とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 六十一話
ディアーチェの封時結界は非常に優れており、通常空間とは完全に隔離されていて人っ子一人いない。
特定の空間を切り取る結界魔法との事だが外界を遮断しているだけで、海鳴の町並みは切り取られていて再現されている。
チャイニーズマフィア達は不審に思っても、結界の中とまでは分からないはずだ。超能力という概念を知っていても、この状況は説明できない。
さざなみ寮はディアーチェが守ってくれているので、俺達は迎撃に出た。
「我々が先行しますので、決して貴方から手出ししないように」
「私が索敵します、剣士さん」
「あ、ああ、分かった」
事前にディアーチェに説明したおかげで、結界内はマフィア達を除けば俺と警護チームのみである。
ディアーチェから敵情報を聞き出した俺はまず御剣と妹さんに情報共有、さざなみ寮が襲われている事を知った御剣は警護チームメンバーを招集。
海鳴の民間人が襲われていると聞いて、御剣いずみの顔色は明らかに悪くなっていた。
いつも冷静な女忍者にしては珍しいと思っていると――
「……私情を交えるつもりはありませんが、この街には縁ありまして」
「俺も私情優先で無理させているので気にしないでくれ」
スポンサーである夜の一族はフィアッセから手を引けとか、そもそも俺が危険なことをするなと釘を差されている。それを無理して戦場へ突入しているのだ。
昔から他人から何を言われようと知ったことではなかった――いや、今も大概なんだけど、それでも家族なんぞ出来ちまうと男なんて駄目になってしまう。
御剣だって私情だと言っているが、民間人が襲われることに憤りを感じることを攻めるつもりはない。職務は全うしてくれているので大いに助かっている。
まず妹さんが索敵をして、警護チームが迎撃。捕縛できるようであれば拘束、不可能であれば制圧する。
正直俺がわざわざ出張らなくても、次々とマフィア達が姿さえ見せずに倒されていった。超能力者はディアーチェが制圧してくれていて、こちらはマフィアの手先が大半だった。
御剣によると日本で現地調達したチンピラ達も混じっているようで、数を揃えた襲撃らしい。警護チームは夜の一族が直々に選抜したメンバーだけあって、チンピラ風情に勝てる道理はなかった。
こうして次々と制圧していき――戦場の中心へ、躍り出た。
「ふふふ、どうした小娘。威勢が良かった割に、もう腰砕けか」
「くっ……IS発動、ツインブレイズ」
黒色のストレートヘアが、駆ける。優れた近接戦闘技術が遺憾なく発揮され――撃退される。
男が、剣を振る。たった一挙動で衝撃波が発生し、ディードは遥か後方まで吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
可憐だが華奢な肢体は壁に血の華を咲かせた。ディードはそのまま崩れ落ち、男は剣を振り払って怏々と立っている。
自身の半身以上はある大剣――男はこちらを振り返った。
「――へえ。ダメ元だったんだがのこのこ顔を出したか、"サムライ"」
「! まさか、”スライサー”!?」
異様な風貌の男を目の当たりにした瞬間、御剣いずみは俺の前に構えを取った。極度の緊張から、男が難敵であることが伺える。
スライサーと呼ばれた男は、壮絶だった。顔に刻まれているのは皺や傷などではなく、戦歴。戦いによって作られた顔が浮き彫りになっている。
剣なんて非常識極まりない。今どき映画でも見ない大剣は、冗談のように太い。それこそ映画のセットだといいきれば、日本に持ち込めそうであった。
愛用のジャケットを着たオットーが、倒れたディードに駆け寄っている。
「父さん、気をつけて。その男、父さんを狙ってる!」
えっ、俺? さざなみ寮を襲ったのに何でリスティやHGS患者ではなく、俺を狙ってるんだこいつ。いや、マフィアの手先なら俺を目の敵にしても不思議ではないのだが。
男はふてぶてしい眼差しで俺を見やり、何だか拍子抜けした顔をした。気持ちの移り変わりが気持ち悪いが、この男の察するところはなんとなく理解できる。
あいつは俺をサムライと言った。サムライは海外でも名を馳せた正義の味方で、龍を始めとした裏社会の悪党共を成敗して回っている。だからこ恐れられ、それでいて畏れられている。
そんなサムライの実物がこんな一般人だと分かれば、そりゃ拍子抜けもするだろうよ。そもそも実際のサムライは俺じゃなくて、御神美沙都師匠だし。
「こんな日本人がサムライ……
到底信じられないが、龍が血眼になって追ってるのは確かにお前だ。剣の腕が立つらしいな」
「下がってください。私が相手をします」
戦意に濁った目目見せて男が近付いてくると、御剣いずみが短刀を出して構えた。緊張は消えないが、取り乱した様子はもうなかった。
目眩がする。男の態度や言い草はとにかく痛々しい。とにかく不愉快に感じられるのは、男の挙動が一年前の俺とそっくりだったからだ。
剣の腕を気にする素振りからして、剣での立ち会いを望んでいるのだろう。立ち合いに喜びを感じ、命のやり取りに生き甲斐を感じる。
平和なこの国でそんな真似をしたって、痛々しいだけだ。道場破りを意気揚々としていた自分と重なって恥ずかしい。
「こんな奴、相手にすることはないよ」
「この男の狙いは貴方です。このままおめおめと引き下がったりは――」
「俺の娘がこの程度で倒れるはずがないだろう」
俺の言葉に、男が目を見開いて振り返る。
オットーに差し出された手を敢えて固辞し、ディードが剣を握って立ち上がる。
痛々しい有様だが、俺を目にしてこの子には珍しく不敵に微笑んでいる。その笑顔はどこまでも可憐で――
俺にそっくりだった。
「ほう、まだ楽しませてくれそうだな」
「お父様、見ていてください。必ず勝ってみせます」
一年前と、一年後。
どちらも俺によく似ているが、道は既に異なっている。
どちらの歩みが正しかったのか、それは我が子が証明してくれるだろう。
あの子は俺に似て、負けず嫌いだからな。
<続く>
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