VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action24 −秘匿−




---------------------------



 それはとても奇妙な光景だった。

青緑色のクリスタルに囲まれた空間の中で、男女が顔を寄せ合って話している。

一人は着衣無き金髪の青年。

一人は長い黒髪をリボンで結っている少女。

秘匿回線を通じて画面越しに行い、現状でこの密談を知りえる者は誰一人としていない。


「……では、あの者をお主は知らないと?」

「あいつとは船の中で会ったんだ。パーティー会場だったかな……?
新造艦が完成して、僕達士官候補生が初めて軍務に乗り出す予定だったんだ。
あいつは雑用係で来たんだと思うよ」


 二人の話題は一人の男について―――

尋ね人は少女。

画面に映し出される少女は情報を吟味し、卓越した頭脳で分析を行っている。

十代前半の可憐さと大人びた凛々しさを持つ少女の瞳は、意思の強さに輝いている。

思慮に耽る少女の表情に、バートは意識せず見惚れてしまう。

少女はブツブツと独り言をこぼす。


「カイ=ピュアウインド、階級は三等民。所属は不明。
タラークでは通常、三等民はどうしておる?」

「え?あっ、えーと・・・・・・・」


 少女に気を取られていた自分に気付き、狼狽してしまう。

こんな女海賊の―――まだ小さい子供に惑わされるなんて、どうかしている。

バートは気を引き締めた。

確かに敵対意識は薄まっており、女達に受け入れられたい気持ちもある。

だが感情的な面でまだ恐れているし、立場的な面で優位でありたいとも思う。

まして、相手が年端もいかない少女なら尚更だった。


「お、おほん!
三等民は僕やドゥエロ君とは圧倒的に立場が違うからね。
普通は労働階級として雑居房に入れられて、現場の工場や開拓地で働かされるんだ」

「ほう……その階級は如何にして定めておるのじゃ?」

「血筋だよ、血筋。
第一世代―――僕達の指導者グラン・パを筆頭に、偉大なる八聖翁がいる。
この方達がタラークの礎を築き上げたんだ。
僕達は彼らの遺伝子を受け継ぎ、実用化されたクローン技術で生まれた。
そうして、タラークは国家として繁栄を遂げていったんだ」


 国家の最高峰に位置する指導者グラン・パを中心に、階級別に国民を区別している。

第一世代・第二世代・第三世代……そうした時代の流れにより血筋は薄れていく。

更にクローン技術の発達で、男達のみで我が子を育めるようになった。

下級民の者達ともなれば、グラン・パとの縁は殆ど皆無に等しい。

タラークは軍事国家であると同時に、一つの巨大な生態国家なのだ。


「生まれた時からの運命か……ふん」


 色濃く現れる軽蔑と侮蔑の感情。

タラークでは国家形成の一環として定められている階級を、少女はバッサリ断絶した。

それはバートを震え上がらせる―――凄絶な美しさだった。

だがそれも一瞬で、少女は何事も無かったように平静に尋ねる。


「あの者が三等民、最下級の生まれなのは分かった。
では何故、ヴァンガードに乗れている?
もっとも―――お主とあの者の口振りを総合すれば、予想はつくがな」

「あ、あいつが勝手に乗ってるんだよ!ほんと、知らないぞ……
退去命令無視に最新鋭機体の無許可搭乗―――
情状酌量の余地はあると思うけど、それでも・・・・・・・禁固刑は免れないだろうな。
下手すれば極刑だ」


