VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action32 −女神−




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 マグノ海賊団に入団した理由は特に無い。

住んでいた場所を追われ、生きていく為に海賊となった。

特別な意味なんて必要も無い。

何処へ行こうと、誰よりも華やかに生きていける自信はあった。

自分は特別なのだから―――















 美しき容貌。

幼い頃から親に可愛がられ、沢山の友人に囲まれて育ってきた。

特化した才能こそ無かったが、人望は誰よりも多く集められた。

絹糸のような繊細で美しい髪。

子供から大人へと美しく成長した身体。

同姓の誰もが羨む美貌を持ち、憧れの的となった。

物心がついた時から、自分の周りには常に人が集まってきた。

いつしかそれが当たり前になり、自分の世界が生まれた。

マグノ海賊団に入団しても、その現実は何一つ変わらなかった。

頼りになるリーダーに大切な親友。

能力と功績を買われ、サブリーダーに任命されて取り巻きも増えた。

能力・才能の差はあっても、自分よりも綺麗で秀でている人間なんている筈も無い。

不自由の無い楽しい人生。

疑問になんて思ったことも無ければ、悩みなんて何も無かった。

自分には幸せが約束されていると信じて疑わなかった。



―――アイツに出会うまでは。

 

 出会いは二ヵ月半前。

本当なら、その日は何でもない日だった。

今までと同じ毎日の延長―――

通常のパトロールと新人の初出撃。

教育はチームリーダーのメイアに任せ、サブの自分は役割のみを必要最低限でこなす。

目標はタラーク新造艦。

今までに無い大物だが、自分と仲間が居れば必ず勝てる。

身の危険なんてまるで考えてなかった。

マグノ海賊団設立初期の頃は人手も物資も不足していて、週一回の略奪には多大なリスクがあった。

対する見返りも乏しく、常に危険と隣り合わせだった。

しかし今は優秀な人材が育成されて、チーム数も増えている。

週一回の海賊家業も徐々に回数も増えて、物資も豊潤に手に入るようになった。

危険は最小限、見返りは最大限―――

今日の目標であるタラーク新造艦は多くの物資と兵装が積まれている。

敗北など考えてもおらず、手に入れられるお宝を如何に多く自分の手にするかだけを考えていた。

戦闘は勝利―――

ヴァンガードも所詮敵ではなく、最速最短で敵母艦は鎮圧された。

男達は全員降伏、もしくは捕虜として捕らえた。

なす術もない無力な男供を心の底から小馬鹿にしていた。

そこへ―――


 


『男の船にようこそ、お客さん達』 





 ―――アイツが現れた。

卑劣にも物陰から突如奇襲し、その場にいた者達全員がアルコール浸しにした。

油断していただけ―――あの時はそう思っていた。

姑息なやり方に怒りを覚え、対処も何も出来なかったリーダーのメイアを軽蔑した。

自分は何も悪くない。

悪いのは不意打ちをしたアイツ。

油断していたメイア。

落ち度なんて無かったと、自らの潔白を自らの心でだけ証明した。















仲間になった―――





 何の因果か、アジトより遠く離れた異郷で男三人と共にする旅。

その中にあの男が居るというだけで、我慢出来なかった。

襲い掛かってくる敵にも霹靂し、自由を失った毎日は窮屈だった。

文句は次から次へとわいてくるが、お頭の命令は逆らえない。

上に立つ者の憧れはないが、上下関係はうんざりする。

やりたい事が出来ない不自由さは、やがてあの男への不満へと移っていった。















ヴァンドレッドの誕生。



 

 ヴァンガードとドレッドの合体。

ヴァンドレッド・ディータにヴァンドレッド・メイア―――

濃密な火力を放射する蒼の巨人に、輝ける軌跡を描いて飛翔する白の鳥。

神秘的な光を放つ宝石―――

自分の持つ美貌なんて足元にも及ばない。

―――アレを手に入れようと決意した。

アイツが一因子を含んでいるのは不満だが、自分の手に掴めるなら我慢も出来よう。

自分にはその資格がある。

選ばれた者として、生まれた時から手にしていた自分なら。

ヴァンドレッド―――アレを手に入れられたら、より完璧になれる。

マグノ海賊団のみならず、タラーク・メジェール全ての人間よりも―――





その為に―――アイツに近付いた。















―――馬鹿な奴だと思った。


 自分を逃がして死地に残ったアイツ。

荒れ狂う砂の嵐に正面から向き合い、メイア達を星の外へ逃がした。

信じられない。

対抗手段なんてある筈も無いのに、圧倒的不利の戦況で一人戦いに挑んだ。

助けられた―――それは否定しない。

しかし、そもそも助けられる理由は無い。

最近積極的に話しているが、自分としてはただ合体の為だけだ。

それ以上の理由も無いし、向こうもその辺を理解できないほど馬鹿ではない。

他の仲間は能天気なあの娘を除いて、カイを嫌っている。

女に対して憎しみを覚えても、助けようとする気持ちなんて芽生えないだろうに。

ただ―――














生還したアイツに……




 

