VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-
Action7 −療法−
故郷へ向かう旅。
ひょんな事故から刈り取りの脅威を知った者達が戦いの日々を送る事となった。
マグノ海賊団とカイ。
男女共同生活からこの枠組みへ移行する契機となったのは、カイ一人の脱団通告。
ドゥエロとバートは受け容れて、カイ一人がマグノ達の仲間入りを拒否した。
その為カイはニル・ヴァーナ内で只一人、自立した毎日を送っている。
住処は正式に監房の一室を我が家とし、衣類は持ち合わせと船内より。
肝心の食料はミッションで手に入れた物資。
そして――キッチンで賄っていた。
「カイさんって手先が器用ですね。包丁捌き、上手ですよ」
「あっはっは――何せ上達しないと餓えて死ぬんで」
カフェテリア・トラペザは通常日夜営業している。
マグノ海賊団は交替勤務で時間を問わず働いていて、休息がてら利用される為だ。
ポイント制のバイキング形式、ドリンクはフリー制である。
広大な船とはいえ、毎日毎日を同じ船で過ごす日々。
栄養バランスを考えた上で、料理の献立に注意と関心を向ける。
表立って目立つ職場ではないが、マグノ海賊団の毎日を支える貴重な現場だ。
ニル・ヴァーナでの旅が始まって数ヶ月。
平凡なメニューの連続にいい加減不満が増大してきている。
利用者には使い勝手のいい設備だが、単純なメニュー内容では利用者に不満が出て当然だった。
以前から問題視されていた体制だが、改革の手を入れたのが現キッチンチーフだ。
元々職務に意欲的な彼女は徹底的な献立の改善を行い、根本から料理システムの改善に努めた。
その際見習の一件でチーフと懇意にしているカイに、キッチンの一部をちゃっかり間借りさせていただいている。
何しろ、カイは全て一人でこなさなければいけない。
材料は保管している物資に頼るが、まさか生で食べる訳にもいかない。
非常食が大半だが、今後栄養バランスを考えると調理する必要もある。
その為キッチンチーフやクルーに御願いして、仕事の合間に料理を教わっていた。
カイは生きる為に必要な技術として学んでいるが、その実大変な挑戦を行っている事に気付いていない。
タラークはペレットが主食で、料理の概念そのものが無い。
もしも故郷へ戻って教わった知識を生かせば、タラーク初の料理人が誕生する事になる。
大袈裟に言えば、タラークの歴史初の試みともいえるこの所業。
彼は――なかなかに必死だった。
「調味料と火の加減には気を使って下さいね。些細な狂いが台無しにします」
「うん、分かった。――あれ? 油はどこだっけ」
「右端の棚です。フライパンは使い終わったら、丁寧に磨く事」
「ラ、ラジャー」
キッチンチーフ、セレナ。
マグノ海賊団好評の献立を作り、日夜努力している料理長。
素材の良さを追求し、食材を吟味し、調味料を構成する。
温厚で丁寧な物腰が人気だが、料理の事になると厳しいことで有名な彼女である。
長旅する上で栄養面をきちんと考え、身体に影響が出ないように料理を作っている。
自立した立場のカイを全面的に援助は出来ない。
マグノ海賊団内の施設はセキュリティ管理がされており、IDカードが必要となる。
カフェテリアを利用する際も同様で、カードの無いカイは一切の注文も出来ない。
貧窮生活だが、カイが選んだ現況である。
かといって、例え一時でも見習いとしてキッチンスタッフとなったカイを見捨てられなかった。
そう言う意味で、セレナもまた仕事人である。
男女――タラーク・メジェールの概念は二の次で、キッチンチーフとして栄養管理を第一とする女性であった。
カイはセレナにとっていたいけな不摂生者であり、不遜で可愛い弟子であった。
「小麦粉と溶き卵、パン粉の順にころもを付けるんです。
その後、熱した油でこんがりと揚げて下さい。
少しでも形を崩したら、油に顔をつっこみます」
「鬼か、あんたは!?」
刈り取りの戦いでもこんなに必死になった事があるだろうか。
額に汗、目に血管を血走らせて、カイはデリケートな衣揚げ作業に懸命になっていた。
カイがセレナに料理を請うたのは十日前。
アンパトスでの戦いを終えて療養中、セリナが見舞いに訪れてくれた時の事だった。
『料理を教えてほしいのですか?』
話を聞くと言って聞かないディータ達を病室の外へ追い出して、カイは熱心に頼み込む。
寝巻き姿に肩脇の花瓶に生けられた小粋な花が、真剣さを台無しにしているが。
『そう。一ヶ月でプロ並に』
『カイさん――死んで下さい』
『入院患者になんて事言うんだ、あんた!?』
休暇中のマグノ海賊団。
クルー達はそれぞれに余暇を楽しみ、束の間の時間を楽しんでいる。
セレナの部下も大半が上陸して遊びに出ており、チーフだけが艦内で有意義な時間を過ごしていた。
キッチンの掃除に調味料の整理整頓、食材選びに物資の賞味期限。
誰もが仕事にしか見えないこの作業も、彼女にとっては趣味の一環でしかない。
心の底から調理を愛し、多くの人達に美味しいと言って貰えるのを願っている。
この長期休暇はバイキング形式の献立に二度と不満が出ないように、様々な献立を編み出した。
そんな作業も一通り終わったので、彼女は一番手入れし難い食材の様子を見に此処へとやって来ていた。
優しい人柄の彼女も、今日この時ばかりはご立腹な様子であった。
『カイさん、お料理の経験は?』
『総合時間で半日・・・・・・かな。
見習いの時とあんたの職場に何度か顔出しに行った時だけ』
『まあ、それだけの経験で一ヶ月でプロになりたいと言うんですね。
うふふ――カイさん、男の肉ってどこが美味しいと思います?』
『俺を食うのか!? 食うのか!?』
医療室は刃物厳禁と注意書きさせておこうと心の底から誓う。
もし手持ちの包丁とか持っていたら、その場で解体されかねない。
何度も苦戦した刈り取り部隊より、目の前のおしとやかな料理人が怖かった。
『怒る前に話を聞いてくれ!
