ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action49−転換−
空前規模の、戦力――
近隣の惑星を恐怖に陥れる敵戦力が今、明らかとなった。
予想を遥かに越えた巨大な母艦と、圧倒的な数の無人兵器。
悪夢のような兵団が全宇宙に牙を向けていた。
目下刈り取り対象とされているのはメラナスだが、敵はそれだけでは止まらない。
いずれタラーク・メジェール――ニル・ヴァーナへ攻撃を仕掛ける。
明日は我が身。
敵が全人類の臓器を刈り取るつもりなら、逃げ場はどこにも無い。
とはいえ――
「・・・よく戦ってこれたな、あんた達」
カイたちがこれまで戦ってきた相手の集大成――
国家の全軍を費やしているとはいえ、懸命な人達にカイは感心するしかない。
マグノ海賊団とカイは、母艦が射出したトリ型艦隊にすら全滅しかけた。
艦長は苦笑い。
「我々も必死なのだ・・・刈り取られまいと」
抗う人間の力は強い。
特に、国が一つとなって戦っているのだ。
その団結力は計り知れないものがある。
――カイは羨ましく思う。
バラバラになった男と女。
目の前しか見えていない、タラーク・メジェール。
国民を生贄に捧げる国家の指導者。
指導者に盲目的に従う国民。
自分の育った大地は不毛の塊、錆付いた鎖に絡まれた屑鉄だ。
加えて、カイには自身の問題もある。
略奪を続けるマグノ海賊団に、明確な答えを出していない。
彼女達は間違っている――ならば、何が正しいのか?
ディータの記憶が消えた。
原因は自分にある――ならば、どうするべきか?
連れて来た仲間達への責任、隔てた仲間達との決着。
残して来た仲間達の安否。
内心、苦笑する。
メイアが自分を怒るのは当然だった。
さぞ、苛々しているだろう。
心を一つにして戦わねばならぬこの時に、自分を含めて誰もが独自に動いている。
戦況は彼女が考えている以上にシビアだが、少なくとも今の彼女は冷静に状況を見つめている。
メイアのような視点を、今こそ持つべきだ。
カイは頬を叩いて、不安や恐怖を無理やり静める。
「映像を見る限り・・・雑魚を幾ら叩いても、時間と戦力の無駄か」
「ああ。消耗戦になれば、我々の敗北だ。
母艦は独自で兵器を製造する能力を持っている」
排出するキューブやピロシキ、トリ型等の無人兵器は倒したところで生み出される。
予想でしかないが、敵はペークシスを有している。
無尽蔵のエネルギー源がある限り、兵器製造は時間さえあれば可能だ。
発達した科学技術があれば、生産効率を大幅に高められる。
地球人の恐るべき技術と母艦の巨大な内部構造ならば、万単位の敵兵を生産・格納出来る。
命の誕生には時間がかかるが、機械の誕生は早い。
愛情も整備も必要無くなれば、それこそ使い捨てで終わりだ。
「これだけデカい図体だと弱点探す事に一苦労だな・・・
純粋に火力勝負しかなさそうな気がする」
これまで数々の無人兵器を相手に勝利出来たのは、カイの戦略もあるがヴァンドレッドの力が大きい。
ヴァンドレッド・ディータの火力。
ヴァンドレッド・メイアの速力。
ヴァンドレッド・ジュラの特殊能力。
機能特化された各種の機体が、無人兵器の力を上回った。
だが、今回の敵は格が違う。
火力は未知数、重量は兆重。
内部に想像を絶する技術を秘めた兵器工場を持ち、戦力は無尽蔵。
その上無限に近い再生能力があり、完全破壊しない限り倒せない。
手持ちの武器や兵力では絶望的だった。
艦長も重々しく頷く。
「我々も退けるのが精一杯。
・・・いや、恐らく敵はまだ様子見なのだろう。
本気になれば、我々は――」
その先は、人命を預かる艦長が決して口には出来ない言葉だ。
ブリッジに居るクルーを信頼してこそ、ここまで言えた。
敵が本気になれば――考えたくもない現実。
そして、いずれ確実に訪れる未来でもあった。
沈痛な周囲の気配に呑まれて、カイも自然に小声になる。
「これまでこのデカブツと戦ってきた艦長の経験からして――
敵の本格的な侵攻は何時だと?」
「・・・襲撃は徐々に苛烈に、周期も短くなってきている。
恐らく――次か、その次には・・・」
「・・・猶予はない、か」
態勢を立て直す余裕もない。
今に限った事ではないが、少しも余裕を与えない嫌な敵だった。
「いつから戦ってたのかは知らないけど・・・
よく持ったな、あんたら」
傍らのセランを横目に、カイは感心と不思議を織り交ぜて呟く。
メラナスの戦力は把握出来ていないが、母艦と渡り合える戦力があるとも思えない。
だが、実際彼らは生き延びている。
セランは誇らしげな顔で、
「艦長がわたし達を引っ張ってくれたからよ。
卓越した戦術や指導力、何より信頼されてるの。
これで職務に寛容だったら言う事無いのに・・・」
「君は優秀だが、気分屋だ。
これでも大目に見ているんだよ」
ちぇーっと口を尖らすセラン、周囲から漏れる笑い声。
二人のやり取りはブリッジの名物になっているのだろう。
緊張感が和らぐのと同時に、不意に懐かしくなった。
――毎日のように遊びに行っていた、ニル・ヴァーナのブリッジ。
エズラがお茶を入れてくれて、ブザムに仕事の邪魔だと怒られて。
セルティックには無視され、アマローネやベルヴェデールと喋っていたあの頃――
賑やかで激突も多かったが、楽しかったと断言出来る日々。
離れてしまった日常が、目の前に広がっている――
辛い中笑っていられる事も、また強さなのだろう。
笑顔を失いつつある自分達に、勝利は訪れるのだろうか?
