とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第四十七話
連邦政府の弾劾訴追権と、それに続く主要各国の弾劾審判権。
議員と行政官との間の非公式の会合の場において、テレビジョンの実現と惑星エルトリアの主権をかけた論争が繰り広げられる。
連邦政府の政策は主要各国の内政と外交に幅広い影響を与えるが、連邦政府全体の権力はあくまで憲法によって制限されているらしい。
憲法上連邦政府に与えられた権限以外の全ての権限が、主要各国に留保されると規定しているという仕組みだ。
「リヴィエラ商会長の読み通り法案の発議が行われ、緊急動議がついに出されたようね。電波法については紛糾していて、主要各国の代表者も世界都市に来日しているわ」
「連日問い合わせていたようですが、埒が明かないと判断したのでしょう。特定の問題を研究するための特別委員会が正式に開催となりました」
「委員会における審問として惑星エルトリアへの正式な協議を行うべく、証人の場に立たされるのか。吊し上げになりそうだな。
俺とリヴィエラ商会長、後は警護を除けば秘書官を一人つけられるらしい。
電波法の可決に向けた委員会――クアットロは論外として、アリサとシュテルのどちらを連れて行くべきか」
「ええっ!? 今日この日の大舞台を想定してこれまで努力を尽くしたのですよ、陛下!」
「お前が面白がってお祭り騒ぎしやがったから世界中が今紛糾してるんじゃ、ボケ」
ブーイングを挙げまくるメガネ策士(今は裸眼だけど)に対して、頬を抓って猛攻撃してやった。こんな奴紛糾する議会に連れて行ったら、絶対面白がって煽りまくるに決まっている。
こいつの生粋の悪性も含めて戦闘機人としての在り方を認めてやったら、この馬鹿は大はしゃぎしてやりたい放題しまくりやがった。悪質なのは、本来の目的自体は全く見失っていないという点である。
強制退去命令が出ている現状、このままだったら裁判が行われて容赦なく追い出されていただろう。そうなれば惑星エルトリアの開拓どころではなくなり、アミティエ達は居場所を失ってしまう。
テレビジョンの開発と電波法の採決でそれどころではなくなってしまっているので、クアットロは一応役割を果たしてはいる。絶対、褒めてやらないけど。
「あたしが行くと言いたいんだけど、子供の見た目だと舐められるから無理ね。すずかのように大人モードになれればいいんだけど、魔力の感覚って元幽霊には掴みづらいのよね」
「魔力の感覚……? もしかしてお前、魔道士としての修行でもしているのか」
「当然でしょう、幽霊のアリシアだって精霊に昇華したと聞いたわよ。
あんたの法術だっていつまで有効なのか不明なんだから、楽観視しないで今の内に出来ることはしておかないとね。
あんたの行く末を見届けたら成仏するつもりだったのに、日増しに問題とか課題とか増えまくってきているからもう諦めたわ」
半年前はお世話になった高町の家を出て仕事を探していたのに、今では異星へ飛び出して連邦政府と喧嘩しているからな。何故こうなったのか、俺も未だに分からない。
宇宙ステーションとか、全人類の憧れが平気な顔して建設されていやがるからな。日本で浮浪の旅をしていたこの俺が、宇宙を旅する日が来るなんて夢にも思わなかった。
一度は成仏したアリサは今生に未練はなかったのだが、現代→異世界→異星と次から次へと連れ回されている間に、あの世へ行くのは諦めてしまったようだ。
良いことなはずなのだが、本人は不満そうなのがちょっと面白い。アリサもいずれは魔法少女とかになるのだろうか。
「では、父上の右腕であるこの私が出席いたしましょう。後悔はさせませんよ」
「シュテルさん、わたくしの分まで陛下をよろしくお願いいたしますね。折角仕込んだのですから、存分に生かしてくださいな」
「任せて下さい、クアットロさん。私がファーストレディーになった暁には、貴方を愛妾として迎え入れますよ」
「何企んでるんだ、お前ら!?」
優秀な頭脳を持った極悪コンビが固い握手を交わしている。なまじ頭が良いだけに、世界平和に全く貢献しない悪どくさが悔やまれる。教育方針を間違えたかな、俺は。
ともあれシュテルが秘書官として出席することになり、俺達は当日を迎えた。リヴィエラ・ポルトフィーノの秘書官は、メイドのミラココアさんが務められるらしい。
メイドと言ってもミラココアさんは貴族であるポルトフィーノ家へ奉公する良家の子女であり、礼節を弁えたレディである。
見聞を広める手段として文化的な家庭に奉公する例は、貴族同士であれば幾らでもありえる事例だった。
「事前に何度も打ち合わせさせていただいておりますが、最終確認の意味を込めて説明させていただきますね。
道中の話し相手と思って、気軽に会話させて下さい」
「お気遣い頂き、ありがとうございます。友好を深められれば幸いです」
「嬉しいです、私も同じ気持ちですわ。リョウスケ様の事をもっと知りたいです」
車中、魅力的な微笑みを浮かべて隣に腰掛ける貴族の令嬢。男性であれば誰でも夢見るシチュエーションだが、俺の素性を知ろうとする動きなので本人としては戦々恐々ではあるが話し合う。
そもそも連邦政府とは連邦制を採用する国の中央政府で、通常の国家に比べて、内政面では連邦を構成する主要各国から一部の主権を移譲されるという形をとっている。
その為に中央政府権限が限定されており、各国に関係のある事項や外交および軍事、財政や予算などを司ることが多い。全ての権限を中央政府が独占しているのではない。
憲法に基づいて設立された連邦中央政府と主要各国、権力を分権したこのシステムこそが連邦政府なのである。
「リョウスケ様、リヴィエラ様。ご歓談のところ恐れ入ります、到着いたしました」
