VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action14 −警鐘−




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 宇宙中継基地・ミッション。

広大な空間を保有しながらも長年放置されていた施設なのだが、構造そのものは区分化されている。

内部空調やセキュリティ類を統括する管理システムは中央部。

ミッションに訪れる地球からの船団を迎え入れる為の発着ポートは周辺部。

そして何より――

訪れた者達への憩いにと設立された居住区が外周部に存在していた・・・・

















「何か・・・・そのまんまって感じだな」


 来襲した敵の足止めに成功したカイとラバット。

ミッション内の構造を把握したラバットの先導により、二人はここ居住区へとやって来ていた。

大きな通路に沿って様々な施設関係が並んでおり、休息に最適な広場も設置されている。

広場にはベンチやテーブルが用意され、飲み水を供給する装置まである。

インテリアにも気を使っているのか、目を和ませる観葉植物が生けられていた。

もし数十年前に訪れていたら、この場を訪れれば少なからず心を躍らせていただろう。

ここミッションはもう何十年も見捨てられた場所――

かつての憩いの場も、今では他の区域と同じく腐敗が進んでいた。

添えられた植物関係は管理されていないがゆえに、当然枯れきっている。

物珍しさに彼方此方を見渡したカイも、流石にはしゃぐ気にはなれない。

ぽつりと第一印象を漏らしたカイに、ラバットは嘆息気味に返答する。


「ほっとけば自動的に廃棄処分になるからな。
別に片付ける必要もねえ」


 このミッションを統括していた者達が今どうしているかは分からない。

ただ言えるのはかつての殖民船団の航海も行われなくなり、ここも不要となったという事。

数十年という歳月は人も物も変える。

かつての管理者達が放置したこの場所は、そのまま廃れゆくしかなかったのだ。

ある意味で便利のいい後始末だったのかもしれない。

時代の年月を物語るラバットの瞳に哀愁のようなものを感じたのは、カイの気のせいだろうか?

横から見上げるカイに気づき、ラバットは話題を変えるようにカイを横目で見る。


「腕はもう大丈夫なのか?
・・・また倒れられたりしたら困るからな」


 本音なのか照れくさいのか、ラバットは後の言葉を付け足す。

カイの腕――

敵を誘導する為に負った怪我の為、一時的に気を失ってしまった。

見た目は派手な出血をしている重傷なのだが、カイの処置の悪さも原因はある。

何しろ止血処置もロクに行わず、怪我した部分を手持ちの布で縛っただけなのだ。

傷口を塞げば怪我が治る訳ではない。

その後ラバットの適切な措置により、今カイの片腕は清潔な包帯が巻かれている。

カイは包帯の巻かれた腕を振って、元気良く笑った。


「大丈夫だよ、これくらい。
ちょっと横になったら気分も良くなったし、元気回復だ」


 そのままブンブンと怪我した腕を振って、痛そうにのた打ち回るカイ。

傍目から見れば馬鹿な行為だが、それもまた回復している証でもある。

ラバットは呆れ半分の笑みを浮かべつつ、カイを見下ろした。


「あんなバクチをうった後なのに、もう馬鹿みたいに笑ってやがる。
どこからそんな元気が沸いてくるんだか・・・・」


 嫌味がこもっているに聞こえるが、ラバットなりにこれでも賛辞はしていた。

行き当たりばったりな作戦ではあったが、見事に敵を封じる事に成功している。

敵の来襲に気づき、即座に対応する臨機応変さ。

少ない情報から対処法を捻り出せる頭の閃き。

土壇場で臆する事のない精神力。

未熟な面は多々あるが、それでも普通の十代には出来ない事をカイは実行した。

タラークから飛び出しての旅だとは言うが、この戦い慣れた行動力はどこで身に付けたのだろうか?

少なくとも、一回や二回は自分を地獄に追い詰めなければ身に付かない。

カイ=ピュアウインド――

傍らで行動を共にするこの少年に、ラバットはますますの興味を持っていた。


「馬鹿野郎!お宝捜しだぞ!?
ここで燃えなかったら男じゃねえぜ」


 そんなラバットの心中など、カイは知る由もなく――

カイはうきうきしながら、通路を軽い足取りで歩いている。

ラバットはそれ以上カイに何を言っても無駄だと悟ったのか、溜息一つ吐いてそのまま歩く。

前を黙々と歩くラバットの背を見上げ、カイはこっそり自分のポケットを探る。

そのままごそごそしたかと思うと、カイはひょいと掴んで中の物を取り出した。

データディスク――

中央システムルームのガラクタより、カイは発掘した一枚のディスクだった。

金庫の中に保管されていたとはいえ、廃棄されたゴミの山に眠っていた物である。

古ぼけていて、誰が見ても重要な物には見えない。

見つけた当初、カイもがっかりはした。

厳重に金庫に隠されていたので、さぞ珍しいものがあるのではと期待したからだ。

出て来たのはたった一枚のディスク。

金庫内に保管されていて汚れはないものの、古い物であることには変わりはない。

そのまま放置しておこうとも考えた。

持っていても意味がない物だし、第一カイに解析出来る能力はない。

機械もなければ、知識もない。

食べ物になる訳でもなければ、武器になる訳でもない。

全くの無用の長物だった。

なのに、今も尚手にしている――


(何なんだろうな・・・これ)


