VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-
Action55 −聖樹−
「宇宙人さーん!」
「あの馬鹿、何処に行ったのよ!」
心配そうな顔をして探し回るディータに、憤慨するジュラ。
クリスマス開催を目前に、肝心の主催者が突如姿を消した。
準備は終わり、現場への指示は行き渡っていたので今は問題は無いが、開催後は別。
沢山の催しを企画している関係上、主催者に休みは許されない。
パーティ内容について話し合おうとしたその矢先、カイは消えてしまった。
慌ててジュラやディータが探し回るが、一向に姿は見えない。
騒ぎにならないように会場の外まで足を運び、二人は悩みこんでいた。
そこへ、
「――部屋まで見に行ったが、誰も居なかった。
会場には他の二人も居ないので、もしかすると――」
「男三人で何やってるのよ、もう!
これだから信用が無くなるのよ、まったく」
駆け寄って報告するメイアに、ジュラはまた怒りを見せる。
カイ本人はおろか、ドゥエロやバートも会場にいない。
これでは男三人で結託して、何かやっていると思われても仕方が無い。
事実、今ジュラがそう思っている。
いきり立つジュラとは別に、メイアは平静な顔で意見を述べる。
「カイが責任を放棄して逃げたとは考えにくい。
どのような結果になろうと、土壇場で逃げるような男ではないだろう」
カイ個人を知っている人間が言える言葉。
聞いていたディータも、猛然と頷く。
「きっと宇宙人さん、何か特別な事情があると思います!
ディータ、分かるんです!」
「さっきまで泣きそうな顔して探し回ってたのは、誰よ・・・」
「――うう、だって一緒に居たかったから・・・」
途端に泣き声をあげるディータを見て、ジュラもようやく苦笑いを見せる。
仕事が嫌になって逃げたとは、ジュラも思っていない。
今日のクリスマスを夢見て、一生懸命頑張ってきたのは傍で見ていて知っている。
どのような結末を迎えようと、悔いの無い努力をしてきたのだ。
ここへ来て逃げ出すような男なら、最初から味方なんてしない。
きっと――何か特別な事情があるのだろう。
それは分かるのだが――
「ジュラが言いたいのは、どうして何も相談しないのかって事よ!
こっちだってそれなりに事情があるのに!」
「それは・・・まあ、そうだが・・・」
ジュラの正論に、メイアも口をつぐむしかない。
仕事には期待以上の成果を見せてくれる男だが、同時に艦内に混乱ももたらす。
子供じみた悪戯事が好きで、企み事はすぐ隠したがるのだ。
お陰で周囲は右往左往し、関係の無い第三者に迷惑をかける。
やれば出来る男なので、もう少ししっかりしてくれれば――そう思わずにいられない。
カイが、メジェールが唱える男像よりかけ離れているのは分かっている。
本人には言わないが、それなりに信頼だって置いている。
カイが自分達に悪意を持っているとは、今はもう夢にも思っていない。
だからこそ皆にもっと信頼されるよう努力して欲しいのだが・・・たまに、隠し事をする。
心から安心出来ない背景に、カイのそういった単独行動にあった。
彼なりに色々考えているのだろうが、ジュラの言うようにもう少し相談して欲しいと思う。
「・・・パーティにも、来ないのかな・・・宇宙人さん・・・」
「げっ、冗談じゃないわよ! 折角――」
――そう。
ジュラが怒っているのは何もパーティ進行に問題があるから、だけではない。
彼女がここまで怒りを見せているのは・・・
「折角今日の日の為に新調したのよ、このドレス!?
