とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第八十三話




 ――海外で夜の一族の世界会議に参席している最中、海鳴では大きなトラブルが起きており、知らずに帰国して刃傷沙汰にまで発展したことがあった。

不幸中の幸いにも何とか穏便に事は収められたが、流石に二度もゴメンだったので、海鳴から出る際は必ずホットラインを設けておくことにした。特に夜の一族の姫君達からは強く要望されていた懸案である。

海鳴を中心にして海外の各主要国に繋がるネット回線、地球からミッドチルダへ繋がる通信回線、ミッドチルダからエルトリアへ繋がる緊急回線、エルトリアから連邦政府(世界都市の滞在先)に繋がる衛星回線を用意。


どこで何かが起きれば直ぐに俺へと繋がる情報網の構築である。結構な予算と設備がかかったが、どの施設もスポンサーがいて進んで融資してくれていた。


『……監視って言わないか、これ?』

『あんたから目を離すな、と各スポンサー直々のお達しなの』


 俺の留守中に揉め事が起きるのは二度とゴメンなので、アリサの言い分は理解こそ出来たが、何か腑に落ちなかった。

海鳴から世界線を超えてまで連絡が繋がるという技術が、今でも理解できない。本当に凄い世界へ飛び込んでしまったのだと、今更のように思う。

連絡がないのは元気な証拠だという名言を地球で聞いたことがあったが、この回線が機能しない事態が起きてしまった。


シュテルの話では、エルトリアへ連絡が繋がらないという。


『シュテル、お前に何か異常は起きていないか。流石に真面目に答えろよ』

『肉体面及び精神面に何の影響もございません。父上の法術は問題なく機能しております』


 ――色々あってすっかり忘れ去られているかのような事態になっているが、俺の最終目的はあくまでも法術の解明である。

イリスの馬鹿が冤罪による復讐計画なんぞ企ててしまったせいで、法術に関するデータが記録された聖典が破壊されてしまったのだ。

古代の聖遺物である聖典をこの現代で修復するのは非常に困難であり、エルトリアの技術の粋がこめられた遺跡を再稼働させて聖典のデータを修復することが今回の目的である。


ユーリと協力してイリスが遺跡の全てをフル稼働させて、今エルトリアの環境改善と聖典のデータ修復に全力をあげている。


  『あたしも全く異常はないわ。元幽霊だから変な言い方になるけど、健康そのものよ』

『法術の効果が切れた訳じゃないみたいだな……まあそんな事になれば、現地から即連絡が来るはずだろうけど』


 法術の効果が解除された場合、アリサやシュテル達が消えてしまう危険性はある。検証しようがないので、あくまで憶測の域は出ないけれど。

ユーリ達が消えてしまうと途中まで進めていたエルトリアの環境改善が停止してしまい、パニックに陥ってしまう。突然変異を起こしても不思議ではないからだ。

そうなると連絡なんて取りようがなくなるが、その点は問題なさそうだ。聞いた話ではユーリ達に何が起きた場合、シュテルはすぐ察することが出来るらしい。


マテリアルがどうとか言ってたけど、俺には意味不明だったので無事ならいいという結論に収まった。


『戦闘機人同士、連絡が取れないのか。トランシーバーとか』

『……せめて無線機とか言っていただきたいのですが、陛下の機械に対する認識は古すぎますわ』

『やかましいわ。それで?』

『勿論私達同士で連絡を取り合う手段自体はございますけれど、さすがにここ世界都市からエルトリアとなりますと手段は限られますわね。
出来なくはないですが大掛かりになってしまいますし、連邦政府に傍受されると目も当てられませんわ。

まあこれまで議会を通して散々議論した通り、連邦政府の通信技術は低いのでその心配は無いとは思いますが』


 衛星回線を確保していたので、独自で別の回線は準備していなかったのだとクアットロは珍しく神妙に説明する。常に用意周到な彼女にしては珍しいと思ったが、すぐに自分の認識を改める。

エルトリアは今渦中の惑星であり、連邦政府から強制退去の方針が定められつつある。この状況下で不可思議な通信施設を建造していたら、万が一目に止まった時に言い訳しづらい。

電波法とテレビジョン開設で世間が賑わっているさなか、まだ法律が定められていないのに通信施設を建造なんて出来ない。戦闘機人でも出来る事と、出来ないことは存在する。


チンク達なら偽装工作も出来るだろうが、そこまでするほどではない。


『チンクちゃん達がおいそれとやられるとは思えませんから、別のアプローチで確認してみてはいかがですか』

『確かにそうだな、ミッドチルダに連絡してみるか』


 エルトリアと通信できないというのであれば、別の回線を使用してみるしかない。クアットロから至極当然の指摘をされて、我ながら今更になって連絡を試みる。

そういえばナハトヴァールの奴、今回俺と一緒に同行しなかったな。てっきりエルトリアの冒険が楽しくて来なかったのだと思いこんでいたのだが、あいつなりになにか感じていたのかもしれない。

イリス事件でユーリが狙われていた時も、ナハトはユーリと常に一緒にいて守ってくれていた。イリス達もナハトヴァールが邪魔で、ユーリに手出しできなかったと言っていたから、効果覿面だった。