 ラバットには何も言っていない。

何となくだが、目の前を歩く男には教えてはならない気がしたのだ。

ラバットならこのディスクの内容を解析出来るのでは、とは思う。

思うが、カイは結局見つけた事を話さなかった。

かと言って、捨てるにはこのディスクは意味深過ぎた。

中身が何なのか?

カイはその秘密を探りたかった。


(う〜ん・・・・パルフェかアマローネ辺りに協力してもらうか・・・)


 大きな眼鏡を付けた好奇心旺盛のエンジニアと色黒特有の魅力のあるブリッジクルーを思い浮かべる。

あの二人ならば、この程度のデータ解析はお手の物だろう。

協力してくれるかはどうかは分からないが、頼み込めば嫌とは言わない筈だ。

初対面の同時ならともかく、今では少しは仲良くやれて―――

途端、カイは肩を落とした。

愚か過ぎる自分が恥ずかしい。


(・・・・もういないんだっけ・・・あいつら・・・)


 船を飛び出して、そろそろ丸二日になる。

紆余曲折を得てこのミッションへと辿り着いたが、彼女達が今どうしているか分からない。

漂流した自分と同じ針路を取っているとはとてもじゃないが思えなかった。

今頃何処で何をしているだろう・・・・・

「刈り取り」の連中とでも戦っているのだろうか――


(・・・大丈夫かな、あいつら・・・・)


 ディスクを我知らず握り締めながら、カイは遠くにいるであろう皆を思い出す。

タラークを脅かす女達。

母星メジェールを追い出され、団結し戦い続けているマグノ海賊団。

戦力は強大でチームワークも強く、有能な者達が集まっている面々。

誰もが皆彼女達を恐れ、その強さを畏怖している。

彼女達本人も自分達は強く、どんな危機でも乗り越えられると信じて疑っていないだろう。

タラーク軍が誇るイカヅチに恐れもなく攻めて来たのがその最たる証拠だ。

しかし――

カイには、そうは思えなかった。

彼女達は強い。

そして――――弱い。

まだ二ヶ月くらいの付き合いだ。

断定する事は出来ないし、何よりカイは彼女達の昔を知らない。

どのような人生を、どのような修羅場を乗り越えてきたのか、カイには知る由もない。

別段、カイも知ろうとはしなかった。

興味はないといえば嘘になる。

でも、強行に人の過去を探るつもりはない。

結局、今の彼女達しかカイは見れないからだ。

何を聞いた所で空想にしかならないし、想像しか出来ない。

その事実を前提にしても、カイは彼女達が心配だった。

下っ端だけには留まらない。

リーダーを自負しているメイアにしても脆い部分はあった。

蛮型のシュミレーション時に震えたメイア―― 

顔色を悪くして、苦しんでいる姿は今でも覚えている。

他の面々にしてもそうだ。

ジュラはリーダー補佐の重みに苦しみ、バーネットはその姿を見て苦しんでいた。

ディータは何も出来ずに苦しみ、ガスコーニュは何もしてやれない事に苦しんでいた。

副長のブザムも、お頭のマグノも例外ではない。

彼女達にも限界はあり、逆境に陥ると途端に脆くなる。

一人一人が怯えて苦しんでいる姿を、カイは腐るほど見て来た。

その度に自分が何とかしないと、と奮戦し頑張って来た。


(う〜ん・・・・・・)


