VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 7 -Confidential relation-
Action14 −会話−
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時間は常に平等であり、不変に流れ続けていく。
ニル・ヴァーナという船の中でも同じであり、男にも女にも時は容赦を知らずして押し流し続ける。
早朝時の破天荒なトラブルから始まった今日一日も目まぐるしく活動し続け、刻は夜を宣告した。
艦内一斉に夜の時間の到来が告げられ、日中働き続けたクルー達は無事なる一日に安堵して仕事を終える。
残業に勤しむ者、職場を出て食事へと向かう者、疲れを背中に自室へ戻り休眠する者。
それぞれの職場で、それぞれの女性が役割を終えて、定められたスケジュールに従って動いていく。
昼間働き続けたクルーは終了、昼間休みを取ったクルーは開始。
マグノ海賊団誕生時から規律として定められた任務交代の時間の到来である。
通路内は150名を有する海賊団所属の女性達が行き来し、自分達の時間を迎える準備を行うのである。
これから仕事の者は職場へ、これから休息の者はプライベートエリアへ。
一斉点灯から始まり朝・昼を越えて、一斉消灯が行われる少し前。
それが今現在であり、通路内にクルー達が満たされる時間帯でもあった。
とはいえ――
規律として決められた時間内行動に制限されず、黙々と自分の時間を有する人間と例外も艦内にはいる。
例外中の例外であり、内々では暗黙の了解とされているに過ぎないが・・・・
「う〜、腹減ったな・・・・
今日は結局朝から何も食ってねえ」
賑わう艦内通路内を、一人の男が不景気そうな顔をして歩いていた。
男の顔色はすこぶる悪く、足取りもふらついていていかにも頼りない。
カイ=ピュアウインド、彼は今極端にひもじい思いをしていた。
「何か食いたいけど、何も食べられねえからな・・・・
飯を食う場所もあれば、食料だって山ほどあるってのに」
人間という動物は常に何かを求めて生きている生物と言える。
不幸であるのなら、幸せになる為に必要なものを求める。
例え幸福の絶頂にいたとしても、永遠に己の幸を維持する為に必要なものを求めてしまう。
それは決して罪な事ではない。
求めるからこそ人間は行動を起こし、知恵を、力を充実させんが為に努力する。
とかく生物は本能的な欲求には逆らいがたい。
性欲・食欲・睡眠欲、この人間の三大欲求には全てを優先して欲してしまう。
特に、単純な思考回路を持つ人間にはこの欲求への反逆は極めて難しいといえた。
「あ〜あ、どうしよう。
折角女の区域にまで足を運んだってのに、シュミレーションは中断になっちまったしな。
このまま帰るのも腹が減るだけだよな・・・」
独り言をぼやきながら、カイは通路に沿って曲がり角を右折する。
カイ自身気がついてはいないようだが、その足はある目的地へと一直線に向かっていた。
自分自身が考えずして行動する。
一種の本能的行動であり、カイが心のどこかで求めてやまないのかもしれない。
本人が自分の行動に気づいたのは数十分後。
目的地の開放されている扉前を通りがかった時だった。
「くっそ、何やら美味そうな匂いが漂ってやがるな」
元海賊母船唯一の食事所・カフェテラス『トラベザ』。
フードエリアとも称される区域内では仕事を終えたクルー達で混み合っており、中は話し声と食事の香りで満たされていた。
大いに食欲を刺激するその匂いを嗅いだだけで、今日何も口にしていないカイの胃は活発に蠢く。
盛んに鳴り始めた腹の音に、カイは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「こらこら、催促しても無駄だぞ。
ここの中にいる女共のせいで、俺はろくに飯も食べられない境遇に陥ってしまったんだからな」
盛大に音を立てる腹に話し掛けるカイだが、惨めな気分になるのはどうしようもなかった。
今のカイはまともな食事を取れる権限がない上に、食べる為に最低限必要なポイントがない。
