とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第十話
『まずドイツで行われた世界会議。夜の一族の長を決める会議の場で起きたテロ事件、実行犯はロシアンマフィア。
忍さんの縁者であった安二郎の情報漏洩により、一族の覇権と自動人形の技術を狙った武装テロでしたが――
御存知の通り王子様によりローゼが離反し、事件は解決。会議も無事終了し、我々は新体制の元で報復を決行いたしました』
アメリカの夜の一族、カレンが事態の説明に乗り出す。時系列としては世界会議が終了した後、去年の夏以降の話となる。
敵側から離反させたと聞くといかにも格好良く聞こえるが、初対面でローゼにうどんを食わせてやったら勝手に懐いたというだけの話である。
今にして思うと最新型とはいえ自動人形がうどんなんぞよく食えたものだと思うが、スカリエッティ博士の最新作はその点においても優れていたようだ。
ローゼの研究資金を出していたカレンにとっても耳に痛い話だったのか、あまりいい顔はしていない。
『父を断罪した私が組織を乗っ取り、クリスチーナの大粛清もあって組織改革を図りました。
時間と資金を費やしましたが、当時の実行犯や協力者達を残らず全て洗い出した上で、見直しを図ったのです』
「……ちなみにその洗い出した連中はどうなったんだ」
『クリスのかわいいうさぎに手を出したんだよ。きちんと全員、自分の命があることを後悔させてあげたよ』
血の制裁を行ったのだと平然とのたまう、ロシアンマフィアの姉妹。
クリスチーナは俺を第一ターゲットにする事を自分の名にかけて誓ってしまったせいで、他の人間を殺すことが出来ない。
だが殺人姫と呼ばれるほど殺人技術に特化した少女は、どうすれば人は死なないかも心得ている。
生命があっただけマシと、人生を謳歌させるほど甘くはないという事だ。俺もよく生き残ったものである。
『その結果実行犯はロシアンマフィアですが、黒幕は"龍"と呼ばれる組織である事が判明いたしました』
「俺も以前その話は聞いたことがあったな。確かチャイニーズマフィアだったか」
『フン、我々夜の一族も日陰には出れない人外集団。表と裏、二つの社会に根付いているハグレ者だ。
当時夜の一族の会議に向けてロシアンマフィアが動いていたこともあり、連中も我々の主戦場であるドイツの地に直接出向く事はできなかった。
よって資金提供と人材、プランを提供して干渉してきたということだ』
次世代の長となったカーミラがカレンの説明に補足する。チャイニーズマフィアは夜の一族の事を知っていたということか。
夜の一族は西欧発祥の種族で、いわゆる吸血鬼と称される存在だ。別名では遺伝子障害の定着種との事で、外見は人間に近しい。
体内での栄養価の生成バランスがうまく出来ないため、人間からの血の摂取が不可欠。その分能力面で優れており、人間の上位互換の様な特徴を持っている。
人に近しいからこそ表社会で生きることが出来、人ではないからこそ裏社会でも活動している。マフィアも警戒はしていたようだ。
「どうしてチャイニーズマフィアが、ロシアンマフィアに援助なんぞしたのだ」
『夜の一族の覇権を狙う私の父がチャイニーズマフィアと手を組み、世界会議を機に裏社会の勢力図を書き換えようとしたのです。
夜の一族の主だった者達が集う世界会議は正に狙い目だったのでしょう。
私も娘として身の危険を感じ、状況を覆す手段を伺っていたのですが……チャイニーズマフィアの援助もあり、武装テロ計画は念入りに練られていました。
事実計画は半ば成功していたのですが、あなた様のご活躍により全てがご破綻となりました』
『クリスも面白そうだったならパパのお手伝いするつもりだったけど、うさぎと仲良くなってどうでもよくなっちゃった、アハハ』
ディアーナとクリスチーナより微笑み混じりの歓談をつげられて、カレン達も和やかに笑っている。いや、当事者だった俺は死にそうだったんですけどね!
