とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第八十一話
『リョウスケ氏が今御意見述べられた通信革命の対策における企業及び商会への支援策についての評価と今後の支援策の方針、予算の計上の在り方を伺うとともに、
そもそもテレビジョンを開設する上での人材確保についてどのように考えておられるのか、貴方の所見を伺います』
……まず第一に、シュテル達の身元を明らかにする訳にはいかない。俺自身、あいつらの身元についてよく分かっていない部分もある。
人情優先であまり気にしてないが、うちの子供達はそもそも闇の書から誕生した魔法少女達だ。クアットロ達戦闘機人は、ジェイル博士が造り出した戦闘兵器である。
さりとて適当な事を言えば、追求されることは明らかだ。プライバシー保護の観点で難を逃れることは出来なくはないが、賛成票を得なければならないこの状況で不信を招くのはまずい。
今後の支援策の方針をとりあえず口にしつつ、考えてみる。
「通信及び衛星の革命により様々な社会経済活動をリモート化し、遠隔で行うことを最終的に一般化することを目指しております」
通信技術の進化がリモート活動の一般化にどう繋がるのか、質疑を行う議長を含めて議員達がぽかんとした顔を浮かべている。
イメージできないのは無理もない。だって俺も夜の一族の姫君達と国境線を超えた通信会議を何百回もやっていたからこそ、ネットワークの便利さを肌で感じている。あの女共、大した用もなく話しかけてくるからな。
通信技術が安定化の名目で停滞している連邦政府では、通信によるこうした便利さを実感できる機会は少ない。まして高度な通信はあくまで政治に利用されるのであって、一般化を目指したものとは程遠いと言えた。
正攻法では無理、邪道は明日の採決には繋がらない――となれば。
「この新たな生活様式により通信技術が距離、そして何よりも場所の制約を乗り越えるものであること――
主要各国に成長の機会をもたらすものであることが、民の皆様においても広く私は実感されていくと断言いたしましょう」
通信技術の革命と、テレビジョンの開設。これらが意味するところは、通信の一般化だ。マスメディアが有効活用できるということは、情報が庶民に行き渡ることを意味する。
企業及び商会への支援策という意味では、これほど分かりやすい方針はない。通信技術が一般市民にまで影響を与えるのであれば、収益の拡大化が行えるとは目に見えている。
通信及び衛星の革命が、様々な社会経済活動に繋がる。予算の計上の在り方として、価値付ける事は容易であろう。
つまり連邦政府にとっても、通信技術の革命は都合が良いはずなのだ。
「通信の今後の活用により持続可能な経済社会を各国から生み出し、各国から連邦政府全体に言わば……」
"ボトムアップです、父上"
「つまりボトムアップの成長を図っていこうとする狙いがあります。
多様性に満ちた主要各国の活性化という普遍的な方針、そしてデジタル技術の進化を経て社会経済活動の変化が交差する国づくり!
これこそが、我々が此度皆様に提供する指針であるのです」
何か上手い言葉はないかと頭の中で探っていると、俺の様子を察したシュテルが念話で口添えしてくれる。俺より地球の言葉に詳しくなっていて、ちょっと複雑だった。
通信技術の革命とテレビジョンの開設についてそれほどの指針を練っていたのかと、リヴィエラ商会長のみならず主要各国の代表者達も感嘆の声を上げている。すいません、今考えながら喋っております。
彼らは俺が壮大な絵図を描いていると誤解しているようだが、俺としては現代日本社会という今の結果から逆算して喋っているだけである。結果を知っているから、過程を具体的に言える。
小学生の社会教科書レベルをそれっぽく言っているだけなので、なのは達あたりが聞けば呆れた声を上げるだろう。
「――テレビジョンを開設する上での人材確保について」
地球の技術をそのまま説明できない、シュテル達のことを身元保証は出来ない。
だったら、いつも通りハッタリでいくしかない。俺のような庶民は虎の威を借りるのではなく、張り子の虎のように吠えるのだ。
かなりの綱渡りとなるが――これまでの事を顧みると、可能性はある。
「私はこの通信都市国家構想を提唱しており、大統領も時宜を得たものだと理解して下さっています」
「は……?」
「実を申し上げますと私は大統領と同じ出身の人間でして、通信技術における知見者も同郷の士より幸運にも確保できました。
通信都市国家構想の実現に貢献するべく、インフラ整備計画等についても策定をお願いできる段階にまで進んでおります。
本件における大統領の動きについても、我々の理想に賛同するべく向けた試練と言えるでしょう」
――正気かこいつ、という顔をあろうことか議員達全員が向けている。何故なら大統領がテレビジョン開設と通信技術の革命に一貫して反対を唱えているからだ。