タラークでの主食であり唯一の栄養源だったペレットは倉庫に山ほど積まれているのを発見されているが、手はつけられない。
今後一切手をつけないと言うバートとの約束があるからだ。
このままトラペザに入っても入らなくても食事は出来ない。
かといって、このまま自分の部屋となっている監房に帰ってしまうのも味気ない。
カイは悩んだ末に、トラベザ内に足を運ぶ事に決めた。
「・・・どうせ帰っても、すきっ腹抱えて寝るしかないからな」
考えれば考える程空しくなり、カイは溜息をついて中へと入っていった。
「さてと・・・・」
来たのはいいが、当然カイはメニューを注文する事は出来ない。
しかもセキュリティ認証レベルが取得されていないので、メインカウンターに近づくだけでキッチンスタッフが飛んでくる。
仕方なくカイはカフェ内を歩き、クルー達が並んでいるカウンターから対称的場所まで一直線に歩いた。
トラベザの片隅に位置し、人の目にもつかない寂しい真空地帯。
そこにはポツンとまるで放置されたかのように、もう一台のカウンターが設置されていた。
言うまでもなく、カイ専用のメニュー注文設備である。
専用というとさぞ好待遇のように聞こえるが、実質ただの隔離だった。
「あからさまな差別じゃねえか、くそ・・・」
文句を言い出したい気持ちはあるが、今朝方抗議して無駄に終わっている。
結局マグノの言う通り、自分が女に信頼されない限りこの処置は続くのだ。
それだけならまだいいのだが、同じ男であるバートとドゥエロは基本的人権は与えられている。
ようするに男がどうとかではなく、自分一人が信頼どころか嫌われているのだ。
好かれたいとは微塵も思っていないが、ここまで徹底された差別をされると腹が立つのも事実だった。
カイはぽつんと注文機の前に立ち、苛立ちを募らせる。
が、ぐぅ〜と大きく腹が鳴ってカイは気持ちが萎えてしまった。
どれほど腹を立てても、腹は満たされる訳ではない。
むしろ怒れば余計なエネルギーを使って、更に腹が減るだけである。
カイは馬鹿馬鹿しくなって注文機に、自分のポイントカードを挿入した。
注文機は基本的にカードに入力されているポイントを利用してメニューボタンを押して、自分の食事を注文する。
カイ専用の注文機はカードのデータを確認し、使用可能である事を告げるかの如くメニューボタンが点灯する。
カイが注文出来る食事は基本的には二つである。
「白御飯」、「野菜サラダ」。
セキュリティ0により食事が取れないカイに、バーネットが自らメニューを創設したのだ。
たった二つだが、それでもないよりはずっとましだった。
しかし、今のカイはポイントがないのでその二つの品を注文する事も出来ない。
当然だが米も野菜も貴重な物資であり、無料で食べられない。
「食べられる物は何もない、か。
んじゃあ飲み物は・・・・・って、水だけかよ!?」
注文ランプに浩々と照らされているメニューはと言うと、水一品のみだった。
ポイントがないカードに反応しているのを見ると、どうやら水だけは無料のようだ。
本当ならトラベザには多くのメニューがある筈なのに、自分が口に出来るのは水のみ。
まるで遭難にでもあっているような気分で、カイは泣く泣く水を注文した。
メニューボタンを押すと装置は稼動し、空のコップに自動的に水がトクトクと満たされる。
コップが一杯になると装置は自然に止まり、新鮮な水が注文完了になった。
「ほんっきで水だけしか出ないんだな・・・」
注文したのは水だけなので当然なのだが、カイはがっくりと肩を落としてコップを手に取った。
透明度の高いひんやりとした水だが、カイにはまるで胃の中まで空っぽになるような感覚に襲われる。
どう見ても、腹を満たしてくれるとは思えなかった。
カイは力ない足取りで水を持って歩き、自分の座る席を探す。
今朝方ぶりの来訪だが、出入り口の外まで響く喧騒は伊達ではなく、テーブル席はほぼ満席だった。
どこもかしこも女性達が顔を揃えており、食事をとりながら華やかに話題を広げているのが見渡せる。
座る場所はなさそうで所在無くカイが佇んでいると、
「おーい!」
「お?」
