とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百三話



道中、変わらず異常はない。月村すずかこと妹さんからも連絡はないので、ほぼ確定だろう。

奇襲の類を事前に防げる妹さんの能力は本当に頼りになる。テロ行為で一番恐ろしいのは正にその点だからな。

罠の類についても、忍者こと御剣いづみが警戒してくれている。夜の一族が編成してくれた警護チームは信頼の置けるプロであり、任せられる。


護衛として契約している肝心の俺は役に立っていないが、フィアっせやティオレ御婦人の傍にいる事で勘弁願いたい。


「久しぶりね、桃子。元気そうで何よりだわ」

「ご無沙汰しております。ご心配をおかけいたしました」

「貴方は立派な母親よ。何かあればいつでも相談してね」


 感動の再会というほどオーバーではないが、喫茶翠屋で二人は喜びの再会を果たしていた。

自分の娘がお世話になっている家主というだけではなく、どうやらティオレ御婦人と高町桃子は親しい関係にあるらしい。

桃子は社交性が高いし、柔和な笑顔が似合う美人だ。好印象を抱かれやすいし、友人知人は多いのだろう。


そうした感情が顔に出ていたのか、桃子は笑顔で話してくれた。


「この店を持つ前は、修行も兼ねて海外で料理の仕事をしていたの。
ティオレさんには昔から親しくさせて頂いているわ」

「私もそうだけど、士郎も貴方の料理が大好きだったものね」


 料理人の世界はよく分からないが、日本人の女性が海外に出てまで料理人の仕事や修業をするなんて凄いことではないのだろうか。

剣に例えるのも変な話だが、浮浪の旅に出ていた俺でも海外に出てまで修行をしようとは思わなかった。

日本と世界を隔てる壁は厚く、情熱がなければ飛び越えられない。そうした気概を持てるかどうかで、一流とそうではない人間の差が生まれるのかもしれない。


そうした羨ましさも兼ねて、俺は本人に聞いてみた。


「経済事情とかもあるんだろうけど、そのまま海外で活動する選択肢もあったんじゃないか」

「そうね。そういった選択肢もあったのだろうけど、好きな人が出来て、家族も出来たら自然と落ち着いたわ。
自分の人生を精一杯生きていたら、望む道へ進んでいけるものよ」


 桃子の話をティオレ御婦人も静かに聞き入っている。分かるようで分からない話ではあった。

言いたいことは理解できる。自分の人生なんてまだまだこれからだろうが、この一年間精一杯生きて今の自分に落ち着いている。

アリサと出会って、クロノ達と知り合い、ユーリ達が生まれて、アミティエ達から頼りにされている。無我夢中で走っている最中、自分の夢や進路を考える暇はなかった。


一年前と今とでは、進むべき道は全然違う。少なくとも、自分一人で生きる選択肢は選べないだろう。


「この時間は貸し切りにしています。ゆっくり過ごされて下さい」

「ありがとう。貴方の居るこの店に来ることも楽しみにしていたのよ」


 桃子は笑顔で喫茶店へ迎え入れて、ティオレ御婦人も厚意を受け取っている。

くそっ、あいつは同席しないらしい。そんな気を利かせなくて、せっかくの再会を心ゆくまで二人で楽しんでくれればいいものを。

あくまでもクリステラ親子と三人の時間は回避できないらしい。顔に出してはいないが、渋々と言った心境でテーブル席に腰掛けた。


桃子の料理が並んで、ランチタイムが始まる。絶対護衛と関係ない時間だと思うのだが、雇い主の意向であれば仕方がない。


「改めて、貴方にはお礼を言わせてほしい。フィアッセを守り、あの人の窮地を救ってくれてありがとう」

「娘さんには世話になった音もあり、お返ししたまでですよ。それに、ドイツの地でもご助力頂けている」


 フィアッセの護衛の件はともかくとして、爆破テロ事件の件も彼女には伝わっているらしい。夫婦であれば当然かも知れないが、キナ臭い事も含めて共有しているようだ。

別に謙遜ではなく、恩義を感じるほどの事はしていない。俺は仲間の力を借りて阻止しただけで、事件を解決したのはアルバート議員とエリスの手腕だ。

単純に爆破を阻止すればいいだけではなく、相手がテロリストである以上は政治的な意味合いも兼ねて解決する必要がある。そうした行動は、一般人の俺では不可能だ。


だからこそ主犯達は今も徹底して追跡されているし、再犯は起きていない。ここまでやって、事件は解決となる。


「恩を返そうとする行動も、貴方の立派な性質によるものよ。信頼の置ける相手に巡り会えるのは宝だわ。
貴方故人には少し失礼かもしれないけれど、私が尊敬する日本人としての美徳ね」

「海外に一度でも出てみると、日本人と外国人の違いを感じさせますね」


 日本人の良さを評価されることが嬉しいと感じるのも、俺の中で変わった一面かもしれない。

種族には今もあまり拘りはないが、自分が日本人だと感じられたのはそれこそ国の外に出てからだ。

考えてみれば種族による差別や偏見を今のところ向けられていないのは、俺にとって幸運だったかもしれない。


異世界や惑星に出てもそうした差別的行為は受けなかった。


「私の生まれは中東でね、内戦中の国で生まれたの」

「中東の生まれ……それこそ失礼な質問かもしれませんが、生活は大変だったのでは?」

「ええ、生活は貧しく薬もなかなか手に入れられず、家族も病気で亡くしたわね」


 俺の出身を探った事への返礼か、ティオ御婦人は自分の出生を語り始めた。

流石に深堀りは出来なかったし、想像の域を超えないが、戦火の中で育ったとあれば途方もない過酷な生活だったのだろう。

俺も孤児で、孤児院での生活は決して裕福ではなかったが、少なくとも安全は担保されていた。戦争で苦しむような環境ではなかった。


家族が最初からいないのと、家族を失ったのとでは苦しみ方はまるで違う。


「随分と苦労したけれど、子供の頃戦争により傷を負ってしまってね……幸い命は助かったけれど、子供が出来にくい体になったの。
40を過ぎるまで子供には恵まれなくて、半ば諦めていたわ」

「……それでも貴方は諦めなかったのですね」

「子宝という言葉は日本にはあるようだけど、私にとっては的確な表現ね。
フィアッセと巡り会えて、私は心から幸せだったわ」

「ママ……」

「だからこそ貴方には直接お会いして、礼を言いたかったの」


 本来他人には決して語れないであろう、ティオレ婦人の壮絶な過去。

それでもこうして打ち明けてくれたのは俺個人への信頼というよりも、俺に向けた礼の重さを伝えたかったのだろう。

女性にとって自分の子供というのは、男性よりも意味合いが強いのかもしれない。俺も子供は居るが、出生自体は特殊だからな。


しかしそうしたバックボーンがあるのであれば、この事件における背景も少し見えてきた気がする。



「率直に聞かせて下さい。
チャリティーコンサートを開催する目的は、今貴方がお話下さった過去が起因となっていますか?」














<続く>








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