見せる本人がいなくてどうするのよ!」
黒のドレス――
厚手豪華なドレープと全体のラインストーンが、本人のスタイルを際立たせる。
胸元の豊かさを引き立てるデザインはジュラにピッタリで、溜息の出そうな美しさであった。
この日の為に無理を言って、仕立ててもらったドレス。
誰に見せたかったのは――言うまでも無いだろう。
彼女なりに、楽しみにしていた。
今まで八つ当たりを繰り返し、アンパトスではろくに何も言えなかった。
バーネットとの確執も知っている。
悩み苦しんだりもしたが――今日だけは、素直になろうと決意していた。
形ではない、プレゼント。
彼女が身に纏う黒のドレスこそ、その証でもあった。
何とか二人だけの時間を作って・・・と、考えてもいたのに・・・
「ふぅ・・・これでは私も、意味が無いな・・・」
メイアもまた、同じである。
人の集まる催しは苦手な彼女が此処に来ているのも、カイが誘ったからである。
彼女とて、雰囲気のよめない女性ではない。
パイロットスーツが如何に無骨な衣装なのかも、知っている。
その為に羞恥を堪えて――着替えて、来た。
カイが似合うといった、ディータに貰ったあの服に。
人目がつく度に恥ずかしくて仕方が無いのだが、スカートにも履き替えた。
カイには内緒にしていた。
前もって言えば笑うに決まっているし、何より意趣返しの意味もあった。
驚かしてやろうと、自分でも驚くような浮き立った気分だった。
贈り物を渡す仲でもないので用意はしなかったが――
――二人で話すのも悪くは無いとは、思っていた。
が、本人はいない。
メイアは嘆息するしかない。
「ディ−タも宇宙人さんに、プレゼント用意したのに・・・」
服装はいつものままだが、取って置きのプレゼントは用意した。
世界でたった一つの、贈り物。
部屋で一生懸命作った自信作だった。
きっと喜んでくれると、胸を高鳴らせて作った。
何度も何度も失敗したが、苦にもならず一心不乱に頑張って完成させたのだ。
どんな顔をして受け取ってくれるかと期待と不安に震えていたが――本人は、いない。
「・・・宇宙人さん・・・」
悲しみに曇る瞳で空を見つめ――
「・・・え・・・?」
――彼女達は、見た。
暗闇の世界の中、多数の息づく気配。
パーティの賑わいは少しずつなりを潜め、静寂に満ちた期待に変わる。
誰もが皆、その時を待っている。
クリスマス――
大きな波乱と不安より始まった一連の騒動は、訪れた平穏で終わりを迎える。
残されたのは新しい時間の幕開け。
カーテンコールは、楽しみに弾んだ艦内放送により告げられる。
ニル・ヴァーナ艦内公園にて、大勢の女性達が空を見上げる。
天より吊り下げたるは、時計。
発光したデジタル数字に表示されている時刻は、PM11:59。
「メリークリスマスまで、十秒前!」
ワッと、黄色い歓声が上がる。
様々な出来事があったが、集う人達の数は膨大。
カイの懸命な努力と積極的な呼びかけの下、彼女達は集まってくれた。
参加の意思は自由だった。
男が参戦――前代未聞のクリスマスパーティ。
拒否出来る権利は誰でも持っていた。
誰も来ないのではないかと、誰も行く人はいないと、誰でも一度は思った。
賛成した人、反対した人、様子を見た人、諦めた人。
――そして、諦めなかった人。
この中には、今でも男を否定している人はいるだろう。
共存など出来ないと、明確な拒絶を示している人もいる。
思う気持ちはそれぞれあれど――彼女達は今、此処にいる。
其れだけで、充分。
誰よりも、このクリスマスを企画した主催者がそう思っているのだから。
時計の表示が切り替わり、数字がカウントダウンに点滅する。
その数字の変化を、皆が一様に見つめていた。
「9・・・8・・・7・・・」
「6・・・5・・・4・・・」
(・・・最初から最後まで、縁が無かったな・・・)
ぼんやりと、そう思った。
出血が夥しい肩を根性で抑えて、操縦桿を握り締めたまま。
歌声だけを響かせて、カイは船に居る人たちを想う。
クリスマス開幕までに戻る事は出来ない。
主催者の挨拶が控えていたのだが、この分ではキャンセルしなければいけない羽目になりそうだ。
無責任だと、また罵られるだろう。
参加を疎まれていたのに、参加しなければまた怒られる。
奇妙な因果に、カイはただ苦笑する事しか出来ない。
SP蛮型・遠距離兵器ホフヌング――180秒。
間もなく、その時間は訪れる。
(怒ってるだろうな、あいつら・・・)
「3・・・2・・・1・・・」
背中に換装した状態で、ペークシスエネルギーを三分間充填する。
三分と聞くと短いように聞こえるが、戦闘中の三分は永遠の如く長い。
かつてアンパトスに落墜した刈り取り兵器を、大気圏で抹消したその威力。
彗星に罠を仕掛けていた敵側の新型機体でも、太刀打ちは出来ない。
光の網に縛られていたカイ機を葬り去ろうと、凶悪なその前足を掲げたその瞬間――
――光が、駆け抜けた。
「メリークリスマス!」
最初に――見たのは、誰だっただろうか――?
気づけば皆が、その光景を見ていた。
ライトアップ。
天井の遥か向こう側より、放たれる大いなる光。
眩い夜空のイリュージョンが壮大なスケールで、光の奇跡を描き出す。
ガラスの向こうに映し出されているのは、彗星。
蒼い輝きを放つ彗星に、真っ直ぐな光が天上に伸びていく。
彗星の中心を貫いた、酩酊しそうな七色の光が、星空の向こう側にまで広がる。
光の洪水――
光に満たされたその光景を、誰もがこう思った。
クリスマスツリー、と。
七色のイリュージョンで飾られた、彗星という巨木。
その美しさは一瞬だが、圧巻の一言。
一度だけの、奇跡――
想像を絶する美は、人の心の奥を鷲掴みにする。
天空の木より羽ばたくは、翼を纏った天使。
光の残影を背に纏い、真っ直ぐに飛び立っていく。
皆はただ、見つめるしかない。
その人知を超えた、演出を――
そしてその立役者に偏見や確執を超えて、惜しみの無い感謝を抱く。
涙が出そうなプレゼントに――
――今日という日を、永遠とした。
<to be continued……LastAction −贈り物−>
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