とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第七十二話
人民民主政府樹立同盟が起こした、デモ活動――平和的に終わったように見えるが、見方を変えれば立派なテロ事件である。
連邦政府の代議員と、世界都市有数の商会長を包囲して恐喝。怪我人こそ出なかったがあくまで結果論であり、集団で道路封鎖して籠城させたのは立派な犯罪だ。
連邦には当然だが行政があり、立法が存在する。テロに発展せず未然に防げたのは俺が何とか買収したからであって、暴走でもされていたらどれほどのテロに発展していたか分からない。
だからこそだろう――事情を知った人達が血相を変えて飛んできた。
「申し訳ありませんでした、リヴィエラお嬢様。
御身を危険に晒した不始末、何があっても許されるものではありません。どのような処罰でも甘んじてお受けいたします」
「護衛を断ったのは、私よ。貴女達は主の命令に従っただけ、責められるのは私の判断ミスでしょう」
「いいえ、決してそのような……!」
「それに、シュテルさん達とも連携して事に当ってくれたのでしょう。よくやってくれたわ。
迂闊に騒ぎ立てられて世間に知れ渡っていたら、電波法制定にも慎重な声が出ていたでしょう」
商会が運営する腕利き揃いの小隊、ミラココアさんが指揮するメイドさん部隊が揃って頭を下げている。護衛チームとしては、主を危機に晒した罪悪感が強いのだろう。
うちの護衛チームである妹さんや戦闘機人達は俺と念話で繋がっていた為、リアルタイムで状況は把握できていた。もしも本当に俺が危機に遭っていれば、即座に事態へ飛び込んでいただろう。
状況を見極めながら、妹さん達は俺の身の安全より俺の立場を守るべく行動に出ていた。リヴィエラの言う通り、事態が明るみになっていたら、世間が騒ぎ立てて電波法制定が延期になっていたかもしれない。
妹さん達はあの時言っていた俺のハッタリを現実とするべく、ミラココアさんを始めとした小隊と連携して事態の沈静化に動いていたという訳だ。
「それに私は孤立無援ではなかったわ。リョウスケ様が身を案じてくださって、同乗してくれていたもの。何も心配することはなかった」
「――リョウスケ様。貴方様にはエルトリアの時ばかりではなく、二度も渡ってリヴィエラお嬢様を救出してくださった。感謝の言葉もございません」
「いえいえ、たまたま乗り合わせていたというだけです。運良く平和に解決して何よりでした」
「事が無難に収まったのは、リョウスケ様の手腕によるものでありましょう。我ら商隊、このご恩は決して忘れません。
リョウスケ様とは今後とも良好な関係を築かれるとの事ですので、微力ではございますが我々もお力添えさせて頂くつもりです」
「非常に心強いです。エルトリア開拓と復興には、皆さんを始めとした商会のお力もお借りする時が来るでしょう。是非とも力を貸してください」
麗しきメイドさん達に平伏されるのは男としては気分が良いものなのだろうが、小市民としてはひたすら恐縮してしまう。美女揃いであれば尚更、そわそわしてしまう。
実際問題、今エルトリアではユーリ達が懸命に開拓に励んでくれているが、独力で復興するのはなかなか難しい。ミッドチルダから果てしなく遠い異世界である以上、俺達の支援や協力も限界があるからな。
連邦政府にもコネが必要になると思っていただけに、ポルトフィーノ商会と縁が出来たのは嬉しい誤算だった。
不幸中の幸いと言うべきか、デモ活動による事件のお陰で友好的な関係を築けそうだからな。
「よろしければ今夜にでも改めて、おもてなしさせてください。我ら一同、誠心誠意リョウスケ様を歓待させて頂きます」
「メイドさんと酒池肉林ですよ、父上。あ、よければ私もメイド服に着替えますよ」
「あらあら、ではわたくし達も今度から専用スーツではなく、メイド服をフォーマルな戦闘服に仕立てましょうか」