「ご苦労様。リョウスケ様とお話していると時間があっという間に過ぎてしまいますわね」
「私もリヴィエラ様との歓談に夢中になってしまい、時間を忘れてしまっていました。注意しなければなりませんね」
何処まで本心なのか分からないが、とりあえずお世辞を言い合って高級車から降りる。
連邦政府の議会議事堂――地理的には世界都市の東寄りに位置するが、歴然とした連邦政府の中心とみなされている。特徴的な新古典主義建築で、荘厳さや崇高美を備えた建築物であった。
たんなる古代の復興にとどまらず、現在の政治情況とも関連している議事堂。世界都市に展開される建築様式の官能性や通俗性に対し、論理的で厳粛な啓蒙的性格をもつ建造物へと仕上がっている。
ドイツで行われた世界会議は夜の一族の長を決める議場で目立たなかったが、世界都市の東西南北はこの連邦政府の議会議事堂を基準に定められている。
「連邦政府が樹立される時共和政時代の古代民主主義との結び付きにより、連邦政府の指導者達は公式の美術としてこの建築主義を採用したそうです」
「大統領が権力の座についた事で、この様式は宣伝効果をあげるためのものとなったのですね」
「仰る通りです。ご息女様は聡明でいらっしゃいますね、リョウスケ様」
「お聞きになりましたか、父上。私への賛美が貴方の評価に繋がっておりますよ」
「それを口にしなければ立派なんだけどな……」
フンスフンスと鼻息荒く自己PRするバカ娘にリヴィエラさんだけではなく、今日は秘書官として同行するミラココアさんも少し笑っている。くそっ、ちょっと恥ずかしいぞ。
主要各国の代表が集まる会議場こそが、連邦首都とみなされている権威。現在議会議事堂として使用されているこの建物が、本日代表者の議会議事堂として注目を集めているのだ。
マスメディア関係者も多数集まっているが、警備体制は万全な為に要人の元へ直接集まってこない。ただ遠目から見守る視線の厚みに、リヴィエラ・ポルトフィーノという存在感が現れている。
当然同列で並ぶ俺への注目もすごく、遠くから聞こえる声にカレドヴルフ・テクニクス社長が来日されたと騒がれている様子だった。
(……来日という言葉を、俺に使われる日が来るとは思わなかった)
(ミッドチルダでも"聖王"様の来日という表現は使われておりましたよ、父上。お耳に入れませんでしたが)
(何故シャットアウトしていたんだ!?)
まあ世間様の評判とか普段あまり気にしなかったから、仕方がないかも知れない。神輿として騒ぎ立てられていた手前、新聞とかも自分から読もうとは思わなかったしな。
ただリヴィエラ・ポルトフィーノは違う。ポルトフィーノは一代で築かれた大商会で、連邦政府の政治的利権まで食い込んでいる注目株。この世界都市の経済を大いに支えている一柱でもある。
大商会の長である彼女は連邦政府の議員達とも並びられる権力者であり、その才覚と美貌から注目を集める才女だ。彼女と並び立つのは相応の格が求められ、ゆえにこそ彼女は今までパートナーを選ばなかった。
一応企業の社長を務めてはいるが、本人は学歴職歴無しの浮浪者である。着飾っているとはいえ、人間は性根までは隠せない。マスメディアの前で彼女と並ぶには不適格でありそうだが――
「できればこの場で皆様に紹介したいところではあるのですが、議場前で目立つ訳にもまいりません。立場というのも時に不便なものですね」
「紹介、ですか」
「リョウスケ様の存在は出来れば本日の議会まで隠しておきたいのです。本日参席される主要各国の方々の目もありますので」
なるほど、マスメディアは公平の立場を貫いているが、中立であるとは限らない。利権が絡んでいるからこそこちらの味方となっているが、立場がひっくり返れば容赦なく牙をむくだろう。
理由があってこそだと述べるのみで、俺と一緒に歩く彼女の表情は誇らしげだった。俺との関係が表沙汰になったところで何一つ非などないと、彼女の高潔な態度が物語っている。
だからこそマスメディアも夢中になって、美女と野獣の成立を全世界に紹介している。ここで怯んだ顔を見せれば、彼女の格を落としてしまうだろう。
彼女に同意しているのか、シュテルも鼻を高くして歩いている。大企業の息女として相応しい華があった。よし、じゃあ俺も堂々と――
「――ふん、一惑星の代理人が随分と増長しているようだな」
「ポルポ様……」
議事堂の前で立ち塞がる、連邦政府のお偉いさんであるポルポ。惑星エルトリアを取り巻く勢力図の頂点に位置する重鎮。
立法府代議員である彼の立場であれば、重要な議決を行う特別委員会に参席するのは無理もない。だが道議会に参席する自分達の前に立ち塞がる意味合いは大きい。
多くのマスメディアは注目するこの場で相対するのは、双方にとってもリスクが有る。この場でやり合うのは立場上好ましくないはずなのだが、堂々と立ちふさがっている。
「後ほどご挨拶に伺おうと思っていたところです。先日はお世話になりました」
「ほう……立法府代議員である俺の決定を当て擦ってくるか」
(おっ、惑星エルトリア強制退去の件でこの場で異議を申し出るとはやるではないですか、父上)
お世話になったってそういう意味じゃねえええええええええええええええ!?
つい庶民的な挨拶をしてしまったばかりに、立法府代議員様の顔が容赦なく引き攣っている。
言葉を知りませんでしたでは通じないのがこの世界、言葉違い一つで首が切られる。
確かに強制退去の剣は一言言ってやりたい気持ちはあるのだが、私情を殺せないようでは政治の世界では戦えない。
相手は格上の立場――思いがけない前哨戦となりそうだった。
<続く>
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