局を迎えてしまった。
「男を野放しにしていたから、こんな事になったのじゃないですか! 私達だけで十分です!
今までだってどんなに危険な目にあっても、私達だけでやってこれました。これからだってそうです!」
「地球との戦闘は今まで経験した事がないでしょう。あの兵器相手に、私達だけでは力不足なのは事実ですわ。
見栄を張るポイントがずれておりますわよ、貴女達」
「ここで引き下がったら、私達の負けだと言っているのです! 男がつけ上がります!」
「では、この難局をどのように乗り越えるつもりなのかしら? 具体的な案を提示して頂きたいものだわ」
「それは……」
エステチーフのミレルが鋭く切り返すと、途端にクルー達は顔を見合せて俯く。この繰り返しだった。
彼女達の男に対する嫌悪や憎悪は一人前でも、自分達だけで打開する術を見いだせていない。力も足りない。
力不足を補えるのが男の存在だと主張しているのに、その点だけは拒絶するのだ。堂々巡りだった。
「……チーフ達は何とも思わないのですか? 男と一緒に戦う事を」
「君達が何を言っているのか、ルカには理解出来ない」
黒の三角巾に白のエプロンの女の子が首を傾げる。冗談でも何でもなく、真剣に理解出来なかった。
カイのパイロットとしての実績は名立たるもの、バートの操舵技術で何度も危機を脱する事に成功した。
タラーク第三世代エリートのドゥエロの医療で、何人ものクルーが命を救われた。彼らのマグノ海賊団への貢献度は計り知れない。
懇切丁寧に説明すると、クルー達も沈黙せざるを得なかった。感情からの意見ではなく、結果として出た数字は歪めようがない。
「――残り60分、もう時間はないよ。タイムリミットまで睨み合うのは馬鹿馬鹿しいだろう。
なるべくなら強制はしたくないんだ。分かっておくれよ……いや、本当は分かっているのじゃないかい?
カイにバート、そしてドゥエロ。あの三人は敵じゃないのだと――
ただここで認めてしまうと、今まで信じていたものが崩れてしまうのが怖いのだろう。
一度は自分の生まれ育った故郷にさえ見捨てられちまったんだから」
「っ……」
バート達に銃を向けた事もある警備チーフは、頑固に反対する反対派の心情が痛いほど分かっていた。
自分の仲間を撃ってしまった過ちがなければ、彼女達の中に加わっていたかもしれない。
クルー達の気持ちも理解出来るからこそ、上からの命令で無理やり動かしたくはなかった。
今は危機的状況、強制される事は容易いが――遺恨が残ってしまう。それだけは避けなければならない。
彼女達を守る義務のある警備チーフとしての責任が、同じ悲劇を断じて許さなかった。
今度こそ、全てを終わらせなければならない。
「皆さん、わたしは殿方の事はよく分かりません。もしかすると皆さんの仰られるように、殿方はとても怖くて悪いのかもしれません。
世間の事情には疎いもので、皆さんに殿方は良い人ばかりだとは心からは言えませんわ。
ですが、これだけは自信を持って言えます。
カイさんも、バートさんも、ドゥエロさんも――皆さん、とても良い人達です。優しい心を持っていますわ。
お願いします、皆さん。どうか信じてあげて下さい」
誠心誠意心を籠めて、上に立つキッチンチーフの女性が頭を下げる。何の打算もない優しさが、クルー達に浸透していくようだった。
険しい顔を並べていた反対派達も、次第に気まずい表情へ変化していく。明確な事実ではなく、自分達の感情で反対しているからこそ具合が悪い。
マグノ海賊団だけで状況を打開するには根拠が足りず、感情論で押し切れるほど真実は軽くない。
そして、セレナが意図せず出した妥協案――タラークではなく、カイ達をまずは信じる。
ドゥエロやバートはともかく、カイはマグノ海賊団の敵としての立場を貫いている。許せるものではない。
けれど、彼がこれまで仲間達を守ったのも事実だ。生き方は違えど、協力し合う事は出来る。
反対派も愚か者ばかりではない。いい加減折り合いをつけなければならない事も分かっている。
けれど――やはり、主張は曲げられない。自分の過ちを素直に認めるには、彼女達は若過ぎた。
「男達と協力すれば、本当に生き残れるのですか……?」
……沈黙に満ちた、不要な時間が過ぎていく。死のカウントダウン、気まずさは焦燥を煽り立てる。
結局のところ、皆不安で怖いのだ。男を信じる事も、疑う事も――その先に変化があるから。
幹部達は断固として立ちはだかる。反対派はなかなか譲らない。正しさがどちらにあるのは明確でも、譲れない思いもまたある。
人間素直に分かり合える事が出来れば、戦争なんて起こらない。男や女に関係なく、人間とは難しい生き物だった。
『――皆さん、聞こえますか?』
重く苦しい空気に包まれた避難所に、静かな決意に満ちた女の子の声が響く。
睨み合いをしていた女性達が、一斉に顔を上げた。
艦内放送――音声のみの呼びかけが、気まずい静寂を打ち破る。
『負けるとか、死ぬとか――みんな、変です。自分達で決めた戦いでしょう!?』
その呼びかけに反対派はおろか、幹部達全員がハッとした顔をする。
男達がどうのこうのと言っているが、結局最後に決断するのは自分達。単純にして明快、そして事実だった。
艦内放送は、続く――
『刈り取りとかって、勝手に未来を決められるのが嫌だから戦うって決めたんでしょう!?
それなのに――自分たちで勝手に未来を決めて諦めるなんて、間違ってます!』
この少女の呼びかけには、重要な意味があった。彼女にしか出来ない、役割が存在した。
少女の名はディータ・リーベライ――男女決裂のきっかけとなった、男に傷つけられた少女。
ディータの声には意思があった。決意が宿っていた。
『もうダメだなんて言わないで。言ったら――ホントになっちゃうよ!?
ディータはダメだなんて言わない……絶対諦めない! 皆と一緒にいたいから――
皆、大好きだから!!』
――憎しみなんて、一切なかった。
『だから……皆、元気出せ、だせぇっ!!』
自分の大事な仲間達を、知り合った男達を――その全てを愛し、心からのエールを送る少女。
男が認めるだの反対だのと主張し合う者達すら包み込む、少女の純粋なる気持ち。
誰かを好きになるのに、理由なんていらない。誰かを助けるのに、理由は必要ない――
ディータ・リーベライ、彼女の中にこそ本当の愛があった。
「――どうする?」
答えはもう、決まっていた。
<to be continued>
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