VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 9 -A beautiful female pirate-
Action7 −御破算−
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<to be continues>
『敵機、12機撃破』
画面に色濃く表示される識別と状況報告。
ヴァンドレッド・ディータから放射された最大威力のキャノンが、敵目掛けて火を噴いた結果だった。
瞬時に敵を塵にし、役目を終えたかのように残影を残して光は消えていく。
残されたのはたった一つの戦果だった。
「やった、やった!ディータ達の勝ち!」
「馬鹿、まだ半分倒しただけだ」
モニターには尖兵たるキューブの群れが、戦列を崩されて乱れているのが見える。
まさか一瞬で半数もの味方が倒されるとは思わなかったのだろう。
プログラム外の劣勢に、状況対応が乱れているのが分かる。
『敵、識別確認。キューブタイプ、残り11機。
未開惑星地軸方向より、32機が接近中』
「あれだけじゃなかったか・・・・」
戦力がやけに低いと思ってはいたが、案の定である。
予想された事態にさして混乱もなく、カイは操縦の要であるラインパネルに手を伸ばす。
ディータは嬉々としてカイの手の平の上に手を置き、しっかりと握る。
「えへへ・・・・」
「何、にやにやしてんだ?気持ち悪い」
合わされた手の平を見つめ、ディータは心地良い感触を覚える。
伝わる温かみはカイの存在を身近に、背より感じられる存在感は絶対的な頼もしさがあった。
この人が一緒に居る限り、絶対に大丈夫。
ディータは自らを奮い立たせ、しっかりと前方の敵を見やった。
(ふーん・・・)
その表情を後ろから覗き見て、カイは感心したように表情を緩める。
何があったのかは知らないが、ここ数日でディータは随分変わってきた。
自己を大事にしてきたとでも言うべきだろうか?
自分を卑下する事無く、自らのありのままを肯定している。
戦いの最中にはしゃいだりする面は相変わらずだが、その辺はディータの持ち味だろう。
カイもまた表情を引き締めて、手を握り返す。
「第二波、行くぞ。敵を引き付けて拡散砲を放つ!」
「了解!」
大規模艦隊戦闘時に放った起死回生の一撃。
肩口から一対のキャノンを前方に伸ばし、強力なエネルギーをチャージする。
収束されるエネルギー値を点検して―――
(・・・収束がやけに遅いな。前はもうちょい早かったんだが・・・)
考えてみれば、さっきの一撃も変だった。
多数のキューブを相手に回避すらさせずに滅ぼしたが、それで終わり。
背後の惑星に影響が出なかったのは嬉しい誤算ではあるが、計算違いだったのも事実。
(・・・やはり何か噛み合ってないのか?
それともホフヌングの影響か・・・?)
合体がまだきちんと適応していないのだろうか。
合体に適応もくそもない気がするが、そもそも合体自体異常現象なのだ。
自分達に多大な利益となるから使っているのであり、奇妙な現象なのには変わりはない。
ヴァンドレッドそのものは受け入れているが、この状況でなければどうだっただろう。
旅が平和で何の襲撃もなければ、ヴァンドレッドを使用していただろうか?
考えてみて、はたと気付いた。
(・・・俺とあいつらの関係と同じ・・・?)
ドレッドと蛮型の合体が出来る―――
女達と共に行動している。
鳥型を追っていた時、合体が解けた―――
怒りに駆られたあの時、ディータの存在すら疎ましかった。
(・・・って事は・・・・)
ヴァンドレッドに誤差が生じている―――
俺と女達との間が――――まだ噛み合っていない?
その原因は――――
(お前はあいつらを許せるのか?)
ラバットの声。
(男なんて大嫌い!)
マグノ海賊団の声。
ヴァンドレッドの真価は――――俺と女達にある?
