ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 12 -Collapse- <前編>
Action3 −夜空−
厳しい尋問と、合間を許さぬ罪の追及の一日。
不眠不休――罵声と殴打すら浴びて、ドゥエロとバートの二人は心身共に責められ続けた。
マグノ海賊団側の懸念材料は三つ。
一つ目に、カイに連れ出された仲間達の行方――
ドレッドチーム・サブリーダー、ジュラ・ベーシル・エルデン。
イベントチーフ、ミカ・オーセンティック。
キッチンチーフ、セレナ・ノンルコール。
クリーニングチーフ、ルカ・エネルベーラ。
ブリッジクルー・ロングレンジレーダー、アマローネ・スランジーバ。
ブリッジクルー・艦の操舵補助及び情報処理全般、セルティック・ミドリ。
マグノ海賊団を支える幹部達と、エリート候補生。
ニル・ヴァーナの日常と平和を支える人達が消えて、艦内の機能は麻痺したも同然だった。
ペークシス・プラグマの原因不明の停止が、不安に拍車をかけている。
緊急事態にこそ頼りになる人達の殆どが、ニル・ヴァーナを出て行ったのだ。
バートやドゥエロは、彼女達に真実を物語っている。
彼女達は、自分達と共に幽閉したカイを逃がす手助けをした。
マグノ海賊団の一方的な弾圧に反旗を翻し、出て行ったのだと――
ドゥエロもバートも、罪を庇うつもりはない。
彼女達を、本当の仲間だと心を置いているのだ。
仲間達が取った勇気ある行動を無かった事になど、出来ようが無い。
殺意に溢れる取調べでも、二人はむしろ堂々と語った。
返って来たのは――冷ややかな嘲り。
彼女達が自分達を、裏切る筈は無い。
貴様ら男が卑劣な真似をして彼女達を脅し、連れ去った。
カイが自分達を憎む余り誘拐したのだと主張し、ドゥエロ達の言い分を撥ね退けた。
マグノ海賊側はあくまで、心配をしている。
あの裏切り者に脅されて連れて行かれた人達の、安否を――
二つ目は、密航者の存在。
撮影された映像を材料に、艦内全域に調査が行われた。
男達の監房は勿論の事、旧タラーク側の船は倉庫を引っ繰り返すまで探し尽くされた。
鼠一匹隠れる事すら出来ない、強引且つ広域範囲の強制捜査――
成果は、0。
人っ子一人、見つけられない。
不安な気配が漂う艦内を荒々しく踏み越えて捜索が行われたが、手掛かり一つ見つからなかった。
マグノ海賊団側の不安は高まるばかりだった。
――人間である以上、必ず生の痕跡は残る。
毎日を生きるには食事が必要、水が無ければ枯渇して簡単に干乾びる。
不衛生なら匂いが、長い潜伏には排泄のリスクも存在する。
マグノ海賊団の警備員は木偶ではない。
タラーク・メジェール正規軍と比較しても決して見劣りしない、優秀な人材の集まりだ。
そんな彼女達の懸命な捜査でも、人影一つ見つけられない。
映像に映っている人物は、どう見ても十代の女の子――
神秘的な雰囲気のある美少女だ、容姿や服装で目立たなければおかしい。
焦りは緊張を生み、緊張は疲労を生む。
自然ドゥエロやバートの追及は厳しくなるが、二人の回答は知らないの一点張り。
マグノ海賊団側の空気は悪くなるばかりだった。
最後の懸念は――他ならぬ、男達だった。
無謀にもマグノ海賊団に反逆したカイは、ついにその本性を見せた。
抱いていた悪意を露に、自分達に死ねとまで言う始末。
挙句の果てに正面から戦いを挑み、幾数ものドレッドを破壊した。
辛くもドレッドチームが勝利を収めたが、バーネット機を始めとする実力者達が倒されてしまう。
無論、マグノ海賊団も本気ではなかった。
チームリーダー・メイア、サブリーダー・ジュラの不在。
ニル・ヴァーナを突如襲った謎の激震、クルー達の混乱、システムの異常。
幽閉したカイが脱獄するどころか、救助船を奪って逃走すると誰が予測し得ただろうか?
