VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action10 −錯綜−
地球母艦を中心に無人艦隊の大群がガス惑星を包囲、融合戦艦ニル・ヴァーナは惑星の中心部で篭城中。
惑星圏内の重力と電磁波に守られた形だが、人知を越えた強大な壁は退避した戦艦まで押し潰そうとしていた。
堅牢な装甲と鉄壁のシールドを誇るニル・ヴァーナでも、長時間はとても耐え切れそうにない。
更に過負荷による動力源への負担が強く、数々の超常現象を起こしたペークシス・プラグマが今にもバーストしそうな状態にあった。
自然の脅威、人災による危機、謂れのない因縁――正常な人間の精神を狂わすのに充分な、要素。
目を覆わんばかりの悲劇、加えて長時間の死闘の後ともなれば、どれほどの強者でも疲弊する。
それがタラーク・メジェール両国家を長年脅かした海賊であっても例外ではない。
「結論はもう出てるわよ――やられる前にやる! それしかないわ!」
海賊母船側の避難区域にて、多数の女性達が集まっていた。
修羅場には大よそ縁のない職場の人間、マグノ海賊団の生活を支えるクルー達である。
華やかな実績こそないが、彼女達がいなければ前線で戦う人間達の帰る場所が存在しなくなる。
「内助の功」の専門家――優しくも逞しき母達の間で、議論が紛糾していた。
「そうよ! 男どもの力を借りなくたって、私達だけで出来ることを証明するのよ!」
主婦達の井戸端会議と言うのは、些か熱が籠もり過ぎていた。息が荒く、表情にも余裕はない。
戦わずに安全な場所に隠れていた人達、だが実際の所その安全性は一切保証されていない。
ニル・ヴァーナは敵の攻撃で一度半壊、ブリッジからの報告は難色を示すものばかり、状況は悪化の一途を辿っている。
頑丈な避難区域に隠れて長時間耐え忍んでいて、抑圧された精神は逃げ場を求めていた。
「でも、ドレッドだけで勝てるの?」
現実は理想よりも確かなものであり、安易な妄想を断じて許さない。個人の希望など、平等で冷酷な世界には関係ない。
集った大勢の人間の熱狂は、たった一人の弱音で簡単に沈黙してしまう。誰もが持っている不安だからだ。
地球母艦との敗戦の報告は既に全クルーに行き渡っている。マグノ海賊団とメラナス艦隊の同盟軍は、敗れた。
そしてこのメラナスも今は離脱して、母星の警固に始終。
彼らからの援軍はとても期待出来ず、残されたドレッドチームのみで戦わなければならない。
「勝てる勝てないの問題じゃ無くて、勝つのよ! そうでしょ、みんな!?」
『おおーーー!!』
――その事実が、彼女達を盲目にさせる。
メラナス艦隊は男と女の軍隊、男女が共に住む惑星の人間達で構成されている。
男が存在する戦力、それゆえの敗北。女尊男卑の惑星メジェール生まれの海賊達はそう認識してしまった。
それはある意味、当然の結論なのかもしれない。
彼女達こそが、マグノ海賊団に残された――男女関係の"反対派"なのだから。
「私達だけで勝つ事は、メジェールにとっても意味のある勝利なのよ!」
『おおおーーー!!』
男の助力が無くとも自分達で倒せる、その自負心がマグノ海賊団を強くした。
自分の故郷を追い出された彼女達が互いに協力して団結心を高め、自らの在り方を高めていった。
底辺にまで堕ちた者達が国家全体を脅かすほどに強くなったのだ、自負心の強さは並大抵ではない。
逆に言えば――積み上げた過去の実績に縋らなければならないほどに、彼女達は追い詰められていた。
未来は暗雲立ち込めていて、現在は非常に厳しい。直視さえ出来ない息苦しさに襲われている。
男には頼らない、それが彼女達の最後の砦だった。
「お〜、何か盛り上がってるね。イベントチーフのあたしに内緒事はいけないよ。
何かやるなら話をちゃんと通してもらわないと」
「……チ、チーフ……」
イベントチーフ、ミカ・オーセンティック。彼女の登場に、一同は皆気まずい顔を見せる。
地球母艦との激戦時に開催した、彼女渾身のイベント――男と女の関係をテーマにした芝居は、今も彼女達の心に焼き付いていた。
即興の台本だが、内容は劇的。忘れたくても忘れられない、確かな事実が浮き彫りにされた。
閉幕時の彼女の訴えこそが、此処に集う人達の危機感を煽った事は間違いない。
「――悪いけど、聞かせて貰ったよ。折角帰って来たカイ達をまた排除するつもりなのかな?」
「……聞いていたのなら、話は早いですね。チーフの御考えは分かりました。
でも、私達の考えは変わりませんから」
避難区域に集まっている人達を一瞥する。怪我人や病人を除いても、激戦時に避難していた人数の半分にも満たない。
皆の前で芝居を行ったからこそ、当時の正確な人数を把握している。他の人間は自分の持ち場に戻ったのだろう。