……顔を向けられなかった。 




 




 





―――自分に少し疑問を持った。




 
 その日、メイアが重傷を負った。

部下を助ける為に機体を呈して庇い、集中治療室に入れられた。

戦いの真っ最中だ、当然リーダーの代理役が必要となる。

お鉢が回ってきた時―――冷たい汗が流れた。





次々と倒れる仲間たち。

追い込まれる母船。

非戦闘員の苦悩。





全てが―――自分の責任となってしまう。

逃げ出す事は許されない。

でも……誰かを背負って闘うなんて―――





―――とても出来なかった。



 

『俺が宇宙一のヒーローになって、お前を幸せにしてやる』

 


 アイツが立ち上がった。

皆を励まして、戦友達を率いた。

お頭や副長に進言をし、不安に震えるパイロット達に指示を出す。

何でもないような顔で、全ての責任を背負った。

自分が出来なかった事を――――





アイツが―――嫌いになった。















普通の人間だった。





 アイツも同じ。

悩みを持ち、現実と理想の差に苦しんでいる。

商人を名乗る男に―――カイは傷つけられた。

守るべきモノ、戦わなければいけないモノを見失い、躁鬱になった。

その姿は無様。

泣いて、喚いて、傷だらけでボロ雑巾のようだった。

馬鹿にしてやるのは簡単だった。

多分その時、ほんの少しでも罵倒すればあっという間につぶれていたかもしれない。

汚らしいと、笑ってやれば痛快だった。

そしてそんな自分が―――





―――今日だけはどうしても美しく思えなかった。















 全てを理解した。

最初から何も持ってなんていなかった。

手にしていた宝石はガラクタだった。

アイツを疎ましく―――そして気にかけていた理由が分かった。


 


飛翔する機体―――


 


黄金色の翼を生やして飛び去る蛮型。

宇宙に光の金粉を華麗に舞い散らすその姿は幻想的ですらあった。

身体の芯から熱く震えた。





キレイ―――




心の底からそう感じた。

呆然と……光の翼を生やした天使に夢中になった。



美―――



今まで出会った同姓より、見て来た風景より、手に入れた宝石よりも美しい。

金色の光の中で浮かぶ機体に、ただ目を奪われた。



……自分はニセモノだ……



綺麗だと思っていたのは自分だけ。

長い髪も、整った顔立ちも、流麗なスタイルも―――

何もかもがアレには見劣りしてしまう。

美の女神はアイツ―――カイ=ピュアウインドに微笑みかけている。

ジュラ=ベーシル=エルデンには、きっとあの美しさには届かない。

例え同じ機体に乗り、同じ武器を使い、同じ敵を倒しても同じだ。

あの瞬間―――





―――カイは前に出て―――





―――自分は止まったまま。





小さな意思の違いであり、決定的な差だった。

カイは懸命に生きている。

卑下していた過去を受け入れて、増長していた今を蹴散らして、在りのままを未来に乗せている。

活力に満ちた命の息吹。

生命がこの二ヵ月半で磨かれて、輝きを放っている。

男も女も関係なく―――カイは美しかった。

……自分は何をしていた?

この旅―――いや、マグノ海賊団入団以来何が変わった?

何も変わっていない……

ただ、醜いだけ。

皮一枚で構成された外面だけしか見ず、中身は腐りきっていた。





理想カイを前に、幻想ジュラはただ朽ちていくだけ―――





ヴァンドレッド・ジュラが証明してくれた。

アレが自分の正体。

突出した機能なんて何の慰めにもならない。

何もかもに裏切られた。

いや―――最初から汚れていた……





「……う……うぐ……ひぐぅ……」


 ただ、涙だけが零れる。

恥かしかった―――

勝ち誇っていた昔の自分を、皆が笑っている気がした。

寝ても覚めても、自分を嘲笑う顔が見える。

部屋から出る気にもならない。



出れば皆に笑われる……馬鹿にされる……



カイに―――カイに―――会ってしまう。

どんな顔をして会えばいい?

