VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action9 −鶺鴒−







 犯罪を犯した者が投獄される刑務所、タラーク都市部より隔離されたこの施設は拘置所の役割も兼ねている。

国家設立当時は犯罪も少なかったのだが、時代が下るにつれて国家情勢は不安定――

治安は悪化して、日々の生活に不安や鬱屈を感じた人間による犯罪が激増した。

士官候補生達が起こした三等民虐殺事件は残虐非道ではあったが、彼らが唱えた正義はある一部分において間違えてはいない。

タラークの治安を脅かす犯罪の数々、その大半が労働階級者が起こした事件なのだ。

生まれ持った宿命、強いられた階級が人生の枷となり、希望無き人生を国家の歯車として鞭打たれて歩かされる。

保障されるのは最低限の生活のみ――士官候補生達に唱える正義があるように、彼らもまた言い分がある。

悪いのは貧富の落差を生み出した国家なのか、現状に甘んじる国民なのか――

誰一人答えが分からぬまま、それぞれの理由で男達が正しくも間違い続ける。

結果お縄につく人間が増え、判決までの期間が延び、拘置所のみでは機能せずに一体化する。


犯罪者達の第二の人生の始まりの地、罪を犯した人間達の終わりの楽園――刑務所に。


「事実が上に伝わってしまった以上、事件そのものを無かった事には出来ない。
代わりの犯人役が必要だが・・・・・・君は良しとしないだろうな。付き合いこそないが、君という人間は理解出来た」

「当たり前だ。事件を公に出来ないのは、納得はしないが追求もしない。
その代わり、何の関係も無い人間に罪を押し付けたりはするな」

「偉そうな物言いだが、まあいい。君に負い目がある以上、僕への無礼は許そう。
ただ罪を犯した僕はともかく、士官候補生の名誉を守ろうとする国家の事情は理解してくれ。
特に此処の規則については口外するな」

「外で話せないよ、こんな腐ったシステムなんて」


 年々増え続ける犯罪者達を幽閉する施設、犯罪者達だけで構成された閉じられた世界。

犯罪を犯した人間は階級問わず悪と法が定めているが、それは上辺だけの御題目。

悪だけの世界にさえ平等は無く、表世界の階級が不気味に根付いている。

例えば三等民が容疑者候補に挙がった場合、長時間に渡る脅や暴力を受けて、厳しく取り調べられる。

犯罪件数は増え続けているのだ、一人一人詳細に調べる時間は無く、三等民には容赦すら必要とされない。

犯罪を犯す人間の大半は三等民――犯罪件数の数字は絶対であり、統計は無意味に確率を高める。

結果、犯してもいない罪を“自白”させられる事がある。


――冤罪とさえ認知されず、ただ一方的に彼らの人生は閉ざされる。


「俺が此処へ連れて来られたのは必然だったって事か。
国家権力だけではなく、暴力によって俺を犯人に仕立て上げようとしたな」

「だから助けに来ただろう、こうして!? 君に説得されたからではないが、僕も責任は感じている」


 軍事国家タラークの主張である「男こそ正義」、気概を持って己が力のみで人生を切り開く雄を国家は尊ぶ。

弱き者に救いは無い、弱者が叫ぶ正論に力は無い。子供心に光る正義は社会の泥に埋もれて消えるだけ。

刑務所内もまた同じ、立場無き三等民達がが生き抜くのに必要なのは正義ではない。真実でもない。


国より授かる安全保証への対価――階級高き者達への奉仕、ただそれだけ。


牢屋では衣類は自前だが、かつての拘置所であったように牢外からの差し入れは基本的に認められている。

投獄される際に看守及び刑務所の関係者達に「提供」する事で、彼らもまた身の安全を保証してくれるのだ。

何も持たぬ者に、何も与えられない。

入牢の際に「差し入れ」を持ってこなければ、看守どころか同じ牢屋内の皆にさえ煙たがられる。

差し入れがないと不衛生で支給される食事――ペレット――も粗悪の一言で、長期勾留と栄養失調で獄死すらありえるのだ。

三等民虐殺事件では犯人として無実の少年が罪を科せられたが、彼の存在は真犯人にとっては真実を知る邪魔な人間。


そう言った人間は――闇に葬られる可能性も出てくる。


「君は取り調べの際、頑なに口を閉ざしたそうだな。身元証明も行わせなかった。
所有していたIDから君のデータを調べたらしいが――まあ、君の親元にこの話が伝わる事はないだろうな」

