VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action15 −賛成−










 ブリッジクルー艦内コンディション全般担当、ベルヴェデール・ココ。

ドレッドチームサブリーダー、ジュラ・ベーシル・エルデン。

医療室専任看護婦、パイウェイ・ウンダーベルク。

キッチンチーフ、セレナ・ノンルコール。

クリーニングチーフ、ルカ・エネルベーラ。

イベントチーフ、ミカ・オーセンティック。


同じマグノ海賊団員とはいえ、滅多に顔を合わせない各部署の重鎮達。

年功序列・職場環境に関係なく、全員立場を同じくして集まった。

あらゆる監視の目を掻い潜るニル・ヴァーナ空白区域、シークエンス・ルームへと。


「悪かったな、皆。突然呼び出してしまって」


 本当の意味で言うと召集したのはルカだが、リーダー的役割を果たしているのはカイである。

本人もその自覚があるので、お礼はきちんとしておいた。


「近頃敵も襲って来ないし、ベットで寝てばっかだったから別にいいわよ。
それよりも――どうしてこんな面白そうな事に、さっさとジュラを誘わないのよ!」

「い、いや、お前。一応療養中の身だろ?」

「・・・あんたに言われたくないわよ!」


 カイも退院はしているが、検診は必要な状態である。

本人としては完治に達しているのだが、ドゥエロは徹底して診療を続けていた。

あくまで医者のドゥエロが完治を言い渡さない限り、カイは治った事にはならない。

ジュラも同じくで、安静を促されて心から退屈していたようだ。

不満は、それだけではない。


「いい? あんたにはジュラが必要なの。
自分勝手な行動は慎みなさい」

「自分勝手って、俺は俺で普通にやれて――」

「――――」

「ごめんなさい、睨まないで下さい」


 かつて無い近距離で睨みを利かされて、カイは反射的に謝る。

本当に男の立場は逆転しつつあるのかが怪しかった。

カイの謝罪に、ジュラはようやく溜飲を下げる。

その様子を横から見つめている、好奇心旺盛な女の子。


「ふーん・・・・・・ジュラもちょっと良い笑顔になってる」

「な、何よ急に!?」

「うふふふふふふふ、何でもないケロよー」

「・・・あいっかわらず、良い性格してるわねあんた。
あ、ちょっと! 今撮ったカメラ見せてみなさい!!」

「好感度ランキングに変動あり、と」

「何をメモしてるのよ! こら、待ちなさい!!」


 年齢は大人と子供の差があるのに、精神年齢は似たような二人。

ジュラが子供っぽいのか、パイウェイが大人じみているのか。

案外その両方かもしれない二人が、白い部屋の中を縦横無尽に追い掛け回している。

遊んでいるとしか思えないその光景を、


「・・・・・・ジュラもそうなんだ・・・・・・」


 ベルヴェデールがどこか愁いを帯びた眼差しで見つめている。


「ジュラ『も』?」

「カイには関係ないからいいの。――いや、関係あったわ・・・・・・」

「? そういやお前、アマローネとクマちゃんはどうしたんだ。
あの二人にも協力を頼んだだろ、俺」

「そうよ! その事で、あんたに文句が言いたいのよ!」

「?? 何だよ。
サンタクロースとトナカイの着替えなら、ちゃんと用意するつもりだぞ。
服のサイズだけ、後で教えてくれよ。
男と違って、お前ら女は胸とか尻とか出っ張ってるから、正確に知る必要が――」

