VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 9 -A beautiful female pirate-
Action6 −集結−
敵襲来による対応は誰もが素早かった。
武装によるコーティングをレジクルーが手早く行い、パイロット達が乗り込んで一斉に出撃する。
別格納庫に収められているSP蛮型に、カイもすっかり慣れた操縦法で射出した。
ミッション戦で傷付いた痕跡は今だやや残っているが、戦闘に支障はない。
ウータンとの死闘は蛮型の装甲に激しい損傷を招いたが、整備クル−達の努力の賜物で修復完了した。
カイ機を先頭に、基本フォーメーションを展開するドレッドチーム。
カイの復帰は、チームパイロット達に心からの祝福を受けた。
『怪我はもう大丈夫なんですか?』
「平気、平気。暴れまわっても問題なし」
『大人しくしてなさいよ。あんた一人くらい、あたしらで面倒見れるからさ』
砂の惑星・大規模艦隊・ミッション戦と続く連戦。
激しい戦いの最中、カイが先陣を切って仲間を救ったのは周知の事実だった。
特に共に戦ったパイロット達は歴戦の強者であり、ゆえにカイの戦い振りは他のクルー達よりもよく分かっている。
チーム中でカイを疑う者は一人もおらず、皆の口振りは気心に満ちていた。
皆の歓待にカイは心身共に励まされ、奮い立つ。
「ま、今回は敵の戦力は大した事はねえからな。
ちょいと実験しようと思うんだ」
『実験・・・? 何よ、それ』
パイロット達の誰もが疑問符を浮かべる。
敵は続々とこちらへ迫っているにも関わらず、どの顔にも余裕はある。
むしろ、カイが何をやるのかに皆の興味が向いていた。
カイは全員に聞こえるように連絡範囲を広げ、説明を始める。
事前に話したメイア達と同じ説明を―――
『ヴァンドレッドの性能実験だよ』
『性能実験?』
出撃前、主格納庫の中央でジュラは興味があるように耳を傾ける。
『お前がやりたがっていた合体――確かに出来ると思う。
あの時ペークシスに巻き込まれた面子が合体出来ているからな』
ジュラが執拗にこだわっていたヴァンドレッドへの自機進化――
一度も試していない合体なのだが、別にジュラはただメイアやディータに羨望して切望しているだけではない。
例えばバーネットや他のパイロット達となら、ヴァンドレッドに進化は出来ないだろう。
そもそも蛮型とドレッドは設計上からして違う。
タイプの異なる二つの機体を合体させ、生まれ変わらせているのはペークシスの力だった。
ペークシス暴走時影響を受けたのはディータ機・メイア機。
そして―――ジュラ機。
可能性は十二分にあり、期待を持つのは無理もなかった。
『だからこそ金髪じゃないけど、一回試してみたいと思う。
ヴァンドレッド・ディータは火力、ヴァンドレッド・メイアは加速が特化された機体になった。
じゃあヴァンドレッド・・・カイも何かに特化した能力を持っているかもしれな―――』
『ちょっと待ちなさいよ! 何であんたの名前がつくの!?