俺は怪我して動かなくなった利き腕を治すべく、夜の一族の血を頼ってドイツの地へ赴いた。だというのに怪我の治療どころか、テロに巻き込まれて散々な目にあった。
状況が覆ったのも、俺の周囲の連中による様々な要因がうまく適合しただけだ。
夜の一族の純血種である月村すずか、妹さんの意向も大きい。
『作戦は失敗し、ロシアンマフィアはディアーナさん達により粛清。チャイニーズマフィアである龍は計画失敗で相当な痛手を負いました。
手負いの獣ほど怖いものはないといいますが、連中は計画失敗を受けて報復を誓いました。
当時テロ解決の立役者として騒がれた王子様を抹殺するべく、動きだしたのです』
『当時の動きはお前もよく知っているだろうが、我の可愛い下僕であるお前を狙うなど笑止千万。
世界会議を通じてお前との縁も結ばれたのもあり、我々はお前の支援を行うべく意見が一致した。
後は知っての通りお前が居を構えている日本の街を国際化し、資金援助や人材派遣を行って、新しき支配地を作り上げた』
……海鳴を支配地だと平然とのたまうカーミラを、他の誰も否定していない。恐ろしい話であった。
ロシアンマフィアを掌握したディアーナ達は日本への貿易路を開拓し、日本の政財界にアメリカの富豪であるカレンが積極的に働きかける。
フランスの貴公子であるカミーユが日本文化支援を打ち出し、ドイツの支配者となったカーミラが支配に乗り出したという仕組みだ。
ここまでの話は俺も聞かされていたが、そこからの話がまた盛大に驚かされた。
『我々は龍を壊滅させるべく、手を打ちました。王子様ご本人の事は情報封鎖を行い、あらゆる方面からシャットアウト。
身の安全を確保した上で撹乱させるべく、私達は偶像を誕生させたのです』
「偶像……?」
『御神美紗都、貴方が師事する剣士。当時ディアーナの護衛を務めていた彼女の目的は、世界会議を狙う龍の殲滅。
チャイニーズマフィアを狙う彼女の理由は敢えて詳細は伺いませんでしたが、動機は復讐であることまでは分かっています。
そんな彼女に申し出たのです。貴方の弟子を護り、貴方の復讐を叶える手段があると』
「ま、まさか――」
『王子様がこの世界を留守にされていたのは大変都合が良かった。何しろ異世界という完璧な神隠しにより、姿を消されていたのです。
チャイニーズマフィアである彼らであっても、異世界にまでは追えない。痕跡が消えた彼らの前に――
御神美紗都というサムライの偶像をお見せいたしました』
『お前には聞かされていたと思うが、奴はディアーナのツテを頼って香港国際警防隊の所属となった。
香港国際警防隊は小規模ではあるが、実力者集団で、やつらも龍の殲滅を狙っていたからな。
今度はこちらが国際組織と手を組んで、"サムライ"を大暴れさせてやったのだ』
『サムライの容姿や素性を誤魔化す手段などいくらでもありますからね。連中も見事に釣られてくれました』
……俺と師匠は男と女という性別の差ほどもある別人なんだけど、よくマフィア達を騙せたものだ。サムライだったら何でもいいのか、アイツラ。
ただカレン達の話だと、そもそも俺という十代の小僧がマフィアの計画を潰したという事実が受け入れられなかったらしい。
無理もない話だ。当時孤児院を飛び出した浮浪者、山で拾った気を振り回すだけのガキがマフィア達を相手にできるなんて絶対に思えない。
むしろ偶像である御神美紗都こそ真のサムライだと信じ込んでしまうのは、仕方がない話かもしれない。
「じゃ、じゃあ俺が異世界とか異星に行っている間を利用して、奴らをとことん追い詰めたのか」
『ふふふ、半年ほどかかりましたが、おかげさまで連中の勢力は相当削れましたわ。資金や縄張り、連中の協力者関係もかなり奪ってやりましたしね』
『それで追い詰められた彼らが起死回生を狙って、今大胆な手に打って出たということだ。こちらの思い通りとも知らずに』
「なるほど、そこからフィアッセの話につながってくるのか。でもさ――」
『いかがされましたか、あなた』
「俺がサムライなのは当時メディアでも騒がれていたんだから――師匠が俺のフリしてやったことが、俺のやったことになるんじゃないのか?」
『……』
「おい、俺は日常に帰れるのか!?」
静かな口調で尋ねるヴァイオラに根本的な質問をすると――夜の一族全員が黙り込んだ。
偶像という言葉で飾っているが、要するに俺に変装してテロ組織を壊滅させまくったということになる。
このまま平穏無事に日本で生きていけるのか、不安になってきた。
<続く>
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