「あ・ん・た・の・・・・・・この期に及んで変わらないその無神経さが問題なのよーーーー!!!」

「ぬわぁぁぁー!!!」


 グーで思いっきり顔面パンチ。

これでもかというインパクトでカイは吹っ飛んで、冷たい床に叩きつけられてKOした。

目を回しているカイを見下ろして、ベルヴェデールは制服越しにも感じられる豊かな胸を張る。


「アマロとセル、あんたに協力しないって言ってたわ。
セルなんて泣きながら、絶対にクリスマスを邪魔してやるって」

「何ぃぃぃぃぃ!? じゃ、じゃあこいつが言ってた監視とかって・・・・・・」

「そんなにじっと見つめないで。
ルカが可愛いからって、もう」

「お前の顔なんぞ知るか!」

「無神経なその発言がクマさんを敵にした」

「うがああああ、しまったぁぁぁ!?」


 これ以上はない説得力で、カイは打ちのめされる。

あの時のブリッジでの会話の何がいけなかったのかはっきりしないが、無神経な事を言ってしまったのだろう。

ルカに真顔で指摘されて、カイはがっくりくる。


「アマロはどうかしらないけど・・・・・・セルは絶交ですって繰り返してたわよ」

「つ、ついに絶交されてしまったか・・・・・・」


 事あるごとに絶交だの縁切りだの言われてきたが、どうやら完全に怒らせてしまったようだ。

セルティックはカイから見て、あまり男に対して友好的な関係を求めてはいないようだった。

これまでは何とか付き合っていたのだが、その危うい一線を超えてしまったらしい。

カイは鉛のように心を重くする。

セルティックは初対面からそうだったが、素顔を見せない女の子だった。

外面的にも、内面的にも。

言葉も話さず、目も見てくれず、あくまで態度や仕草でコミュニケーションを取っているに過ぎなかった。

だからこそ興味はあったし、このアンバランスな関係が心地良くもあった。

ストレートに言えば、友達になりたかった。

個人的な願望でしかなかったが、結局自らで幕を閉じてしまった。

もう関係を修復するのは無理だろう。

男女の敵同士の立場である上に、カイ個人の人間性も疎まれていたのだ。

今後はもう二度と会話も顔も見せず、迷惑をかけないように避けていく。


――そんな後ろ向きな考えは、これっぽちもない。


「・・・・・・よし」

「え・・・・・・?」


 拍子抜けした顔で見つめるベルヴェデール。


「何が悪かったのか分からないけど、俺に非があったのは事実。
このクリスマスで何とか仲直りするよ、ベルヴェデール」

「な、仲直り・・・・・・」

「迷惑かけたからな。謝るのは当然だろ。
いやむしろ――
『お願いします、着させて下さい』って言ってくれるくらい、あの娘と仲良くなってやる」


 カイはフッフッフと不敵に笑う。

ベルヴェデールは驚愕に満ちた顔で見つめる。

今までも何度か感じていたが、やっぱりこの男は変だ。 タラーク出身だからとか、メジェールの女だからとか、そういう当たり前が一切無い。

女への信頼を取り戻そうと奮起する男。

メジェールは元より、タラークでも鼻で笑われるのは間違いない。

両国家から見ればそのくらい奇異な考え方だ。

立場的に見れば、別に嫌われたところで気にする事は無い。

カイは心からセルティックを気にかけているのだ。

本当に、変だ――

でも、やっぱり嬉しい。

友達を傷つけた事を思い悩む少年。

気遣って悩んで――それでもうじうじせずに前向きに信頼を勝ち得ようとしている。

カイはこうであって欲しいと、ベルヴェデールは心から思った。


――だから、こうして貴方の傍に来たんだから。


「カイさん、また女の子を泣かせたんですね」

 いけない子ですね、とお姉さんな口調で語りかけた。

母性的な微笑が似合う女性で、料理を学ぶ師匠でもある。

カイはこの女性に弱かった。


「な、泣かせたというか・・・・・・少しこみ入った事情がありまして」

「いけませんね。どんな理由でも、女性に傷つけるのは感心しません。
きちんと謝るんですよ。
男性のロースハムはあまり口にしたくありませんから」

「全力を持って、関係を修復します」


 敬礼。

冗談に聞こえないところが、この女性の怖さだった。

明日食台の上で刻まれる運命は避けたかった。

「女は肝を食う」――この認識をタラークに植え付けたのはこの人ではないかと思えるほどに。


「でも本当、まさかこんな騒ぎになるとは思わなかったわ。
ごめんね、カイ」

「――嬉しそうに見えるのは何故なんだろうな、ミカさんよ」


 きまり悪そうに謝ったところで、その表情は完全に裏切っている。

彼女の本音はバレバレだった。

何しろ毎年恒例の行事であるとはいえ、平凡な企画を好まない女性である。

ここまでの騒動を計算に入れていたかどうかは別にしても、この事態を喜んでいるのは間違いない。

クリスマス成功を望む人々と、その反対に回った人達。

一つのイベントを主軸に、大勢の人間が対する思惑で絡んで来ているこの情勢はイベンターには大歓迎だろう。

ミカはテヘっと舌を出して、


「まあまあ、いいじゃない。こういうのもありよ。
それとも――辞める?」


 ここで辞めればあるいは騒ぎは静まる。

賛成派と反対派。

両勢力がぶつかっている原因はカイである。

カイがここで退陣を表明すれば、反対派も鞘を収めるだろう。

イベントを成功させるという意味では、有効的な手段だ。

カイもその理屈は分かっているし、自分がクリスマスに関わったせいでこうなったのだとも思っている。

ある意味でだが、主催者としての責任を全うしたと言える。


「・・・・・・」


 何時の間にか、周りの面々も静まり返ってカイを見ている。

カイは少し考えて、首を振った。


「――やるよ。ここで降りたら、何も変わらない。
そう――」



『同じ世界には、住めないわ』



「何も――変わりはしないんだ」


 カイが抜ければ、クリスマスは女性だけで進行するだろう。

平和で、賑やかで、何の問題も無い――メジェールのクリスマスを。

それではいけない。

今までと同じでは、何も生まれなどしないのだ。

我がままである事は承知している。

反対派が悪いのでもない。

でも、変えたい。

変わらなければいけないのだと、思うから。


「俺が成功させる。絶対に」


 男と女のクリスマス。

カイにとっては避けられない、戦いなのだ。






















































<to be continues>







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