VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 9 -A beautiful female pirate-
Action23 −新世界−
惑星アンパトスには大きな人工島がある。
人口設備の整った設置面積の広いこの島には、都市が建造されていた。
海表面が八割を占めるアンパトスの人々が住まう場所で、カイ達の上陸先でもあった。
上空よりゆっくりと発着場に着陸した小型船。
運転室より様子を見守っていたカイは、何気なく呟いた。
「……なんかさ」
「?どうした」
「何事もなく無事に到着出来るって、当たり前なのに感動してしまうのはどうしてだろう・・・・・・」
「……コメントは控えておこう」
実感のこもったカイの感想に、些か不憫げにメイアは目を伏せた。
砂の惑星にミッションと、どこか新しい場所に到着する度にカイは何らかの被害に遭った。
本人の責任では全く無いのだが、今回無事に到着出来たのには感慨が沸いてくるのには無理も無いかもしれない。
発着場で安全着陸した小型船、その出入り口より扉が開かれてカイ達は顔を出した。
「お待ちしておりました、ムーニャ」
「あ、あんた……待っててくれたのか」
小型船の前で出迎えてくれたファニータに、カイは汗混じりの苦笑いを浮かべる。
話し合いの時とは違って、ファニータの他に男女二名が礼儀良く並んでいた。
真ん中にファニータがいるのを見ると、二人は従者なのだろう。
ゆったりとした礼服に、胸に収められた仮面―――
三人の大仰な服装に変な違和感を感じながらも、カイはゆっくりと船から降りた。
「待たせてすんません。こっちも準備とかあったんで」
「お気になさらず。
貴方様をお待ちしていたこれまでの年月を思えば、苦などありません」
「そ、そう……?そう言ってくれると助かるけど、はは……」
ファニータが心からそう思ってくれているのは分かる。
分かるからこそ、カイは背筋にこそばゆいものを感じた。
歓迎してくれるのは本当に嬉しいし、丁寧な対応に好感すら覚える。
ただ、ここまで敬われる理由が今いち釈然としないのも事実だった。
不意に襲う背中につっつく感触にカイは一歩下がって、
(何だよ?)
(随分歓迎されているようだが、お前への感謝だと受け止めるべきなのか?)
小声で耳打ちするメイア。
ファニータのみならず、従者の二人もカイに恭しく頭を下げている。
ある程度の事情を聞かされていても、現実味の無い光景ではあった。
(……俺もよく分かんねえんだよな、その辺。
何か神様扱いされてるみたいなんだが)
(…お前を?理解出来ないな…)
(同感だけど、ちょっとむかつく)
二人でぼそぼそ話している横を、マグノが通り抜ける。
ゆっくりと船から下りて、ファニータと向き合う。
「悪かったね、突然押し掛けて。
……見たところ、いつぞやの影響は無いみたいだね」
「全てはムーニャのもたらした奇跡。感謝しております」
「い、いや、もういいから」
発着場は都市の高部に位置しており、街並みが見渡せる。
石造りの古風な家並みが綺麗に並んでおり、往来に人々が歩いている。
アンパトス独特の風習なのか、人々は全員が同じ礼服を身に着けている。
少し見上げれば都市部の向こうに青々とした海の世界が見え、景色を美しく彩っていた。
この平和な景色を壊そうとしたのが十日前の敵だった。
カイの命懸けの決行によって辛くもユリ型は消滅し、この星に平安をもたらした。
マグノはその激戦の余波を心配していたようだが、杞憂に終わったらしい。
安心するマグノの隣で、背筋を伸ばしてカイは街の様子を見つめる。
「へぇ……町の周囲が水で覆われてるんだ。
ほぉー、タラークとは随分違うんだな……おお、子供が走ってる走ってる。
すげえ!?何か店っぽい所もあるぞ!?」
「遊びに来ているのではないぞ、カイ。恥かしいからやめろ」
きょろきょろしたり、珍しいものを見つけては歓声を上げるカイ。
無邪気な子供と変わらないその仕草に、溜息混じりにメイアは注意する。
窘められて、カイは口を尖らせる。
「感動の薄い奴だな。お前はこの都市を見て何にも感じないのか」
「お前こそどうしてそんなに浮ついている?珍しい光景なのは分かるが……」
興奮した様子のカイが理解出来ないメイアだった。
観光で上陸しているならともかく、大切な話をする為にここへ来ているのだ。
刈り取りの脅威は未然に防いだが、諦めるとは限らない。
現在におけるこの星の現状を知り、対策を練る必要はあるだろう。
それに今後の旅に少しでも必要な物資や情報も集めなければならない。
遊んでいる暇など無いはずだ。
目の前にはこの星の代表者がいる。
交渉相手に弱みを握られない為にも、毅然としていなければいけない。
戦闘時には頼りになる男だが、普段のこの緊張感の無さは何とかならないだろうか?