「極悪コンビは黙ってろ」
心からの籠もった言葉を向けてくれるミラココアさん達に便乗して、シュテルやクアットロが悪ノリしてくる。性癖が疑われるので、極めて貞淑に蹴り飛ばしてやった。セッテ達が信じてメイド服を基調にしたらどうしてくれるんだ。
どういう工作をしたのか知らないが、テロまがいを起こした昨晩の事件が全く世間に明るみになっていない。高級ホテルを貸し切って宴を繰り広げた事も、特に大事にはなっていない様子だった。
組織活動を起こせる集団を相手に一切の痕跡をどうやって消し去ったのか、怖くて聞けないが恐ろしい奴らである。
クアットロ達が改心せずミッドチルダで事件でも起こしていたら、それこそ世界規模のテロ事件にまで発展していただろう――まあ改心と言っても、性根までは変わってないけど。
「それでリョウスケ様。お疲れのところ申し訳ありませんが、大旦那様と奥様が是非リョウスケ様にお会いしたいと申し付かっております」
「議会前で恐縮ですが、昨晩のお礼に是非我が家で朝食のご招待をさせて頂きたいのです」
貴族を相手に朝食となると堅苦しい席になりそうだが、自分の娘が昨晩デモ活動による事件に巻き込まれたのだ。親としてが気が気でないのはよく分かる。
結果的に無事だったというだけで、一歩間違えれば誘拐でもされていたかもしれない。商会をぶっ壊せとがなり立てる連中だ、危害を加えられていた可能性は高い。
ポルトフィーノ大貴族ともなれば、少し調べれば事件の背景まで容易く看過出来るだろう。当事者だった俺を呼び立てるのは無理もない事だった。
「光栄です、お招きに預かります」
俺としては事件に巻き込まれたことを理不尽に責められるかもしれないと思っていたが、どうやら杞憂に終わりそうだった。
シュテル達が沈静化を図ってくれたとはいえ、事件がどれほど無難に収まるのか不明だ。俺としては平和裏に片付けたいが、娘可愛さに報復を考えても不思議ではない。
一応あの場では穏便に済ませたが、人民民主政府樹立同盟なんぞと名乗る組織なんて危ないからな。高級ホテルで招宴した限りでは一般人に毛の生えた連中程度ではあったが、油断はできない。
昨晩で懲りて悪さはしないように言及しておいたが、どこまで守るかしれたものではないからな――ポルトフィーノ貴族の出方を伺うべく、お屋敷へ参上することにした。
温かいお料理にサラダ、パン、シリアルにフルーツなど、よりどりみどりの洋食。朝からボリュームたっぷりのお料理で、幸福感に満たされる朝ご飯であった。
ベーカリーから届いたかのような焼きたてパンを始めに、シェフが手がける目玉焼きはちょうど良い焼き加減。パン好きの方にぴったりのラインナップだろう。
胃に負担をかけないお腹に優しいメニューでもあり、心温まる味わいがなせる献立の数々。フレンチデリにフルーツの盛り合わせ、塩プリンといった美容と健康にも良さそうなサイドメニューも充実していた。
やはり貴族ともなれば単純な階級のみならず、身体の作りから異なるのだろう。毎日こんなご馳走を食べていたら、細胞レベルで気品に満たされそうだった。
「改めてリヴィエラを守ってくれて本当にありがとう、リョウスケ君。大切な娘を君に預けたのは、正しい判断だった」
「いえ、議会ではむしろ利発的なリヴィエラお嬢様に幾度もご助言頂いています。ご支援頂いているのは、むしろ私の方です」
「議会は私達も日々拝見していますが、立派に活躍されているではありませんか。ねえ、リヴィエラ」
「はい、政争に長けた議員の方々もリョウスケ様の弁舌と発想にはとても叶いません。心強いパートナーを得られて、私は幸せ者です」
――常にその場しのぎであるだけなのに、物は言いようである。この場をどう乗り切るかということしか考えてないからな、俺本人は。