「今まで何とか出来たのはいいとして――
実際のところ、母艦にダメージは?」
「敵の装甲は常識では考えられないほど強力だった。
ミサイルやレーザーでは、かすり傷一つつけられない。
最大の戦果で小さな穴程度だ」
「穴は空けられた、か・・・」
――無敵ではない。
当たり前だが、僅かに希望は出て来た。
現存する通常兵器でもダメージは与えられる。
ただ、火力が圧倒的に足りない。
ヴァンドレッドでも力不足。
――それに、現状ヴァンドレッドは使用不可能だった。
ヴァンドレッド・ディータは、パイロットが戦闘不能だった。
記憶退行のディータを戦わせるなんて出来ない。
ヴァンドレッド・メイアとジュラは、機体の問題で不可能だった。
SP蛮型はニル・ヴァーナに置いてきたまま。
改良は既に終わったと聞いていたが、マグノ海賊団が破壊した可能性がある。
彼女達にとって、自分は敵――
敵の機体を保管しておくほど、彼女達も甘くないだろう。
ガスコーニュやパルフェ、アイに期待するしかない。
いずれにしても、ニル・ヴァーナに戻る必要がある。
早急に。
――しかし、今のまま帰っても泥沼。
地球人や母艦の事を話しても、多分聞き入れない。
彼女達は、自分達の力に絶対的な自信を持っている。
これまで何とかしてきた。
これからも、何とか出来る。
――男さえ、いなかったら・・・
バーネット達の主張は、まさにその自信から生まれている。
自分達で何とか出来ると、カイの協力や申し出を否定するだろう。
歯噛みする。
――彼女達は、現実が見えていない。
自由な海賊と謳いながら、心の中はメジェールの常識で縛られている。
海賊の生き方に凝り固まって、それ以外の道を歩もうとしない。
ヴァンドレッド無しでは無人兵器の相手も厳しいのだが、感情で納得してくれない。
このまま放置するのは危険だった。
しかし――ならば、どうすればいいのか?
その答えが出ない限り、マグノ海賊団には未来永劫勝てない。
彼女達の協力が期待出来ないなら――
「一応聞くけど、他の惑星に応援は頼めないのか?」
「・・・残念だが、無理だ。
我々は歴史こそ古いが、独立国家で他国と国交を結んでいない。
君達の国もそうだろう?
協力関係を結ばれれば、困るのは地球だ。
指導者が許さんよ」
「・・・くっ」
一番厄介なのが、地球と人類諸国が根底で繋がっている事にある。
三等民のカイはおろか、士官候補生のドゥエロやバートでも外の世界は知らなかった。
上層部もどこまで知っているのか怪しい。
繋がりが無ければそれぞれの国家が閉鎖的になり、価値観も閉塞する。
効率良く刈り取るには、うってつけの環境へ変化する。
そうして機が熟せば、淡々と刈り取っていくのだ。
長い時間を賭けた壮大な刈り取り計画は、そう簡単に破れない。
「・・・となると、やっぱりあいつらか・・・
くそ、やっぱり帰るしかないのか」
今のまま帰っても無駄だと知りながら。
母艦は今後いつ襲ってくるか分からない。
自分の我侭で、これ以上事態を振り回す訳にはいかない。
わだかまりを大きく残しつつも、カイは決断する。
だが。
――全てが、手遅れだった。
真っ赤に染まる視界。
耳の奥を強烈に刺激する音。
艦全域に広がる、息が詰まるような空気――
ブリッジクルーの悲鳴が届く。
「目標の接近を確認!?
――地球母艦です!」
仲間と離ればなれ、心は迷ったまま。
戦いへの気概は恐怖で濁り、戦略も定まらないまま、戦いに望む。
狂い続ける歯車。
少年は、運命に翻弄され続ける。
<to be continued>
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