あいつ、エルトリアで何か起こると本能で察したから残ったのかな……いつもニコニコ良い子なので、どういう意図があるのか分からん奴だ。


『お疲れ様です、隊長。緊急であれば状況確認の為、シュテルさんに代わって頂きたいのですが』

『俺が全く信用されていない!? エルトリアと連絡が取れないので、確認してくれないか』

『承知いたしました、少々お待ちください』


 特務機動課の副隊長、オルティア・イーグレット。部隊長の俺を補佐する役目の彼女は、こうした有事の為にエルトリア関連の任務には関わっていない。

ミッドチルダでぼんやり留守番しているのではなく、文字通り隊長代理で各方面を飛び回っている。イリス事件で起きた被害や後始末で切り盛りしてくれている。

事件解決の功績で立身出世医を約束されたのだが、全て蹴ってまで特務機動課の副隊長を続けてくれている。聖地や白旗等のミッドチルダ関連は彼女が一任してくれていた。


程なくして、戻ってくる。


『連絡は取れませんでしたが、通信の反応はありました。少なくとも、エルトリアが消滅したといったことはないようですね』

『通信できないのに、反応があった?』

『隊長にも伝わるように言いますと、呼び出し音のみ鳴り響いている状態といえばいいでしょうか』

『ナチュナルに俺が馬鹿にされている!?』


 冗談ですよ、と通話越しに苦笑している様子が伝わってくる。おのれ、すっかり気安い関係になっちまったな。

慎重派な彼女が異常事態でありながらも、別段取り乱す素振りはない。エルトリアへ派遣されたメンバーを信頼しているのだろう。

近況を聞いたところ、イリス事件解決の功績でレジアス中将が今絶賛時空管理局の大革命に乗り出しているのだという。彼との契約で製造されたCW社の兵器が事件解決に貢献した事が決め手となったようだ。


本局と地上本部の勢力図の塗替えが起きているようで、レジアス中将は今ウッハウハで組織改革に務めているようだ。当に人生の華だな……


『ゴキゲンでしたので、特務機動課の予算及び人員の増強、CW社の開発に関する法律の改正案をここぞとばかりに捩じ込んでおきました。
隊長が帰ってこられる頃には、新隊舎が完成される予定です』

『俺がいない間に、部隊の規模は拡大されている!? とりあえず引き続き対応を頼む』

『承知いたしました。何かあれば直ぐに連絡いたします』


 通信を切る。エルトリアで何かが起きているのはほぼ確実だが、ユーリ達はどうやら無事であるらしいことは分かった。


『いかがいたしますか、父上。本日、採決の日ですが』

『……』


 まず大前提として、議会には直接出席はしない。これはエルトリアの件に関係なく、俺達は議員ではないので採決に直接関われない。

今まで議会に参席していたのはあくまで証人として呼ばれていただけであって、採決の日に証人なんて必要ない。だからこそ俺達にとっては実質、昨日が最終決戦だったのである。

では全く必要がないかと言われれば、無論違う。電波法が可決すればマスメディア並びに関係各社への応対が必要、否決されればそれこそ次なる対応を行わなければならない。


考える。今自分が、何をするべきなのか――













「大変申し訳ございませんが、今述べた理由で一旦エルトリアに帰還しなければなりません」

「お話は分かりましたが……正直申し上げて、リョウスケ様には是非いらして頂きたいところではあります」

「お話した通り、我々の見込みでは電波法が可決すると見ております。とはいえ政治というのは何が怒るかわからないものであることは、重々承知。
もし否決された際に私が居なければ、逃げたと評する者もおりましょう。ですので思い切って否決された際は、私が留守であることを理由に責任論を躱して下さい。

後日私が矢面に立ちますので、商会側としてはあくまで支援する立場であったことを貫いて下さい」

「……この私に、貴方に責任をなすりつけろと仰るのですか」


「お忘れですか。私が言い訳の達人であることを」

「まあ……」


 今日に至るまでの議会でのやり取りを思い出したのだろう、パートナーである美人商会長は笑って承諾してくれた。まあ実際、なんとでもなるからな。

シュテル達と話し合って、俺は議会の同行を待たずにエルトリアへ帰還することにした。帰還するのはあくまで俺一人で、シュテル達は残しておく。

議会の動向は気になるが、議会に参席できない以上ボケっと待っているわけにはいかない。否決されればそれこそどうしようもないので、リヴェイラと商会を守る事だけに専念する。


可決されれば彼女が前面に立って勝利宣言すれば見栄えもつくので、それこそ俺の出番はない。そもそも俺やCW社はあくまで技術提携だからな。


「何があってもテレビジョン開設と通信技術開発に支障をきたさないように万事を尽くしますので、どうぞご心配なく」

「ええ、こちらはお任せ下さい。リョウスケ様のご無事をお祈りしています」


 悪戦苦闘させられた政治はこれで一旦区切りはついたので、俺は急ぎエルトリアへ戻る。

一体何が起きたのか、ユーリ達は本当に無事なのか――

世界会議後に帰国した時はもう間に合わず、美有希達と殺し合う羽目になった。


今度こそ、どうか間に合ってほしい。













<続く>








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