テレビジョン開設における通信技術や法律に関する論争なんて、むしろリヴィエラ頼みと言っていい。彼女にとっても未知な技術であるはずなのに、見事な交渉と弁論で乗り切っている。
常にカンペ頼みな俺としては、彼女とまではいかなくとも一般的な記憶力くらいは欲しいところである。ハッタリで生きていくのだって、限界はあるからな……
謙遜したつもりはないのだが、彼らの見る目は非常に好意的だった。
「人民民主政府樹立同盟といったかね。議会の前でデモ活動を行っているという話は聞いていたが……まさかこれほど直接的な行動に出るとはね」
「テレビジョン放送によりプライバシーが侵害されるとの主張ですが、既得権益を守る事を盾に利権を得ようとする団体のようです。
彼らにとっては権力者こそ敵であり、相手としては誰でも良かったのかもしれません。ここ最近表舞台に出ていた私達が、たまたま彼らの目をひいてしまったのでしょう」
「商会を潰すように叫んでいたと聞きました。さぞ怖かったでしょうに」
「心配には及びません、お母様。集団に取り囲まれた状況でもリョウスケ様は毅然としていらっしゃって、私を守って下さいました。
私もリョウスケ様がお側についてくださっていたおかげで、何の不安もありませんでした。どのような危機であろうとも、リョウスケ様なら必ずや解決されると信じていましたから」
「リヴィエラがこれほど異性を信頼するなんて今まで無かったことだよ、リョウスケ君。君は本当に頼りになる男なんだね」
ドイツでは、ロシアンマフィアや吸血姫共に囲まれたからね!? 銃つきつけられて武装テロなんぞに巻き込まれたら、そりゃ肝っ玉の一つもつくってもんだ。とんだ災難だったよ!
一般人とはいえ集団で襲い掛かってこられると、剣もなくリヴィエラを守りきれる自信はまったくなかったので、結果オーライで讃えられるとひたすら苦笑いを浮かべるくらいしか出来ない。
むしろ集団に取り囲まれても取り乱さなかったというだけで、リヴィエラの方が立派だろう。もしも恐怖で錯乱でもしてしまっていたら、連中の嗜虐心を煽っていたかもしれない。
そう考えて、俺は口添えする事にした。
「ポルトフィーノ殿の大切な御息女様をお預かりしているのです。お約束を果たさねばならぬという一心でした。
御信頼にお応えできたというのであれば、少しはご恩返しも出来たのだと胸を撫で下ろしております」
「少しは誇ってもよいだろうに。一歩間違えればテロ事件に発展していたかもしれない、事件に貢献したとなれば英雄だよ」
「であれば、お嬢様はヒロインですね」
「リョ、リョウスケ様!?」
「ははは、珍しい。社交界に慣れたリヴィエラが照れている……これは本当に脈ありかもしれんな。どうだね、リョウスケ君、これをご縁に」
どんなご縁だよ。リヴィエラも軽く躱せばいいのに、妙に恥じ入っていて調子が狂ってしまう。
一般人と大貴族、本来であれば同じ卓について会話が成立するはずがないのだが、彼らが合わせてくれているのだろう。実際堅苦しくなく、歓談を楽しめている。
相手に歩調を合わせるというのも、立派なスキルだ。将来的には必要となる能力なので、良い機会だと俺も不慣れではあるが積極的に会話に加わった。
こうして食卓も温まってきたのだが――
「ご歓談のところ、恐れ入ります。旦那様、至急のお客様がお見えになられています」
「大切な客人との時間だ。お断りするように言っておいたはずだが」
「それが……ポルポ代議員が直接我が家へ来られておりまして」
――うわっ、一家揃って顔をしかめているぞ。貴族なのに表情に出るなんて、余程のことだな。
昨晩起きてしまったテロまがいの事件から一夜。
惑星エルトリア主権をかけた戦いは、新しい展開を迎えようとしていた。
<続く>
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