VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action53 −紅−
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<to be continues>
男はただ在った―――
見上げる視線はただ真っ直ぐで、感情の色も浮かんでいない。
男の周りを覆うのは静寂、ただそれのみ。
空間内の中央を、たった一人で佇む歴戦の戦士。
広大なその舞台の主役を務めながらも、男の表情に感慨も悲嘆もない。
ただ超然と、男は一点を見つめ続けていた。
視線の先に在りしモノは金色に輝く一体の人型兵器。
SP蛮型・カイ=ピュアウインド機―――
主人の居ない機体は戦いの合間で、ゆっくりその傷付いた身を休めていた。
「・・・・悪かったな、嬢ちゃん。案内までしてもらってよ」
ただじっと機体を見つめたまま、男は背後の暗がりに声をかける。
途端闇は這い出るかのように身動ぎをし、ぼんやりと人の形を取った。
容姿は愛らしく、大人と子供の面を持つ少女―――
目を引き付けられるのは、少女に巻かれた一本のワイヤーだった。
太いワイヤーは暗がりに潜む一本の柱に固定されており、少女はその下で静かに座っている。
「・・・ううん、いいの」
少女は何も語らない。
今置かれている現状は、まぎれもなく目の前の男の手によるものだ。
ここへ到着したそのすぐ後身動き取れないようにされて、強制的に監禁されている。
男も傍にいるので正確には監禁とは言えないが、自由を封じられているのに変わりは無い。
でも―――少女の目に非難や憎悪の色はなかった。
そのまま黙して何も語らない少女に、男は初めて一瞥した。
「・・・嬢ちゃんは強いな」
「えっ!?そ、そんな事ないよ」
生まれて初めて言われたように、少女は目を見張ってぶんぶん首を振る。
男は微笑ましそうな顔をして、闇の中でその表情を覗かせた。
「謙遜する事はねえさ。嬢ちゃんはいい女になるぜ。
俺が保証するよ」
「うう、何だか恥かしい・・・・」
誉められて悪い気はしないが、自覚はないのでこそばゆい。
少女は縛られた身体をもそもそ揺すって、恥かしさを身体から逃がそうとした。
男はふっと笑って、天井を見上げる。
「・・・本当はここまでするつもりはなかったが・・・・
流石にあんなもん見せられちゃ―――こうするしかなかった」
少女はその時気付いた。
表情こそ明るく笑っているが、その実―――苦々しさを抱えている。
少女の胸に奇妙なしこりが生まれる。
決して消えない小さな粒が胸の奥に引っ掛かり、少女は重い口を開いた。
「あの・・・お店屋さん・・・・」
「ん・・・・?」
続きをどうぞ、と促すと、少女は少し考えて見上げる。
「・・・・どうして・・・・お店屋さんは、その・・・・・」
こんな事をするの・・・・?
何度も何度も頭の中で反芻し、口に出そうとしていた。
機関部から連れ出された時も、ここに至るまでの通路でも―――
少女は聞きたかった。
この目の前の男が悪い人間だとはどうしても思えない。
誘拐同然に連れ出されたのは確かだ。
心の底から納得して付いて来た訳でもなければ、男の行動目的も理解していない。
尚且つこうして縛られて、人質にまでされている。
男の理不尽なやり方に反発を覚えるのはむしろ当然なのに、少女はただ黙って無抵抗でいつづけた。
悪い人じゃない――――そう思いたかった。
自分の心を信じたかった。
でも、どうしても言葉が続けられない―――
信頼を求めるには、少女と男の距離はあまりにも広すぎたから・・・・・
ほんの昔―――
メジェールで海賊をしていた頃の少女なら、聞く事を躊躇わなかっただろう。
相手の都合や思いを考えず、自分を満たす為に相手に近付く。
思えば、なんと自分勝手な事か―――
少女はその頃には分からなかった心の重みを今、感じ取っていた。
男は少女を見下ろし、ふうっと息を吐いた。
「ほんと、嬢ちゃんは優しいんだな・・・・・
いっそ悪党だったら、俺もこんなには迷わなかったんだが――」
少女の葛藤を、男は痛いほど感じていた。
純真であるがゆえに、こんな自分にさえ信じようとするのだろう。
男には表面上にしかなかった先程の機関部での会話すら、少女には楽しかったのかもしれない。
そんな少女を利用している自分に、男は舌打ちしてやりたかった。
これから―――
男は思いを馳せる。
これから自分がする事を少女が知れば――――どう思うだろう?
憎むだろうか?
それとも恨むだろうか?
・・・分からない。分からないが、ただ一つ言えるのは―――
少女を不幸にする。
それだけは、確かだった。
「―――さっき、嬢ちゃんは男について知りたがってたな」
「う、うん・・・」
突然の言葉の意味が分からず、少女は目をぱちくりする。
男はそんな少女の様子を面白そうに見つめ、語り始める。
「一つ、いい事を教えてやる。
いい男ってのは―――」
「・・・・・・」
ごくっと唾を飲んで、少女は男の言葉を一語一句逃さないようにする。
男は少し間を置いて、こう言い放った。
「―――時を求めるのさ」
「と・・き・・・?」
生真面目に聞き入る少女を前に、
「・・・・ちょっと難しいか、嬢ちゃんには」
思わず語った事に照れ臭さを感じているのか、男は苦笑いを浮かべる。
しかし、少女は真剣な表情で首を振る。
「そ、その・・・・・はっきりとは分からないけど・・・・・」
正直、少女には言葉の半分も理解出来ていない。
時―――
男が求めるというその単語の意味を、少女は知らずにいた。
でも、
「・・・・宇宙人さんも・・・・そうなのかなって・・・・」
少女にとって、男とはその人のみだった。
初めは憧れ、今は求め、追い駆けている。
絶対にいつかはその人の隣に立つのだと、少女は懸命でい続けている。
そんな人が求めているのが男の言うモノなのだとすれば、その意味を知りたかった。
「ちなみに―――その宇宙人ってのは、あの野郎の事か?」
あの野郎の指す人物が誰なのかは、さすがの少女も分かる。
少女が力強く頷くと、男は視線をそらして―――
「そうだな・・・・・・多分、あいつもそうなんだろうな。
男ってのは心底馬鹿だからな―――
幻に過ぎねえと頭で分かってても求めちまうもんさ。
ただ、そうなると・・・」
男は言った。
「あいつは夢の為に―――――お前らを殺すだろうな」
無。
空虚ナ揺リ籠ノ中デ眠ッテイル。
惨劇は栄養、糧は血。
何も考えず、何も生み出さない。
永続される悲劇。
永遠たる刻。
絶望という名の闇。
――――拒絶。
否定が存在意義。
死、生、死、生、死。
屍。
殺伐とした混沌。
『ワタシハヒトリ』
でも―――
あの娘は違う。
虹色の光を愛している。
アカイセカイの中心で、
『ワタサナイ』
赤い瞳の少女は、
『カリトッテヤル』
歓喜の産声を上げた。
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