VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 9 -A beautiful female pirate-
Action21 −上陸−
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正直、悩んだ。
何とか説き伏せようとしたが、ジュラが部屋から出てくる気配は無い。
言いたい事は全て言い終えたので、カイは扉にもたれかかったままジッと座っていた。
他人を貶す事は簡単だが、救う事は難しい。
ジュラからの反応は無い。
バーネットの話では自分が事の原因だと言っている。
元凶に何を言われようと聞く耳なんて持てないのかもしれない。
(せめて原因が分かればな・・・・・・)
落ち度があったというのなら素直に反省しよう。
当人のジュラだけではなく、親友のバーネットまで落ち込ませているのだ。
非を認めず、馬鹿げた意地を張るほど馬鹿じゃない。
そんなものはただのガキの見栄っ張りで、自らを貶めているだけだ。
かといって、何が悪かったのかをストレートに聞くのも愚かだ。
反省点が自分で見つけなければ何も始まらない。
(・・・放っておく訳にもいかないし、あっちもあっちで気になるしな・・・・・・)
上陸時間は目の前に迫っている。
自分をムーニャなどと言って崇め奉る女性・ファニータ。
助けられた恩義と惑星アンパトスの言い伝えとの事だが、釈然としない。
根幹には何かもっと不可思議で、不気味な謎が眠っている気がしてならない。
何より、惑星へ上陸する条件に自分が含まれている。
ここで突然拒否すれば、あちら側も拒否する可能性もある。
情報と補給、二つの貴重な資源をみすみす棒に振ってしまう。
(ぬああああっ!どうしよう!?)
ジュラは気になる。
でも、アンパトスも無視出来ない。
ジュラをこのままにすれば彼女だけではなく、バーネットとの関係も悪化する。
アンパトスを放置すれば、マグノやブザムに迷惑をかける。
十日間安静にしていた自分を待っていたのだ。
どちらも無下には出来ない。
究極と呼ぶにはいささかオーバーだが、カイには難しすぎる選択肢だった。
(・・・・・・うーん・・・・・・うおっ!?)
突然腰から盛んに鳴り出した軽快な音に、カイは跳び上がる。
慌ててズボンのポケットを探ると、固い感触にぶつかった。
「何だ、通信機か・・・・・・って!?あれ、俺ポケットに入れてたっけ?」
メイアにもらった通信機。
ユリ型との戦闘から入退院に仲間との顔合わせと、どたばたの連続で忘れ去っていた。
着替えた時にはなかったような気がはしたのだが―――
疑問はとりあえず横にどけておいて、カイは通信機のスイッチを入れる。
「もしもし?何だ、青髪か」
『何だとは何だ。何処をふらついている』
クールな声が耳に届く。
小型モニターに映し出されている蒼い髪の女性に、カイは応答した。
「ちょっと野暮用だよ。お前こそどうしたんだ」
『時間だ。お頭がお前を呼んでいる。
急いでブリッジに戻って来い』
「ぐっ・・・・・・」
ある程度予想はしていたが、厄介だった。
結論は一向に出ていない。
時間だけが差し迫っており、彼に結論を求めていた。
画面の向こうのメイアが眉を潜める。
『どうした。お前にしては歯切れが悪いな』
「いや、その・・・・・・」
目の前の扉に目を向けるカイ。
惑星への上陸は確かに大事だ。
今後の旅に役立つ貴重な経験が積めるかもしれない。
しかし、ジュラは―――
メイアはカイの逡巡する顔を不思議そうに見つめ、やがて柔らかい眼差しを向ける。
『・・・・・・カイ、お前は今何処にいる』
