VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action2 −美言−




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 メールを使うのはこれが初めてだが、機能的になかなか面白いと思った。

タラークに住んでいた頃は酒場が世界の全てで、買い物以外殆ど外には出ない。

用事が無いのもさることながら、身分が無いのが問題だったからだ。

三等民の階級も育ての親マーカスと同じにしただけの仮初め。

身分照合を求められれば、何一つ証明出来る物がない。

閉鎖的な環境に私生児以下の保証人無しで、カイは独りだった。

それは今でも変わりは無いが、周りに人間はいる。

通信手段もあり、直接話せずとも文面で事を伝えられるこのメール機能は興味深い。

意にそぐわない内容ばかりだろうが、カイは早速閲覧する事にした。

基本的な操作はメイアとパルフェに教えてもらっている。

受信フォルダにカーソルを合わせて、即クリック。



カチッ



『メールは無事届いているか?確認の為、返信をしろ』



 差出人はメイア=ギズホーンとある。


「いきなりあいつかよ。愛想もクソもねえな」


 プレゼントしてくれた本人からの用件のみのメール。

愛想も何も無い簡潔な内容で、本人の性格が伝わってくる。


「ま、あいつにそんなの求める方が間違えているか」


 とりあえずカイは返信は保留にして、次のメールを開く。

この一通のみが昼間で、残りは随分進んで同じ日の夜になっている。

その間のメールは一切無い。

この時間内はラバットが来訪していた時間帯だった。

そうなると、次のメールは落ち込んでいた当時からという事になる。

カイはメールを開いた。



カチッ



『突然ごめんね、覚えてるかな?
ミカだけど―――』



 少し考えて思い出す。

見習いで世話になったイベントスタッフのリーダーだ。

バイタリティの高さと目標意識を持った女性で、結構気が合った。

続きを読む。



『黙ってるのは嫌だから、正直に言うね。
艦内放送を許可したのはわたしなの。本当にごめんなさい。
言い訳かもしれないけど、あんな事になるなんて思わなかったから・・・』


