とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第十一話
たった半年あまりで、日本のサムライが世界有数の武装テロ組織を粛清しまくっていた。
アメリカ富豪の資金力とロシアンマフィアの組織力、夜の一族と表社会の国家治安維持組織が手を組んで、世界の大掃除を行ったのだ。
表と裏が手を組まれてしまえば、テロなんぞ入り込む余地がない。情報も簡単に漏れまくっていて、テロ組織による報復活動は全て血の海に沈んだらしい。
肝心の本人が異世界や異星で頑張っている間、人様の名前を借りて何やってんだコイツラ。いや別に、俺もサムライを名乗っていたわけじゃないけどさ。
『ドイツの地で王子様によって企みの全てを叩き潰されてよほど頭にきたのでしょうね。
今まで流れを追うのに手を焼いていたチャイニーズマフィアの資金繰りが手に取るように読めて、とてもやりやすかったですわ。
あらゆる方面から手を回して蓄財を分捕ってやりましたもの。これでようやくテロ事件でこのわたくしに恥をかかせた溜飲が下がりました』
「あっ、やっぱり気にしていたんだな。人質に取られそうになったのは」
『ふふふ、まあ他でもない王子様に救出して頂いたので、わたくしとしてはそこまで悪い思い出でもないのですけれど』
夜の一族の世界会議の場にテロ組織の連中が大量に乗り込んできて、あわや要人達が誘拐されそうになった。会議の場を銃で包囲されて殺されそうになったのだ。
ノエルとファリンその他の武力で脅しながら死物狂いで俺が交渉し、そして最新型自動人形のローゼの裏切りによってパワーバランスが崩壊して、何とか窮地を乗り越えた。
カレンも危機的状況に陥っていたので、その時ついでに救出したのである。当時は敵勢力だったのだが、彼女は俺をスカウトしようとしたりと気にしてくれていたので、一応助けた。
巡り巡って今ではこうして愛人面されるようになったのだが、本人の気質は全然変わっておらずこうしてテロ組織を札束でボコっている。
『チャイニーズマフィアで構成される龍は当時夜の一族を持ってしても御せないほどの暴力と資金力、そして中華を背景にした権力で構成されていました。
私もロシアンマフィアの父に反旗を翻すべく、貿易路を独自に開拓して流通ルートを構築し、表社会の治安維持組織等にも接触。
ロシアンマフィアとチャイニーズマフィアが正式に手を組んで、夜の一族を掌握されてしまうと、下手をすれば表裏が逆転するほどの驚異となっていたでしょう。
それほど壮大な計画だっただけに、貴方様お一人で潰されたことに我慢ならなかったのです。百年、いや下手をすれば千年に一度とも言える好機でしたので』
……俺はただ利き腕の治療をしに海外へ行っただけなのに、いつの間にかそこまで大層なことになっていたのか。ロシア美女のディアーナは恐ろしい笑みを浮かべている。
諸悪の根源であるローゼは世界会議後平然とした顔で俺に着いてきやがったし、悪びれも一切せず今ではエルトリアという惑星で開拓事業を支援してやがるしな。
テロ組織やカレン達には悪いが、あのアホは責任感なんぞ一切なく躊躇せず裏切りやがったからな。
俺としては命拾いしたので別に責める気はないんだが、あいつはあいつでちょっとくらい申し訳ない顔をした方がいいと思う。
『ということで今回の話に繋がるのだが、我々の徹底した粛清によりついに奴らが我慢の限界を迎えた』
「そりゃそこまでしこたまボコったら、苛められっ子だってキレるだろう」
『勘違いをするな、下僕よ。痺れを切らしたのは奴らのスポンサーだ』
「テロを支援しているとかいう連中か。そもそもそいつら、なんでテロ組織なんぞ支援しているんだ」
『所詮お前以外の人間など、愚物の集まりよ。表で平然と生きる豚どもだって、厚顔無恥に平和を謳歌している。
金や力をくれてやることで、暴力や権力を振りかざして暴れてくれるのだ。自分達にとって目障りな連中を殺すくらいなんでもない。
直接犯罪行為に出なくても、"龍"というブランドがバックにあれば出来ることも多い。金や物、女くらいくれてやる見返りはあったのだろうな』
政治や経済が清廉潔白という気はないが、さりとて子供達が思うほど大袈裟に汚れてはいない。