 大袈裟でも嘘でもない。

カイが士官候補生であれば、問題はあれど大目に見てもらえた。

あの時、マグノ海賊団襲撃に対処出来た人間は誰も居ない。

そんな敵を相手に蛮型で出撃して勇敢に戦い、敵の意表をついた策で人質を解放したカイ。

無許可での蛮型騎乗に軍規違反を視野に入れても、功績は余りある。

しかし現実に、カイは三等民である。

何の特権も無ければ、行動する権利すら与えられていない。

階級差別の徹底した軍務国家のタラークで、カイの取った行動は逸脱し過ぎた。

状況的に判断すれば、特殊要素の入り混じった難しい問題ではあるのだが、軍規に照らし合わせればカイの罪は重い。

刈り取りを撃破して、タラークに帰ったとしてもカイは―――



「・・・・・・心配しておるのか、お主」



 目が覚めるような、はっきりとした声。

バートは少女に慌てて頭を振る。


「ぼ、僕があいつを?冗談はやめてくれよ。
あいつと僕はそもそも立場が―――」

「同じであろう?お前達は捕虜であり、流浪の身。
そして―――」


 少女は温かく微笑んだ。


「戦友じゃ」

「・・・・・・・・・・そ、そりゃあ・・・・・・・」


 否定し切れないところまで来ている。

ぶっきらぼうで、短気で、自分勝手で、自由気ままにやりたい放題で―――

いつも自分をハラハラさせる男。



そして―――そんなあいつを少し羨ましく思っている。



もしもあいつがタラークで死罪が下されれば、自分は・・・・・・


「すまぬな、時間を取らせて。
お陰で有意義な話が聞けた。感謝する」

「い、いや、別にいいけど。
あのさ・・・・・何で君、いやあんたは――――そんなにあいつを知りたがってるんだ?」


『カイについて話を聞かせて欲しい』


突如そう申し出て、仲間には一切内緒で対談を持ち掛けてきた少女。

尊大な態度だが嫌味を感じさせない凛々しさに、バートは無意識にある種の敬意すら抱かせられた。

彼女はピンと伸ばした背筋で、堂々たる姿勢で言った。


「あの男が気に入ったからじゃ。
―――お主も負けぬようにな」


 少し茶目っ気のある笑顔で、小さな女傑は通信を打ち切った。

半ば取り残された形で呆然とするバート。


「負けないように、か。はは・・・・・・・
僕はあいつに置いていかれているのかな・・・・・?」


 ドゥエロに、ディータ・メイア。

マグノにブザム、ブリッジクルーの面々。

知っているだけでもこんなに多く、あの男は慕われている――――


「・・・・・・・ちょっと・・・・・頑張ってみるか、留守番」


 小さな灯火。

心の虚ろを照らすにはとても仄かだが、火は決して消える事はなかった。



















 ニル・ヴァーナ医療室。

音一つ無い静かな部屋で、ドゥエロは事務作業を行っていた。

タラーク士官学校で、あらゆる分野で学びトップの成績を出してきた彼。

データ整理や解析はお手の物で、情報の入力は簡単に終了した。

現在、医療室に他に人は居ない。

唯一の看護婦のパイウェイも検診に回っていて、医務室には彼一人しかいなかった。

静かな部屋で一人作業を続けるドゥエロ。

事務机のコンソールの前で一人、彼は作業がてら熟考し続けている。



『患者名:カイ=ピュアウインド』



 新しく更新された医療ファイルの一項目。

電子カルテに表記された患者の項目に、重度の火傷についての表記がされている。

数十時間の手術と五日間の集中治療。

昏睡状態に陥っていた患者の安定を図る為に、残り五日間は通常療養させた。

現在は退院。

完治には至っておらず、右目と全身の火傷の名残は今も生々しく残っている。

表面上の治癒はすんでいるが、痛みは今も連続して襲い掛かっている筈だ。

それは良い。

痛みは神経が正常な証拠であり、無理さえしなければ身体の警告はいずれ収まる。

カイの精神力は並外れている。

どんな苦痛でも彼は乗り切れる。


「・・・・・・」


 二ヵ月半、日数にすれば80日余り。

ただそれだけの期間で、劇的な事ばかりが起こり続けている。

今までの退屈とも言える士官学校の日々が嘘のように―――

その中で一番の興味対象はカイだった。

身分は三等民、年齢は不明。

年頃は外見だけを見れば10代半ば。

身長はやや高く、中肉中背。

野性的な顔立ちだが、性根は真っ直ぐで優しい。

裏表の無い性格をしており、現在蛮型の操縦者として活躍している。

一分もかからずに出る分析だった。

平凡である。

特殊な才能は何も持ち合わせておらず、頭脳は秀でているが特別ではない。

探せば何処にでも居るような少年。

その前提を―――二ヵ月半の彼の戦歴が裏切っている。

数多くの刈り取り部隊を撃破し、艦隊クラスの敵部隊すら退けた。

周到な敵の罠から味方を守り、自らも切り抜けて脱出。

自爆を目論む敵の意図をいち早く見破って、遠ざけて消滅させた。

