とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 六十九話
協力者で思い浮かぶのは神咲那美と久遠だが、あいにくとあいつらは今回被害者側だったりする。
襲撃こそディアーチェやディード達が阻止したが、さざなみ寮がマフィア達に襲われたという事実そのものは覆せない。
リスティ・槇原が寮の管理人さんを通じて今、寮の住民のカンフルケアに励んでいるらしい。癒やしの力を持つ那美も協力してくれているようだ。
退魔師としては半人前でも、あいつは聖地へ同行して白旗を立ち上げた協力者でもある。戦乱を駆け抜けた経験値は伊達ではない。
「寮の住民にもツテはあるらしく、警備を強化するそうです。関連各所への根回しも進めているとのことですね」
「何者なんだ、あの住民達は……」
御剣いづみも気を使い、寮の様子を確認してくれたようだ。本人達のコネもあるようであれば、こちらが変に干渉する必要もなさそうだ。
HGS患者が引き続き狙われるのは間違いないが、リスティ本人が強力な超能力者なので護身は行える。その分、今さざなみ寮が一致団結して警護面を強めているのだろう。
ということで那美達は自分達のことで精一杯なので、協力は見込めない。こちらも巻き込むのは気が引けるので、連絡を取って安全確認する程度に留めておくのが良さそうだ。
高町家への説明は済んだので――次の関係者に当たる。
「おかえり良介。いきなり会いたいと連絡してきたからびっくりしたわ」
「ふふ、驚かせてやろうと思ったのだ。家族らしいだろう」
「忍さんに会いたくなかったんやろ」
「ちっ、バレたか」
以前高町の家を出た時に世話になった、八神はやてを尋ねる。八神家へ直接行けば早かったかもしれないが、今回待ち合わせをした。
以前世話になっていた八神の家は色々あって、住めなくなってしまっていた。当時彼女達は、月村家にお世話になっていたのだ。あいつの家はムダに広いからな。
その縁で月村家と八神家は親しくなり、交流を深めていった。俺もエルトリアに出向いてしばらく留守にしていたから、はやて達がどうなったのか落ち着いて聞けなかった。
そういった事もあり、忍と繋がっているこいつとは家には出向けず、外で待ち合わせするしかなかった。
「……すげえな。一度立ち上がれるようになると、回復も著しいな」
「あはは、わたしとしてはまだまだやけどな。ヴィータやザフィーラに付き添ってもろてようやくや」
外で待ち合わせしたのは俺の事情もあるが、はやてからの希望でもあった。彼女は車椅子ではなく、自分の足で立っている。
完全に回復したのではなく、はやては杖をついていた。松葉杖と言った大袈裟なものではないが、歩行を補佐する役割を持った立派な杖だ。
本人の話では、デバイスの一種であるらしい。はやては魔導の才能はあるが、熱心ではない。ただ夜天の主として、魔導の道具は使えるようだ。
本人曰くあくまで日常生活を補強するために活用しているようだ。
「おっす、話には聞いてたがシグナムとシャマルは帰って来てねえんだな」
「こちらは何事もなく平穏に過ごしている。主も見ての通り、健やかに営んでいる」
ヴィータとザフィーラ、少女と小狼の姿をした騎士達は元気そうだった。守護騎士達は現在別行動中である。
聖地の戦争ではヴィータとザフィーラが、エルトリアの開拓ではシグナムとシャマルに力を貸してもらった。
俺はフィアッセの脅迫の件もあって海鳴へ帰ることになったため、エルトリアの事はシグナム達に引き続き頼んでいる。
おかげで今戦力不足ではあるが、さりとてシグナム達を呼び戻すと過剰戦力になる。こういうのは判断が難しい。
「帰ってくるのは全然ええんやけど、急に顔を出したのは事情がありそうやね。まあ昨日の今日やから何となく理由はわかるけど」
「相変わらず妙に敏いやつだな、勘ぐられていたか」
「平和な街で爆弾騒ぎなんて起きれば、良介の関与を疑ってしまうよ」
「何でだよ、俺だって民間人だぞ!?」
