ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action30 −激白−
九十九型蛮型撲撃機。
格納庫に眠っていた、タラーク軍の最新兵器。
男の兵器でお蔵入りされていた人型兵器を一体、カイ専属のエンジニア・アイが修繕・整備・改良を行った。
クリスマスで一度活躍した、遠距離兵器ホフヌング搭載のヴァンガード。
封印されたSP蛮型の代わりに、支援する人達が救助船に積み込んでくれていた。
――敵は誰か、皆に伝えた。
口にせずとも、本当は皆も分かっていたのだろう。
一人出撃するカイを、誰もが止めた。
この戦いの結末に、勝利も敗北もない。
互いに傷付けあうだけの、惨めな戦闘。
心に残すものは何もない、悲しみに彩られた激突。
カイは制止する他の皆の気持ちを――やんわり断って、出撃準備する。
ジュラも参戦すると言ったが、それも断った。
この敵が求めているのは、自分だけ。
カイ・ピュアウインドの死を、願っている。
その死神の鎌を自らの手で屠らんと、艦の外で自分を待っているのだ。
行かねばならない。
救助船より開かれた搭乗口にて、コックピットの中でカイは計器をチェックする。
皮肉なものだった。
SP蛮型ではなく、あくまで九十九型蛮型に乗っている事に因縁を感じてしまう。
あの時もこの敵と戦った時は――コレに乗っていたのだ。
敵もまた、アレに乗っている。
寸分違わない、戦闘の開幕――
変わったのは、機体の性能?
舞台の変化?
人数の違い?
――違う。
変わったのは、自分の心。
相手の、心。
変わらないのは――
――自分とは、変わらず敵であるということ。
歯を食い縛る。
目が、熱く潤む。
何だったのだろう、この半年は。
あれから半年が過ぎて――半年で終わってしまった。
努力はまるで無駄だった。
戦いは、避けられなかった。
この半年が一年、一年が二年、二年が――永遠。
続かぬことを願っていたはずなのに、続くことを望んでしまった。
鳴り響く、サイレン。
無常な警告の鐘が、思い悩む自分を叱咤する。
お前が望んだ道だと、冷酷に突きつけ続ける。
改良はされているが、SP蛮型とは機能性が格段に低い。
戦況の不利は、相変わらず何も変わらない。
敵は、強い。
今までの、誰よりも。
勝てないと分かっているのに、戦おうとする自分が滑稽で仕方ない。
何を求めて戦うのか。
何を求めて――彼女達は、戦っているのか。
カイは、操縦桿を握る。
「・・・非常警報とは派手な真似をしたな、ソラ」
マグノ海賊団が、鳴らすはずがない。
この敵は――彼女達にとって、絶対に敵とはなりえないのだから。
この警報は、自分一人の為に知らせてくれたのだ。
返答は、帰って来ない。
彼女なりの、別れの音色だと解釈するしかない。
「――行くぞ」
高揚感は、微塵も沸かない。
退けない戦いなのだと確信だけ胸に抱いて、少年は宇宙へ旅立った。
男性のみで構成された国家タラークの3等民。
女性のみで構成される敵国メジェールの海賊。
出会いは偶然、激突は必然だった。
少年は英雄を目指していた。
少女達は海賊で在り続けた。
妥協点は互いに無く、己が信じる道を進む為に戦いを選んだ。
舞台は、艦隊旗艦イカヅチ。
少年は蛮型に、少女達はドレッドに。
片方は初心者、片方は熟練者。
技量の差は圧倒的、数の差は圧巻の一言。
勝負の行方は目に見えていたが、互いを許せず少年と少女達はぶつかり合った。
華々しい戦闘にはならず、泥沼。
偶発的な要素と必然的な要素が絡み合って、勝利の女神は結果を先送りにした。
本当に、神様がこの世にいるのなら――
この結末を、知っていたのだろうか?
少年と少女達。
どちらが勝つか、最初から分かっていたのだろうか?
人間である彼らには分かりようがない。
明日は、誰にも予想出来ない。
皆が――明るい未来を、信じているから。
信じて、いたのだから。
「――わざわざ見送りに来てくれたのか」
カイ・ピュアウインド。
「あんたを、殺しに来たのよ」
バーネット・オランジェロ。
英雄志願の少年と、生粋の海賊。
避けられなかった戦い、避けようの無かった結末。
少年と少女達の全てを賭けた死闘が今此処で、延長戦を迎えた。
ニル・ヴァーナより出撃した蛮型を出迎えるように、ずらりとドレッドが並んでいる。
先頭にいるのは、紫に染められた流麗な機体。
後方に控える出撃数は嫌になるほど膨大で――感触に馴染む数だった。
ほぼ全機と言っていいだろう。
共に戦えば頼もしく、敵対すれば震え上がる数だ。
数え慣れた機体数と、数にない機体。
今頃記憶の彼方で眠っている新人の女の子。
その少女を保護して、この戦いを何処からか見ているであろうチームリーダー。
心配して見守ってくれている、髪を切った女性。
合体出来るメンバーは、誰一人いない。
味方はいないのだと分かっていながらも、寂しさを感じる自分の弱さに溜息が出る。
カイは通信を開いた。
「お前が、連れて来たのか」
「――違うわ。
信じられないだろうけど、私一人でやるつもりだった」
――だろうな・・・、カイは暗く自覚する。
バーネットなら、最初から最後まで自分で責任を取る。
何処かで逃げ出す真似は、決していない。
牢獄で気絶させて放置はしたが、あのままで済むとは自分でも思ってはいなかった。
「俺を殺したいなら、格納庫で待ち伏せればよかった」
静か過ぎた、ドレッドの射出口。
格納されたドレッドの絶対数の少なさに、気付く余裕なんて無かった。
バーネットは通信画面の向こうで、強い瞳を向ける。
「皆で決めて、皆で来たの。私達にも、誇りはある」
「発砲した奴の言う事じゃない――と言いたいが、隠し事をしていた俺も言えないな」
憎しみに染まっていた、悪鬼の表情ではない。
アンパトス以前一緒に戦っていた、誇り高い戦士の顔。
表情さえ柔らかければ錯覚しそうなほど、彼女は穏やかだった。
他の皆も、きっとそうなのだろう。
「――俺を、殺すのか」
「そうよ」
「男、だからか」
「・・・」
バーネットは一瞬、押し黙る。
束の間見えた、逡巡の表情――
見え隠れする迷いが、決意となって昇華された。
彼女は黙って一つ頷いて――首を振る。
「そうか・・・」
男と女の、問題。
そして――少年と少女達の、問題。
許せる事と、許せない事がある。
マグノやブザムが、これほどの独断を何故許したのか。
少しだが、理解出来た気がした。
カイ機は背中に格納された十徳ナイフを抜いて、ブレードに変化させた。
バーネットの表情が、険しくなる。
「私達と――戦うのね」
「ああ」
「このまま謝れば許してあげる、って言っても?」
「謝りたいのは、本当だ。迷惑をかけたから。
傷付けたのは、俺だから。
でも――お前達の仲間にはならないという気持ちは、今でも変わらない」
これ以上言えば、決裂は間違いない。
今度こそ、殺すだろう。
彼女達は決して、許さない。
でも、彼女は本音で答えてくれた。
ならば――自分も本音で答えるまで。
カイはバーネットを見据える。
「俺は海賊を――お前達のやり方を・・・
――未来永劫、認めない!」
すれ違い続けた、互いの生き方。
目を背け続けた両者の主張が、少年の激白により赤裸々となった。
<to be continued>
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