とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第六十五話
異世界転生者。一人で旅をしていた頃であれば妄言と馬鹿にするか、狂言と相手にしなかっただろう。
残念ながら、どちらにも心当たりがある。異世界なんてそれこそ、俺は今この時点で感じている。地球育ちの俺からすれば、連邦政府のあるこの惑星は異世界そのものだ。
頭が痛いが、転生者にについても事例がある。オリヴィエとアリシア、そしてアリサだ。あいつらは完全に死んでいるが、現世に留まり続けている。霊魂の存在があれば、転生するのだって変な話ではない。
加えて、地球という前世まで口にしている。架空の世界であればよかったのだが、残念ながら俺達はその惑星から来ている。
「どう思う、アリサ」
「うーん、あたしは成仏していないから何とも言えないわね」
幽霊である本人に聞いてみたが、流石に来世への実感はないらしい。正に死んでみなければ分からないという、宗教にしかない概念である死後の世界論だった。
正確に言うとアリサは一度俺に命を託して成仏しているのだが、俺が法術で呼び戻したせいで感覚は抜けているらしい。まあ覚えていろというのは、無理難題ではある。
そもそも俺は人間死ねば終わりだとしか思っていなかったのだ。死んだ後で幽霊になる可能性もあるなんて今まで思わなかったし、誰だって懐疑的なはずである。
こればかりは、頭脳聡明なアリサでも答えは出なかった。
「シュテルはどうだ。お前もよく考えてみれば、俺が実体化させた口だろう」
「そうです、父上より生み出させた愛娘。愛情も深まるというものです」
「御託はいいから」
「イリスの話ですとユーリが確か転生に似た事象を起こしているはずですが、本人が全然覚えていなかったですからね。転生なんてそんなものかもしれませんが」
そういえば、イリスや冥王イクスヴェリアも過去の人物だったんだよな。俺の関係者、どいつもこいつも古代の偉人すぎる。
転生は嘘っぱちかもしれないが、地球から来た人物である可能性は確かにある。実際今、俺達だって地球から来ているしな。
だとしても、転生者を名乗る理由が分からない。仮に本当だったとしても、そんな事を言いふらしても狂人だと思われるだけだ。
実際、リヴィエラだって懐疑的に思っていたようだしな。
「立場を顧みれば、転生者を名乗る理由に一応幾つか心当たりはあるわよ」
「おっ、本当か。よく分かるな」
「あくまで推測だけどね」
朝食の場でリヴィエラから大統領に関する話を聞いた後、俺は客室でシュテルやアリサとこうして打ち合わせしている。
連邦政府の大統領が俺を批判しているのであれば、議会の場に居なくても悪影響を及ぼす可能性があるからだ。
少なくとも世論は二部するだろうし、議員達も反対とまではいかなくても電波法の成立に慎重となってしまうかもしれない。
折角勢いづいてきているのに、権力者の横やりで台無しにされてはたまらない。
「一つ目は、他の転生者を探している事」
「他の……?」
「本人の立場に立って考えてみなさいよ。転生者を名乗るということは、自分の前世を知っているということでしょう。
自分と同じ転生者が他にもいるかもしれないと思うのは自然の流れでしょう」
「そりゃそうかもしれないけど、立場を顧みるというのは?」
「連邦政府の大統領なのよ、国家元首であり行政府の長。それほどの立場の人間が転生者を名乗っていれば、周囲への伝達度は半端ではないわ。
頭のおかしい国家元首と思われないようにする立ち回りが必要になるけれど、大統領にまでなれる能力があれば大丈夫でしょう」
「なるほど、それで立場を顧みての推測ということか」
転生者を探すために大統領となったのか、大統領となって転生者であることを自覚したのか。立場を顧みれば、どちらでも転生者であると触れ回るのは可能だ。
探してどうするのかという話になるが、俺としては分かる気がする。俺だって平和なこの世で剣士になろうとしている変わり者だ。自分の同類なんて居ないという孤独があった。
だからこそ海鳴で道場破りなんぞして自分の価値を知らしめようとしたし、剣士である高町兄妹に会えてやはり嬉しかった。
今ではあまり思い出したくないが、聖地では自分の同類である魔女もいた。あいつにはかなり粘着されたが、今やはり自分に似た存在を探してしまうのかもしれない。
「もう一つは、先程と逆ね」
「逆というと、自分一人が転生者だと思っているという事か」
「そう、つまり転生した自分こそが随一であるという自慢ね。敢えて転生者を名乗ることで、自分の価値を知らしめている。
これはむしろ同類なんて居ないという全体で成り立っている。だから敢えて名乗りを上げて、自分一人が孤高であることを誇っている。
こっちならむしろ他に転生者なんて居たら迷惑でしょうよ」
なるほど、俺としては耳が痛い話ではある。
平和な現代で天下無双なんて旗を掲げていたのは、自分こそが本物の剣士であると高を括っていたからだ。
仲間なんぞ居ないのだという孤独を、仲間なんていらないのだという孤高に変えようとした。能力のない俺は結局失敗してしまったけれど。
そしてこの大統領は、昔の俺が成功した事例である可能性があるということだ。
「どちらの可能性か判断材料が少ないので何とも言えませんが、後者であると今後の障害になりそうですね」
「俺の姿勢に批判的なのも、ひょっとして」
「どの時代から転生したのか定かではありませんが、仮に本当の転生者であったのならば前世の知識を活かそうとするのは当然の帰結。
本人の器量もあるのでしょうが、大統領の地位を維持する上でそのバックボーンを存分に活かしているのでしょう。
そうなりますと、最悪――テレビジョン放送の事も把握しているのかもしれません」
「げっ、同類だと思われているのか」
あの魔女の場合は自分が同類であることを狂喜していたが、大統領はその逆で目障りだと思っている。
剣士は自分が剣を持っているからこそ有利なのであって、他の人間が剣を持っていると技量対決になってしまい、武器を持つ優位性が消える。
転生者である大統領の場合地球の知識を活かせるのが最大の強みなのに、同じ転生者が現れると自分の優位性がなくなってしまう。
だからこそ俺を批判しているのだと、シュテルは仮説を述べた。
「あくまで転生者である前提と、あたし達の仮説で成り立っている驚異よ。どういう人間か分からない以上、何ともいえないわ」
「今日一日をかけて、私とアリサママで調べましょう」
「誰がアリサママよ」
「ナハトヴァールが最近、貴方のことを明確には母と認識しているようですよ」
「うう、少し教育が過ぎてしまったかしら……」
過程と前提で成り立っているとはいえ、転生者である情報から個々まで導き出すとは大したものだ。才女達がいるとやはり安心感が強い。
それにしてもまさか、地球から他に誰かが来ているとは思わなかった。流石にそこまでの想定はとても立てられない。
転生なんぞという超常現象が本当に起きるのかどうか不明だが、もし前世でテレビジョンの事を知っていると結構マズい。
何故なら今の地球だって、テレビジョンが完全に肯定されている訳では無い。問題点だってあるからだ。
「じゃあ、頑張ってね」
「申し訳ありませんが、今日一日よろしくお願いいたします」
「げっ、そうか。お前らは今日議会に来れないのか!?」
やばい、カンペがないとどこまで論戦できるか分からない。
ハッタリ作戦で行くしかないのだが、あの賢人たち相手にどこまで通じるのか――
政治の素人が議会の場に立つ恐ろしさ、化けの皮が剥がれてしまうかもしれない。
<続く>
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