VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action26 −反発−





 ニル・ヴァーナ艦内には多数の施設が設けられている。

使用用途によって区別されており、広い艦には随所に設置されていた。

セキュリティレベルや特別な権限が必要とされている施設もあるが、概ねクルー全員が利用出来る仕様となっている。

軍艦イカヅチと海賊母船の融合艦。

軍用目的と海賊用で構成された船は長期間の航海にも対応可能で、優れた機材を使用している施設は多い。

射撃場もまたその一つ。

短距離から長距離、対機械用から対人用に至るまでの高精度かつ高密度な射撃訓練が行える。

とはいえニル・ヴァーナ艦内に軍人はおらず、マグノ海賊団が所有権を主張している。

海賊とはいえ戦闘員・非戦闘員の比率は偏っており、実戦に出る人数は半数にも及ばない。

本格的な戦闘訓練を実施している者は少なく、射撃場は軒並み閑古鳥が鳴いていた。

常連客を除いて――


タンッ、タンッ、タンッ


 照明が落とされた射撃場に、小気味の良い銃声が鳴り響く。

リングガンやレーザー銃が正式採用されたマグノ海賊団では、弾を装填する拳銃の使用者は少ない。

形態所持が義務付けられている所属の者は別にして、扱い難さと殺傷力の強さに敬遠する者が多い。

慣れない状態で撃てば、人が死ぬ――

その点レーザーの類は出力調節が可能で、敵を無力化するのが容易い。

反面扱い易さと使用における実戦的な効果不足より、クルーの中にはレーザー銃を嫌う人間が居る。

変わった例外では銃そのもののを好み、コレクションとして集めている者が存在する。

現在射撃場を使用しているのは――その変わり者である。


「――」


 標的に発砲。

獲物は旧式の火薬射出の拳銃。

標的は小さな光点で立体的に高速移動。

難易度の高い射撃だが、趣味と実益を兼ねたこの訓練は、彼女にとって得意中の得意の分野。

狙いを定めて射撃して――標的にかすりもせず弾丸はそのまま壁に突き刺さる。

光点は傷一つ負う事無く、役目を終えて消えていった。


「・・・・・・」


 今の標的で訓練は終了。

訓練成績が手元の画面に表示されて、射撃者にリアルに伝える。

ヒット数――0。

二桁を超える標的に発砲し続けて、一度もヒットしなかった。

冷酷な成績に、銃を持つ手が震える。


「何よ、これ・・・・・・」


 他に誰も居ない暗闇の射撃場に、ヒステリックな罵声が響く。

意識した手入れはされていないのに、美しく透き通った肌。

鍛えられた身体は整っていて、スレンダーな肢体を露出の高い戦闘服で身を飾っている。

興奮した肌に流れる汗に、扇情すら匂わせる色気がある。

荒げる息をそのままに、美しき狙撃手――バーネット・オランジェロが唇を痛々しく噛み締める。


「――何なのよ、もう!!」


 拳銃の弾が大量に積まれたテーブルに、拳を叩き付ける。

百発百中に近い驚異的な成績を生み出す実力に、驚くほどの低下が見られた今回。

本人の望まない成績は、彼女の怒りを煽る結果となってしまう。

血が滲むほどに口を噛み、バーネットはトレーニング施設のリセットボタンを押す。

激しい勢いでタッチパネルし、拳銃に弾をこめた。

成績が悪いのなら、尚更訓練を重ねなければいけない。

バーネットは即座に銃を構え直し、標的が飛び出すのを待つ。

静止時間は数秒。

右端から、素晴らしい速さで標的が射出された。


発砲。


確実に敵を倒す為に、標的に向かって二発発砲する。

手応えは完璧。

躊躇わずに射撃した二発の弾丸は、


『――今年行われるクリスマスを、俺が主催する事になりました』


 ただ真っ直ぐに、壁に突き刺さったのみ。

バーネットの瞼が震える。

呼吸を落ち着かせようとするが、肺が痙攣したかのように不規則になった。


『男と女が一緒なんて、異常かもしれません』


 続けざまに発砲。

標的は決して待ってはくれない。

狙撃手が誰でどんな心理状態にいようと、命令された役割をただ果たすのみ。

バーネットは尖った剥き出しの感情を捌け口に、敵に狙う。

敵を、撃つ――


『でも――俺はそうは思いません』

「・・・うるさい・・・」


 撃つ。

倒す、破壊する、消滅させる。

敵は敵。

機械と同じく、無感情に命令を実行する。