「ど、どこって、俺は―――」
『プライベート・エリアか?』
「え、や、あの・・・・・・」
『本当に正直な男だな。咄嗟に嘘はつけない。
いや嘘はつけるが、本当に大切な事には嘘は言いたくないのか』
「ちぇ、分かったような事言いやがって」
『フ・・・・・・』
不貞腐れたような顔をするカイに、メイアは小さな微笑みを向けた。
素直に笑顔を見せる事は今でもないが、最近は本当に表情が柔らかくなった。
馬鹿にされたような感じだが、カイにも不快感は無い。
『・・・・・・ジュラの事か』
「やっぱ、知ってたか」
『当たり前だ。ジュラは私のチームメイトだ。
容態はともかく、現況は耳にしている。
もっとも・・・・・・・・・私も力にはなれていない』
少し落ち込んだ声で、メイアは話す。
『惑星での戦い以後、部屋から一歩も出ていないそうだ。
話し掛けてはみたのだが、何を言っても返答が無い。
無理にこじ開ける訳にもいかないが、そのままにしておけば精神は病んでいくだけだ。
・・・・・・正直、皆困り果てている』
「そっか・・・・・・周りの連中も気にはしてるんだな」
心の奥底では、薄情な連中だと思っていた。
ジュラがこんなにも悩み果てているのに、バーネット以外誰も気にしていないのかと。
部屋の周りの寂しさに、カイは腹を立ててすらいた。
でも、事実は違った。
他の連中に心配していたのだ。
心配して、悩んで、それでも対策が立てられなくて―――
この場に誰もいないのは、ジュラの負担になるのが怖かったのだろう。
反応の無さに悩む今の自分に、その気持ちは痛いほどよく分かった。
「青髪。何でこいつが―――」
『・・・どうした?』
「い、いや、いい。忘れてくれ」
何でこんな風になってしまったんだ?
思わず聞いてしまいそうになる自分の弱さが嫌になる。
自分の過ちは自分で気付かなければ意味が無い。
もしも分からないのだとしても、ジュラを助け出すのは自分でなければいけない。
その責任だけは果たす必要はある。
『・・・お前の気持ちはよく分かる。しかし―――』
「時間は迫ってるってんだろ。分かってる」
『・・・・・・』
「・・・黙るなよ。別に俺はお前を責めているんじゃないんだ」
メイアに沈痛な顔はしてほしくはない。
バーネットもジュラもああなった今、メイアには元気でいてもらいたかった。
周りの人間が落ち込んだ顔をしていては、こちらも滅入ってしまう。
似合わない感傷なのは分かっているが、今回ばっかりは思い遣る気持ちがあってもいいだろう。
こんな心境の変化に、自分でも笑いたくなってくる。
「・・・・・・ここでボケっとしてても仕方ねえからな。
分かった。すぐにそっちへ行く」
『いいのか?ジュラは―――』
「話したい事は話した。これ以上何をしていいのか、正直分からない。
放ったらかしには出来ないが、ここに居てもあいつの迷惑になるだけだ」
―――分かっている。
こんなのはただの詭弁、言い訳に過ぎない。
ここに訪れた沢山の仲間達と同じ、ただ何も出来ず去るだけに過ぎない。
事実上、放置したのと変わりはない。
今考えられない事が、後になって考えられるなどと思うのは一種の甘えだ。
困難な事を後回しにして、目の前に頑張るも何もない。
後でやる、いつかは成すという考え方では一歩も前進した事にはならない。
現実にねじ伏せられた大人の理屈だ。
自分が一番嫌っていた現実だ。
悔しいと思う。
何も出来ない自分にひどく苛々する。
宇宙一だの英雄だのと言っておいて、一人の人間も満足に助けられない。
何でも出来ると言っておきながら、逃げているようでは口だけだ。
しかし―――どうすればいい?