俺も政治家などは斜め上から見下ろしていたが、政争など繰り広げていると彼らの苦労なども分かるようにはなってきた。
ただ綺麗事を成すにも力が必要で、世界を動かすには金もいる。汚れた仕事を行うのであれば、その道のプロだって必要となる。
チャイニーズマフィアは何もテロばかりやっているのではない。歴史あるマフィアが君臨できているのは、あらゆる裏稼業をこなしてきたからだ。
『そんな連中が日本のサムライ一人に粛清され続けているのだ、信頼どころか信用だって失う。
そこで表社会と繋がっている我らがちょいと声をかけてやれば、やつらはホイホイ尻尾を触って掌返ししてくる。
この我に恐れおののいて頭を下げる姿は滑稽であったわ』
「……金や力だけではなく、スポンサー連中まで奪い取ったのか」
夜の一族はどちらかといえばチャイニーズマフィアより闇に潜む連中なのだが、カレン達が表社会で降臨している分話が通じやすかったのだろう。
つまりカレン達は裏社会で徹底的に粛清するのと同時に、表社会で支援していた著名人達に声をかけて支援を断ち切りまくったのだ。
表と裏でよくそんなえげつない真似が出来るものだ。こいつら、下手をしたら異世界で戦ってきた俺よりよっぽど働きまくっている。
一言でいえば、その時地球にいなくてよかったの一言である。もし留まっていたら、神経が持たなかっただろう。
『表社会ではスポンサー達、裏社会では実力者達を次々と叩き潰されて、彼らは進退窮まった。
追い詰められた奴らが次に手を出したのが、我ら夜の一族への対抗策だ』
「お前らへの対抗って、吸血鬼の天敵である教会とか魔女狩りか」
『あら、さすが王子様。悪くない線ですわね』
『ご冗談のおつもりだったのでしょうけれど、時折本質をつくので頼もしくも恐ろしいですね』
『ふふん、まあ我の下僕であるからな。一応褒めておいてやろう。
下僕、奴らが本格的に乗り出したのは『変異性遺伝子障害』という研究材料だ。
貴様も聞いたことがあるだろう』
「! まさか、"HGS"か!?」
フィリスやリスティが患者となっている原因、副産物としていのうと呼ばれる超能力を発言させる遺伝子の病気。
GS患者は能力と個性により、持ち主によって形状の異なるフィンと呼ばれる光の翼が発言する。
通常の能力者はこのフィンで光や風からエネルギーを吸収したり、自身の余剰エネルギーで超能力を使用することができるそうだ。
確かに以前フィリスが話してくれた時、日本の研究所は誰かに潰されたと言っていた。
『この病気は数十年前、世界中で多発的に発病した新病です。
先天的に遺伝子に特殊な情報が刻まれており、それによって死ぬことはないものの多くの障害を引き起こす難病とされています。
変異性遺伝子障害の中でも特殊な発現がされた場合は「高機能性遺伝子障害」さえ引き起こすのですわ、王子様』
『これが貴方様の仰るHGSと呼ばれるもので、貴方様の関係者であるフィリス・矢沢やリスティ・槇原、そして――
変異性遺伝子障害Pケース――"種別XXX"
Pケースとされる障害を発現した者はHGSの中でも強い力を持ち、健常者を対等の人間とは思えないと独自の思考を持つ危険性を秘めておる。
それが今貴様が愚かにも守ろうとしておる女、フィアッセ・クリステラだ』
なっ――あのフィアッセが……種別、XXX!?
『正直申しあげて、王子様の関係者ではなければ当の昔に排除しております』
『いえ、貴方様の関係者であるからこそ腹立たしくもあります』
『うさぎ、クリスが言うのも何だけど――そいつ、人の皮を被った怪物だよ。
今はさも女であるかのように振る舞っているけれど、病気が発言すれば人の心なんて簡単に消えちゃう。
うさぎを好きな気持ちとか、家族の思い出とかぜーんぶ消えて、そいつは人間じゃなくなる』
何を馬鹿な、といいたかった。けれど、リスティも数ヶ月前に暴走して俺を殺そうとした。
もし種別XXXのフィアッセが、暴走したらどうなってしまうのか――
"帰ってきてくれて嬉しい。リョウスケがいれば安心だね"
HGSが発現したら……あいつの無邪気な心は、消えるのか。
<続く>
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