 
 初耳だった。

艦内放送されていた事実も知らない。

思い出してみれば、あの時河原であれだけの面子がいたのも変な話だった。

ラバットとの対決は秘密裏で終わったなのだから、本当なら事実を知っている筈が無い。

なのに自分を心配して集まったという事は―――つまりはそう言う事なのだろう。



『カイがあれから落ち込んでるって聞いて、その・・・・
本当にごめんなさい』



 文面はこれで終わっていた。

他にも何か書きたかったのだろうか、メールの後半は空白で埋まっている。


「・・・別にいいのに」


 正直、腹は立たない。

面白がって放送されたのだとしても、内容は全て事実なのだ。

醜態ばかり晒したが、全て自分の責任だ。

他の連中がどう思ったかは知らないが、少なくともここまで謝られる事ではない。

カイは少し思い悩み、次のメールを見る。



カチッ



『うちゅうじんさんへ。
でぃーたです。
めーるのつかいかたをぱるふぇにおそわりました。
うちゅうじんさんのごへんじ、まってます』


「・・・・簡単だな、おい」


 メールのアドレスを知って、ディータなりに頑張って打ってきたのだろう。

言葉もきちんと変換されておらず、たどたどしい文面だった。

本来タラークにはタラーク語、メジェールにはメジェール語として言語の違いがある。

その特徴の最たるものとして、「漢字の使用」が挙げられる。

タラークでは漢字とカタカナを主に、メジェールではひらがなが主流とされる。

その為タラークでは平仮名が読めない人間が多く、逆にメジェールでは漢字が読めない人間が多い。

その言語の壁を取り除くのがメールの翻訳機能なのだが、ディータはちゃんと活かしきれていないらしい。

タラークの酒場で本を読んでいた時分がなければ、カイでも危なかった。

実際、三等民の身分で平仮名が読めるのは珍しいと言っていい。


「・・・ん?」


 よく見ると、同じアドレスで何通か続いている。

ディータが連続で何度か送った形跡だ。

時間帯が違うのを見ると、一つ一つ手間をかけたのだろう。

とりあえず見てみる事にする。



カチッカチッ・・・



『と、とどかなかったかな?
もういちどおくります』



『もうねないとおこられるのでねます。
おやすみなさい、うちゅうじんさん』



『ごめんなさい!いいわすれてた。
あの、きょうはほんとうにありがとう。
げんきだしてね。
でぃーたはうちゅうじんさんはかっこよかったっておもってるから』



「・・・・・・かっこよかった、か」


 河原で一緒になって、その後飯を食べた時は元気に振舞っていた。

気持ちの上では整理がつき、自分なりにその後を見出せたので気分も良かったからだ。

ディータも安心したと思っていたのだが、やはり気にはしていたらしい。


「返事くらいしてやるか・・・・」


 届いているか分からないと、やはり不安になってしまう。

ディータは特にカイを慕っているので心配なのだ。

カイもその辺りは分からないでもないので、返信を決めながら引き続きメールを見ていく。

受信記録は次の日になっていた・・・



カチッ



『怪我の具合が悪いと聞いた。
二日間行方不明になっていた上に、激戦の連続だった事もある。
今は無理をせず、しっかり療養しろ』



 差出人はブザムとある。


「・・・ミッションやラバットとの事は聞かないのか、あいつ。
しつこく質問されるかと思ってたが」


 メールにはその類には一切触れておらず、カイの身を案ずる内容だった。

職務に熱心なブザムにしては珍しい、一個人を思うメ−ル。

特にカイはクルーではないので気遣う必要はない。


「は・・・らしくないのは俺も一緒か」


 部屋に閉じこもるなど、本来のカイにはありえない。

そんな暇があるなら、船内を駆け回っている方がいいという男である。

持ち前の行動力は、思考を遥かに超える。

ブザムもここ二ヶ月以上でカイについては熟知している。

艦内放送をしていたのであるならば、ブザムも一部始終を見ていたんだろう。

人を気遣う一面を見せるブザムに、カイはほんの少し気恥ずかしさを覚えた。

次のメール―――



カチッ



『メールはきちんと使えているか?応答がないと分からない。
怪我がひどいようなら、ドクターにきちんと見てもらえ』



 メイアだった。

メールの返信をしていないのを気にしての文面。

何事にも生真面目なメイアらしい、カイへのメッセージだった。


「あーあ、あの時の青髪はもう見れないのかな・・・」


 今はもうパイロットスーツを着こなして、職務に励んでいる筈だ。

服装が違っていただけとはいえ、あの時の彼女は少し違っていたように思えた。

何度も関心を寄せ、対等にも扱ってくれた気がする。

芝居を強制したカイだが、それも終わってみると寂しい気もする。

返信はとりあえず後回しにして、メール閲覧を優先する。


「・・・・ん?」


 差出人を見ると、次もメイアだった。

時間帯は深夜。

それも真夜中に位置する時間帯で、普通ならとっくの昔に眠りについている時刻だった。

そんな時間にメールを送信した事に疑問を感じつつ、カイはメールを開く。



カチッ



『ドクターより、お前の今後の出撃を見送って欲しいと頼まれた。
本人の希望があるまでは、そっとしておいてやってほしいと―――』



「あいつ・・・・」


 部屋の正面を見るが、ドゥエロの姿は変わらずない。

そういえば昨晩どころか、ここ数日顔も見ていない気がする。

この監房にも帰って来ていないのではないのだろうか?

カイはその事にようやく気付いた。

ドゥエロもバートもカイを思い遣って一人にしてくれたのだと―――

続きを見る。





『・・・すまない、こんな時どんな事を言えばいいのか分からない。
ただ、これだけは伝えたい。



お前は正しい事をした。



ディータを守ってくれた事、皆を思い遣ってくれた事に私は感謝している。
お前をブザマだと、少なくとも私は笑ったりしない。
胸を張れ、カイ。



お前の復帰を、私は心から待っている』





「・・・・・・・」



 手が震えているのを自覚する。

メールを次々と開いていく・・・・




















『ちょっと!出撃を止めるってどう言う事!?
あんた、まだジュラと合体していないじゃない!
直ぐに出なさい、今直ぐ出なさい。いいわね!



・・・あんたらしくない事、しないでよ』



カチッ



『―――だって、さ。
ジュラったら、メールが打てないからって私に頼むのよ。
さっきのメールはジュラの言葉そのままだから。



・・・私だってそう思ってるよ。



元気出しなさいって。
御飯、また作ってあげるから』



カチッ



『お頭がそっとしておけって言ってたんだけど、ちょっと心配になってさ―――
あんな男の言う事なんか気にしないほうがいいよ。
その場しのぎの誤魔化しよ誤魔化し。



またブリッジに顔を出してね、えへへ』



カチッ



『えーと、ベルからメールとか来てる?
あの娘、ちょっと心配してたわよ。
気持ちが落ち着いたらでいいからさ、一度会いに来てやって。
きっとセルに喜ぶと思うから』



カチッ



『本当に身勝手な人ですね、貴方は。
わたしに、約束を守ってくれた事のお礼も言わせないんですか?



絶対に来てください。



でなければ、今度こそ本当に絶交します』




















パイロット達、レジクルー達、そしてそして・・・・




















「・・・・・」


 カイはただ、目元をそっと拭った。































































<to be continues>

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