「チームの皆がちゃんと離れたよ、宇宙人さん。
・・・・宇宙人さん?」
「―――あ、ああ、分かってる。かっ飛ばしていくぞ!」
カイは首を振った。
信憑性のある仮説だが、今論議して解決出来る問題じゃない。
頭を切り替えて、目の前に集中しないと危ない。
カイは深呼吸をして、そのまま視界に外に広げる。
宇宙―――憧れのソラ。
今だ地面にへばりついたままの自分でも、いつかは辿り着けると信じている。
夢と現実は違うのだと――
自分には何もないのだと分かっても―――
それでも、なお求め続ける。
己が存在に意味などなくても、宇宙はこんなに大きいのだから―――
カイは思考を消して、パネルに力強さを漲らせて叫ぶ。
「拡散砲、発射!!」
キャノンから放たれた光が、闇に大輪の華を咲かせた。
エネルギーの流れが幾束もの白き線となして、キューブに襲い掛かる。
ボディに突き刺さった光は見事に貫通し、キューブはなす術もなく破壊された。
次々に破砕する敵、敵、敵―――
大よそ数十分で、今回の戦いは大勢を占めていた。
「・・・敵が大勢の場合は使えるな。
ただ―――ドレッドとの乱反射を加えないと効果は薄い、か」
「・・・うん。ひょいひょいってよけられちゃったね」
まだ残影しているキューブの群れに、カイは難しい顔をする。
敵はやはり自分達を学習している―――
多くのキューブを倒す事は出来たが、何機かには回避された。
攻撃した後に避けたのだから、偶然はありえない。
明らかにこっちの攻撃がなんなのかを理解して、最小かつ細心に対応出来たのだ。
主砲が拡散して撃てる、と事実を知っていない限りあんな動きは出来ない。
何より気になるのは――――
「あれもあれでぴくりとも動かねえしな・・・」
キューブが何体撃ち倒されても、醜悪なあの新型はピクリとも反応しない。
ただぼんやりと戦場を漂い、成り行きを見守っているだけだった。
その不気味な静観ゆえに、他のメンバーも易々と攻撃を仕掛けられない。
何しろ今までが今までだ。
新しい無人機が襲来する度に、何かしらピンチに陥れられた。
楽観視出来る相手ではない。
カイは一筋脳内で思考を走らせて、決断する。
「・・・俺達の勝利は目前だ。勝ちは揺るがない」
キューブはほぼ全滅。
こっちの損害はドレッド・ヴァンドレッド共にほぼ無傷。
順調に戦ってもまず敗北はありえない。
カイは全回線を繋ぎ、ドレッドチームとブリッジに作戦を伝える。
「このままトドメを刺そう。
キューブはドレッドチームが、俺と青髪のヴァンドレッド・メイアであのデカブツを仕留める」
順調過ぎる―――正直そう思う。
敵がこんな易々と敗北を受け入れるだろうか?
第一、敵は自分達の戦力を重々承知している筈だ。
ちっぽけな戦力では倒せない事くらい把握してしかるべきなのに―――
出発した頃―――タラークを飛び出した頃の自分ならこのまま火力で倒しただろう。
まさかヴァンドレッド・ディータの最大出力を、あの新型が対応出来るとは考えにくい。
鈍重な外見からして、逃げ足も速くないだろう。
このままディータと合体し続けて、火力で殲滅を図る。
ある意味セオリーで、順当な対処法と思える。
しかし――――これまでの経験が警告している。
舐めるな、と。
その油断が命取りになる、と。
ヴァンドレッド・メイアの加速力は、様子見に非常に適している。
『ちょっと待ってよ!あんた、ジュラと合体する件は―――』
「忘れた訳じゃねえよ。
ただここでお前のとの合体を見せたら、敵に知られちまうぜ?
いずれ出す切り札なんだし、もっとかっこいい場面で出したいじゃねえか」
く・・・と心で歯止めをかける。
恥ずかしい、恥ずかしいが――――言わないとジュラは納得しない。
カイは早口でそっぽを向いて・・・言った。
「俺とお前の・・・初めての合体なんだしよ」
『ちょ―――カ、カイ!?え、あ、そ・・・・』
恥ずかしさで転げ回りたいのを必死で堪える。
何でこんな事を言わなければいけないのかと、自分を罵倒したくなる。
半分は嘘である。
初めから戦力で有利だと知ったからこその実験だ。
勝利は目前の今だからこそ、行うべき合体なのは明らかなのだ。
不利な戦況で合体に頼る危険性を、何より仲間に説いたのはカイの筈である。
ジュラに言ったカイの台詞は、さっきの己の言葉を覆している事になってしまう。
柄にも無く気取った言葉を用いてしまったが、効果はあったようだ。
ジュラは明らかに動揺し、顔をリンゴのように赤く染めている。
(まあ・・・・もう半分は嘘じゃねえからな・・・・)
さてと―――カイは神経を研ぎ澄ませる。
「じゃあそういうことでだな、赤髪・・・」
「ちょっと待って!
・・・・宇宙人さん、そんなにジュラと合体―――」
「分離!!」
強引に話を打ち切る。
言い訳するともっと恥ずかしいし、追及されるのも困る。
ディータが焦った顔で何かを言っているが、全て後回し。
釈明するのは後にして、カイは文句を言わせる間もなく機体を分離した。
そう―――
分離した。
『宇宙人さん、駄目!』
『油断するな、カイ!』
え・・・?
メイアとディータの通信に耳を傾ける間もなく―――
「あ・・・あおわあああああああああああああああああああっ!!!!」
凄まじいまでの引力が、カイ機を飲み込んだ。
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