 不安だった。

こう言っては何だが、自分なしで故郷へ帰れるのかと思えてくる。

自惚れに過ぎない事は分かっている。

何よりも彼女達が自分の存在を認めていない。

セキュリティ0――

あの事実が何よりの存在価値の無い証だろう。

仲間入りする事も、自分から拒否した。


「おい、ぼけっとすんな。仕事するぞ。
敵さんがいつ脱出するか分からねえからな」

「うん?お、おう・・・」


 カイは咄嗟にディスクを仕舞い、愛想笑いを浮かべる。

ラバットは怪訝な顔をしながらもそれ以上何も言わず、ウータンと何やら手荷物から袋を取り出していた。

カイは息を吐き、首を振る。

終わった事だ。

全てはもう、終わった事――

彼女達は彼女達なりに頑張り、これからもやっていくだろう。

・・・・・・・・・・・自分がいなくても。

今は、自分の事だけを考えていかなければいけない。

タラークへ帰る為には物資を蓄えて、旅支度を整える必要がある。

唯一の船も壊れた以上、代わりの船も手に入れなければいけないのだ。

状況からすれば、自分の今後の方がよっぽど危ない。

カイは気を引き締めて、彼女達のことを頭から追い出した。


「よし!じゃあ見て回るか」

「お、やる気が出てきたようだな。
とりあえず、まずここにある物の品定めといこう。
使える物だけもらっていく」


 異存はないので、カイは素直に頷いた。


「オッケー、んじゃあお宝探し開始だ」


 二人はそのまま居住区の隅々まで見て回る。

ここ居住区は来訪者並びにミッションに住む者達の居場所であり、施設は充実している。

一つ一つを見て回って、カイは驚いたり感心したりしていた。

イカヅチに初めて乗船した時もそうだったが、何もかもが新鮮で初めてなのだ。

暗く気だるい日常にいたタラークにはなかったものが全てある。

漂流の末に不時着、突如の敵の襲来と慌しく、今までミッションを堪能する暇はなかった。

好奇心豊かなカイには何もかも目新しい。

特にカイが目をひいたのは、


「店が多いな、ここは」


 ミッションでの生活の関係か、居住区にはショップ類が軒並み連なっていた。

陳列されているのも様々で、旅に必要な食料品から服に始まり、見慣れない数々の変わった品々も用意されている。

興味の尽きないカイに、ラバットは口を開く。


「これほどの規模の基地だ。
昔は大勢の人間が滞在していた筈だ。
物資を分け合うには、店を開くのが一番平等だ。
不公平がないからな、物々交換より判りやすい」


 物資は無限ではない。

だからこその店であり、買い物となる。

それぞれの持ち物を売り買いし、生計を積み立てていくのだ。


「別に買い物しなくても、普通に分けていけばいいじゃねえか」


 ラバットの説明に、カイが疑問を挟む。

買い物が出来ない者も当然いる。

手持ちのない者には、店は不必要にしかならない。

カイの指摘に、ラバットは補足を入れる。


「買い物は気晴らしにもなるからな。
売り手と買い手、それぞれのコミュニケーションにもなる。
ここでの長期滞在や生活者には適したシステムになるんだろうよ」


 推論でしかないが、ラバットはそう説明を締め括る。

今でこそ誰もいない商店だが、当時は賑わっていたのだろう。

憩いという意味でも、お店があるのは滞在者にも心のゆとりになっていたのかも知れない。

カイは説明を聞いて興味深そうにし、それぞれの店舗内へと入る。


「ま、何にせよもう捨てられた物だからな。
今後に必要な物を貰っていこう。
代金は払えないけど、勘弁してくれよ」


 もうどこにいるかも分からない店主に詫びながらも、カイは楽しげに店内へと入る。

店の内部はどこも同じでシンプルであり、飾り気はない。

そのまま陳列ケースへと向かい、カイは中を覗き込んだ。

ケースそのものは裏に回れば中を取り出す事が可能で、悠々と手に入れる事は出来る。

実に簡単な作業だった。

簡単なのだが・・・・


「腐ってるじゃねえか、これ!?」


 目下カイが一番手に入れたいのは船。

その次に食料だった。

水は居住区の飲み場を使用すればどうとでもなりそうだが、食べる物はそうもいかない。

タラークへの道のりはまだまだ遠い。

食料を手に入れなければ、待っているのは餓死だった。

かつて食料が売られていた店へと勇んで来た結果がこれで、カイは見るからにしょげる。


「なんか食える物ねえかな・・・・
うーん、見た目だけならどうにかまともな物もあるんだが」

 カイは食料関係には詳しくはない。

むしろ、全然と言っていいだろう。

タラークでの主食はペレットであり、それ以外の食べ物は存在しない。

カイが食事に気を使うようになったのも、ディータや他の皆が食べさせてくれた料理に起因する。

食事の美味しさを知り、カイは味を知ったのだ。

陳列ケースの中にあるのは数多く、簡易携帯食から野菜関係まで揃っている。

問題は長年の歳月を保管もせずに放置されていた事だ。

生物は見事なまでに腐っており、かさかさに乾いて腐りきっている。

腐臭すら漂わず、完全に萎れていた。

こうなると、どれが食べれてどれが食べられないのか皆目見当もつかない。

仕方がないので、カイはラバットを探した。


「おーい、おっさん」

「ん〜?何か見つかったか?」


 隣の店舗から聞こえてくる声に、そのままの声で答える。


「いや、食いもんがあったんだけど、どれが食えそうかをおっさんに―――」

















ジリリリリリリリリッ!!
















「!?何だ、一体!?」


 突然の警鐘に、カイは慌てて店より飛び出した。



























<to be continues>

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