とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第九十二話
イリスやクアットロ達の尽力により、惑星エルトリアの環境は無事元通りとなった。救助活動も完了し、被害は最小限で済ませられた。
最小限だと称しているのは、やはりモンスター達の暴走だった。シグナム達も手を尽くしてくれていたが、やはり怪我人は出てしまったらしい。住居も幾つか壊されてしまったようだ。
ただ幸いにもエルトリアの永住者は人外連中であり、劣悪な環境でも生きていける百鬼夜行である。時代の変化に慣れている彼らの環境適応能力は強く、モンスターの襲撃にも上手く立ち回れたとの事だった。
救助者を載せた商船へエルトリアへの降下許可が降りたので、俺達はようやく惑星へ着陸することが出来た。
「話は聞いている。元凶は片付いたそうだな」
「イリスたちから状況は聞いた。シグナム達も無事で良かった」
「テスタロッサの助力があってこそだ。危機的状況が続き、私一人では手に負えなかった。
……シャマルやディアーチェ達はどうやらお前に無理難題を押し付けられたらしいからな」
地上へ降りた瞬間シグナムからチクリと刺され、傍らにいたフェイトが苦笑いを浮かべている。シグナムは騎士甲冑が泥だらけ、フェイトはおでこと頬に大きな絆創膏を貼っていた。
二人に聞いた話では衛星兵器が起こした磁気嵐の影響で惑星内の環境状態が乱れ、モンスター達が異変に混乱して大暴れしたらしい。とにかく数が多く、どこにいたのかと思う程の群体だったそうだ。
ローゼはガジェットドローンを総出撃、CW社が開発した兵器類もフル出動。妖怪達は群れをなし、龍姫達は一族を率いて立ち向かった。見るもの見れば震え上がってしまう妖怪道中記である。
現地に降りなくてよかったと、つくづく思う。軽率に飛び込んでいたら、暴力の渦に巻き込まれていただろう。
「モンスター達も厄介だったが、これを機に古代種まで出張って来たのが厄介だった」
「古代種……?」
「エルトリアの惑星観測でCW社が命名した、エルトリアの起源です。人類が生まれるより前からこの惑星を支配していた生物ですね」
地球は今人間が半ば支配している惑星であるが、エルトリアは人外が蔓延っている不毛の地である。
アミティエやキリエが美すら感じさせる生命力を誇っているのも、この厳しい環境の惑星で生まれ育ったからだ。我々がモンスターと呼んでいる生物も、人間から見れば驚異と恐れられているからだ。
古代種はモンスター達の王であり、祖先である。月村すずかが夜の一族で注目されているのも、祖先の血を継ぐクローン体である為。
血の濃さは生物の歴史であり、積み重なった時代の年月がそのまま強さに直結している。
「そこでモンスター達を皆に任せ、古代種は我々が引き受けることになった。環境を背景に戦う彼らは非常に手強く、魔導を駆使したが相当難儀させられた。
それは私やテスタロッサのこの有様を見れば分かってもらえると思う」
「シグナムよりカートリッジシステムの事を聞き、CW社より新機種の魔導を借り受けていなければ、私も命が危なかったです。
環境を武器とする彼らの戦いぶりは魔導を持ってしても、苦戦させられました。魔導殺しを発端としたリョウスケの今後に対する懸念は正しかったですね」
傷だらけになった二人が深い溜め息をつき、感想戦を行っている。彼らの戦況報告を聞いて俺は戦慄してしまった。
シグナム達は超一流の戦士、高町なのはやクロノ達でも苦戦させられる実力を持っている。俺にとっては見上げるだけの存在が、この惑星では挑戦者であるというのだ。
環境を背景したとあるが、古代種にとってエルトリアは縄張りなのだろう。惑星そのものを武器にされれば、シグナム達でも苦戦するのは若干納得できないが頷ける話だった。
話を聞く限りでは、彼らでは勝てなかったというニュアンスが見受けられるが――
「そいつらはどうしたんだ」
「お前が衛星兵器を破壊し、環境が落ち着きだしたら撤退した。一筋縄ではいかない相手だと判断したのだろう」
「追撃を仕掛けても良かったのですが余力がなく、そのまま帰還しました。ごめんなさい、リョウスケ」
「いや、現場判断優先だ。二人の話を聞く限りでもよくやってくれている。むしろ礼を言うよ」
