VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action262 −慟哭−






  ――こんな筈ではなかった・・・

騒乱のニル・ヴァーナ内――激震に揺れる艦内の自室で一人、寂しく呟く。

セルティック・ミドリ。

アマローネ・ベルヴェデールの補助を務め、ネットワーク全般を担当している。

その情報収集力の高さから、調べ上げた現実――

裏切り者の烙印を押されたカイの捕縛、これはまだいい。

自分達に隠し事をしていたのだ、自業自得だと思う。

ブリッジでお頭達に彼の失態を見せて、その場を後に。

艦内の混乱の隙をついて、今日一日の監視カメラの映像に細工した。

自分にとって都合良く、カイにとって不都合に。

事実さえ発覚すれば、クルー達の中で薄れつつあった不信感が大きく膨らむ。

カイの信頼は地に堕ちるだろう。

セルティックは事態を静観するだけで良かった。

捕まって、タップリ怒られたらいい――

皆に怒られてカイは落ち込むだろうが、その位が丁度いい。

あれだけ苦労して手伝ってあげたのに、カイは肝心のクリスマスをすっぽかしたのだから。

自室で着ぐるみを脱ぎ、彼女は鼻歌を歌ってリラックスしていた。

自分の行いに反省して明日謝りに来たら、仕方ないから許してあげよう――

その程度の気持ちだった。

反省さえしてくれれば良かった。

軽い処罰で充分だった。



――結果は、彼女の思惑を超えた。



子供の甘い夢想ではなく、大人の冷たい現実。

カイは撃たれ、牢獄に放り込まれ、処分された。

お頭達による明確な決断こそされていないが、クルー達の間に弁護の声は無い。

鼻歌混じりに艦内の様子を見て――



彼女は、自分のした事の結末に、震えた。



殺されようとしている――カイが。

本当は、何も悪くない。

ディータの怪我は事故なのだ。

密航者の存在は意外だったが、どう見ても無害な女の子だ。

何か理由があって匿っていた事くらい、直ぐに分かるではないか!

あのカイが自分に、不利益をもたらすなどありえないのだから。

喧嘩の続き、日常の延長。

いずれ解決し、また元通りになる。

そう信じていた矢先に――甘い目論見は砕かれた。

そして、今のこの騒ぎ。

激しい縦揺れが断続して襲い掛かり、船体が軋んでいる。

止まる事の無い激震が、セルティックの不安を恐怖に煽る。


(・・・な、何で・・・どうしてこんな事に・・・)


 セルティック・ミドリ――

カイの前では強気な態度を取るが、彼女は非常に内気だった。

とても怖がりで、涙脆い女の子。

可愛らしい顔立ちに似合った、精神の弱い娘なのである。

軽はずみに取った自分の行動が、とんでもない事態を引き起こしてしまった。

ショックに青褪め、カタカタと全身を震わせる。

関係の修復なぞ、最早不可能。

カイはもう――


――死ぬ運命にある。


(い・・・いや・・・!)


 捩れ曲がった運命に、震え上がる。

このままカイが仲間に殺されたら――そう考えると、ゾッとする。

血を流して倒れるカイの躯は、嫌になるほどリアルだった。


「な・・・何とか・・・何とかしないと――!」


 泣きながら、立ち上がる。

何の対策も立てられず、パニックを起こしたまま部屋を飛び出して、



ドスッ



「――あ・・・れ・・・?」



 胸に突き刺さる衝撃。

暗転する、視界。



――呆気なく、終わった。















「――クマちゃん!」


 激しい物音を立てて、飛び込んでくる人影。

息を荒げて周りを見渡す少年は、腰より十手を提げて走り回る。

彼が訪れたのは一人の自室。

主のいない部屋は沢山のカラフルな服と、古今東西の衣装に囲まれている。


"・・・ますたぁー"

「うるさい!」

「・・・カイ」

「黙ってろ!」


 ここまで全力疾走してきたのだろう。

汗を流して部屋を手当たり次第に探し回っている。

焦燥に駆られる彼の顔に、余裕は全くない。

悲壮な顔付きで、彼は部屋主の許可なく部屋を引っ掻き回す。


"もう諦めようよー、ますたぁー"

「諦める・・・諦めるだと!?」


 八つ当たりさながらに――カイは室内の小物を蹴飛ばす。

声をかけた少女はその怒声に、ビクビク震えて縮こまる。

少女を庇うように、ロボットが前に出る。


「・・・生体反応はもう・・・ないピョロ・・・
今更探し回っても見付かるわけないピョロ」

「うるせえ、うるせえ、うるせえぇぇぇ!!!
俺は信じない、信じないぞ!

クマちゃんが死んだなんて・・・ぜってえ俺は信じない!

手掛かりはある筈だ、探せ!」


 セルティックが死んだ――宣告されたのはつい先程。

無慈悲に告げられたユメの言葉を、カイは信じなかった。

頑なに否定して、半狂乱で喚きながら彼女の自室へ案内させる。

彼女の痕跡を探すように。

生きている手掛かりを――例え仮初めでも、掴む為に。

死因は不明。

ユメの話では生命反応が突如途絶え、その後察知出来なくなったらしい。

生命反応を一人一人個別にどう捉えれているのかは謎だが、ユメはカイに嘘はつかない。

人間が、急に消えたりはしない。

――人間では無くならない限り。


死体にでも、ならない限り―― 


「そもそも、何で死ぬんだよ! 病気か、怪我か!?
あいつは毎日ピンピンしてたぞ!」

"人間なんて、簡単に死ぬよ。
転んで頭を打っても死ぬ"


 無邪気な少女に似つかわしくない、重い響き。

執拗に諦めない主に、何処か憐憫の目を向けている。

カイは歯軋りする。


「――っ、今頃仕事の時間だ。
そんな事故が急に――!」

「こんな状況で落ち着いて仕事なんか出来る筈ないピョロ」


 腹が立つほど、正論だ。

その正しさが、腸が捩れるほど怒りを煽る。

何故そこまで冷静でいられるんだのか――!

吐き出しかねない感情の吐露を、カイは唇を噛んで耐える。

――同じ失敗は、繰り返さない。

冷静さを失い、ソラに八つ当たりして傷付けてしまった。

彼女は何も間違えていなかったのに。

ユメもピョロも、カイを心配して言ってくれている。

受け入れるべき現実を、優しく伝えてくれているのだ。

こんな状況で自分を信じてくれた二人を、自分が信じなくてどうする。

カイは何も言わず、部屋の中を探し回る。

何か、何かないか――



――見つけた。



見つけて、しまった・・・



ピョロも、ユメも、辛そうに目をふせた。


「・・・っ」


 クマの――着ぐるみ。

脱ぎ捨てられた着ぐるみが、無造作に散らばっている。

毎日着ていた着ぐるみ。

決して、自分の前では脱がなかった仮面。

それが放り出されているという事は、すなわち。

必要なくなった。

もう――必要とされなくなった・・・



主が、いないのだから。



「・・・何で・・・」


 カイはそのまま握り締める。

強く、強く――


「何でだぁぁああああああああああ!!!」


 次々と襲い掛かる、悲劇の連鎖。

喉を突き破り、少年の慟哭が木枯らしのように吹雪いた。














































<to be continued>







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