賑やかな喧騒の中飛び込んでくる軽いノリの声に、カイは反応して視線を向けた。
「こっち、こっち!何ぼんやり立ってるんだよ」
カフェテラスは広いフロアな上に、現時刻ではクル−達も多く判別しづらい。
何度か右往左往させて、カイは自分に手を振ってくれている金髪の男がいるのに気づいた。
対面側に白衣を着たもう一人の男がいるのも特徴的で目に止まる。
「バート?それにドゥエロも来てたのか」
カイは水の入ったコップを手に、二人の元まで足を運んだ。
幸いそれ程離れた距離でもなく、カイは易々と彼らのテーブルまで辿り着く事が出来た。
「来た来た。カイ、お前も今仕事が終わったのか?」
「おう。っていっても、仕事なんて今日は全然してないけどな」
顔を合わせ、カイとバートは対話をする。
バート・ドゥエロ・カイ、彼ら三人は同郷の身だが互いに行うべき仕事は違う。
寝る場所こそ密接した監房内ではあるが、彼らが昼間に顔を合わせる機会は実は少ない。
カイは戦闘時パイロットとして戦場へ赴き、船内にいる事は当然ない。
逆にドゥエロは戦闘時にも日常的な業務においても、医療室内で待機し診療に勤めなければいけない。
バートはバートで操舵手であり、このニル・ヴァーナはバートがいなければ船を制御する事も出来ないのである。
当然故郷への旅を続ける為に船を操縦しなければならず、日夜バートはナビゲーション席に篭っている。
このような夜間時刻において、三人が共に食事出来るのはこれが初めてかもしれなかった。
「気楽でいいな〜、君は。
僕なんてブリッジで副長さんやお頭に睨まれながら、ずっと船を操縦しないといけないのにさ」
バートの愚痴めいた言葉に、ふとカイは首を傾げる。
「そういえば船の操縦はいいのか?お前いないと、船は動かないんだろう」
カイの疑問に、バートは呆れた顔で答える。
「自動操縦にちゃんと切り替えて来たに決まってるだろう。
進路設定をきちんとしておくのに手間取ったよ」
何度も指示と叱責をブザムにされたのだろう。
バートは明らかに疲れた顔をして、自分の座るシートに腰を落ち着けた。
カイは苦笑しつつ、もう一人のドゥエロの顔を見る。
「ドゥエロは今日は仕事は終わりか?」
「いや、まだカルテの整理が残っている。
ここ数日医療設備の不具合も出ていて、手間取っていてな」
見た目は冷静沈着そのものだが、その表情の裏にはやや無念そうにしているのがカイには分かった。
ドゥエロとの付き合いは二ヶ月以上になるが、日々同じ環境で生活をしていて判って来た事がある。
例えば今のように現状況に苦戦している場合、ドゥエロは表情に出さず押し込めようとする。
逆に好転すると緊張が緩むのか、小さくではあるが表情に何らかの形で端々に浮かぶのだ。
カイはドゥエロ本人と苦難を共にして来て気がつき始めていた。
ひょっとすればドゥエロ自身も自覚していないかもしれない細かな感情の流れ。
それはドゥエロの本当の姿なのか、それとも変わりつつある傾向の表れなのか。
それはカイにも分からなかったが、自分の身近な者の事についてを発見出来るのは新鮮だった。
カイは表情を綻ばせて―――険しくさせた。
「お、お前ら、それは・・・・・」
震え声でカイが何やら口篭らせているのに、ドゥエロとバートは怪訝そうな表情をする。
二人はカイが表情を強張らせて凝視しているのを目で追い、納得顔をした。
「ん〜、どうしたんだい?そんなじっと見て」
バートはにやにや笑いながら、カイが見つめている物に視線を向ける。
カイは二人の前を、テーブルの上に並んでいるものを見ていた――
「女とは本当に不思議な物を食べるのだな。
このような味覚を私はかつて味わった事がない」
食欲を刺激する見栄えに、出来たての香りを漂わせる料理。
何の苦もなく普通に海賊達と肩を並べて注文し、今まさに食べようとしていた今日の夕ご飯。
二人の食事はテーブルの上に綺麗に並んでいる料理を見続け、カイは自分の手元へと目を移す。
並々と入ったコップの水。
また目を移す。
キッチンスタッフにより調理された栄養満点の暖かい料理。
カイは二つを見比べて、苦悩するように体を仰け反らせて叫んだ。
「お・ま・え・ら〜〜〜〜〜〜〜!!!!