エルトリアの生存競争に勝ち続けた始祖モンスターか、厄介な連中だな。害獣かどうかの判断はこれからになるが、共存は難しそうではある。
知性や理性があるかどうかはともかくとして、向こうから見れば俺達は侵略者だからな。永住権を訴えたところで、何いってんだこいつという話でしかない。
人類より遥か昔に栄えた種族、地球では恐竜に該当する生物と言える。恐竜も確か環境変化で滅んだ生物だ、そう考えると因縁さえ感じられる。
ただ恐竜の場合環境変化に耐えられず滅んでしまったが、古代種は生き残った脅威である。エルトリアにとってこれから先の課題になるだろう。
「環境こそ落ち着いたが、私やテスタロッサはしばらくこの星に残る必要があると感じている。
向こうからしても私達を脅威と捉えているはずだ、滞在している限り襲撃を仕掛けてはこないだろう」
「シグナムとも相談したのですが、バイトの延長をお願いしたいです。実は集落の立て直しをお手伝いするつもりでして、皆さんの力になりたいんです」
「分かった、こちらからお願いしたいくらいだ。給与面についても待遇の向上は約束できる。
ただ申し訳ないが、多分俺は地球に帰らなければならなくなりそうだ。留守を頼めるだろうか」
「ああ、地球から緊急の連絡が入ったそうだな。話を聞いて私も慌てて確認したのだが、主はやてに関する事ではないらしい。
我が事を優先してしまい申し訳ないが、私やシャマルは戻れそうにないからな」
シグナムがバツの悪そうな顔をして頭を下げていて、俺やフェイトは苦笑する。家族優先なのは当然だと思うが恥じ入っているらしい、生真面目な女性騎士である。
実はフェイトもアリシア達の事を確認したそうだが、特に連絡はないらしい。彼女達の母であるプレシア・テスタロッサは島流しの身、ある意味で安全とも言える。
アリシアはあの母親気取りのオリヴィエの相手をさせているので油断ならないが、少なくともあの怨霊は大人しくしているらしい。肉体を得て少しは落ち着いたのだろうか。
フェイトは小首を傾げつつ教えてくれた。
「CW社より伺っています。なのはからだそうですよ、リョウスケ」
「なのはが……?」
高町なのはの平和な笑顔が思い浮かぶ。平凡を絵に書いたようなガキンチョだが、あいつもあいつでなかなか油断ができない。
あいつ自身は無害そのものなのだが、出会った当初通り魔に襲われたり、ジュエルシード事件に巻き込まれたりと、主人公めいたトラブルメーカーであるからだ。
なのはは他人に迷惑をかけることを望まない女の子なので、余程のことがない限り頼ったりしない。そんな子が緊急コールなんぞしてきたら寒気の一つも感じてしまう。
エルトリア現地の様子を教えてくれたシグナム達に礼を言って別れ、俺はフローリアン家へ向かった。俺達の拠点をここに建築している。
「おかえりなさい、魔法使いさん。お姉ちゃん、大丈夫ですか!?」
「敵を倒して大怪我はしたけど、命に別条はない。食えば治るとか言って救助室で飯をがっついているぞ、お前の姉貴」
「うっ、無事だったことを喜ぶべきか、女の子らしくないと嘆くべきか……」
アミティエお姉ちゃんが包帯だらけで飯をがっついているシーンを用意に想像できるのか、妹のキリエさんは額を押さえている。俺としてはキリエも結構な突撃娘なので、あまり人のことは言えないと思っている。
それを証拠に、キリエ本人も結構傷だらけであった。やはり自分の故郷という自意識が強いのか、俺達の留守を守るべく奮闘したらしい。
最初は時分から最前線へ出撃しようとしたらしいが、シグナム達に諌められて防衛戦を守るべく戦い抜いたそうだ。本人も気付いていない素質なのか、彼女は攻戦より防戦の方が向いているようだ。
彼女の傷一つ一つが一人一人を守った証であり、彼女も傷だらけで優しく笑っている。
「色々話し合いたいところだが、緊急の連絡が来ていてな」
「あ、引き止めてしまってすいません。ディアーチェちゃん達の代わりにあたしが頑張りますので安心してください!」
「……ディアーチェ達が何だって?」
「担架で運ばれましたよ。魔力切れとかで、戦いが終わった途端卒倒してました」
