VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action61 −廃残−




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 河のせせらぎが耳に響く―――





 日の差さない真っ暗な自然の世界で、水の流れる小さな音が聞こえてくる。

ふんわりと葉が揺れる木々と、穏やかにその生命を輝かせる草花達。

優しい草原と森林に、心地良き清水の河。

その世界は人の手で作られた幻だった。

ニルヴァーナ中央ブリッジ階下・艦内庭園―――

普段の激務に疲弊するクルーの心と身体を安らげるべく、作られた人為的自然の領域。

その河のほとりで一人静かに―――カイはその身を下ろしていた。


「・・・・・・・」


 時刻は夜半過ぎ。

職務時間は過ぎて、消灯はとうの昔に終えている。

庭園には他に人の気配はなく、カイは一人でただ座っていた。


「・・・・・・・・・・・・」


 見つめる先は透明なる水―――

瞳はただ透き通り、自然をありのままに映していた。

汚れたジャケットは傍に無造作に置かれ、黒いTシャツに白い包帯が肩口に巻かれている。

丁寧に編み上げられた包帯は完璧な処置を施しており、しっかり固定されていた。

見た目は派手な負傷跡に見えるが、本人に苦痛の色はない。


「・・・・・・・・・・」




















 ラバットは去った――――




















 貫かれた肩をそのままに、交差する事の無い思考を互いにぶつけ合う。

己が心は不透明、思考は霧の中。

負傷した身体で勝ち目はなく―――それでも抗った。

ディータを何故庇ったのか、その真意は・・・・・今でも分からない。

捨てる事も守る事も出来ず―――――突き放すのも適わなかった。

ただ、身体を張っただけ―――

断じて自分はディータを助けてはいない、そう思う。

結局あの時も――




















『そこまでだ』


 張りがあり、それでいて遠くまで響く音域のある声。

カイは激痛を抑えて出入り口を見、安堵と驚愕を同時に顔に出した。


『おまっ―――』


 一種即発。

目の前に向けられた銃口で、譲り譲れないの攻防を行っていた最中―――

もう一歩で散らされそうだった命は―――信じていた者に救われた。


『・・・遅れてすまなかった、カイ。状況は把握している』

『青髪っ!?』


 救援に駆けつけたのは―――他ならぬメイアだった。

カイはラバットがいるにもかまわず、身体を引き摺って立ち上がる。


『お前、その怪我―――っ!?』


 カイ同様、メイアもまた傷を負っていた。

美しい容貌の半分を覆う髪飾り―――

その髪飾りに沿うかのように、額から瞳の下まで血の跡が見える。

もっとも出血は少なく血が滲んでいる程度だが、それでもかすり傷とは程遠い。

表情を変えるカイに、メイアは目を閉じて小さく首を振る。


『・・・大丈夫、心配しなくていい。
こいつに――――』


 そう言って、メイアは背中から何かを降ろす。

ゆっくりと、あくまで丁寧に扱って降ろされたモノに、カイは納得したように笑う。


『・・・なるほど。嫌われたか、そいつに』

『―――通路を歩いていて、突然圧し掛かられた。
凶暴ならそうだときちんと言っておけ。ひどい目にあった』


 ディータ奪還の鍵にして、カイの最終戦略ポイント。

絶対的な価値を持ち、手に入れればディータの安全は確実に保障される。

メイアに頼んだモノ―――ラバットの相棒にして、唯一の味方。


『・・・・やられたな。お前の差し金か、カイ』

『人質には人質―――そう考えただけだ。
人じゃねえけど』


 それがこの―――ウータンだった。

床に寝かされたウータンは微動だにせず、ただ目を閉じている。

その姿を目にした途端、ラバットは明らかに舌打ちした。

十中八九手玉に取っていた事態の全てを、五分にまで引き戻されたのだ。

面白いはずもない。


『・・・あんた、そいつに―――』

『気絶させた。手荒な真似はしていない。
―――もっとも、私も甘かったようだがな・・・・』


 拘束されたディータに、負傷しているカイ。

銃口を突きつけるラバットに、厳しい表情で望むメイア。

カイと別行動を取り、ウータンを探して通路を歩いていた時にメイアは当の本人に抱き付かれた。

襲ったのか、それとも愛情表現の一種かはメイアには分からない。

どちらにせよ飛びつかれた際に油断していたとはいえ、メイアは額に傷を負ってしまった。

