VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-
Action32 −善処−
問題は何も解決していない。
クリスマスに必要な資材の一切を持ち去られ、パーティの参加数は今だ半数前後。
バーネット・ジュラを傷付けてしまい、反対派は暗躍したまま。
変わったのは――いや、取り戻したのは心構え。
戦う姿勢を見せる。
理解を求める気持ちを常に抱き、戦場へと少年は舞い戻った。
翌日仲間を全員収集し、謝罪と決意を口にする。
去った時も、今こうして戻った時も、仲間は非難一つ口にはしなかった。
彼女達は分かっていたのだろう。
これが信頼なのだと――少年は、新しい気持ちをまた一つ貰う。
少年は皆の前でこれからを話す。
「俺の度重なるミスで、最悪な状況に陥っている。
今のままじゃ、まず間違いなくクリスマスパーティは失敗に終わる。
期間も一ヶ月程度しかない。
無理を強いる日々になると思うが――
――皆の力を貸して欲しい」
自分の無力を知り、他人に協力を求める。
浅ましいとは何一つ思わなかった。
少しは変わったのだろうか?
これがバーネットの否定する変化だというのなら――自分には価値がある。
決して、無価値ではない。
否定せず、この変化を受け入れて再び戦おう。
少年は決意新たにクリスマスへの心構えを作った。
「艦内庭園に植えられた木々を、クリスマスツリーにしたい。
これがその立案書。
メジェールのクリスマス文化を勉強して、案を作ったんだ」
「それで?」
「庭園の使用許可が欲しい。期間は三日間。
二日間は準備、残り一日はクリスマス当日。
イベントクルーとパイロット達が、協力を申し出てくれた。
三日間の休暇申請書がこれ」
「三日? 刈り取りが攻めて来たらどうする」
「レジのメンバーが補佐してくれる。第二次警戒は継続。
ガスコーニュが責任者だ。許可印を含めた書類はこれ」
「根回しがいいな。・・・分かった。書類もよく出来ている。
お頭と検討してみよう」
「宜しく頼む。それで――」
ブリッジにして、ブザムとカイが話し合う。
マグノは口出しをせず、艦長席で書類をしっかりと見ている。
三人の話し合いは入念に行い、不備が無いかを突き詰める。
その様子を――三人の女の子が見つめていた。
「ふーん・・・カイ、頑張ってるじゃない」
「最近、やる気出してるの。
あの書類だって私達と話し合って、徹夜で書き上げたのよ。
お陰で寝不足」
可愛らしく欠伸するベルヴェデールに、アマローネはクスっと笑う。
二人の間に刺は無い。
賛成派と反対派、それぞれの立場は認識している。
対立し合う者同士諍いはあって当然だが、二人の仲に聊かの亀裂も無い。
アマローネは中立に近く、反対派のやり口に閉口気味だった。
カイにも不満や嫌悪は無い。
冷凍庫に監禁され、資材すら持ち去られた彼。
嫌気が差して当然なのに、カイはまだこうして積極的に頑張っている。
必死になって戦う者を笑う神経は、アマローネに持ち合わせていない。
――それは、セルティックも同じ。
「・・・・・・」
クマの着ぐるみは相変わらずで、カイには顔を見せない。
今も反対派に所属しており、カイとは一切話もしていない。
頑なな心は最早意地になっており、仲直りする気はなかった。
――視線だけは外せずに。
熱心に見やるセルティックに気付き、アマローネは小さく口元を緩めた。
「セル・・・・・・もう、許してあげたら?」
「――」
首を振る。
それだけは、譲れないとばかりに。
アマローネはこの仲良しメンバーの中で、最年長者である。
年齢を超えて友情を深めており、セルティックはアマローネにとって親友であり妹だった。
反対派を共にしているのも、彼女が心配だったからだ。
エステチーフ、ミレル・ブランデール。
美貌と知性を併せ持つ彼女は、時として仲間すら利用する。
冷凍庫の監禁も、倉庫の撤去も、表向きはメイアが責任者とされているが、主犯は彼女である。
彼女ならセルティックの気持ちを利用して、その優れたコンピューター技術を策謀に使う。
事実、盗聴や監視に貢献してしまっている。
だが――その内に眠る冷たい感情に、セルティック自身が凍えてしまっている。
「カイだって、悪気があって言ったんじゃないよ。
ちょっと鈍感なとこが玉に瑕だけど、気持ちを伝えれば、きっと反省してくれるよ。ね?」
「・・・・」
それでも――首を振る。
本人が気付いていないのが許せない。
だからといって、自分から伝えるなんておかしい。
加害者には、自分の非を自ら悟って欲しい。
幼い子供の見栄と言えばそれまでかもしれないが、カイの何気ない言葉に傷付いたのは本当なのだ。
「・・・もう」
アマローネも、その辺は理解出来るから強く言えない。
カイからの歩み寄りを待つしかない。
当事者同士が話し合うしか、道は無いのかもしれない。
「・・・・・・」
悩める二人を見て――ベルヴェデールは一考を巡らせる。