もう少しちゃんとしていれば、私も―――
メイアは首を振った。
最近妙に思考が逸れる傾向がある自分に、叱咤を入れる。
そんなメイアの葛藤なぞいざ知らず、カイはやれやれと肩を落とす。
「お前にとってはどうでもいいかもしれんが、俺には特別なの。
何しろ―――初めての外の世界だからな」
「外の……?」
妙な言い回しに、メイアはきょとんとした顔をする。
眉目整った顔立ちに不釣合いなその表情に、カイはふっと顔を綻ばせた。
「ずっとタラークで育ってきたからな。
憧れてたんだよ、宇宙の向こう側に。
どういう世界が待ってるのかなって、わくわくしてたんだ」
「し、しかし以前にも星には降りたただろう。
ミッションもそうだ」
「っっっんとに風情のねえ女だな、お前は。
人が住んでる事に意味があるんだよ、こういうのは。
見ろよ、この景色―――
故郷のメジェールや、お前の住んでたアジトにあったか?」
「・・・・・・・・・」
周囲の音が消える。
カイの言葉に感化されたように、メイアは改めて高台からの風景を見つめる。
無機質な鉄筋ビルにはない、古き歴史を感じさせる石造りの家々。
街並みに彩りを与える花壇と街樹。
舗装された石畳の道を歩く子供達。
そして何より―――
ごく自然に寄り添っている男女。
軍事国家のタラークにも、国家船団メジェールにもない新しい姿。
男と女が当たり前のように其処に居る世界―――
「……何か変な話だけどさ、此処を見ていて改めて分かった気がする。
タラーク・メジェール―――俺らがつまんねえ事にこだわってるのかって」
「………」
メイアはただ静かにその世界を見つめていた。
「平和に暮らしてるじゃねえか、ここの連中。
どうして俺らには出来ないのかな・・・・・・」
「……」
答えは無い。
肯定も否定も今ではもう出来ない。
肯定するには余りにも沢山の日々をメジェールで過ごして来た。
否定するには余りにも沢山の気持ちをカイに与えられた。
真実は目の前に―――
隣り合って肩を並べて見つめるカイとメイアを、マグノは微笑ましく見つめている。
声をかけるような野暮な真似はしない。
黙って傍らを一瞥すると、補佐役であるブザムは心得たように頷いた。
「少しお時間をいただいてもかまいませんか?
あの者がこの星を気に入ったようですので」
待たせた上での申し出だが、ファニータは快く頷いてくれた。
「かまいません、どうぞごゆっくり見学なさって下さい。
我々は儀式の準備を整えておきますので」
「儀式……?」
訝しげに問い掛けるブザムに、ファニータは微笑むのみだった。
まるで微笑みの仮面を被るかのように、ただ無垢な笑みを―――
カイが上陸して三十分。
此処に、水面下での徹底抗戦が行われていた。
勝利に必要なスキルは気合と根性。
そして、料理である―――
「ジュラ、ジュラ!美味しいご飯が出来たよ。
一緒に食べよーよ!
「閉じこもってばかりだと錆びちゃうピョロよー」
ディータとピョロ。二人の賑やかな声が通路に響く。
白い三角巾にエプロン、ピンク色の鍋掴みに湯気の立ち上る土鍋。
おおよそ一般服とはかけ離れているスタイルだが、ディータが着こなすと途端に魅力が溢れる。
懸命に相手を思い遣る気持ちがエッセンスとなり、若奥さんのように可愛らしい。
対面者は扉の向こうにいるのだが。
「……出てこないピョロね……」
「うーん、お腹すいてると思ったんだけど……」
今回助手役を務めるピョロと二人して、ディータはしょんぼり顔だ。
彼女達は今、一つの部屋の前にいる。
上陸前にカイに頼まれて、ジュラの看護兼様子見で部屋の前を陣取っているのだ。
幸い、他のクルー達はそれぞれの職務についていて誰も居ない。
多少騒いだ所で、何処からも苦情は来なかった。
もっとも反応がないのは部屋の主も同じで、その事実が二人を悲しませている。
難しい顔をして考え込むディータに、一条の閃きが射す。
「こういうのはどうかな?
ディータが地震だ!って叫んで、ロボットさんはドアに体当たりするの」
「それはいい考えだピョロ!早速実践し―――」
『・・・・・・真面目に考えて下さい、お二人とも』
天井から降ってきた声に、二人は顔を見合わせた。
<to be continues>
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