VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action36 −気心−
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「共鳴反応?」
『はい、それが原因だと思われます』
暗闇の中で、機関部チーフ・パルフェと海賊団頭目マグノと――
「詳しく説明してくれないかい?
アタシは専門的な話が苦手でねぇ・・・・」
――
年寄りめいた口調でも、茶目っ気がある。
思わず釣られて微笑んでしまいそうな雰囲気に、パルフェはモニター越しに苦笑した。
『先程お話した通り、ペークシス・プラズマの出力が低下しています。
一定出力を100とすると、現在は約75。
3/4のエネルギーしか放出されていません』
パルフェから連絡があったのは、つい先程だった。
カイとメイアの二人が密談を交え、ブリッジを出て行ったすぐ後。
突如艦長席に付属されているコンソールのモニターに、パルフェが映し出された。
通常何か異常が起きれば、副長のブザムを通すのが決まりである。
その規則を破ってまでマグノとのコンタクトを取って来たのは、それ相応の理由があるからだろう。
マグノはブリーフィングルームに戻って、一人相談に乗っていた。
「そりゃまた厄介だね・・・・
旅を続ける上で、船にどれくらいの影響が出そうだい?」
ペークシス・プラズマはニル・ヴァーナの心臓とも言える。
人間の血液に値するエネルギーを船全体に流し、無尽蔵の供給をしている。
ニル・ヴァーナは男と女の船が融合して誕生した船。
その融合も、戦力の要であるヴァンドレッドを生み出したのもペークシスだ。
ペークシスの異常は、船の運航に致命的な影響を及ぼしてしまう。
パルフェが内密に回線を通じてきたのも頷ける。
「今の所、まだはっきりとしていません。
ですが、このまま低下し続ければドレッド使用のみならず、艦内の施設に悪影響が出ます」
「そして、その原因がさっき言った共鳴現象にあると?」
「まず、間違いありません。
ヴァンガード新型兵器・ホフヌングはエネルギーのあらゆる同調が可能です。
戦闘時カイがペークシスと共鳴してから、出力が低下の傾向にあります」
ラバットと名乗る謎の人物とカイが、命運を賭けて戦い合った。
突如出撃した黒き機体が船に攻撃を仕掛け、カイが必死で徹底抗戦。
船を守りきり、相手側を撃退する事に成功する。
その際にカイはペークシスのエネルギーを供給し、大規模に放出した。
パルフェの話を聞き、マグノは考え込む。
事実だけ聞けば、カイが原因であるのは明白。
しかし、カイの取った行動を罪だとは思わない。
カイはまぎれもなく船を守り、マグノ海賊団を助けたのだから――
パルフェも同意見なのか、気持ちを察して追求はしない。
『それと、もう一つお伝えしなければいけない事があります。
こちらをご覧下さい』
データ受信中の表示が出て、ものの数秒で送信完了と出る。
マグノの手元のモニターが切り替わり、映像化される。
それまで表情を変えずにいたマグノが、ここに来て顔色を変える。
「これは・・・どういう事だい?」
『先程こうなりました。
これも詳細は不明ですが、恐らくは――』
結論を出さずして、パルフェの声は途切れる。
マグノも難渋な顔を法衣の下に見せて、黙り込んでしまった。
そこへ、
『お頭、保安クルーが男を連れて来ました。
急ぎブリッジへ――」
『分かった、すぐに行くよBC。
パルフェ、話は後でゆっくり聞くよ。
詳しい原因が掴めるまでは――』
『はい、内密に調査します』
・・・・一応、カイには伝えておこうと思うのですが』
顔色を伺う話し方だが、パルフェの顔はもう決めているようだ。
個人的な彼女の判断だが、マグノも快諾する。
「構わないよ。どうやらあの子が密接に絡んでいるみたいだからね」
『了解です!』
そのまま通信回線が切られる。
マグノもそのまま艦長席を稼動させて、ブリッジへと戻っていく。
