とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 七十話



 夜の一族は各国で幅を利かせているが、日本の一族は世界会議後は半ば神聖視されている。

夜の王女こと月村すずかの存在が非常に大きく、新世代の長が決まった後でも彼女の存在は偶像化されていた。

調整役兼連絡役となった綺堂さくらも忙しくしており、綺堂家は月村家と並んで家柄の格も上がっている。年頃であるだけに縁談の話も多いらしい。


そつなくこなすキャリアウーマンの彼女だが、再会するなり疲れた顔を見せる。


「色々言いたいことがあるけれど……
まず後見人として言わせてもらえば、すずかが年に数回しか帰ってこないのはやめてもらえるかしら」

「そ、そうだった……すっかり家族同然で住まわせてしまっていた」


 妹さんが当たり前のように護衛として同居していたので気付かなかったが、月村すずかは他所様の子供である。

始祖のクローンとして製造された妹さんは月村忍の妹として引き取り、世界会議による主権を得て正式に日本の一族預かりとなった。

後見人は綺堂さくらとなっているので、保護責任も生じている。彼女から信頼を得て預かっているとはいえ、保護者を蔑ろにしていい理由にはならない。


平謝りしながら、妹さんの近況を報告する。ちなみに本人は、久しぶりに再開した家族と向き合っている。


「すずか、侍君の女性関係になにか進展とか変化はない?」

「プライバシーの侵害だよ、お姉ちゃん」

「侍君に侵害されるようなプライバシーなんて無いも当然でしょう」

「うーん」

「妹さんが悩んでる!?」


 あるよ!? 俺にだってプライバシーとかあるよ!? 誰も考慮しないけどさ!

フィアッセの護衛という立場であることをさておいても、日頃から誰かと行動しているせいでプライベートな時間なんて無いと言っていい。

子供を持つ親であれば当然かも知れないが、十代の健全な男としては悩ましきところだった。少年時代、誰にだって一人の時間を求める事がある。


俺はもう半ば諦めつつあるが、それでも確固として主張しておきたいところだった。


「日本に帰ってきていたのは知っていたけれど、それでも帰宅どころか義務的な提示連絡のみだから」

「うーん、うちの妹さんはハードボイルドだね……」

「流石に悪かった。きちんとした連絡は俺からもするように心がける」


 ちなみに同居している間に発生する妹さんの生活費等は、うちから出している。請求等は一切していない。

綺堂さくらは勿論として夜の一族から申し出はあったが、あくまで妹さんは護衛として雇っているので賃金で自立できているのだ。

見た目こそ子供ではあるが、妹さんにはこの一年数え切れないほど救われている。この子がいなければ、あらゆる局面で乗り越えられなかっただろう。


本当ならボーナスとかも出したいところだが、妹さん本人に固辞されている。労働条件の交渉はアリサに任せているが、難航しているようだ。


「大変な事件に遭遇していると聞いたよ。ファリンとか呼んだらわたしの出番だとすっ飛んでくるんじゃないの」

「出動要請はしない方向で」

「あの子なら、いつでも出撃できるのに」


 そんな妹さんを補佐する立場なのが、自動人形のオプションことファリン。特撮映画のヒーローに憧れるメイド少女である。属性が多すぎる。

オプションとはいえ自動人形なので戦闘能力は高いが、ヒーロー映画で目覚めた自我は厄介で、正義ゆえの暴走に走りやすい。

だからこうして要請という形で制御しており、日頃は待機させているのである。行動力はなかなかのものだが、デリケートなテロ事件には向いていない。


そんな彼女の姉役である女性メイド、ノエルはその点弁えているが――


「忍は何とか学業を修められそうだから、卒業したらノエルも貴方の元へ行くことになりそうね」

「ぐっ、ノエルは歓迎なのだが……ちなみに留年の危機とかは」

「残念ながら卒業は確定よ」

「残念だとハッキリ言ってるよね、さくら!?」

「良介が忍の雇い主となるので、立場は上になるのよ」

「しまった、そうなるんだ!?」


 綺堂の遠慮なき発言に忍が物申すが、社会的立場と階級を告げられて忍はギョッとした顔をする。

すったもんだあったが、結局月村忍は就職の道を選んだ。綺堂さくらより大学進学の道も進められたが、学業の必要はないと説得したらしい。

別に庇い立てする気はないが、この一年も休学とか繰り返していたので、学校へ通う意味はなくなっていたのかもしれない。


世間的にあまり喜ばしいことではないかもしれないが、本人が持つ知識と技術力は一応社会に通じるので、路頭に迷うことはない。


「シュテルがいるから大丈夫だと思うけど、二人は元気にしているの?」

「エルトリアの開拓に貢献してくれているよ。
なんかCW社の技術開発部と連携して、本人達のメンテナンスがてら改造とかしているみたいなんだが」

「お、そろそろ実用化の段階か。早く卒業して私も合流しないと」

「うちの会社で何しているんだ、お前ら!?」


 ノエルとファリンはエルトリア組で、今も惑星の発展に尽力してくれている。

悪辣な環境でも労働可能な彼女達は自らのスペックを高めつつ、開拓に励んでくれている。

あくまで本人たちの希望であることを大前提として、エルトリアの環境を利用した改造実験を行っているようだ。


自動人形はロストテクノロジーで製造された代物で高い技術はあるが、それでも古い。ミッドチルダやエルトリアの技術を取り込んで今、彼女達は生まれ変わろうとしている。


「とりあえず侍君達が元気なのは分かって安心したところで、忍ちゃんからお願いがあるの」

「お前は来なくていいからな」

「卒業式まで絶対良介と行動してはダメよ」

「ちょっと、予防線を張らないでくれるかな!?」


 魂胆見え見えである。さくらと互いに頷き合って、きっちり牽制しておいた。

物見遊山で来られても迷惑だし、だからといって真剣に来られてもやってもらうことは限られている。ファリンとノエルという従者もいないしな。

今回の事件で、こいつが持っている技術を活かせる場面は少ない。コンピューター技術は活かせるかもしれないが、現状特には必要としていない。


忍は唇を尖らせつつ、申し出る。


「合流はとりあえず諦めるとして、お願い事はちゃんとあるよ」


 忍はそう言って、ニヤリと笑う。

この時点で嫌な予感がした。














<続く>








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