とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 五十五話



 嫌がる女を車に連れ込む――俺はこういう事が平気で出来る男である。

隔離施設へ帰ろうとするシルバーレイを問答無用で掴まえて、人目につかないように御剣いずみが運転する車に押し込んだ。

本人はあーだこーだ言っていたが、国際的事件に発展しそうなこの状況下で帰す訳にはいかない。こいつはキーマンなのだ。


いや、キーウーマンか。まあ、どっちでもいいけど。


「ちょっと良介さん、婦女暴行で訴えますよ!」

「ふふふ、クローン人間に日本の法律なんぞ適用されないのだよ」

「協力を求める相手に、よくそこまで平然と差別的発言を言えますね!?」


 車に連れ込まれたシルバーレイは怒るよりむしろ呆れた顔で指摘する。馬鹿め、俺は女であろうとも言葉を選ばないのだ。

戦闘機人や夜の一族との交流で分かったのだが、変に人間かどうか意識して話すと相手に伝わって不快な思いをさせてしまう。

人であるか否か、こだわるのはむしろ人間の方である。そういった人としての側面を彼女達が望まない。


シルバーレイもその部類に見える。こいつはHSG患者としての力を、恥じることなく堂々と使っているのだから。


「お前が同行してくれたのは、フィアッセと連絡が取れないこの状況に心当たりがあったからだろう」

「ちょっと良介さんに恩を売りたかっただけなのに、ハァ……まあ、そうですね。
急に連絡が取れなくなるのって通信に問題があるか、本人に何かあったかのどっちかでしょう」

「そりゃそうだ」

「アタシは組織にいたのでフィアッセ・クリステラの情報はある程度掴んでました。
彼女に危害が加えられていたらもっと大事になってる筈なので、連絡が取れない状況下にあるのだと予想しただけです。

となればマフィアの取る手段から推察すれば大体分かるでしょう。後はテレパシー使って状況を伺えば分かると思ったんです」


 ……そういえばこいつ、平然と裏切ってたから実感あんまりなかったけど、元マフィアの一員だったんだよな。

アジトに捕まっていた時のマフィア達の会話を伺った限りだと軽んじられていたように見えたが、フィアッセ達の情報はこいつにも共有されていたようだ。

裏切り者は何度でも裏切るという話はよく聞くし、夜の一族や警備側はシルバーレイを警戒しているようだが、俺は何故かこいつを信用して話せている。


俺も昔は根無し草だったので、ある程度気持ちを理解できるのかもしれない。


「そもそもテレパシーが使えるなんて初めて知ったんだが」

「なんで自分の力をいちいち全て話さないといけないんですか。良介さんだって隠し事の1つや2つあるでしょう」

「そうか、すまんな。テレパシーは相手が居ないと独りよがりだもんな」

「ぼっちが理由だからじゃないですよ!?」


 何故か熱弁してくるクローン女。悲しき女よ……哀れんでやると、肘鉄された。いってー!

美人なのに独りぼっちなんて悲しすぎるが、プンスカ怒っているのでこれ以上言うのはやめておく。


せっかく明らかとなったのだから、この女を丸裸にしてくれるわ。


「もうバレたんだから詳しく教えろ」

「内緒にしておいてくださいよ、もう……アタシのテレパシーは、こういう隔離された状況下で脳活動を同期発生できるんです。
いわゆる精神感応なんですね。電話などを使わなくても相手に自分のメッセージを送ったり、逆に相手の心の中にある考えや感情を読み取ることができる能力です」

「それでホテル内のフィアッセにメッセージを送って、反応を伺ったのか」

「そうです。彼女はHGS患者なので、テレパシーを知っていたのですね。最初こそ戸惑ってましたけど、アタシが良介さんの関係者だと知ってすぐ応じてくれました。
すごいですね、あの人。アタシがHSGだかという以前に、良介さんの名前を出したら一発でしたから」

