それは・・・・・・





とても優しく・・・・・・





とても暖かで・・・・・・





とても・・・・・・





トテモ・・・・・・・・・・・・














寂しいユメだった・・・・・・・・・・・・


























Eternal Advance


プロローグ


−少年と蒼い髪の少女−







「父さん! 帰ってきたの!」

「おお、――よ。
今日もいい子にしていたか?」


男の子を、父親は優しく抱き上げる――


「うん! 僕はいつもいい子だよ!」


えへへとあどけなく、父に抱かれた少年は笑った。


「学校ではきちんと勉強はしているか、――?」

「う、うん・・・・・・宿題はきちんとやっているよ」


あまりふれられたくない話題なのか、少年は表情を沈める。

父親はそんな息子の様子を察して、頭を軽く撫でる。


「はは、父さんも昔は勉強は凄く苦手だったぞ。いや、今もかな」

「え、父さんも!?」


そこではっと少年は口を手で抑える。

「〜も」という事は、自分も勉強は駄目だと認めたのと同じだと気づいたからだ。


「ああ、勿論だ。食べ物に好き嫌いがあるように、勉強にだって好き嫌いはある。
父さんは嫌いだったから、今の職業に就いたのかもしれないな・・・・・・」

「でも父さんは立派だよ! 皆を守るお仕事なんでしょう!」


少年は誇らしげに、自分の父親を見る。

少年はこの父親が心から尊敬していた――


「ああ、周りの大人やそしてお前達のような子供を守る。
正しい人を助け、悪い事をしてしまった人を救う。それが父さんの仕事だ」

「どうして悪い人を助けるの?悪い人はやっつけるものでしょう」


少年は不思議そうに眼をパチパチする。


「どうして――はそう思うんだい?」

「だって本にも書いてあったよ。正義のヒーローは悪い奴をやっつけるんだって!
そうしないと皆を助けられないから。
だから僕も父さんのように正義のヒーローになりたいんだ!」


はっきりと、そして力強く少年は語る。

すると、父親はそんな少年に優しく諭した。


「そうか、お前は正義のヒーローになりたいのか。
それじゃあ聞きなさい、――。世の中にはね、本当は悪い人なんていないんだ」

「えー? だってだって、いっぱい悪い事をしている人とかいるよ」


不満そうに、少年は頬を膨らませる。

それは子供ながらにある純粋な正義――

常識や社会に縛られる事のない、汚れなき心の情熱。

誰もが幼い頃、一度は芽生えていた想いが少年の中にも存在していた。


「それはね、ほんの少し自分の道を踏み外してしまった人達だ。
――、人間はね哀しいけれど些細な事で悩み、苦しみ、時には間違えてしまう生物なんだ。
だからこそ、父さんのような人達が必要なんだ」

「うーん・・・・・・よく分からない・・・・・・」


父親のいう事は、まだ幼い少年には理解の範疇を越えた話だった。

父親は苦笑して、そんな息子に視線を合わせる。


「ははは、ごめんごめん。お前には少し難しすぎたかもしれないな。
だけど、父さんが言った事はほんの少しでいいから覚えておいてくれ。
お前がヒーローになりたいのならな」

