VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action1 −部屋−




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―――何、これ?





 兆し、と言う言葉がある。

興りえる事象に対する前触れとでも言うべきか。

事実が事実として発生する前兆が、時折姿を見せる時がある。

カイはそれを今、目の前で味わっていた。


「えっ・・・・・・と、ま、まさか故障とか?」


 カイの起床時間は意外と早い。

マグノ海賊団内で定められている一斉点灯時刻より、やや早めに目を覚ます。

睡眠時間も七時間取れば十分で、普段から健康的に日々を過ごしている。

実に健全―――と言えるべくもなく、カイはただ寝たい時に寝ているだけだった。

マグノ海賊団に入団していないカイは、基本的に時間の規則に縛られていない。

定職は蛮型のパイロットであり、戦いが本業である。

現状で最大の脅威である刈り取りとの戦いは今だ続いている。

その刈り取りだが―――ここ最近襲撃が途絶えた。

ミッションでの攻防戦は、あくまで相手はセキュリティメカ。

カイはカイでその後ウータンとも戦いを繰り広げたが、明確に言えば敵ではない。 

一週間前の自爆機以降、刈り取りはすっかりなりを潜めてしまった。

こうなると、パイロットに出番は無い。

マグノ海賊団ドレッドチームは日夜修練を続けているが、カイは枠の外にいる存在。

修練を積む必要も無ければ、その権限も無かった。

数日前にこのニル・ヴァーナに帰艦したカイだが、立場は全く変わらない。

セキュリティは0のまま。

メイア達との交流はおろか、海賊団の占めるエリアに立ち入るのも禁じられている身だ。

ろくに行動も取れず、パイロットとしての仕事も無い。

それにカイはここ数日、部屋に閉じこもっていた。

肩の怪我の負傷もある。

手当てが済んだばかりなのに河原で大暴れし、怪我はあっさりひどくなった。

ドゥエロはきつい注意をうけ、アマローネ達には笑われて、ディータには心配されてしまう。

メイアの姿を探したが、結局見つからなかった。

話を聞くとお頭やブザムも見かけたとの事で、カイはそれなりに驚いた。

治療を済ませ、皆と別れ―――その後会っていない。

監房内に引きこもって、カイは数日間誰とも会わなかった。

食事も殆ど取らず、簡易ベットにうつ伏せて起き上がらない日々。

医者としての立場からか、ドゥエロはいたく気を使ってくれたが大丈夫だからと断った。

バートもそれなりに声をかけてくれたが、軽く返事を返すのみ。

ディ−タは看病に来てくれたが、同じく入室も拒否した。

―――誰とも会いたくはなかった。

別に理由があった訳ではない。

ラバットの一件は吹っ切れている。

メイア達と顔を合わしづらいかといえばそうでもなく、嫌われている事に関しては今更だ。

ただ―――独りで居たかった。

自分の事、メイア達の事、地球の事・・・・・

次々と降り注ぐ疑問や悩みを置き去りにして、ただ空虚に身を横たえる日々。

己が白く―――あの宇宙のように。

無とは何も考えない事ではない。

透明とは悩みを捨てる事でもない。

命題は常に突きつけられ、ユメはまだまだ幻。

マグノ海賊団については、絶対に決着をつけなければいけない壁だ。

それを踏まえて尚――――ただ独り、じっとしていた。

周りを拒絶し、外界との接触を断つ。

そんな日々が三日か四日続き――――腹がすいて醒めた。

現金なものだが、一度自覚すると歯止めが利かない。

空腹のまま起き上がり、そのまま監房内の洗面場で顔を洗う。

鏡を見ると、寝すぎと空腹でひどい顔色をしていた。

嘆息してふと他の部屋を覗くと、バートとドゥエロの姿が無い。

点灯時間前に二人共にいないのは珍しかったが、ここ最近の自分を思い出して詮索は止めておいた。

陰気に部屋に篭る男の傍に居たくないのは、自分だって同じだ。

自室に戻って欠伸をし―――それに気付いた。

通信機。

メイアにもらった携帯用で、使い勝手はかなりいい。

機能はコンソールやパソコンに比べれば雲泥の差だが、通信機能は普通に使える。


(そういえば放置したままだったな・・・)