どういう関与を疑っているんだ、こいつ。確かに事件に関わってはいるが、テロと個人を結び付けられるのは多いに心外だった。
八神家の主であるだけではなく、俺が昔やっていた何でも屋の仕事を公認してくれただけあって、こいつは最近社会人じみている。
料理が上手な子供と言うだけではなく、老人介護まで引き受けられる幅を広げていると、社会へも目を向けられるようになったらしい。
夜天の主ともあると、指揮官的な特性もあるのかもしれない。こいつには豚に真珠でしかないだろうけど。
「どこかで腰を下ろして、と思ったけど、せっかくだし歩きながら話すか」
「そやね。事件後に不謹慎かもしれんけど、人通りも少ないから静かに歩けるしね」
はやては俺の事情に精通しているので、変にごまかさずすべての事情を打ち明けられる。忍とも関係を深めているので、夜の一族の事情も少しは聞き及んでいる。
HGSに関してモフィアッセ達個人の事情を除けば、ある程度はきちんと説明もできる。超能力なんて、魔導のことまで知るこいつらからすれば決して未知なる分野ではない。
とはいえ日常とは程遠いキナ臭さではあるので、心を傷めないように気を使って話す必要はある。
俺は歩きながら、はやて達に説明をした。出会った当初は、はやてと並んで歩くなんて想像もできなかった。
「なるほど、これまた大変なことになってるんやね……わたしらに出来ることがあれば力になるよ」
「助かる。とはいえ今すぐに何かしてほしい訳じゃない」
「ふんふん、何か起きた時のための心積もりやね。声をかけられたら動けるようにしておけばええんか」
「くそっ、何か妙に察しが良くなったな」
「何でちょっと不満そうなんよ。これでも良介の家族やからね、色々考えられるようになっておかんとあかんやろ」
八神はやては家族を得て、俺との生活を通じて成長していた。高町なのはのような健やかさではなく、少し背伸びをした少女として。
急に指揮官のような振る舞いができるようになったのではない。ただ少なくとも、自分の限界を受け止められている。
だからこそこの一年、海鳴でボランティア活動などを行って、少しでも早く大人になろうと努力したのだろう。
背を伸ばせないのであれば、せめて背伸びをして大きくなろうとしているのだ。
「合流してやりてえが、はやても言った通りアタシらが押しかけても急に何かが出来るわけじゃねえからな。
ただヤバくなったら、遠慮せずすぐにアタシに言え。
お前に手を出すことがどういう結果を招くのか、叩き込んでやるからよ」
「防衛であれば望むところではあるが、お前の支援者や協力者が対策を練っているのであれば、むしろ邪魔となろう。
その分気を張って、この街の見回りに当たるとしよう。お前の身内に手出しできないように守ってみせる」
「お前らなら安心して任せられる。いざとなれば頼んだぞ」
海鳴に居を構えている以上、この街ははやて達にとってもある種縄張りでもある。
今までは事情も不明で自分達に塁が及ばないのであれば関わらなかったが、話を通しておけば別である。
マフィア達が俺たちへの牽制も兼ねて街を襲おうとすれば、ヴィータ達が防衛してくれる。この点だけでも十分ありがたかった。
力になってくれる存在がいるだけでも心強い。
「爆破テロ事件が起きて、街の人達も不安に思っているからね。パニックにならんように、ご近所さんにもわたしから話しておくわ。
だから街のことは安心して任せてくれればええけど」
「けど?」
「忍さんの事、あんまり除けもんにしてると自分から行動するかもしれんよ。連絡くらいしてあげたほうがええよ」
「えー、面倒くさいな……」
心底嫌でそう言うと、はやては苦笑いしていた。俺の複雑な感情も、今のこいつなら理解できるらしい。
あの女も空気くらいは読めるので過干渉はしてこないだろうけど、無干渉で居続けると確かに押しかけてくるかもしれない。
厄介な女だった。
<続く>
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