俺が今日水で我慢するかなって嘆いていた時に、こんな美味そうな飯を食おうとしたのか!」
特に朝から何も食べていないカイには、白ご飯だけでもご馳走に見えてしまう。
ましてやそれが一品料理とくれば、空腹感に我慢出来ないカイが絶叫するのは無理もなかった。
カイの様子に、バートはふふんと鼻で笑う。
「残念だね〜、僕も君と一緒に女の食事を共にしたかったよ。
それが夢幻にしか過ぎないと分かっていてもね、わっはっはっはっはっは」
何故か偉そうに腕組をしてまで、バートはカイに言い放つ。
腹が先程から鳴りっぱなしのカイが殺意を沸かすには十分過ぎるスパイスが、その言葉には込められていた。
そこへ、ドゥエロが口を挟んだ。
「女は食文化が非常に豊かなのだな。
材料から形成されたこの料理なるものを見ていると、私も食指がわいてくる」
他意はないであろうドゥエロの食事への好意的な解釈。
なのだが、カイには嫌味を言われているようにしか聞こえなかった。
ずかずかと詰め寄ってテーブルの傍にまで、カイは二人の料理をジッと見ながらうめく。
「すげえ美味そうだな、これ。
くそう、めちゃめちゃ食いてえ・・・・・・・」
二人の注文した料理は栄養バランスを考慮された献立ばかりだった。
バートは鶏の照焼きに、油で調理された焼き茄子。
照焼き醤油がポイントの風味のいい料理である。
加えて綺麗に区切られた人参入りの卵焼きに、アツアツのジャガイモのカレー炒めとご飯。
カレー炒めはキッチンスタッフが本日お勧めとしていた料理で、ご飯や他のおかずとも相性も良かった。
ドゥエロはというと、厚揚げのおろし和えに胡瓜とタコの酢物・アスパラガスというヘルシー系の料理の数々である。
薄口醤油・みりん・だし汁・酒を合わせたもので火にかけられ、オーブンでパリっと焼かれた厚揚げは人気メニューの一つだった。
少なくとも、今のカイには手を伸ばしても全く届かない調理品ばかりである。
涎を垂らさんばかりに料理にしげしげと視線を向けるカイに、バートは冷ややかな目で見つめて言う。
「・・・・一つだけ言っておくけど、僕のはあげないからな」
「ええっ!?」
がばっと顔をあげて露骨に不満そうな顔をするカイに、バートは同じく不満そうな顔で答えた。
「当然だろう。これは僕が正当な権利を持って頼んだ料理だ。
君が口に出来るものは何一つないよ」
「こ、この野郎、何て薄情な奴なんだ・・・・
そういう生き方をしていると、ろくな人間になれないぞ」
何故か偉そうにカイは胸を張って言うと、心底呆れたような顔をしてバートは口を開く。
「・・・・じゃあ君が僕の立場だとして、君は僕に料理を分けるか?」
「何でお前に分けないといけないんだよ。全部自分で食うに決まっているだろう」
身も蓋もない正直者だった。
カイの物言いに開いた口が塞がらないバートに代わって、ドゥエロが席を指し示す。
「座ったらどうだ?」
「え?や、でもよ・・・・・」
カイは手に持っているコップを力なく振った。
コップの中に満たされている水は幾つもの波紋を生み出し、バシャっと小さく音を立てる。
食べる料理もなく水だけだと示すカイに、ドゥエロは空席を指し示したまま口にする。
「良ければ、共に食事を取ろう。
好奇心に駆られて注文したが、私もこれだけの量を口にするのは難しい」
どこまでも淡々とした言い方で、嘘か本当かは非常に判り辛いドゥエロの申し出。
カイはやや躊躇ったが、空腹には勝てなかった。
少し照れくさそうに頭を掻いて、ドゥエロに快く返事を送る。
「悪いな、ドゥエロ。もう腹が減って腹が減って仕方がなかったんだ」
「遠慮せず食べてかまわない。君の仕事は体力が資本だからな」
健康管理という意味ではドゥエロも十分体力が必要となる仕事なのだが、それ以上カイは口出ししなかった。
ドゥエロがこうした好意を向けてくれるのは、実は珍しい事ではない。
言葉や態度こそ普段はそっけないが、時折自分を気遣う言葉をかけてくれたりする。
そのような時に妙な勘ぐりや下手な口出しはカイしないようにしていた。
カイは機嫌良くテーブルにコップを置いて、そのまま椅子に座る。
いや、座ろうと腰を屈めたのだが――
ピーーーーーーーーーーーーーー!
