とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 五十三話
ホテルで爆破騒ぎがあり、さざなみ寮でマフィアの襲撃が起きている。
自分自身落ち着かせるべくテレビの電源をつけるが、報道されているのはホテルの騒ぎのみ。さざなみ寮は襲撃されているが、まだ表面化はしていない。
状況1つで考えるのならホテルは人目を引く陽動で、さざなみ寮が本命と考えられる。最近日本のアジトを1つ潰されたマフィアは余力がなく、こちらの戦力を分断するべく行動に出た。
ただこれはあくまで素人の俺が考えた戦術的推測に過ぎない。フィアッセの電話が突然切れたことも気になる。
「剣士さん、警護チームの御剣さんより迂闊な行動は控えるように連絡が来ています」
「ぐっ、やはり夜の一族は俺の防衛第一か」
先程フィアッセに言った俺の言葉そのまんまである。素人が首を突っ込むなということだ。
警護チームが対象者に苦言を述べてくる点からして、カレン達は今も別件で動いている最中なのだろう。事件への関与はしないらしい。
彼女たちの立場からすれば無理もない。フィアッセは見捨てるべきだと言われているし、さざなみ寮なんて彼女達からすれば完全に赤の他人だ。どうなろうと知ったことではない。
むしろマフィアが明らかに動いているこの事件に、俺が飛び込む方がまずい。だから何か起きたときのために、警護チームに俺の制止を厳命しているのだ。
「動くなと言われてもな……どうするか」
何のために日本には警察という組織があるのかという話である。民間人が動かないとか解決しないなんて論外だ。
その道理は分かるのだが、さりとてもじっとしているというのも性に合わない。狙われているのは俺も同じで、明日は我が身なのである。
ふと笑いが込み上げてくる。今から約一年前、俺がこの海鳴に来て通り魔事件に巻き込まれた。あの時は何も考えず事件に関与して大怪我した。
あの頃は今より自由だったと思うし、俺らしく行動できていた。ただ一方で、赤の他人が俺のせいで巻き込まれてしまった――今と昔、どちらが正しいのか。
「素人が悩んでいても仕方がない。専門家に任せよう」
「むっ、偉大なる父が赤の他人に大事な判断を委ねるというのか」
「何を言っているんだ、他人じゃないだろう」
「えっ、いやしかし、今専門家に任せると――」
「だからお前が判断してくれ、ディアーチェ」
「! 我に……」
「お前になら任せられる、頼んだぞ」
ディアーチェは立場上俺の子供ではあるが、本来は闇の書の中で眠っていた魔導師である。
素性は正直きちんと把握できていないし、聞いたこともないが、ディアーチェの才覚と器は稀有なものだ。
ヴィータ達守護騎士システムと同じく造られた存在であろうとも、蓄積された知識と知恵は本物だ。
そして何よりロード・ディアーチェという女の子を、俺は信じている。それだけで十分だった。
「そこまで我に期待してくれていたとは……すまぬ、父よ。少しでも貴方を疑った我を許してくれ!」
「緊急事態だ、右往左往してしまうのも仕方がない。意見を聞かせてくれ」
「うむ、この状況における最も有効な策は父が静観し、我々のみで動くべきであろう。
確かに人手は限られているが、我らは皆強者揃い。マフィアなどという悪漢に負けはしない」
きわめて常識的判断であり、正しい見解である。
そもそも夜の一族、世界有数の実力者が揃う女傑達が動くなと言っているのだ。
論じる余地はないし、指摘できる点もない。正しいということはそれだけで鉄壁であり、関与する必要もない。
俺でも分かることを、ディアーチェが分からないことなんてない。
「どの口ぶりからすると、他にも意見はありそうだな」
「結局のところ、父が納得できるかどうかにある。父は情に流されないが、情には応える。
フィアッセ・クリステラという女性の護衛と、父の友人達の安否を前に大人しくも出来ないであろう。
ならば次策として父はホテルの方へ行くべきだ」
「どうしてホテルの方なんだ」
「護衛対象が救援を求めているということ、現時点でホテルは爆破騒ぎが起きた後だということだ。
官憲がひしめいており、状況は沈静化に向かっている。
父も考えている通りあのホテルはマフィアの目があり、父が向かうことで彼らの網に掛かる可能性もあるが――
そもそもの話、父は一度既にあのホテルへ来たという事実があるのだ。マフィアたちにすれば目新しい情報ではない」
「あっ――」
俺はホテルへの誘い出しを懸念していたが、そもそも既にホテルから一度尾行されている。
そのホテルで騒ぎを起こせば誘い出しに遭う可能性を俺が考える――という点を、マフィア側が思いつかない筈がない。
爆破騒ぎまで起こして、あからさまな罠を仕掛ける価値は薄い。引っかかれば儲けものと考えてかもしれないが、それにしては爆破はやりすぎだ。
つまりこの騒ぎは陽動である可能性もあるが――本命はやはり、クリステラ親子か。
「幸いにも父は議員やボディガードとコンタクトは取れている。
軽率な行動だと咎められるかもしれないが、愛娘の救援と知れば無碍にも出来ないだろう。
警護チームのバックアップを受ければ、マフィア達にもおいそれと気取られまい。
父は月村すずかとホテルへ行き、現場の状況をまず確認すればよいのではないか」
「ディアーチェはどうするんだ」
「我はさざなみ寮ヘ向かい、父に代わって現場を仕切る。戦闘にまでなっているが、ディード達も善戦している。
寮の人間には父からの救援であることを告げ、問題とならないように対処するので任せておけ」
「なるほど、さすがはディアーチェだな。頼りになる」
「ふふん、シュテル達を代表して父の力となるべく地球へ直参したのだ。このくらいのこと造作もない」
口ではそう言っているが、ディアーチェの頬は紅潮している。緊急事態だが気概に満ちていて頼もしい。
確かに俺は事件解決のことばかり頭にいっていたが、まずホテルへ行き状況を確認して行動するのは悪くない。
警護チームがサポートしてくれればマフィア達から迂闊に仕掛けられることもないだろうし、妹さんがいれば奇襲も防げる。
万が一不測の事態が起きれば、その時に行動すればいい。フィアッセから連絡を受けたとあれば、邪魔立てさえしなければ議員やエリスも話くらいはしてくれるだろう。
「よし、ディアーチェの判断に従って行動に出るぞ」
「うむ!」
こうして俺達は、新たな戦場へと向かった。
<続く>
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