来月行われるクリスマスに関して話は伝わってるだろう?』
『ええ、クリスマス・イブにパーティを行うとか。
御安心下さい。もうクリスマス用のオリジナルメニューを考えていますから』
『も、もう考えてるのか・・・・・・』
控えめな性格だが、セレナは仕事には意欲的。
見習いだった当事は裏方として、こじんまりとしている感じだったのを記憶している。
カイは不思議だったが、今のセレナも嫌いではないので特に指摘しない。
『俺、そのクリスマスの幹事を勤める事になったんだ。
始まりから終わりまで全てを取り仕切る役目』
『カイさんが? それはいい考えじゃないですか。
さすがミカさんですね』
『ミカの仕業だって分かるあんたもなかなか凄いが』
マグノ海賊団は横の繋がりが強い。
縄張り意識も無論あるが、それを超えた連帯感は侮れない。
チーフ同士話をする機会も多く、前向きなミカと控えめなセレナは意外に相性が良いかもしれない。
『でさ――ほら、やっぱり今まで女だけの宴会だっただろ?
男が急に参加するとなったら反対もでると思うんだ、正直』
『そんな事ありませんよ。カイさんならきっと皆さん喜んでくださいます』
『・・・・・・いいって、気休めは。
あんたのところの部下、最近の俺に良い感情持ってないらしいし』
『それは誤――えっ!?
えとえと、そ、そのようなデマはどなたから・・・・・・』
『噂に敏感な子がいるとだけ言っておこう』
メイアを参加させると宣言したその日。
噂好きな看護婦さんより、カイは沢山の情報を入手した。
契機はあくまでメイアに関する情報だったのだが、元来より話好きな二人。
男/女の情報交換で、人伝えに聞いた噂話を入手した。
その時、ナース帽の女の子はチェックな顔でこう言った。
『気をつけた方がいいよ。
最近、あんたキッチンやエステの人達に反感買ってるから』
『俺はいつだって反感買ってるだろ』
『これだから男は困るケロ!
女がいつまでも同じ人間を同じ理由で嫌ったりしないんだケロ!』
『じゃあどういう理由で嫌ってるんだよ!』
『簡単よ。
――カイ、ちょっと目立ち過ぎ。
お頭や副長・ガスコさんだけじゃなくて、チーフさん達とも仲良くなってきてるでしょ?
余所者が上の人に好かれるのはい・や・な・の。
いい気になってるって言われてるケロー』
つまりは、そういう事である。
つまらない理由と吐き捨ててしまうのは簡単だが、これは意外と根深い。
何故ならタラーク・メジェールの偏見に関係なく、あくまでカイ個人に妬み・嫉妬を向けられているのだ。
繰り返すが、妬み・嫉妬である。
これは本当に根深い。
何しろ戦果を上げたり、マグノ海賊団を守ったりすれば妬まれる事になる。
つまり――カイがカイとして、英雄が英雄として成り立たんとする要因に激しい嫌悪を向けられているのだ。
偏見を取り除いたところで、この感情が消える事はない。
活躍するな、目立つな、戦うな、好かれるな。
ストレートに言えば、脇に引っ込んでいろということだ。
カイにしてみればふざけるな、である。
信頼を得なければ戦えないのだ。
戦わなければ死ぬのだ。
死ねばこの宇宙へ出てきた意味を無くすのだ。
意味を無くせば、何の為に生まれてきたのかも分からないのだ。
しかし、彼女達はカイのやる事なす事が気に入らないといっている。
戦わなければ死ぬ、戦えば信頼を無くす。
この矛盾。
この悪循環。
――ソラは、彼女達が嫌いだと言った。
きっと――カイよりずっと根深いところで、マグノ海賊団の心の裏を見たのだろう。
知ったのだ、カイを嫌っているその根本を。
ならば、俺は・・・・・・
『でもでも、ね』
女の子は付け加えた。
『メイアが参加するって言うなら――パイも参加してあげる』
えへへ、頑張れ――彼女の微笑みが最後にそう語っていた。
・・・・・・このクリスマスを絶対に成功させる。
『セレナさん。
俺、もう――陰口なんて叩かせない。
その為に、俺に料理を教えてほしい。
戦い方は一つじゃないだろう? 料理には――料理だ』
セレナは目を伏せる。
何故だろう?
どうしてあの子達は、こんな人に悪口を言うのだろう。
こんなに――立派な事を言っているのに。
『――分かりました。でも贔屓しませんよ、カイさん。
可愛い可愛い部下さん達と一緒に扱いますから。
不味い料理作ったら、オーブンに放り投げちゃいます』
『・・・・・・やめておけばよかったかなって、今ちょっと思った』
クリスマス。
男と女は新しい顔を見せていく。
<to be continues>
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