「三等民の大量虐殺ともなれば、軽犯罪では済ませられない。何が何でも、事件の犯人が必要になるって事か。
真犯人のお偉いさんを守る為の、犯人役が」

「睨まないでくれよ。だからこうして、君を牢屋から出しただろう。
いいかい? 君は厳しい取調べによって罪の意識を感じ、牢屋内で自殺した事にする」

「上層部には偽装した俺の死を伝えて、事件ごと闇に葬り去る――死体がないのに大丈夫なのか?」

「軍部が三等民の死体をいちいち確認なんてしない。日常茶飯事とまではいわないが、刑務所内での獄死は多々起こっている。
犯罪を起こした労働階級者の死体を、丁重に扱っていてはキリがないからな。粗雑に葬られて終わりだ。
真実は書類一枚で事足りる」

「・・・・・・胸糞悪くなる政治的配慮で、俺を助けるのか」

「罪の意識やシステムへの怒りを感じていても仕方ないぞ。
間違えているのなら、正しく変える――君が唱えた信念だ。僕は同意しないが、その考え方には敬意を示す。
僕に出来る事は、君の身の安全を保証する事だ」


 罪を科せられた人間は正式な裁判もないまま、犯罪者として収監する。

特に所長クラスの人間には懲戒検束権が与えられ、反抗的とされた者を監禁所と呼ばれる科刑の場に拘束する事が出来る。

不名誉かつ理不尽極まりない刑罰を与えられて、罪無き者達は苛烈な懲罰に苦しんで命を落としていくのだ。

だからこそ、この刑務所では身元保証――嘘偽りでも、安全を約束してくれる人間が必要となる。

一等民や二等民ならば自分の身元保証人である親の権力、三等民では自分のツテや差し入れを使ったスポンサー。

保証された人間が入牢したら生活必需品を差し入れしたり、ツテを頼りに裁判を早く済むよう働きかけをする。

こうしたツテを頼るのは当然贈答、もしくは自身が保有する情報や金品に匹敵する物品の数々――

少年の場合は成長の糧となった記憶――タラーク・メジェールの真実と確実に訪れる破局を元に、士官候補生の正義を揺さぶった。


「事件は明るみに出る事は無く、君は無名のまま闇に葬り去られる。
このまま元の生活に戻る事も出来るが――お勧めは出来ないな。万が一の場合もある」

「俺を殺そうとしておいて、よくそんな事が言えるな・・・・・・たく。俺にはやるべき事がある。
未練はあるが、全て成し遂げるまで帰るつもりは無い」

「・・・・・・。何か伝言があれば――」

「俺はアンタ自身に疑いは持っていないが、アンタの周囲まで信用は出来ない。
――今の・・俺が帰るべき場所じゃないしな。未練も・・・・・・ない」


 事情はどうあれ、虐殺事件に関わって犯人扱いされてしまった身の上。

カイ本人に責任は無いが、タラークという仮初の故郷が少年の無実を決して許さない。

少年は地球より不要廃棄された捨て子――宇宙の漂流者であり、彼自身に身元保証は無い。

国が設立した巨大組織である軍部が少年を徹底的に探っても、何一つ出て来ないだろう。

彼は故郷の地球のみならず、どの世界にも居場所がない哀しき亡霊。

書類上死人扱いされても何の問題も無いが、少年を養う養父はれっきとしたこの国の人間――

少年を逃がすエリートは改心したとしても、彼から事実が発覚すれば周りが許さない。

虐殺事件の犯人として処分された人間が居座っていては、迷惑をかける可能性も出てくる。

この時代の父は厳しくも優しい人間、少年が行方不明になればきっと探すだろう。

心当たりを探って、知り合いを頼り、軍部の中枢に居るアレイクに手掛かりを求めれば――この事件の真実まで辿り着く。

――心苦しくはある、時代の違う人間であれど少年にとって彼は父親だったのだから。

記憶喪失だったとはいえ、あの退屈でも平和な毎日は過去の無い少年には唯一の思い出だった。

あの日々があったから、人間らしい心を一部分でも手に入れる事は出来たと思いたい。

せめて、お礼を言いたかった――ならば。


"行ってこい・・・・・・馬鹿息子"