衛星兵器の爆撃から惑星を守れという俺の無茶振りを、着実に遂行してくれたようだ。文字通り血を吐く思いで戦い抜いて、昏倒したらしい。すまぬ、すまぬ……我が娘よ。
拠点の周辺を見渡してみるが、爆撃による影響はない。衛星兵器の爆撃から全て守ってくれたようだ。あの子の実力は本当に底知れない。
そういえば先程シグナム達と話していた時、シャマルの姿もなかった。あいつも惑星全てを守って倒れたのかもしれないと考えると、ちょっと悪いことをした気がする。
なんか自分のせいで仲間達が倒れたようでちょいとばかり気がひけるが、ともあれ緊急コールを優先するべくキリエと別れた。
『おにーちゃん、ごめんなさい。忙しいのに、急に連絡してしまいまして!』
「なるほど、その評定からしてくだらない用件だな」
『久しぶりに会ったのに、もう断定してる!?』
緊急コールは海鳴から入国管理局、聖地を経由してエルトリアへ結ばれるエマージングオンラインである。距離感を考えると気が遠くなる程なので、設備も費用も莫大に費やしている代物だ。
実は連邦政府と今交渉しているテレビジョン放送や電波法関連も、根幹はこの通信技術である。連邦政府と主要各国を結ぶ新しい通信の枠組みとして、今提案しているのである。
そういう意味ではこうして高町なのはと話せている時点で既に通信成功しているのだが、連邦政府からすれば未知なる技術なので実験を繰り返す体裁を見せているのだ。
成功自体が約束されている取引なのだが、自分が生み出した技術ではないので複雑である。
『何か色々会ったみたいでこんな事を聞くのは恐縮なのですが……おに―ちゃんは何時頃帰ってこれそうでしょうか』
「……冷静になって考えてみれば、何故わざわざ海鳴に帰る必要があるんだろう。お前や忍みたいな奴がいるのに」
『忍さんがひたすら可哀想!? いえいえ、あのあのなんと申しあげますか、なのは的にも帰ってきてほしいかなって』
「冗談だよ。お前ん所の家族のこともあるし、何よりスバルやギンガ達が世話になっているからな」
家族問題で高町桃子が喫茶店経営を悩んでいる件で、何とか立ち直ってもらいたくスバル達に遊びに行かせている。
母親の悩みを解決するのはやはり子供たちの笑顔あってこそ、高町家とナカジマ家の交流を深めて、家族の良さを取り戻してほしいという計画を遂行している。
高町なのはは魔導師であることを以前に、小学生のガキンチョである。こういう家族問題に適しており、実際スバル達とも仲良くしているようだ。
と、思っていたのだが――
『えーとですね、フィアッセお姉ちゃんがずっとそわそわしてまして……おにーちゃんがこのまま帰ってこなかったらどうしようと、悩んでいるのです』
「フィアッセ? ああ、あいつも失恋したばかりだからな」
高町恭弥と高町みゆきの絆が事件を通して深まってしまい、フィアッセは祝福しつつも少し落ち込んでいた。
だからこそ恋人役にはなれないが、護衛として俺の剣を貸してやると口約束してやったのだ。失恋した女に優しくするのはご法度だが、慰めるくらいはかつての居候としてできるからな。
彼女のご両親には夜の一族の世界会議でドイツへ行った時もお世話になっているし、それくらいの恩返しはしているつもりだ。
そういう義理があるのだから、確かにあまり留守にするのも心苦しかった。
「なるほど、エルトリアへ連絡を取るのは緊急コールでしか出来ないもんな。だからこの回線使ったのか」
『なのはが行ければよかったんですけど、流石に厳しいかと……それで連絡を取りました』
「それで、フィアッセがどうかしたのか」
『この話、おかーさん達には内緒って事でなのはだけに話してくれたんですけど――
フィアッセお姉ちゃんに、脅迫状が届いたそうなんです。どうしてもおに―ちゃんに相談できないかって』
――脅迫状?
単純に寂しくて会いたくなっただけかと思いきや、予想外にマジもんのトラブルで絶句する。
なるほど、確かに俺に連絡するにはなのは経由しか思い当たらないので、慌てて連絡してくるのも頷ける。
失恋したあいつの心が立ち直るまで護衛を引き付けた以上、流石に帰らないわけにはいかなくなった。
<続く>
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