ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action264 −恩義−
カイは現在マグノ海賊団に追われる身。
捕縛され幽閉、脱獄して逃走。
十手と通信機を取り戻した後に、仲間達との合流――
引き起こされた事態は止まる事を知らず、艦内は迷走し続けている。
セルティックの生存を確認し、ドゥエロに治療を受けて、腹ごしらえ。
朝から何も食べておらず、怪我で血液不足だとはいえ、食欲は微塵もわかない。
過酷な状況下と、振り回され続ける悪夢と現実の流転に、胃が受け付けない。
それでもまだ事件は未解決、生き残る為には体力が必要。
用意してくれたパンと水を無理やり口に押し込みながら、カイは現在の状況を整理すべく情報交換を行う。
「船内は今、どうなってる?」
「もう皆、てんてこまい。突然船が暴れ回ったんだもん。
幸い怪我人は出てないんだけど、皆怯えてるわ」
「ペークシスが原因かもって、今パルフェさんが必死で調べて下さっているんです」
ミカとセレナが、口を揃えて伝える。
怪我人もそうだが、あれだけの揺れで混乱や暴動が起きなかった事にカイは感嘆する。
原因不明の災害だ。
敵襲や船の沈没の可能性に、逃げ惑う人が出てもおかしくはない。
故郷を追い出され、略奪を繰り返して自力で生き抜いた逞しさだろうか。
今や敵対しているとはいえ、その胆力には憧れる。
「俺の処分については?」
「傷害と密航者の隠蔽、脱獄が上乗せされて当然死刑」
「・・・だろうな、やっぱ」
「――じゃないかな」
「お前の脳内設定かよ!?」
ルカのはぐらかしに、ガッカリしたカイが顔を上げる。
その様子を見ていたジュラが、か細い溜息を吐いた。
「今船が混乱してるから、それどころじゃないだけ。
お頭や副長の協議の決定が出てないだけで、抹殺対象にはなってるわよ。
射殺許可もその内出るんじゃないの?
――気に食わないけど」
ディータの負傷は、幼児退行にまで及んでいる。
その上マグノ海賊団に何も知らせないまま、長期的に第三者を匿っていた。
タラーク・メジェール――男と女の確執。
マグノ海賊団と自分の力関係を考えれば、抹殺命令が出ていて何の不思議もない。
カイはマグノとブザムに申し訳なさを感じると同時に、深く感謝した。
この期に及んで、射殺許可が出ていない。
――らしからぬ判断の遅さ。
二人が懸命に庇ってくれている証拠だった。
終わりの見えている、この俺を。
苦楽を共にし、守られ守り抜いて来た大切な部下からの反感を承知の上で。
逃げようとする気持ちが萎える。
このまま何もかも諦めて死ねば――弱音を喉で絞め殺す。
命を絶つのは簡単。
諦めるのは、もっと簡単。
マグノやブザム――今目の前に集ってくれた人間の想いを、無視すればいい。
子供に戻ったディータを見捨てればいい。
――出来る筈が、無かった。
死に物狂いで、全てを取り戻す。
仕官した身体と心を引き締めて、判断材料を少しでも多く手にする。
「他の皆の様子は?」
「船が大暴れしてた時は避難してたけど、今はちょっとずつ落ち着いてきてる。
見つかるとやばいから、僕達も慌てたよ」
「ディータはメイアに預けてきた。
――君を心配していた」
バートとドゥエロの確かなサポートに、カイは表情を和らげて礼を言う。
船から出れば、ディータを残していくことになる。
マグノ海賊団が彼女に危害を加えるとは考えられないが、自分との関係で何らかの影響を残す可能性はある。
二人はその先を見越して、メイアに身柄の保護を求めた。
メイアは確かな信頼と、絶対の責任感を持っている女性――
きっと守ってくれるだろう、心から安心できる。
(・・・青髪・・・)
喧嘩してばかりだった。
冷たい睨みあい、意見のすれ違いから仲違いしていた。