華麗なジュラの機体なのよ。
ヴァンドレッド・ジュラできまりでしょ』
『何で女ばっかり名前を付けるんだよ! 合体出来るのは俺のお陰だろう。
新しい機体はヴァンドレッド・カイで決定』
『ヴァンドレッド・ジュラ! これは譲れないわ!』
『俺だって譲れるか! ヴァンドレッド・カイ!』
『きー!!』
『ぐぬー!!』
既に子供の喧嘩レベルだった。
『・・・お前達、緊急事態の自覚はあるのか・・・?』
『『う・・・』』
緊急サイレンは鬼のように鳴り響いている。
敵戦力がキューブ数十機に新型一機と、戦力的に弱小なのは確かだが油断は出来ない。
特に新型の能力は未知数で、決して侮れる相手ではないのだ。
メイアの冷めたコメントにジュラは気まずそうに黙り込み、カイは咳払いして続ける。
『とりあえずその件は後にして、だ―――
今回の敵はそんなに大した規模じゃない。ドレッドチームの連中と俺で十中八九片付けられる相手だ。
だから、この際思いきって実験といこう。
ついでにヴァンドレッド・ディータとヴァンドレッド・メイアの性能もな』
『あ・・・じゃ、じゃあディータとも合体してくれるの!?』
『何で嬉しそうなのか分からんが・・・一応そうだ。
お前と合体して、思いっきり主砲を撃った事もなかったからな。
どの程度の火力が出せるのか挑戦したい』
『・・・私との合体で最大速度を計るわけか』
『そういう事』
ヴァンドレッドを起動させたのはメイア機とディータ機。
ジュラ機とは、まだ一度も試していない。
能力的には刈り取りの追随を許さないポテンシャルを持っているのに、危機的な状況でしか扱わなかったのだ。
これでは宝の持ち腐れである。
もっとも、原因と呼べる原因はあった。
その最たるものが――カイとパイロット達との不仲だ。
男であるという理由で敬遠されて、チームリーダークラスのメイアやジュラとも疎遠だった。
会えば喧嘩、会わなくても嫌い合っている関係。
冷たい壁が互いの真ん中に立っており、機体の合体はおろかパイロットとの意思疎通もない状態だったのだ。
ヴァンドレッド具現化に必要なピースがばらばらだった昔――
今はカイのこれまでの活躍と人間性、その功績によって受け入れられた。
ディータとは元々仲は悪くなかったが、依存の傾向にあったディータをカイが拒否していた。
そんな彼女も今は少しずつ自発的になり、カイも少しずつ認めてきている。
メイアとはひどい確執があったが、戦いと諍いを通じて両者は歩み寄って来ている。
カイは人間的に成長し、その過程を見ていたメイアはカイとは対等に接している。
そして今回――ジュラとの合体となる。
『お前らも気付いていると思うが、敵はどんどん強くなってきてる。
倒せば倒すほど、奴らは俺らの戦力・戦い方・思考パターンを把握して次に生かしてるんだ。
相手の正体が分からねえ以上、俺達は受身になるだけでしかない。
あっちの最大勢力を知らねえからな、こっちは。
ならせめて、俺らの戦力は把握しておこうぜ』
敵は常に無人機で来ているが、決して無作為ではない。
襲撃は常に失敗に終わっているが、過去の教訓は必ず生かしていると言える。
キューブ型から始まってウニ型・クモ型・トリ型、と倒せば倒すほど進化し続けている。
そのパターンは様々だが、戦力増強を図っているのは間違いない。
相手の正体や刈り取りを行うその最終目的も分からず、理解出来ないがゆえに恐怖となる。
一方、マグノ海賊団やカイは常に一定の戦力で戦い続けなければならない。
蛮型・ドレッドの強化は望めず、物資・兵装の補給も限られている状態だ。
ペークシスが手元にある限りエネルギー面で困る事はないだろうが、それはあくまでペークシスが通常で在り続けた場合だ。
先のミッション戦以降ペークシスは力を失い、その光を弱めている。
パルフェの話によると、今も原因不明であるらしい。
このまま弱体化すれば、ニル・ヴァーナの運行にも関わる事態に発展する可能性もある。
『いざって時にしか役に立たないんじゃ、ヴァンドレッドだって無意味だ。
合体出来る理由も分からないしな』
『・・・この前ディータと宇宙人さん、離れ離れになっちゃったもんね・・・』
ディータも複雑な顔を見せる。
トリ型戦時、ヴァンドレッド・ディータは突如分離してしまった。
戦闘終了後ならまだしも、激戦の最中である。
慌てて再合体を試みたが何度やっても合体出来ず、カイは一人で戦って負傷する。
その後戦略を練って再度出撃した時、何故か合体は可能となった。
『・・・こうして考えてみると、ヴァンドレッドには不可解な要素が多いな。
頼りすぎるのも考え物かもしれない』
これまでの戦いを振り返って、メイアは考え込むように瞳を閉じる。
男と女の船の融合にペークシスの暴走、蛮型とドレッドの改良化。
加えて二体のヴァンドレッド誕生と、根本的な意味で何も理解せずにこれまで戦い続けてきた。
確かに今までは、それはプラスとなって発揮してきた。
でも、これからもそんな偶然に頼り続ける訳にはいかない。
『何言ってるのよ、メイア!