「またかよ!?」
さすがに二度目ともなると、驚きはしない。
カイはうんざりした顔で、笛を咥えて走ってくる一人の女性に見つめる。
言うまでもなく、カフェテリア責任者キッチンスタッフのチーフだった。
「はい、ストップ、ストップ!
カイさん、そのままじっとして下さい」
「今度は何だよ。
俺は不穏な行動なんてしてないし、ちゃんと大人しくしているぞ。
飯だって、わざわざ俺専用にこしらえてくれた所で注文したしな」
嫌味を込めて弁論するが、チーフはどこ吹く風といった表情で聞き流す。
「いいえ、カイさん。貴方は自分のセキュリティ権限レベルに反した行動を取ろうとしておりましたわ」
「どこがだよ!?俺、ずっとお前らの言う通りに行動していたぞ」
完全に心外とばかりに、カイは腹を立ててチーフに反論する。
一方のチーフは上品な態度を崩さぬまま、礼節を保った姿勢で答えた。
「カイさん、貴方は自分がセキュリティレベル0である事はご存知ですね?」
「ああ、だから俺は・・・・」
「ならば、貴方はここで食事を取る権利はない事もご存知の筈」
「おいおいおい!じゃあ何か?
俺はこいつらと一緒に飯を食う事も出来ないのか!?」
カイは顔を引きつらせて聞き返すと、チーフは円満な微笑でそっと頷いた。
「その通りです。
貴方は特別処置となっておりますので、専用席を用意させていただいております」
「せ、専用席・・・?」
追い出されるのかと思えば、予想外の発言に面食らってカイは尋ねる。
チーフはカイの問いに答えないまま、背中を向けて歩いていく。
ついてくれば分かるという事なのだろう。
カイはバートやドゥエロに手を合わせて、慌ててチーフの後を追っていく。
いきなり出て行けと言われれば困るが、だからといって安心も出来ない。
華奢な外見に合わず敏捷な歩き方をするチーフに、カイは疑問符を浮かべながら後続していった。
テーブル席に座りながらこちらを見つめている女性陣の目を潜り、やがてチーフはある箇所で足を止める。
思わず背中にぶつかりそうになるのを堪えて、カイはチーフの背中越しに前を見つめた。
「お、おいおい、まさか・・・・」
二人がいる場所はカフェテリア中央。
「はい、そのまさかです」
円形に配置されたテーブル郡の真空部分である中心。
「じょ、冗談だよな・・・・・・?」
そこにはテーブルも椅子も存在しない真っ白な空間。
「わたくし、冗談は言いませんよ」
床に無造作に敷かれているゴザ。
「本気かよ!?」
以上――
「はい、本気です」
ぽつりとそれだけが在った。
ただ、それだけが――
「床に座って食えってのか、おい!?」
周りのテーブル席に付く女性達の視線を一身に浴びる場所。
そこには薄汚れたゴザだけが無造作に敷かれているのみだった。
あまりといえばあまりの処遇に、カイは口をあんぐりと空けて呆然としていた時――
「あれ、カイ?やっほぅ」
「また何かやってるの、あんた」
背後から聞こえてくる声に我を取り戻し、疲れた顔で振り向いた。
「どこから説明すればいいものやら・・・・・
とりあえず、お前らには聞きたい事もあったからちょうどいいか」
「聞きたい事?」
「何よ、急に」
カイの突然の発言に、仕事を終えてやって来たベルヴェデール・アマローネの二人はきょとんとした顔をした。
<続く>
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