でも――助けてもくれた、信頼もしてくれた。
クリスマスの時も賛成派には居なかったが、叱咤激励してくれた。
不思議な関係だと思う。
助け合う事はしない、支え合うことも無い。
敵ではない――味方でもない。
この脱出にも、彼女は助けには来ないだろう。
でも、ディータを預かってくれた。
メイアはチームリーダー、マグノ海賊団の幹部。
今日一日の出来事を完璧に把握しているはずだ。
全てを知りながら――受け止めてくれたのだ。
唯一の心残りは、助けを求められなかった事。
彼女の心を、最後まで開くことは出来なかった。
残念に思う。
「俺の蛮型が先手を打たれて、格納庫ごと占拠された。
状況を知りたい」
「アイが整備班味方にして、陣取っているわ。
表立って動けないけど、ガスコさんも手を回してくれてる。
取り返すのは無理よ、さすがに」
ジュラの言葉に、頷く。
最悪、解体されなければそれでいい。
あの機体は自分の愛機、思い入れも多い。
改良はアイに委ねたが、自分の立場も顧みず守ってくれている事に胸が熱くなる。
彼女が専任エンジニアで良かった。
「――納得した? じゃ、次はカイちゃんの番」
眼前に顔を寄せるルカ。
他の皆も真剣に――バートやドゥエロも厳しい目を向ける。
「話して、何もかも」
何も聞かず、ここまで協力してくれた。
その信頼を、断じて裏切ることは許されない。
カイは頷いて――
――胸の内を、物語る。
こんな自分にも、小さな夢があった。
輝いているが曖昧で、暖かいけど小さくて。
大人に近づいて夢は形となり、現実になって萎んでしまった。
小さな窓から、外を見る。
夢のように美しく、広々とした世界――宇宙。
宇宙の広さに憧れながら、小さな世界を守れずにいる。
――ちっぽけな、自分。
嫌いではない、けれど好きでもない。
何かを誇りとしたいのに、何かを掴めずにいるだけ。
何もしないでいる内に、何も無くなってしまった。
滅びはもう、目の前にまで近づいている。
決意の遅さに嫌気が差しながらも、遅かった事に悩みたくは無かった。
よしっ――立ち上がる。
暗く落ち込むなんて、自分らしくない。
出来る事は、まだある。
失ったものは多いけれど、取り返す事は出来る筈だ。
その為に、此処へ来たのだから。
この船へ、故郷の外へ。
ソラの、向こうへ――
あんな奴らに、負けてたまるか。
「此処にいたのか、探したぞ――どうした、その握りこぶしは」
足音荒く入ってきたのは、一人の男。
大人の仲間入りしたての、若者。
二十代特有の大人らしさに加えて、整った顔立ちが青年を精悍に見せている。
小窓から離れて、振り返る。
「突然押し掛けて、どうしたの? サクリ」
「突然も何も・・・君こそどうしたんだ、職場を無断で離れて。
休憩時間でもないのにって、主任に文句を言われたんだぞ」
サクリと呼ばれた青年は、眉間に皺を寄せる。
よほどあれこれ言われたのだろう、怒りに近い苛立ちを見せている。
そんな彼を前にして、
「うーん・・・自分探しってやつかな」
「何を言ってるんだ、君は」
茶目っ気溢れる発言を前に、疲れた顔を見せるサクリ。
慣れたものだった。
同年代なのだが――子供っぽさが抜けない。
気まぐれな行動をたまに見せ、周囲を困らせている。
それでも艦内の人間に愛されているのは――人柄だろうか?
明るい笑顔を見せて、周りの雰囲気を活気付ける。
エンジニアとしても優秀。
――少女でありながら、泥臭い現場でも精を出して働いている。
皆に愛されている、天真爛漫な女の子。
彼女の、名は――
「主任が大至急連れて来いと言っている。
来てくれ、セラン」
「はーい」
――バンダナを巻いた女の子が、敬礼した。
<to be continued>
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