「俺は水戸黄門の印籠か……」


 フィアッセのやつ、俺の名を騙る敵だと思わなかったのだろうか。相手がHGSのテレパシー能力者だから信じたのか分からないが。

シルバーレイの補足によると、精神感応は明瞭に行えるが距離に限界があるらしく、現地に行かないとやり取りできないらしい。

そう考えると妹さんの万物の”声”を聞く能力が改めて桁外れなのを思い知る。夜の一族の王女は今まで一切聞き逃しがなかったのだから。


携帯電話もアンテナのない場所はかかりづらいと言うし、距離に限界があるから欠陥とはならないが。


「能力はある程度分かった、これ以上詮索するのはやめておく。ホテル内部の状況を聞かせてくれ」

「先程言った通り、フィアッセ・クリステラとその家族は脅迫されています。
良介さん――は知るはずなさそうなので、運転席のお姉さんに聞きますね。

”スナッチ・アーティスト”という異名はご存じです?」

「! まさか、駐車場の爆破は”クレイジー・ボマー”が起こしたのですか!?」

「名前が変わってるんだけど!?」


 俺が思わずツッコむが、シルバーレイの話を聞いた御剣いずみは真剣そのものだった。ぐっ、どっちも全く知らない。

案の定、シルバーレイは仕方がないと言わんばかりの態度で教えてくれた。


こいつ、マウントを取る時は偉そうだな。


「”スナッチ・アーティスト”は組織に雇われた人物で、裏社会のプロフェッショナルです。
あいにくと本名まではしりませんが、爆発物の取り扱いについては超がつくほどの一流です。

非常に残忍な性格で、目的の為ならば人命など取るに足らない奴ですね」

「そんな奴が今、ホテルを襲っているのか!?」

「過去に数々の爆破テロを起こしている国際指名手配犯なので、直接の接触はしてないです。
爆破のパフォーマンスを見せつけて本人達をビビらせ、遠隔操作しているのでしょう。

爆弾さえ仕掛けていれば、別に本人が直接対峙する必要もないですしね」

「くそっ、捕まえればいいってものじゃないのか」


 いざ尋常に、という時代劇のやり方で悪事は裁けないようだ。現代社会で戦うのは難しい。

まずホテルの地下駐車場で爆弾を爆発させる。そうすれば警察が動いてホテルに邪魔者は入らないし、フィアッセ達への強烈なメッセージとなる。

この時点で何処かから電話なりで脅迫すれば、親父さんやエリス達も迂闊に動けなくなる。爆弾が他にもあると分かれば、外部からの介入も困難となるだろう。


籠城する必要もなく、このまま持久戦になれば議員達は追い込まれて――屈するしかない。


「スナッチ・アーティストと会ったことはありますが、フィアッセ・クリステラに執着している素振りがありましたね」

「フィアッセに? まさか脅迫状を本人に送ったのもそいつなのか」

「ハッキリしたことは分かりませんが、この仕事を引き受けた理由の1つにフィアッセ本人があるのは確かですね」

「確かに美人だが……あんな恋愛脳のどこがいいんだ」


 スタイル抜群の美人、気立てが良くて男に尽くしてくれる。一見すれば良さそうだけど、爆破のプロフェッショナルが小娘一人に執着なんぞするなよ。

しかし、厄介ではある。この状況を打開するには爆弾をどうにかするしかないが、当てずっぽうで探す事はできない。

下手にホテルをウロウロするわけにもいかないし、警察に見咎められたら目も当てられないしな。エリス達プロでも動けない状況なのだから。


一応、聞いてみる。


「シルバーレイさん、折り入ってお願いが」

「超能力で爆弾なんて探せない――正確に言えばないことはないですが力技になるし、被害0は無理です」

「うーむ、妹さんならどうにか出来ないかな」


「出来ます」


「そうだよな、流石に無理……えっ!?」

「チンクさんよりこういった自体に備えて工作訓練を受けています。爆弾の”声”を聞く練習も行っています」


 戦闘機人であるチンクの能力は爆破等を含めた工作。

かつてマリアージュのような人間爆破能力を持った敵と戦った経験を生かした訓練。


夜の一族の王女は、日々成長を遂げていた。














<続く>








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