 少しでも成長しよう――立派になった自分を、遠い宇宙ソラから見せよう。

何時の時代に行こうと、どれほどの強敵を相手にしようと、マーカスが育てた子供は決して負けないと。

親の反対を押し切って飛び出した馬鹿な息子は――


――自分にしか出来ない、自分らしいヒーローになれたのだと、自らで証を立てよう。


「アンタはこの先どうするつもりだ?」

「僕はまだ子供――持てる力は限られていて、今は所詮親のスネかじりだ。
この国を守るなんて言っても、士官候補生では力不足。まずは無事教育課程を終えて卒業する。
――犠牲にしてしまった君の命を無駄にしない為にもね」

「俺は別にいい、それよりも殺してしまった人達の事を考えてくれ」

「分かっている。その為に僕は軍人となり、出世するつもりだ。
いずれは――この事件を明るみにして、直接手を下した人間に名乗り出てもらう」

「・・・・・・自分の仲間を売るつもりか?」

「あの現場での君の主張を酒の肴にしていたのだぞ、彼らは。罪の意識なぞ微塵も感じていない。
彼らのような倣岸無知な輩にこそ罰を与えるべきだ」

「庇い立てする気はないが、アンタの名誉はどうする? 国はお前達の犯行を認めず、隠蔽しようとするぞ。
それこそ彼ら自身が自首しない限りは――まさか!?」

「――だから、私が公表するんだ。犯人が自ら公表すれば、事件を隠す事など不可能だ」

「アンタは破滅するぞ。三等民の口車に乗ってしまっているとは思わないのか!?」

「私自身の意思だ。君が心配する必要は無い。君の言う通り、僕は自分勝手な男だ。
自己満足の正義を振り回すのがお得意なんだよ。なに、自分の身の振りも考えた上での決断だ。
お家断絶にならないようには手を回すさ。君が嫌う権力を使ってでも。

まずは――こうした事件を明るみに出せるような国にしないとな」


 自分の未来の全てをタラークに捧げ、自分の犯した罪の裁きで幕を閉じる。

自分のやりたいように生きる人生――その中に贖罪も含まれており、最後は思い残す事無く死んでいく。

三等民を平気で殺す非情な軍人候補でありながら、正義を失わなかった士官候補生――

善とも悪とも呼べない彼のこれからの生き方に、少年は不思議にも人間らしさを感じさせた。

人間味ある生き方だからこそ、納得は無理でも共感は出来る気がした。


殺された人達の無念が、彼に国を変える必然を課したのだ――決して無駄ではなかったのだと、思いたい。


「――さて、僕が案内出来るのも此処までだ。これから先は関与出来ない。
君の目的は聞かないが・・・・・・テロ行為を行うのであれば、僕は容赦なく君の敵に回るぞ。
メジェールを調べるとは言ったが、タラークにとっては女達が男の敵である事を変わりは無いんだ。

この新造艦だって、我々を脅かす敵国メジェールの海賊を掃討すべく――」

「分かってる、第一丸腰の俺には何も出来ねえよ。建設を始めたばかりの船を壊しても仕方ないだろ。
俺は――」


 全周をきっちりと覆い、中と外とを完璧に隔絶している広大な施設の一画。

軍事関係者を除けば、「差し入れ」を行わなかった者が放り込まれる重労働場――

都市部より大きく離れ、堅牢な外壁に閉ざされた閉鎖空間に存在していた。


敵国メジェールを倒す艦隊旗艦イカヅチの建造施設――


「――御立派な軍艦の制御システムをちょいと見学したいだけさ」





























<to be continued>







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