きっとアイツだって笑っているに決まって―――













「……ジュラ=ベーシル=エルデン」


 聞き覚えの無い声。

冷たい響きを宿して、扉の外より女の子が言葉を紡ぐ。


「……マスター・・・・・・
カイ=ピュアウインドが―――死にかけています」





 ―――?





「生命反応が急激に下がっています。
上陸先で何かあったのは間違いありません」


 馬鹿な……アイツが死ぬはずが無い。

いつだって生き残ってきた。


「すぐに救出に向かうべきですが―――敵が攻めてきました。
私はこの船を守るよう命じられています。
他の皆さんも戦いに出向いています」


 ……。


「―――分かりますね、この意味が?」


 ―――分かる。

敵が攻めてきたのなら、皆が戦いに出なければいけない。

誰も助けにはいけない。

閉じこもっている誰かを除いて―――





「私は……人間の心など理解できませんが―――」





 数秒の逡巡後、その言葉は語られた。


「人間だけが、非合理的な活動を行う。 同族の無意味な死すら歓喜して招きいれている」


 気配が遠ざかっていく。


「ヒトは……未来永劫、略奪を繰り返す醜い獣 マグノ海賊団もまた同じです」


 スパイシーの利いた少女の辛辣な言葉だけが、反響する。

軽蔑しきった―――



「貴方も―――永遠にそのままなのですか?」



 ―――小さな、問いかけ。

扉の向こうより、冷徹な少女の影は消えていく。



(・・・・・・・)



 このまま何もしないのか?

ただ俯いて、ドロドロと濁ったまま死ねば満足なのか。





『明日が決まってないから―――人は今日を夢見るんだ』





 アイツの言葉。





『お前の夢は―――美しく在って欲しいと俺は思ってる』





(・・・・・・あ)
 




 何故―――忘れていたのだろう?

アイツは決して、他人を笑うような人間じゃない。

己の醜さにも気付かない、愚かな女にもアイツは優しかった。

美しくいて欲しいと、彼は願ってくれている。


『貴方も―――永遠にそのままなのですか?』


 今まで―――奪ってきたモノは数知れない。

マグノ海賊団として、ジュラ=ベーシル=エルデンとして踏み躙ってきた。

穢れていて当然だ―――

カイと自分の明確な差。

利だけを求めて危険を避けた自分と、危険を省みず見返りを求めない彼。

どれほどの人間を助け、歴史に残る偉業を果たしても、カイは何でもないように笑っているだけだろう。

目先の欲望なんて見向きもしない。

己が自由なままに、ただ真っ直ぐに生きている。

あのような生き方が――――本当の自由なのだろう。





―――死なせない。




 部屋に閉じ篭もって十日間。




―――死ぬなんて許さない。




 ジュラは、自分の足でようやく立つ。




―――許さないんだから。




 そのまま―――洗面台に向かう。




―――負けない。




 鏡を見つめる。




―――負けないわよ、カイ。




 やせ細った顔。




―――ジュラだってやれば出来る。




 目の隈が酷い。




―――あんたがそう言ったんだからね・・・・・・




 クスっと笑って、水道管を派手に捻る。




―――やってみるわ。




 バシャバシャと顔を洗って、化粧を全て拭き取る。




―――不細工な自分はもう終わり。




 すっぴんの表情を見るのは久しぶり。




―――今日から生まれ変わるわ。




 にっこり笑ってみると、痩せた顔が可愛く見えた。




―――アンタのように・・・・・・綺麗になってやるんだから。




 そして手入れ用の剃刀を手に取って―――














ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 

ジョキッ 















 ―――すぐに終わった。

あっさりとしていて、思って見たよりも呆気ない。

それが、心地良かった。

今まで来ていた服も思い切って脱ぐ。

上品な下着も脱ぎ、息を飲むほどの見事な肢体をさらけ出して着替える。


「・・・・・・カイ、死なないでよ」


   白いサテンのボウタイシャツに黒のフレアスカート。

そして―――



切り揃えられた・・・・・・・ショートカットの髪。



 十日間の引きこもり生活で痩せ細り、化粧も洗い流してしまった。

派手好みだった彼女の服装も、エレガントではあるが今までより地味である。





でも―――その全てが彼女を凛々しく照らし出していた。
































































<to be continues>

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