ヴァンドレッド・ジュラがあれば、これから先何があっても大丈夫よ』
『・・・何の根拠があって言ってるんだ、それは』
不穏な空気を察し、ジュラは自信満々でヴァンドレッドの有効性を語る。
メイアは逆にヴァンドレッドに慎重さを見せており、少し懐疑的だった。
ジュラの明るい姿勢に嘆息するメイアに、カイは肩を叩いて言った。
『いいじゃねえか、その為の実験なんだからよ。
合体してみて効果を試してみようぜ。どっちみち変わらねえよ、現状は』
『・・・それもそうだな』
手元の札で今後も戦いつづけるしか道はない。
その時手札が何か分からないようでは話にならないのだ。
要素不明の多さに少し自信を無くしていた自分に気付き、メイアは肩の力を抜いた。
今はジュラとディータを――そして、カイを信じる。
この船の為に、仲間の為に身を削ってくれたこの男に背中を預けてみる。
この先に幾度苦難が待ち構えていようとも、カイは自分達を裏切りはしない。
『――話はまとまった所で、出撃準備しない?
敵が待ちかねているわよ』
黙って聞いていたバーネットの言葉で、全員が表情を新たに頷き合った。
「全チーム、フォーメーション・ブロックα!
ニル・ヴァーナとヴァンドレッド防衛優先。敵を近づけるな!」
メイアの指示の元、各布陣が動き出す。
全チームを表面的に指揮を取るのはメイア。
そして戦場の要となるのは――
「まず俺と赤髪だ。行くぞ!」
「はい! がーーーったい!!」
最前線に飛び出した蛮型とドレッドが一つに重なる。
眩い光が放たれたかと思うと、瞬時に蒼き力を宿す機体が生まれた。
今回第一線を飾る主力機体ヴァンドレッド・ディータである。
「・・・やっぱり合体出来るよな。前は何が原因だったんだ、一体」
普通に目の前に座るディータを見て、コックピットで首を傾げるカイ。
以前からカイが考えている原因の一つに、パイロットのコンディションが挙げられる。
自分で言うのも何だが、あの時の自分は闇雲でガムシャラだった。
頭に血が上り、ただ目の前の敵に怒りをぶつける事しか頭になかった。
合体なんて頭の片隅にもなかったし、協力なんて鬱陶しいだけだった。
そんな自分の性根がディータを拒絶した?
だとすると、ヴァンドレッドとは――
「宇宙人さん、宇宙人さん! 敵さんがいっぱい!?」
「・・・ん? おわっ!?」
モニターに全方位で広がるキューブの数に、カイは慌てて思考をシャットダウンする。
だらだら考えるのは後。
まずは目の前の敵を倒す事に集中する。
「俺がメインで操縦するから、お前がサポート! いきなり火力最大でいくぞ!」
「うん! 任せて、宇宙人さん!!」
背中に搭載された大型キャノンが、左右に展開する。
出力最大で命令されたキャノンはその身に存分に光を蓄え、迫り来る敵に牙を向ける。
これまでとは比べ物にならない輝きは、敵味方問わず惹き付ける。
「実験その1、ファイヤー!!」
瞬間――光の本流が全てを飲み込んだ。
<to be continues>
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