自分の目で確認して、ミカは安堵する。前向きかどうかは分からないにしても、あの時の芝居は効果はあった。
現実を知ったからこそ、この苦しい状況で職務に精を出せるのだ。逃げ場から自分の足で出て行くことが、まず第一歩となる。
「本当に愚かな人達ですわね……具体的な案は何一つ出さず、精神論だけで乗り越えられると思っているのかしら」
「ブランデール主任――貴女は男の存在を認めていなかったのでは?」
「ええ、今でも変わりませんわ。カイ・ピュアウインドはれっきとした、わたくしの敵ですわ。
あの男は必ず、わたくしが完璧な敗北を与えてやりますわ。二度と立ち直れないほどの、美しき屈辱を――
けれど、今の貴方達の言い分は男の理屈と変わりないではありませんの。
それではとても、あの男達に勝つ事は出来ませんわよ。カイだけではありません、他の男にも。
カイ・ピュアウインド、バート・ガルサス、ドゥエロ・マクファイル――あの三人は地球よりも手強いのですよ」
「えっ!?」
エステチーフ、ミレル・ブランデール。気高き誇りを持つ彼女は、今でも男達を敵視している。
特にカイ・ピュアウインドに対しては、並々ならぬ敵愾心を抱いていた。この戦いで確固たるものとなったと言っていい。
明確な敵の存在――それは決して、憎しみだけで成り立っているのではない。
強敵だからこそ、その価値をよく知っている。価値を認めているからこそ、倒した時の喜びは大きい。
敵を陥れる事も、立派な戦略だ。だが、陰口を叩くだけではあの男達が倒せるはずが無い。
彼らは今も、戦っているのだから。
「お〜、良かった。ルカの女の子達はいない。うふー」
「わたくしの可愛い部下達も当然、エステルームの修復作業に張りきっておりますわ」
そんな彼女の背後からヒョッコリ顔を出す、クリーニングチーフ。彼女は特に言いたい事は無いようだ。
ただ此処に集った女性陣の中に、自分の部下が居ない事に安心していた。後は自分の仲間に託すらしい。
マイペースな彼女は、自分の世界に居る人間が間違えていないのならそれで良いらしい。
団結心の強い海賊だが、その在り方は孤高でもある。ルカ・エネルベーラはその最たる例だった。
「――悪いけど、これ以上の騒ぎは容認出来ないんだ。今度という今度は阻止させてもらうよ」
「け、警備の人間が私達の邪魔するのですか!? 男達の無法を止めるべきでしょう!」
「頭の悪いアタシだけど、ようやく分かったのさ。
……てめえの大事な仲間撃っちまって気付くなんざ、アタシも本当に救えない。
あいつ等はアタシと同じく、この船を――大事な仲間を守る為に、命を張ってんだってね!
これ以上の無法は許さないよ。ぶん殴ってでも、止めてみせる!」
警備チーフ、ヘレン・スーリエ。彼女が死にたくなるほどの自己嫌悪に襲われていた。
男達の暴走を止めようとして、仲間であるメイアを撃つ暴挙。自分の犯した失態を挽回しようと、空回ってしまう不始末。
自分の存在意義に苦しむヘレンに手を差し伸べたのは――自分と同じ、チーフ達だった。
事情を全て知った彼女達は厳しく、自分を叱ってくれた。同じ立場だからこそ、純粋に自分を思い遣ってくれた。
自分達に出来る事をしよう――その言葉で、ようやく目が覚めた。
「皆さん、どうか落ち着いて下さい。このままずっと喧嘩していて良いのですか?
ごはんは皆仲良く、一緒に食べた方が美味しいですよ」
「セレナさんまで……」
キッチンチーフ、セレナ・ノンルコール。彼女は偉大なる頭目マグノ・ビバンに近しい、皆のお母さん的な存在だった。
そのお母さんが悲しい顔をしている、若い世代の彼女達が戸惑うのも無理はなかった。
避難区域に隠れて震えていた時も、温かい飲み物と御飯で優しく励ましてくれたのはセレナなのだ。
こうして向かい合って対立するだけで、心苦しい限りだった。
「――あたし達は、男を支持する」
「えっ!? チ、チーフ、その発言は――」
「主義主張を明確にしていなかったあたし達にも責任はある。それは認める。ハッキリさせておくべきだった。
貴方達が男達を否定するのならば、それはそれでかまわない。話し合いましょう。
男も、女も、時間は平等。"残り90分"、それがタイムリミット」
「そんな……まさか!?」
機関部主任、パルフェ・バルブレア。責任ある彼女の名において、全部署のチーフ達に通達が渡った。
ガス惑星内部の環境と船体強度、ペークシス・プラグマの現在の状態を照らし合わせての結論である。
"船殻崩壊まで、あと九十分"
すれ違い続けた男と女に、いよいよ結論を出す時が来た。
<to be continued>
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