突然の襲来に通常パニックになるが、そこはドレッドパイロット・チームリーダー。

勢いのまま身体を反転させて起き上がり、ウータンを捕獲した。

手痛いタイムロスである。

メイアは急いでカイを探し、艦内放送を頼りにここへ辿り着けた。

そして―――全てを知ってしまった。

持っていたリングガンを突きつけるメイアにラバットはしばし躊躇い、大人しく両手を上げた。


『・・・分かった、分かったよ。
まさかこんなおっかねえ姉ちゃんだとは思わなかったよ。
ま、今の姉ちゃんも俺は好きだがね』

『・・・戯言はいい。銃をしまえ。
そして、二人から離れろ』

『オッケ−オッケー、そうしましょう。
そいつは丁重に扱ってくれよ。俺の相棒なんだからよ』


 その後は、本当にスムーズだった。

互いに人質を交換し、ディータの拘束は解かれた。

ラバットはウータンを抱きかかえ、その場から撤収した。

呆気ない幕―――

事件はあっさりと終わってしまった・・・・・




















 カイはそのまま寝そべる。

照明が落とされ、見上げる先は真っ暗な天窓。

その先には広大な宇宙が広がっている―――


(・・・・・・)


 結局―――何も出来なかった。

情報は得られず、ラバットにかき乱されて終わった今日。

印象は強烈で、最初から最後まで言い様に玩ばれてしまった。

策を練って追い返しはしたが―――見逃してもらったようなものだ。

その気になれば、自分は殺されていただろう。

カイはごろりと横向けに寝そべる―――




















『・・・・何で俺を求めたんだ?
―――何もないと知っていて』


 立ち去り際に投げかけた言葉―――

何か意味があって聞いたのではない。

ただ、どうしても知りたかった。

中身のない不出来なガラクタと見破りながらも、ラバットはカイを欲しいと言った。

その理由を―――

ラバットは足を止め、振り返らぬままに言った。


『言ったろ?』


 そのまま語る。


『俺は、お前を気に入ったからさ』


 その背中で―――




















(・・・器が違う・・・・な、くそ・・・・・・)


 敵わない――――痛感した。

人間的な倫理を、社会的な概念を全て振り払って、自分の言葉で語っていたラバット。


(俺は・・・・あんな風に割り切れなかった・・・・)


 マグノ海賊団――――彼女達は善か悪か?

以前ははっきり出していた答えも、霧の中に消えてしまった。

いや―――今思えば、答えでも何でもなかった。

ただ、なぞっていただけ―――

世の中の常識とやらに―――

育てられた環境に甘んじて、理想だけを見つめていた平和な日々が自分を埋めていただけに過ぎない。

自分の意志でも何でもなかった。

何処かで聞いた言葉、誰かが描いた夢、皆が求める理想像――――

それだけだった―――


「・・・・・・・」


 唇を噛み、ぎゅっと目を閉じる。

自分の足で、自分の世界を築いているラバット―――

敵の立場だった自分をあっさりと好きだと言える豪胆さ。

自らの意思で歩み、人生を築いた者だけが言える言葉だった。

最初から負けていたのだ・・・・・・


「・・・・うぐ・・・・ぐっ・・・・」


 漏れそうになる嗚咽を必死に噛み堪えて、カイは激情を抑える。

恥かしかった。

心の底から情けないと思った。

切り捨てる事も出来ず、守る事も敵わない今の自分。

何がしたかったのだろう、俺は?

自分は一体何を求めている?何を考えている?

叶えたい夢は――――何だったんだ?

言葉だけの飾りだったのだろうか。

空虚な自分を認めたくなくて――――差別する全ての者達に見返してやりたくて。

ただ、それだけだったのではないのか?

夢なんて初めから――――自分なんて存在は最初から空っぽだったんじゃないか?




だから何も言えずに――――


「・・・・う、うう・・・・・ちくしょう、ちく・・・しょう・・・・
・・っん・・・・ぐ・・ず・・・うう・・・・」


 旅立って二ヶ月。


「う・・・・うああああああああああああああああああああああああーーーーーー!!!」





 この手の平に何もないと―――悟った。





































































<to be continues・・・LastAction −ソラ−>

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