 ラバットとの対決後、机の上に放り出してそのままにしていた。

カイは黒のTシャツに着替えて、ベットに座って通信機を手に取る。

そのまま何とはなしにスイッチを押すと―――





『メールが85通届いています』





  液晶の綺麗な画面に表示される文字。


「・・・・・・」


 考える。

メール―――手紙の代用でネット空間を利用してのコミュニティツール。

文章はおろか、画像や音楽データも送れる手軽な通信手段の一つ。

メイアからそう教わっていた。

そのメールが・・・・・





『メールが85通届いています』





「・・・・何、これ?」


 メールと言うからには、誰かが自分宛てに送ったのだろう。

メールアドレスは「何でも屋」に役立てるようにと、メイアが全員に知らせてくれた。

それはいい。

問題はその数―――


「85通って一体!?」


 当然だが、差出人がいなければメールは存在しない。

まさかアドレス間違いで85通も無いだろう。

まぎれもなく、このメールの束はカイ宛てに送られた文面だった。


「こ、壊れてないよな・・・?」


 乱暴に扱った記憶は無いが、丁寧に扱った覚えも無い。

故障しているとは考えにくいが、このメールの量は何なのだろう。

自分に対して送ってくれたメール―――


「悪口か何か、か?
・・・ありえるだけにむかつくな」


 通信機を貰ったのはミッションでの事件の時なので、数日前にあたる。

その後通信機は一回も触っておらず、そのまま放置していた。

たった三日か四日でこれだけの苦情・文句が集まるとは、呆れるしかない。

女は変にねちっこい面があるようだ。

周到と言うか、遠回しとでも言うべきか、直接的に文句を言ったりしない。

嫌いな人間は無視したり冷たい態度で望んだりと、影でこそこそ嫌うのだ。

精神的にいたぶるつもりはないのだろうが、少し陰湿ではある。


「・・・俺に文句があるなら直接言えばいいのによ」


 カイは嘆息し、通信機を机に放り投げてベットに身を横たえる。

いちいち見る気にもならない。

ラバットとの事で考えさせられる事が多いのに、余計な問題を増やさないで貰いたいものだ。

ふうっと息を吐いて、そのまま天井を見上げる。





――薄汚れた天井。





 立ち上がって少し手を伸ばせば、あっという間に届くだろう。

見上げれば直ぐに届く天井――――些細な事を気にする自分。

ソラはまだまだ果てしないのに。

監房と言う醜い汚れた卵の中で、尚も何かにしがみ付こうとする自分。

宇宙はあんなにも広いのに――――自分はこんなにも狭い。

心をただ真っ白に――――

そうなりえたら、どれほど良いか。

空の向こうを垣間見て、その広さを知った。

なら――――悪あがきでも目指してみると決めたのではないのか?


「・・・・ち、しょうがねえな」


 カイは頭を掻きつつ起き上がり、通信機を手に取る。

例え嫌がらせでも、目を背ければ逃げているのと変わりない。

それでは今までと同じだ。

思えばずっとそうだった気がする―――

海賊に反対しているのは、何も無いとしった今でも揺ぎ無い。

捕虜とされ、命すら危うい状況に陥っても反論を繰り返した。

メイアとはずっと口論を繰り広げ、拒絶する周りにはいつも不満を晒してきた。

どうせ仲良くなど出来ない。

海賊であるこいつらと関わりあっても何にもならない、そう思ってきた。

でも―――それはただの停滞でしかなかったのではないか?

現状に不満があっても何も出来ない自分。

高過ぎる壁に霹靂して、自分の鬱屈をただ吐き散らしていただけに過ぎないんじゃないだろうか?

何のことはない、ただの不貞腐れ―――子供の我が侭。

本気で現状が歪んでいると感じていたのなら、何故変えようとしない?

女達のやり方が気に入らないなら、正しい姿勢を見せればいいんだ。

見返すくらいの勢いでぶつかって行けば良かった。

表立って不平不満を口にしないだけなら、タラークにいた頃と変わりは無い。

反発している女達のやり方と何ら違いは無い。

カッコよく、堂々と生きていくと決めた。

あやふやだったユメを確かなものにすると誓った。





ソラへ向かうんだと―――





カイは通信機の電源を押して起動させ、メールフォルダを開く。

受信フォルダに並ぶ沢山のメールを目にしながら、とりあえず一番古いメールから開いていった。





向き合って行こう―――たとえどんな悪意でも。































































<to be continues>

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