「・・・・・・父さんは笑ったりしないの?」

「どうして?」

「だって・・・・・・僕がヒーローになりたいって言ったら、お友達が笑ったから・・・・・・」


言葉の語尾が聞き取れなくなるくらいに、少年はごにょごにょと言った。

すると父親は、少年にごつっと額を合わせる。


「立派な夢じゃないか。お前が本当になりたいと思っているなら、父さんは馬鹿にしたりしないぞ」

「本当に!?」

「ああ、どうせなら世界一、いや宇宙一のヒーローになれ。
父さんなんか目じゃないくらいにすごい人間にな」

「うん!!  僕、頑張るよ!!」


父親に応援された事が嬉しかったのか、少年は父の腕から降りて飛び跳ねる。

父親はそんな少年をじっと見つめ、そして持っていた鞄から何かを取り出した。


「そうだ、――に今日はお土産があるんだ」

「え、なになに!?」


少年は期待いっぱいに、きらきらとした瞳で父親が持っている物を見つめる。

「お前の将来にプレゼントだ」

「わああ!!! すごい、かっこいい!!!」


父親からのプレゼント、それは・・・・・・















『あれ・・・・・・?』















視界が開けたその先は、壮大な草原だった――

辺りを見渡すと草原はどこまでも青々と広がり、空は気持ちがいいくらいの晴天である。

生命に溢れたその光景は、思わず駆け回りたくなるほどの純朴な風景だった。


『ここ、どこ・・・・・・?』


訳も分からずに、少年はおろおろとしていると、



『どうもこんにちわ』



一人の女性が立っていた―――



 白いワンピースに顔を影で覆うほどの大きな帽子。

彼女の姿はこの景色にフィットしている。

少年を見つめるその女性は、母性に溢れた優しい表情をしていた。


『あ、ど、どうもこんにちわです』


にこやかに挨拶されて、慌てて頭を下げる少年。


『いい天気ですね』

『え?! は、はい』

『風も気持ちいい・・・・・・すごく好きなの、この場所。
あなたはどうかしら?』


長い髪をそっと抑えて、女性は少年に尋ねる。

不思議な事に女性を見ていると、不思議な気持ちが満たされていくのを感じた。


『うーん、僕も好きかな・・・・・・』


少年はその場に腰を下ろして、じっと青い空を見つめた。

女性はそんな少年の隣に立って、小さき少年の姿をじっと見下ろす。


『・・・・・・あなたなんですね・・・・・・』

『・・・・・・え・・・・・・?』


まるで独り言のように呟いた女性の言葉を、少年は聞き返した。


『いいえ、変な事を言ってしまってごめんなさい』


沈痛に、そしてとても哀しそうに女性は言葉を紡ぐ。

少年は彼女の気持ちは分からなかったが、女性が哀しそうにしていると気づき慌てて言葉を発した。


『な、何かあったの!? ぼ、僕でよかったら力になるよ!』

『・・・・・・あなたが?』

『うん! 困っている人は助けるのがヒーローだもん!』

『そう、あなたはヒーローなの・・・・・・』


女性は微笑んで、少年の頭を軽く撫でる。

少年は気恥ずかしいのか、頬を若干赤く染めた。


『それじゃあ可愛いヒーローさんに一つお願いしようかしら』

『う、うん、何でも言ってよ!』


どうしてここまで見ず知らずの女性に必死になるのか、少年自身も分からなかった。

少年の持つ正義感か、それとも目の前の女性があまりにも哀しそうだったからか。

自分でも分からず、ただ少年は必死で訴えた。



『――をお願い』



『え? き、聞こえな・・・・・・!?』


最後まで言葉を口にする事が出来ず、急速に少年の周りが暗くなりはじめた。

そして同時に、目の前の女性の姿が消えはじめる。


『お、おばさん、どこ行くの!? よく聞こえなかったよ!!』



『・・・・・・あの子は強・・・・・・でも・・・・・・』



少年の熱意とは裏腹に急速に消失していく世界。

草原も、果てしない青空も、徐々に暗闇に侵食されていく。


『待って、待ってよ!! おばさん、おばさーーーん!!』


もはや霧がかかったかのように姿すら曖昧になる女性。

その表情はあまりにも静かで、哀しい微笑みをたたえていた・・・・・・

少年は必死で足を動かし走ろうとするが、苦労も虚しく彼は一歩も近づけなかった。


『僕、まだお願いを聞いてないよ!! おばさーーーーん!!』















全てが闇に染まる――















『・・・・・・メイアをお願いね・・・・・・』


ただ一言、言葉を、祈りを、そして願いをのせて・・・・・・















「母さん!!」


時は深夜――

ベットから身体を起こして、少女は荒げる息を整える。

そっと下着の上から胸を抑えると、心臓は激しく鼓動していた。


「夢か・・・・・・」


額に浮かぶ汗をぬぐって、ふうっと小さく一息をついた。

何気なく横を見ると、ベットの傍の台の上に一つの髪飾りが置いてある。

少女はそれを手に取り、手の平でもてあそぶ。


「母さん・・・・・・」


少女の名は"メイア・ギズボーン"

蒼き髪と瞳を有したその少女は、ただじっとその髪飾りを見つめていた・・・・・・
































<第一章 First encounter その1に続く>






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