親友のバーネットや長年のチームメイトのメイアにもどうしようも出来なかった。
沢山の仲間達やブザム・マグノといった重鎮達も考えあぐねている問題。
人の心を取り扱う繊細さが求められている。
勝利条件は何もなく、戦略は無限にして唯の一つもない。
解答が用意されていない、人類の根幹に携わる命題だ。
カイにとっては初めての―――心の戦い。
このまま放っておけない。
でも、向こうもそのままにするのは―――
「・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
――――うん・・・・・・・・・・・・・?」
『カイ・・・?』
突然思案に暮れるカイに、メイアは戸惑う。
いつも何か思いつけば豹変したようにその場に考え込み、思考に入り込む。
そうして鮮やかな戦略をいつも見せるカイだが、メイアはカイが考え無しの無能だとは既に思えなくなっている。
発想の奇抜さには呆れもするが、大胆さと細心さを兼ね備えるカイの考え方には注目していた。
やがて考えを終えたのか、カイは表情を明るくしてメイアに話し掛ける。
「青髪、二つ頼みがある」
『いつも突然だな、お前は―――それで?』
滑稽だとは思うが、メイアも内心で先行きに期待はしていた。
話を促すメイアに、カイは小さな声で話し掛けてくる。
「一つは時間の延長。後十分だけ待っててくれるように、ばあさんに伝えてくれ。
ガスコーニュにちょいと話がある」
『ガスコさんに?』
突然出た名前に、メイアは目を見開いた。
何を思いついたのかが、相変わらずさっぱり理解出来ない。
当惑するメイアに、カイは追い討ちをかけるように言う。
「二つ目は赤髪とピョロをここに呼んでくれ。
金髪の部屋の前―――はまずいか。
プライベート・エリアの前に集合って伝えてくれ」
『ディータにピョロ?
・・・・・・カイ、お前何を考えて―――』
疑惑を顔に出して画面に詰め寄るメイアに、カイはずばりと言い切った。
「別に大した事じゃない。
俺が出来る事をやっておくだけ。それじゃあ頼んだ。
通信、切るぞ」
『待て。まだ話をきちんと―――』
プツンと容赦なくカイは切る。
説明するには時間がない。
決行するには急いで行動に取り掛からないといけない。
カイはジュラの部屋の扉に顔を向ける。
「―――金髪。せめて部屋から出てこないか?
俺もそうだけど、皆だって心配してる」
『・・・・・・』
反応がないのは承知済み。
「そうか・・・・・・分かった」
そのまま離れる。
これ以上、何を話し掛けても無意味だ。
部屋から離れてプライベート・エリアから出て行き、辺りを見渡す。
人の気配は一切ない。
何回か確認した後、カイは通信機を取り出してぼそっと話し掛ける。
「―――ソラ、いるだろ」
『イエス、マスター』
通信回線も開かず、スイッチも入れていない通信機より少女の声が溢れ出る。
やっぱりという確信と、どうしてという疑問が付き纏う。
「・・・・・・話は大体聞いていたか?」
『詳細は把握しております。ご指示を』
「その前に―――俺は金髪に何とか元気になって欲しいと思ってる。
お前はそれでいいのか?」
『マスターのご命令とあらば』
「そうじゃない。俺はお前の意思を聞きたいんだ。
お前はあれだ、その・・・・・・あいつらの事を嫌って―――」
『・・・・・・お心遣い、ありがとうございます。
マスターのお気持ち、嬉しく思います。
ですが、問題ありません』
ソラはそのまま平静な声で己が意を伝える。
『ディータ=リーベライ、メイア=ギズボーン、ジュラ=ベーシル=エルデン。
彼女達は貴方の剣であり、翼であり、盾。
そして―――貴方の戦友です。
お力になれるのなら喜んで』
不思議と、彼女が微笑んでいる気がした。
ソラも無差別に嫌っている訳ではないらしい。
それだけ知っただけでも、少しは安心できた。
「そっか・・・・・ちょっと意外な気がするな。
お前にも俺の他に好きな奴がいたんだ」
『肯定です。ディータ=リーベライとは一度接触も致しました』
「いつだ、それ!?」
『地球第三十二先住施設で、マスターを助ける為に彼女とお話を』
地球第三十二先住施設?
単語を反芻するが、さっぱり聞き覚えがない。
唯一思い当たるのがミッションだが、今はそれを聞いている場合じゃない。
「分かった。
その話は後で聞くとして―――赤髪に協力するのに異存はないんだな?」
『ありません。ですがマスター、お話がよく・・・・・・』
「今から話す。いいか?お前は―――」
こうして前準備を済ませ―――カイは惑星上陸へと向かった。
<to be continues>
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