何より――
パイロット達の戦意が、著しく低下していた。
パイロット達にとって、カイは大切な戦友だった。
命を懸けるに値する戦士だった。
共に戦い、何度も対決し合ったからこそ、彼の真価を見出していた。
ゆえに避けられなかった、戦い――
きっかけはどうあれ、男女の温い関係に彼は終わりを告げた。
自分達に戦いを挑む彼の心情を理解出来ていたからこそ、悲しみに戦意が薄れていく……
ドレッドチームは、確かにカイに勝利した。
苦戦はしたが彼に大きな痛手を負わせて、戦闘不能には出来た。
だが。
重傷を負った彼を運ぶ救助船への追撃を拒んだのも、ドレッドチームだった。
警備員達の呼び掛けにも再三に渡って抵抗し、激昂した警備員が追走すると力ずくで止める始末。
結果逃がしてしまい、カイはそのまま行方不明。
最終的な目的も分からないまま、言いたい放題言わせて逃がすだけの最悪の結果に終わった。
彼に味方する者と、敵対する者――
カイの存在そのものが、彼女達の不安に直結する。
――この残された男達も、謎だ。
カイと一緒に逃げれば済むものを、何故か船に留まって大人しく捕まった。
無抵抗なまま尋問され、反論はするが暴れだす真似はしない。
二人はそれぞれ特徴的だが、自分の意思を明確するという点では共通していた。
罪は認める、だが海賊に賛同するつもりは無い。
毅然とした態度に不審を覚え、無力な男達の確固たる態度にまた腹を立てる。
不毛な、繰り返し。
結論の出ない、無駄な尋問だった。
無意味な時間の浪費、奔走し続ける船内、困惑する自分達――
――胸の奥を詰まらせる不安は消えず、膨らむばかり。
一歩も前に出ないまま、一方的に嬲るだけの取調べが続いた。
「……ドゥエロ君、お腹空いたね」
「……ああ」
真っ暗な部屋の片隅で、ボロボロに転がされた男達が静かに語り合う。
自室として利用していた監房に閉じ込められた二人――
身の回りの品は取り上げられて、衣服すら手元に無い。
生活用品は調査後の無残な有様で、照明も落とされている。
不衛生な監房内で、ボソボソと二人は話す。
「何時間くらいやってたのかな、取調べ……」
「昼夜問わず。また再開するだろう」
ドゥエロは生活に着こなしていた白衣を血と泥で汚し、無惨な負傷を顔に負っている。
鍛えていなければ、手酷い怪我に発展していただろう。
同じ境遇のバートは何故か傷一つ負ってないが、代わりに頬にビンタの桜マークがついていた。
本人の話では、喋り過ぎだと逆に殴られたらしい。
「正直に答えたのに殴るって酷くないか!?」
「一発で済んでいる、幸運に思うべきだ」
「……君の方が酷いね……
本当に大丈夫なのかい、その怪我は」
「私は医者だ。自分の怪我は、自分の見立てで判断出来る。
とはいえ――」
痛みが消えない自分の顔と、バートの顔を見比べる。
「――私と君で、随分対応が違う事に多少の興味を覚える。
君は彼女達にどのような話を?」
「え、僕? 僕は別に普通に話しただけだよ。
隠す事でもないし、秘密にしなければいけない事も無かったから」
普通に話したのは自分も同じなのだが、怒鳴られて暴力を受けた。
派手に暴行を受けても、冷静に落ち着かせようとしたが怒りを煽る結果に終わった。
同じ境遇のバートは、どうやら彼女達を平静にさせる事に成功したらしい。
「……」
「な、何だよドゥエロ君!?」
「いや――もしかすると、君は器のある男なのかもしれないな」
「ぼ、僕が!?
あは、あはははは、ほ、本当にそう思う?」
「ああ。今度是非処世術を伺いたいものだ」
冗談のような会話だが、本人達は至極本気だった。
ドゥエロはバートを感心したような目で見つめ、彼の評価を改めている。
調子を良くしたバートが、胸を張って拳を叩く。
「任せてくれよ。社会に生きる術を、お爺ちゃまに嫌というほど叩き込まれたからね。
社交界の適切な礼儀に関しては、是非僕に聞いてくれたまえ」
「そうしよう」
次の尋問の参考にするべく、ドゥエロは心から頷いた。
ドゥエロに認められて嬉しかったのか、バートは喜色満面の微笑み。
――カイがこの場に居れば、黙っていなかっただろう。
その後しばらく雑談したが、やがて口数も減ってくる。
バートは空腹を抱えたまま、虚空を見上げて呟いた。
「……カイの奴、無事かな……」
「取り調べで得た情報は断片的だが、彼女達が回収したようだ。
逃走先は判明していないようだが」
「ああ、その辺は僕もしつこく聞かれた。
でもさ――
この船から離れて、何処に行くのさ。
故郷は遠いし、身体が持たないだろ」
「……せめて、人が住める環境のある星に辿り着ければ」
アンパトスが良い例だ。
思惑のある歓迎だったが、ともあれ受け入れてくれたのは確か。
傷ついたカイを保護してくれる星に辿り着ければ、助かる可能性はある。
とはいえ――この真っ暗な空は、広い。
広大な宇宙で、果たしてそのような幸運に巡り会えるかは不安ではある。
男たちの悩みは尽きない。
「僕達も僕達で、やばいけどさ――
腹ペコなのがキツイよ。
僕達は特に隠し事はしてないのに、不当だよこの扱いは」
「あれだけの騒ぎを起こしたんだ。
殺されずに済んだ自分の幸運を感謝した方がいい」
「なるほど、建設的な意見だ。
君くらい、ドッシリと構えられればいいんだけど……」
「……君はまだ余裕があるように見受けられるが」
食事はおろか、水一滴出ない。
武装は元よりなく、身包み剥がされないだけマシという状況下だった。
ドゥエロの冷静な頭脳、バートの気楽な態度も、栄養が無ければ維持出来ない。
このまま延々と責められ続ければ、活力は次第に低下する。
踏ん張るしかなかった。
カイはいつも苦しい状況を耐え忍んできた。
自分の番になっただけだ――
二人は気力だけで身体と心を支え、ただ耐える戦いに身を備える。
そんな懸命な彼らを――
「あはは。ボロボロだね、二人とも」
「……ドクター、大丈夫……?」
「パルフェ!?」
「パイウェイも……何故、此処へ」
――決して見捨てる事の出来ない人達も、まだこの船に存在していた。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
|