無機物を扱うかのように、冷徹に破壊すればいい。

バーネットは発砲する。


『俺は――女と一緒に居て、楽しいです』

「黙れ」


 発砲音が響く。

ただ、響くだけ――

破砕音やターゲット確認の表示が何一つ示されず、弾をいたずらに消費するだけ。


『この気持ちは異常かもしれませんが――嘘ではありません』

「黙れって言ってるの」


 撃つ、撃つ、撃つ。

引き金を引き続け、敵が倒れるまで撃つ。

何も言えなくなるまで。

不愉快な戯言を二度と口に出来なくなるまで。


『俺は皆と一緒に、このクリスマスを過ごせたらと心から思います』

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・・・・」


 カチ、カチ、カチ


 標的はとうに役目を終えている。

無傷なまま光点は稼動を繰り返し、訓練終了を伝える。


「うるさいって言ってるじゃない! 
アタシを笑ってるの・・・・・・?
そう、そうよね・・・ジュラも一緒だもんね」


 ガチガチと鳴る劇鉄音。

指先から手の平に痺れが伝わり、痛みを併発しているのに撃つのを止めない。

何度も、何度も、引き金を引く。


「楽しそうね――幸せそうね・・・・・・アタシからジュラを奪って。
さぞ気持ち良いんでしょうね、やりたい放題にやって」


 爪が割れる。

引き金に絞られた指先の力が、グリップを握る手に震えを起こす。

標的は目の前に居る。

相手が沈黙するまで、相手が死ぬまで、撃つ。


「アタシは・・・・・・」


 髪を切った自分の親友。

切らせた男。

自分は必要ないと言った親友。

変わってしまった関係。


「ジュラが居れば、良かったのに」


 多くの信頼と羨望を求めながらも、心は幼い親友。

傍にいて彼女を支え、控えめな自分の代わりにいつまでも輝いて欲しいと思った。

自分だけに向けてくれる無垢な微笑が、何より好きだった。

この辛くも遣り甲斐のある海賊家業で、幸福に満ちた時間を過ごせるだけで奇跡だった。

何より、満足していた。

変化なんて、望んでいない。

望んでなんて、いなかった――


『俺は――女と一緒に居て、楽しいです』


   ――何かが、壊れた気がした。

歯止めをかけていた気持ち。

根強く縛っていた、鈍い――イタミがキエタ。


「フフ・・・・・・・・・・・フフフ」


 鬱屈した表情が嘘のように、晴れ渡る。

胸の奥から噴出する感情は――歓喜。

歓声を上げたいほどに、心が満たされる。


「フフフ・・・・・・ジュラだけじゃ、足りないの・・・・・・
他にも女が欲しいんだ・・・・・・」


 クリスマス、女だけの楽しく美しい世界。

立ち入る権利も無いのに、土足で踏み込んで偉そうにふんぞり返っている。

親友を奪っておいて――何の反省もしていない。

今だ、男と女は一緒にいられると思い込んでいる。

奇麗事を言っている。


何も知らないくせに。

何も理解していないくせに。


何の苦労もせず、何の時間も共有していない男が、何を分かると言うんだ。

海賊を否定しておきながら、女に踏み込もうとしている。

安定はしていなくても、強い絆で繋がっていた自分達。

男が居なくても、生きていけた。

カイが居なくても――自分達はやっていけた。

これからだって、ずっと・・・・・・ずっと・・・・・・やってこれた。

ジュラが、傍に居れば――


「フフ・・・フフフフフフフ・・・・・・」


 カイの言葉を思い出す度に、笑いがこみ上げてくる。

身体が揺れるほどに。

涙が、零れるほどに。

涙を流して笑い声を上げる。

やがて、銃を下ろす。

涙も止まり、微笑みも消え失せる。

停止した世界の中で――


「――いいわ、私も協力してあげる。あんたには借りがあるから」


 彼女はとてもキレイで、


「クリスマスさえ終われば――もういいのよね・・・・・・・?」


 ――凄絶だった。





こうして賛成派・・・に新しいメンバーが加わって、クリスマスへの本格的準備が行われようとしていた。




























































<to be continued>







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