どういう面の厚さで賛同を得られるのだと、唖然呆然の眼差しで見やってくる。同席している秘書のシュテルも驚愕に満ちた顔で俺を心配げに見ていた。
確かに思い切った博打だ、こんな戯言なんて大統領が否定すれば終わる話だ。だが――
「通信の活用により国づくりを実現するためには、主星のみならず主要各国どこにいても高速で接続できる環境が不可欠でございます。
高速での通信環境は社会的インフラと同じように国民生活を前提として求められるものです。
必要な情報サービスにアクセスできる状態を、国家全体で実現していく必要がある。だからこそ曖昧な表現ではなく、明日の採決に向けて思い切るように私に発破をかけてくださっているのでしょう。
こうした通信都市国家構想の実現に向けて、大統領もまた優れた知識をお持ちなのです。どうぞ皆様もご遠慮無く、あの偉大なる指導者に問うてみて下さい」
――今頃大統領はひっくり返っているだろう。どうだ、異世界転生を名乗っている以上はこの論法は絶対否定できまい。
これまでの大統領の発言や趣旨を顧みて、どういう訳か分からんが少なくとも大統領はテレビジョンの事を絶対に知っている。でなければ、これほど俺の急所を突いた戦術や戦略を実行できるはずがない。
優秀だったのが、仇になったな。俺の行動や思想の先を読めるということは、俺の知識を理解していないと成り立たないんだよ。
だったら話は単純だ。異世界転生者であるのならば、奴と同じ出身だといえばいい。それを否定すれば、大統領自身に疑惑が向けられる。そもそもの出身はどこなのかと。
転生者であるのならば、異世界ならではの身元保証は出来るのだろうが、それをしてしまうと奴の神秘性――つまり、カリスマ性が消える。
謎の人物だからこそ、謎の知識が披露出来たのだ。実態を明らかに出来ないのであれば、俺と同じ境遇であることを大統領は否定できない。
「本日までの4日間、私やリヴィエラ商会長は大規模デモ活動といった混乱もありながらも、こうして出席して皆様と議論を深めました。
これは決して、我々だけの目的ではない。議員の皆さまが常に頭を悩ませる命題であり、取り組むべき国家としての目標なのです。
目標達成のために経済合理性だけでは進まない各国を含め、津々浦々にインフラを張り巡らせていくためには、やはり連邦政府としても戦略的な取組が私は求められてくると思います。
今こそ目標実現に向けて電波法を制定し、通信技術の進化に取り組んでいこうではありませんか。それが連邦政府のみならず、主要各国の発展に繋がります」
――俺からの答弁を終えると、俺は許可を得ることなく発言席から降りた。
言いたいことは、これで全て言い切った。ほぼハッタリにすぎないが、同時に俺は地球という結果を知っている。だからこそ、胸を張って堂々と最後まで議論できた。
議員達は固唾を飲んで、一人の人物螺線を向ける。議会を取り仕切る議長、本来であれば責任者である人物が自ら審議を求めて俺に難題をぶつけて来た。
議長は直接、採決に参加しない。けれど拒否権を発動できる大統領に対抗できるのは、3分の2以上の賛成で再可決する実行権を持つ議長である。
「リョウスケ氏」
「はい」
「私や議員の方々だけではなく、国民の皆様誰一人取り残さないとの意気込みを感じる野心的な目標であると受け止めました。
通信都市国家構想による主要各国からの課題解決、そしてリョウスケ氏が仰るボトムアップの成長に向けて、連邦政府のこれからの取組みに大いに期待をしたいと思います。
私からは以上です――主要各国のこれからにも触れていただき、ありがとうございました」
ここは議会である、拍手はない。けれど議長からの真心こもったお言葉に、議員の方々に興奮と歓喜の空気が広がっていった。
現状維持に甘えている人間なんていない。誰だって今の通信における停滞に、満足なんてしていない。安定化という言葉で、誤魔化していただけだ。
目標がこれ以上なく明確になっていけば、議員の方々にも具体的な絵図が頭の中に描かれるだろう。
明るい未来絵図を想像すれば、誰だって嬉しくもなる。鉄面皮のような議長も珍しく、明るい微笑みを浮かべていた。
(お疲れ様でした、父上。まさか大統領の敵意を巻き込む弁論を行うとは、驚かされました。さすが父上、血も涙もないですね)
(もっと褒め方があるだろう!?)
(クアットロさんが狂ったように笑っておられましたよ。人の悪意につけ込む天才だと、讃えられていました)
(アイツと同類だと思われたくない!?)
後はテレビジョンや通信技術に関する議論だったので、リヴィエラ商会長にお願いしておいた。
彼女も俺の指針や目標を聞いて目を輝かせており、これなら必ず票が取れますと勢い込んでいた。頼もしいパートナーである。
とりあえずやれることはやった――なんか適当任せだっただけに不安だが、明日の採決を待つしかない。
<続く>
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