士官候補生はおろか、正規軍でも活躍出来る器である。

この成果をタラークで軍人として出せば、勲章と地位は約束されたも同然だ。

戦い方はごく平凡。

彼の真価はその心にある――


「・・・・・・・記憶喪失と言っていたな」


 記憶喪失、もしくは記憶障害に陥っている少年。

医療的な見解より、記憶喪失について割り出してみる。

人間とは生物本来としてもっている機能に、自分の体にとって良くない記憶を凍結させておく能力がある。

生命活動の妨げになるという意味で、悪影響のある記憶を前面に出す意味もないからだ。

記憶喪失とは脳の中で悪影響がある記憶だけを凍結させているのではなく、その周囲や感覚部位を無理やり凍結させている状態を言う。

原因は様々だが、事故等による人体へのトラブルが原因となって起こる。

カイが何らかの事故に巻き込まれたのだと仮定すると、その事故は数年前に起きた事になる。

詳しい年月はカイから聞かされていない・・・・・・・

記憶の欠損。

もし本当に全ての記憶を失えば、言葉を話すことも出来ない。

当然食物を摂取するという基礎的な欲求も無くしてしまう。

カイの欠損している記憶はあくまで一部にすぎない。

そしてその一部とは――――


「・・・・・・彼の個人情報は一切無い。
持っていたIDカードは精巧に作られただけの偽物。身元保証人はアレイク中佐か」


 カイが大火傷を負って負傷した際に、個人情報が必要となった。

タラークでは階級によって、それぞれの個人データを入力したIDを持っている。

ドゥエロやバートのような上位階級は短剣、三等民はIDカードである。

遺伝子や身体の情報が入力されている身分証明で、怪我や病気になった時に役立つ個人情報だ。

カイがイカヅチに乗り込んだ際に渡されたIDカード。

それは全てアレイクが辻褄合わせだけで作ったカードで、本人の情報は一切無い。

他に何か持っていないかと探したが、荷物にも無い。

カイの個人情報は――――何処にも無かった。


「・・・・・・それに気になるのは――――」


 ニル・ヴァーナはイカヅチ旧艦区と海賊母船が融合して誕生した。

そのイカヅチもマグノの話では、元々タラーク・メジェールに向かっていた植民船だったらしい。

ドゥエロはその話を元にアクセスを試みて、船に眠っていたデータベースを呼び出す事に成功した。

地球人―――タラーク・メジェールの主達が乗っていた船。

データベースには当時の乗船者の個人情報と、旅路の記録があった。

もっとも旅の記録の方は破損しており、一部しか残されておらず役立ちはしなかった。

ここで大切なのは乗船員の個人情報―――


「・・・・・どういう事だ、これは・・・・・?」


 新しい台地を求めて船出した、地球からの植民船団。

彼ら乗船員はタラーク・メジェールに辿り着く前、何らかの理由があってコールドスリープに入った。

冷凍睡眠―――人間の体を摂氏4度以下に保ち、一時的に新陳代謝を止める方法。

一種の仮死状態を生み出して、細胞分裂を抑えて老化を防ぐ。

宇宙での船出で緊急事態に陥った時、このやり方が実施されて一時的に封鎖する事で危機を逃れるのである。

当時、この冷凍睡眠に入ったのは乗員全員。

当時のリストを見ると、この中に――――





――――カイは含まれていなかった・・・・・・・・





 これは当たり前だ。

タラーク・メジェールを発見したのは今から100年以上も前。

第一世代に該当する人達が乗員していた船に、カイが居る筈が無い。

もし居れば、カイが第一世代になってしまう。

それは無い・・・・・

問題はその乗員達の個人情報―――つまりは遺伝子情報である。

ドゥエロは治療した際に摂取したカイの遺伝子情報と、この乗員達の遺伝子情報を参照してみた。

すると、





――――カイは全く適合しない・・・・・





 乗員はタラーク・メジェールを創生した第一世代の者達全員の情報がある。

タラークで生まれたのなら、当然適合しなければおかしい。

クローン技術を使用して生まれたのだから、ごく僅かでも似たような遺伝的情報が受け継がれている筈である。

なのに適合しないという事は―――





カイはタラーク出身ではない。





「カイ=ピュアウインド・・・・・・何者なんだ・・・・・・?」


 その問いは――――本人にも答えられない。





 





 














































































<to be continues>

---------------------------






小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]