双方通信も終えて、ブリーフィングルームの照明も落とされる。
静まり返る室内で――
白き光に包まれたペークシス・プラズマの残像が残っていた。
ブリッジには主だったメンバーが揃っていた。
マグノ海賊団を束ねるマグノはもとより、組織を支える幹部達。
ブリッジクルーメンバー全員に、カイを含めた男三人。
何より今日一番の注目株ラバットとウータンが真ん中に立っている。
「ようこそ、と言うべきかね」
「堅苦しい挨拶は抜きにしようぜ。その方がお互い分かり易い」
「それはありがたいね。上辺を取り繕うのは好きじゃない」
表面は穏やかに、内心は腹の探り合い。
ラバットとマグノの顔合わせは、穏やかならずも殺伐さのない応酬から始まった。
ラバットは名目的には主賓だが、招待状のない客人。
諸手を上げて歓迎される筈も無く、ラバットもそれを理解している。
平和的に話を進めるには、互いにその本心を明らかにしないとならない。
「・・・あんたの友達ってろくな奴がいないわね」
そんな二人を背景に、最前列のシートでアマローネが口を開く。
戦闘も終了し、周辺に敵反応も無し。
本当なら彼女の仕事も終わりなのだが、今は今で退席も出来なかった。
「おい。いつから俺はあんな親父をダチにしたんだ?」
アマローネの傍らに寄り掛かって、カイが腕を組んで様子を見守っている。
今の所、出番たる出番はない。
下手に口を挟むのもどうかと思い、カイは静観の姿勢でいる。
「あんたが連れてきたんでしょ?さっきも仲良さそうだったし」
「ちょっと一緒につるんだだけだ。
まあ命を助けてもらったの確かだけど」
その後命を狙われなければ、思わずにいられない。
あの戦いのお陰で、今微妙な感じに陥っているのだ。
変に煮え切らない関係で、カイも嫌気がさしている。
敵か味方か、この際はっきりしたいものだった。
「・・・・なーんか、やな感じよね。
男なんて皆そうだけど」
マグノと話し合うラバットを横目に、ベルヴェデールは興味のない様子で言い捨てる。
概況が平穏な事もあり、ベルヴェデールも小休止中で気を休めていた。
「・・・それってもしかして俺も?」
「あんたはその代表」
「さらっと言いやがったな、お前!?」
じろっと睨むカイに、ベルヴェデールは屈託なく笑う。
悪意があって言った訳でもなく、本人もそれは分かっている。
お互いにすれば、じゃれ合いに近い。
「・・・・・・・」
「ん、いま誰か・・・って、くまちゃんか。
・・・・ちなみに、何でそんな離れてるんだ?」
距離にして三メートル強。
歩幅的には数歩の距離先に、自分の席に座ったままのセルティックが見える。
普通なら聞こえない距離だが、カイの耳にはセルティックの幼さの残る声が聞こえたのだ。
話し声の絶えないブリッジ内でも、お陰ではっきり聞き取れた。
ただカイが気にしているのは、二人の物理的距離である。
「近づきたくないって事じゃない?」
実に言いにくい事を、はっきり言うベルヴェデール。
カイはげんなりとしながら、アマローネに目を向ける。
「・・・そんなに嫌われているのか、俺?」
「泣かせたんでしょう?当然だと思うけど」
カイとセルティックの間柄は、同僚の二人でも知っている。
恐らく、本人よりも詳しく――
セルティックも、心の底からカイが嫌いなのではないのだろう。
本当に毛嫌いしているのなら、まずカイに話し掛けたりはしない。
ましてや、出迎える為に足を運ぶような真似はしないだろう。
こうして今、二人を見ていても分かる。
「おーい、くまちゃん。こっち来て一緒に話そうぜ」
「・・・・」
「そ、そんなに大袈裟に首振らなくても・・・
え、何なに・・・?
近付いたら・・・うんうん・・・・絶交です・・・?
・・・絶交!?縁切り!?」
「・・・・・・・」
「・・・わ、分かった。近付かない、近付かないから。
で、何だ一体?・・・ふんふん・・・・
あの動物は・・・・何ですかって?
何って聞かれてもな・・・・・へ?
か、可愛いですって・・・そ、そうかな?