「――面会謝絶?」
「彼女の希望だ。一人になりたいらしい」
ドゥエロに素っ気無く言い渡されるカイ。
医務室の奥の部屋で入院するバーネットを訪ねたが、本人の意思なら無理強い出来なかった。
ジュラは退院している。
バーネットの無事と経緯を知り、ジュラはバーネットを心配しながらも仕事へ戻った。
果たすべき役割を私情で放置出来ない。
――そう考えられるようになったのも、立派な変化かもしれない。
「・・・あいつを頼む、ドゥエロ」
「言われるまでも無い。君は、君の使命を果たせ」
案ずる気持ちを抱えながら今も励むジュラを思い、カイもその場を引いた。
立ち去るカイの背を一瞥し、ドゥエロは医務室へと戻った。
「カイ、復帰したんだね」
「ああ、君の気持ちが届いた結果だろう」
「・・・えへへ。やっぱりパイがいないと、駄目な奴ケロ」
幼い看護婦のはしゃぎぶりは、微笑みすら誘う。
落ち込んでいたあの時より、ずっと良い変化だ。
ドゥエロは医務机で書類を広げながら、奥の部屋を見やる。
バーネットは、誰とも会おうとしない。
一人、部屋で静養する彼女にドゥエロも何も口添えしなかった。
人間、悩む時もあっていい。
医者として出来るのは、心身をより正常へと導く努力だけだった。
落ち着いた時間が、流れ行くー―
「あいつも、面会謝絶かよ!」
ドゥエロと違って無言で追い払われたカイは、嘆息混じりに毒つく。
主格納庫――
SP蛮型と三機の改良ドレッドが眠る場所に立ち寄ったのだが、立ち入りを禁止された。
整備班の話によると、連日連夜で働いているらしい。
アイ・ファイサリア・メジェール、彼女の指示の元で。
「・・・蛮型、どうなったのかな」
一ヶ月以上、搭乗していない愛機。
シュミレーターによる訓練は欠かさないが、実際に乗らないと感覚が消えてしまいそうで怖い。
職務意識が芽生えている証だろうか?
操縦桿を握らないと、どうも落ち着かない。
(――刈り取りも考えてみれば、どうなったんだろうな)
連日の襲撃なんてご免だが、途絶えると不安にある。
連中の正体もまだ判明出来ず、アンパトスの一件で諦めたとは思えない。
戦力不足になった可能性もあるが、このまま無事に済むとも考えづらい。
「・・・今だけは、やめて欲しいもんだが」
男女関係にクリスマスと、問題が山積みである。
これ以上のトラブルは頭が破裂しそうだった。
敵はいずれ必ずやって来る――
この船は黒い不安を抱えて、今も故郷へと目指している。
「悪いな、パルフェ。スノーマシーンなんて無茶を頼んで」
「ううん、別にいいよ。元々作るつもりだったし。
猶予はあんまり無いけど、頑張ってみるよ」
クリスマスには雪が必要。
常識だと教えられたのはいいが、カイは雪というものが何か分からなかった。
話を聞くと、クリスマスの夜を彩る大切な演出らしい。
ジュラに世間知らずと笑われ、ルカには教えないと一言で切られた。
実際に雪が何か何度尋ねても、女性陣は見れば分かると微笑むばかり。
ならば実際に作ってみようと、ミカの紹介の元パルフェに依頼を申し出た。
「タラークって、雪は降らないの?」
「降る・・・? 雨みたいなもんなのか?」
「うーん・・・・・・似たようなものかな」
曖昧に誤魔化されて、カイは余計に混乱する。
他の機関部の面々も、当惑するカイを面白がって真実を教えない。
からかわれているのだと分かっているが、この調子では教えてくれないだろう。
カイは製作に必要な納期確認日程だけ聞いて、その場を後にする。
背後より聞こえる、クスクス笑いに腹を立てながら。
「――カイさん、分量を間違えていますよ。
0.02グラム、足りません」
「細かっ!? 別にいいじゃん――デッ!?
フライパンで叩かなくても!」
「料理の鉄槌です。さあ、もう一度」
キッチンで、師弟が厳しい雰囲気で戦っている。
クリスマス料理――
献立は大よそ決まったが、料理に欠かせないのは味に伴う技術である。
経験も知識も無いカイは、徹底的な指導をされていた。
普段は温厚なセレナ・ノンルコールだが、料理に関すると厳しい。
ブザムに匹敵する厳しい眼差しと、容赦なく飛んでくる料理器具が怖い。
少しでも味に狂いがあれば、やり直しをさせる。
カイは泣く泣く、もう一度最初から調理を始める。
「いいですか、カイさん。料理に妥協なんて無いんです。
カイさんの気持ちに緩みがあれば、料理のプロセスも崩壊します。
一生懸命、気持ちをこめてください」
「りょ、了解」
準備に余念は無い。
素直に教えを請うカイに、セレナも教えに力が入る。
汗を流して包丁を振るい、熱加減を見直す。
――その姿をキッチンクルーが見つめ、気まずそうにその場を後にした。
(――後、20日・・・・・・)
少年の背中には、沢山の声援。
そして、思い遣りに満ちた守護者の視線が合った。
<to be continued>
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