とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 四十七話
フィリスとシェリーの誘拐事件が解決したのはつい先日の事だ。マスメディアにも公表されておらず、表沙汰にもなっていない。
各方面への調整は夜の一族が行ってくれているが、彼らはまず日本で起きた救出劇の後始末と俺達被害者の保護を行ってくれている。
被害者の関係者ならともかく、フィアッセのご両親という立ち位置ならば連絡がまだ届いていないのは無理もない。
フィアッセが何故か自慢げに胸を張っているので、俺は渋々事情を説明するしかなかった。俺から言うのはあまり良くないと思うので、後で夜の一族にも報告しておこう。
「――話を要約すると君が囮となって犯人達のアジトを特定。囚われていた彼女達は救出されて、君と共に安全な場所で保護されている。
フィアッセも君の要請により専門の警護チームによって現在護られているという認識でいいかね」
「信じられない……何故貴方のような民間人に、そんな危険な真似をさせたのか」
長い話を聞いた親父さんは難しい顔をして腕を組み、護衛のエリスは拳を震わせて怒っている。ほれ見ろフィアッセ、普通はこういう顔をするんだよ。
映画とかなら見所あるアクションシーンかもしれないが、あんなのはフィクションである。脚本がある訳じゃあるまいし、現実は何が起こるか分からない。
素人が口出しして誘拐事件に関わって、いい顔なんてする筈がない。上手くいったから良いのではない、大人であれば上手くいかなかったらどうするんだと怒るものである。
潜入作戦だって基本的に俺の味方や支援をしてくれる夜の一族の姫君達だって、大反対していたのだ。俺が無理強いしたから、カレン達は渋々作戦を練った上で支援してくれたのだ。
「フィリスとシェリーの誘拐はこちらでも把握していました。
この時点で早急に貴方のお嬢さんの安全を確かめた上で、セキュリティ万全なマンションへ避難させました。
ご報告が遅くなり申し訳ありませんでしたが、状況が把握できていなかった以上迂闊な連絡ができませんでした」
「いや、仕方がない。君から我々に連絡を取る手段がなかったんだ。
フィアッセからであれば直接連絡できるが、取り乱している状態では余計な混乱を招くだけだっただろう。謝る必要はない」
「一つ確認させて下さい。先程貴方の説明にあった専門の警護チームというのに、その時点でガードを要請されていたのですね」
「ええ、その点は間違いありません。フィアッセにもマンションから出ないように言及し、彼女の同居人にも傍にいて貰いました」
「なるほど、適切な判断ですが――」
「何か?」
「貴方がご自分が素人だと言っていましたし、私も貴方が民間人という認識を持っています。
ただそれにしては現場の判断は出来ており、失礼ですが場馴れしている印象を受けました」
マクガーレンセキュリティ会社のプロが首を傾げている。そりゃそうだろうね、こんな修羅場がここ一年何回もあったんだから。
修羅場を潜ったからプロになったというような過信はない。仲間や家族に助けられたから命を拾っただけで、物語の主人公でもない人間が簡単に強くなったりはしない。
ただ場馴れという意味では確かに、こういった事態にはもういい加減慣れている。失敗や挫折も数え切れないほどしたんだから、さすがに判断くらいは落ち着いて出来る。
強さや才能とはあんまり関係ない話なのだが、フィアッセは俺が称賛されたと思ったのか喜んでいる。アホだった。
「いずれにしても、二人が無事なのは良かった。フィアッセにとって何より大切な人達なんだ。
大事な娘の為に尽力を尽くしてくれた君には改めて礼を言わせてほしい」
「い、いえ、まあ私にとっても他人ではないので。それに囮をかって出ただけです」
「褒められたことではないですが、礼を受けるに値することですよ。金品も絡んでいない口約束を、貴方はフィアッセとの契約として果たしたのです。
口約束であれば、お礼という形で報酬を受け取るのは至極当然の事です。貴方も警護する側であれば、義務として受け取って下さい」
「……分かりました。では礼には及びませんとだけ」
俺とは近い年代なのに、エリスはプロ意識の高い人間として忠言してくれる。説教じみているが、自分と同じ立場として扱ってくれているからこそだった。
プロだとは今でも思われていない。ただ素人だからと見下されてもいない。立ち位置と経験を正確に定めているからこその意見だった。
今まで随分多くの大人から叱られたり、怒られたりしたし、時には見下されたりもしたが、彼女からの言葉は素直に受け止められた。
それこそいい大人達に巡り会えたからこその経験なのだろう。エリスの言葉を説教だと憤慨せず、受け入れられた。
「なるほど、事情は理解できた。状況がこうまで変わっているのであれば、少し考え直さないといけないね」
「私とリョウスケの関係を認めてくれたの、パパ!?」
「……あの、フィアッセはいつからこんな感じに?」
「残念ですが、脅迫を受けているからではありません。
ここ最近こやつは日和っておりまして、俺がいれば安全と高を括っているんです」
「なるほど、せめて日々脅かされて精神が参っているのであってほしかったのですが」
仮にも友人であるエリスにえらいことを言われているな、こいつ。俺も同じ感想を持っているから、溜息まで出ているけど。
親父さんもよく笑って流せていられるな。俺が親だったらこんな色ボケ娘、ビンタしているぞ。
苦労人であるフィアッセの親父さんが、自分なりの見解を述べる。
「安全のためにフィアッセを本国へ連れ帰るつもりだったが、二人が救出されて犯人達が追い詰められているのであれば話は別だ。
迂闊に本国へ送ろうとすれば、その動きを察知して狙ってくるかもしれない」
「フィアッセも二人が救出されたとはいえ、現状を顧みると余談を許さない状況なのは違いないでしょう。
このまま日本へ居て状況と情報を把握する時間がほしいところです」
「でしたら――しばらくフィアッセは、貴方とご一緒に行動されるというのはいかがでしょうか」
「えっ、リョウスケは一緒じゃないの!?」
「お前が日本に残りたいと言うから折衷案を出したんだろう!
親父さんだって日本にしばらく滞在してくれているんだ、家族水入らずで思いやってやれ。
嫌なら本国へ帰ってもいいぞ、俺は喜んで送り出してやる」
「うう、はーい……」
渋々といった感じではあるが、フィアッセも自分が無理を言っているのはよくわかっているのだろう。承諾してくれた。
親父さんも娘と一緒ということで快く応じてくれたし、感謝までされた。俺は厄介払いしただけなので礼はいらないです。
可哀想なのはエリスで、俺が心からの笑顔でフィアッセに手を振っている様子を見て困惑していた。どういう関係なのか、分かりかねているのだろう。
残念ながら俺はヒロイン的な立場の女であろうとも、容赦なく切り捨てられる男である。
これでうるさい奴がいなくなったし、しばらくはのんびり出来る――そう思っていた、この時までは。
<続く>
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