あ、愛嬌はあると思うけど・・・」
その様子を傍目で見ていた二人は、縫い包みに身を包む同僚について顔を寄せ合って話す。
「・・・ベル、セルが何言っているか分かる?」
「・・・分かる訳無いじゃない。あんな着ぐるみしているのに。
どうしてカイは分かるのかしら?」
元々人見知りなセルティックは、普段から声は控えめで小さい。
加えて着ぐるみを身に付けているので、唇の動きはおろか表情も判断できない。
なのに、カイには僅かな動作だけで会話を成立させていた。
物理的な距離はあれど、二人の間に差はない。
聞いているだけでも、どこか心を潤してくれる。
奇妙、それでいて繊細な二人の間柄。
口も挟めず見ていた二人だったが、思いもよらぬ第三者が訪れた。
「何を呑気にしてい!・・・るのですか、カイさん。
お仕事の最中です・・・よ!」
「たたたたたたっ!?ごめん、ごめん!?」
言葉や雰囲気は物静か、そして丁寧でやんわりとした仕草でメイアはたしなめる。
・・・無表情で耳を全力で引っ張っているのを除けば。
「・・・メイアもメイアで何があったのよ」
「だから私に聞かないでよ、アマロ」
セルティックといい、メイアといい――
今の服装や態度こそ極端だが、特にメイアは変わって来ている。
普段の仕事振りや責務のあり方は変わらない。
他人を必要としないのはいつもの事で、一人で職務に励むのも同様。
顕著に変化しているのは、カイと居る時だ。
クールはクールなのだが、どこか柔らかさがある。
時折覗かせる小さな微笑みは、本人も気付いていないだろう。
この船内の――
勇猛果敢、タラーク・メジェールに名を轟かせたマグノ海賊団が変わって来ている。
男の仕業と言えばそうかもしれないが、アマローネやベルヴェデールにはカイ一人によるものとしか思えない。
・・・もっとも、今メイアに叱られて申し訳なさそうに謝っているカイを見ていると、その幻想も崩れるのだが。
一方―――
「アタシらはメジェール、男達はタラークの出だよ。
カイにどんな話を聞いたのか知らないけど、今急ぎの旅の途中でね・・・・
あんたはどこから来たんだい?」
「故郷なんてねえさ。あんたらと似たり寄ったりの旅の最中――
もっとも、目的なんてねえがな。
気ままに彼方此方旅すがら、商売しながら生計立ててる」
ラバットは気のない様子で言った。
対するマグノは視線の鋭さを崩さない。
問い掛けや尋ね口調にも動じる様子も無く、マグノはそのまま続けた。
「カイが世話になったのには感謝するよ。
探していた所だったんでね」
「はっはっは、腹減らして目回してたぜ。
何したか知らねえが、苦労しているみたいじゃねえか」
「世話がかかる坊やなんだよ。いつも自由気ままでね・・・」
同情気味のラバットに、マグノはしみじみと頷く。
噂の張本人は当たり前の如く聞いていた。
「あいつら・・・・言いたい放題言いやがって・・・・」
「ほんとの事じゃない」
「そうそう」
「お前ら、うるさい!」
うがあと喚くカイに、きゃあきゃあとはしゃぐブリッジクルー二名。
正体不明の人間を相手にしている最中とは思えない呑気さに、マグノは嘆息しつつも交渉の手を休めない。
「・・・で、あんたの目的は物資の受け渡しと船内での商売だったね」
突然核心を突くマグノに、ラバットは一瞬表情を尖らせる。
が、仮にも宇宙を股にかける放浪者。
そのまま面食らうタマではなかった。
「ああ、久しぶりの客さんだ。しっかり稼がせてもらうぜ。
物資はあいつ個人に渡すが、いいな?」
「・・・カイに?」
艦長席の傍らで、ブザムは怪訝な声を上げる。
ミッション内の物資量の正確な見積りは判然としないが、かなりの量なのは間違いない。
それをカイ個人に引き渡すと言う言い回しが腑に落ちない。
「あれは俺とあいつが手に入れたもんだ。
分け前半々で、奴本人に渡すのが筋だろう。違うかい?」
正論である。
長旅を維持する為に、マグノ海賊団は喉から手が出る程物資を必要としている。
その為に是が非でも必要だが、ここで問題となるのはカイの立場である。
カイはマグノ海賊団ではない――
ゆえに、カイとマグノ海賊団は切り離して考えなければいけない。
ここで異論を挟めばカイが仲間である事を認めた事になり、前提を覆してしまう。
そこをつけ込まれれば、相手に弱みを握られるのも同然だった。
したたかに切り出してくる相手に、敏腕なブザムも交渉に難航する。
マグノは少しの間瞑目し、頷いた。
「・・・道理だね。
使ってない収納庫を一部カイに提供するから、そっちに積み込んでおくれ。
商売に関しても文句は言わない。
その代わり、船のルールには従ってもらうよ」
守らなければどうなるか、は口にするまでも無い。
殺気立っている周囲の保安クル−を目にし、ラバットはやれやれと肩を落とす。
「おっかない婆さんだな・・・・
分かったよ、了解したと言っておこう。
揉め事は俺も本位じゃない」
「・・・その言葉、忘れるんじゃないよ」
その言葉を最後に、交渉は終わった。
平和的には終わったが、進展たる進展は無い。
互いに腹の探り合いによる駆け引きを持ちかけ、双方共に得られた物は無かった。
一筋縄ではいかない相手に、マグノも認識を新たにする。
敵ならば脅威だと――
「・・・・大丈夫かな。あんな奴野放しにして」
場の雰囲気を察してか、アマローネは不安そうな声を上げる。
相棒のベルヴェデールも心配そうに表情を曇らせる。
が――
「大丈夫さ」
見上げると、カイが自信に満ちた笑顔を浮かべていた。
二人は知っている。
カイはその表情で―――
「この船に俺がいる限り、あいつに好き勝手はさせねえよ」
―――何度も励ましてくれた。
「な、くまちゃん」
「・・・・・」
「何て言ったの、あの娘?」
アマローネが尋ねると、カイはにっと笑って、
「不安にさせたら絶交です、だってさ」
<to be continues>
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